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レビュー
ブライトンが描く攻撃の青写真
クリーンシートを達成すればクラブ記録の5試合連続アウェイゲームでの無失点。エティハドという最難関のスタジアムを切り抜けて、今節はアメックスで記録達成を狙うこととなる。
立ち上がりにペースを握ったのはホームのブライトンだった。アーセナルのプレッシングはいつも通り4-4-2で、2トップがボールの行き先を誘導しながら中盤のライスやジョルジーニョにボールハントの場所を提示する。ただし、ブライトンはこうした誘導を回避するのはお手の物。縦パスを受けた先にいるCHが少ないタッチの横パスでボールを逃す。
バレバは少ないタッチでボールを動かし、グロスはジョルジーニョ相手にフリーになってターンで前を向く。特にジョルジーニョのエリアは前を向かれてしまってやばいと思ったのか、ウーデゴールがスペースを埋めて4-1-4-1のような形で一時的に手当てしていたのが印象的だった。
ただし、ブライトンが狙いたかったのは逆サイド側からのスピードアップ。サイドにボールを逃すことができたブライトンは右サイドからスピードに乗って前に出ていく。ランプティ、アディングラといったスピード自慢がジンチェンコとマッチアップするこちらのサイドで一気に裏に抜けきり攻撃を完結させるのがブライトンの青写真。8分のエンシソのシュートまで持って行ったシーンは一つの理想形と言っていいだろう。
逆に言えば、サイドからの攻撃が少しでもスローダウンしてしまうとアーセナルにブロックを組まれてしまう。タメを作り、人数をかける形を作るところからは崩しの成果は見られなかった。よって、ブライトンにとっては抜け切るところから崩し切るところまで一息でいくことがチャンスメイクの理想。だが、そうしたシーンは先に挙げたエンシソのシュートシーン以外は見当たらなかった。
アーセナルの保持はショートパスを軸にボールを動かしていく。ジョルジーニョがアンカーの場合はアーセナルはあまり隣に人を立たせないケースが多かったこれまでのアーセナルだが、この試合では相棒役を入れ替わり立ち替わり作ることで撹乱を図る。ジンチェンコ、ライス、ウーデゴールといった選手が交互に左右に顔を出すことで最終ラインからのパスの受け手になる。
ブライトンの非保持はアーセナルの最終ラインにはプレスをかけにいかなかったが、中盤と連携しながら縦パスの出しどころを制限。瞬間的に入れ替わる中盤の構成に対して、受け渡しながら前進を許さず、ミドルゾーンで踏ん張りながらアーセナルの保持を跳ね返していく。
守備でのフリーズをきっかけに一気にアーセナルペースに
というわけで序盤はブライトンのペース。サイドでのスピードアップからアーセナルのゴールに迫り、非保持ではアーセナルに効果的な前進を許さなかった。
ただ、今季のアーセナルは百戦錬磨。10分もすれば相手に有利な展開を捻じ曲げることができる。前線のサカやハヴァーツが右サイドを奥を取るアクションからアーセナルはブライトンの守備ブロックを押し下げるように。列を下げた出し手のジョルジーニョをブライトンは深追いで咎めることができなかった。
このプレーを皮切りにアーセナルはあっという間に保持でモメンタムを握る。ブライトンの前線と中盤はボールの雲行きが見えなくなり、ホルダー周辺の1人以外は完全に足が動かなくなってしまう。
これにより、アーセナルの攻撃は一気に自由自在に。ライン間にパスを刺し、そこからの横断で逆サイドから押し下げて攻めていくなど、ブライトンに制限をかけられずに押し込んでいく。
ブライトンにとってサイドから押し下げられることは致命的。なぜならば、彼らの攻撃はサイドにおけるスピードアップから攻め切る形が生命線。中盤での誘導がかからずスタート位置を押し下げられてしまうと、アーセナルに対して突きつける脅威は明らかに目減りしてしまう。
そうなると、負荷が増えるのはウェルベック。中央で味方が攻め上がる時間を作らないといけない。グラウンダーのパスを収めるという点では落としをCHが受けることができれば押し返すチャンスになっていたが、ロングボールでは歯がアーセナルのCB陣には歯がたたない。
自陣からの保持も機能が低下するブライトン。序盤であればCBからCHに縦パスで繋いでいた形も、時間の経過とともにウェルベックへのアバウトなロングキックで逃げる傾向が多くなる。アーセナルのプレス相手に繋げないという手応えになったのだろう。グロスへのウーデゴールの守備意識が強くなったことで中央はタイトという認識だったのかもしれない。守備でのリズムが悪くなったことで保持面でも下火になりブライトンは一気にアーセナルに主導権を渡す。
逆に言えば、アーセナルは好循環に突入。サイドでタメを作り、SBがホルダーを追い越す動きや前線がサイドの裏に抜ける動きを絶やさずにブライトンの守備ブロックを押し下げる。サイドから押し下げてDF-GKの間にグラウンダーのクロスを入れるという形からアーセナルはチャンスメイク。ブライトンは跳ね返すことが難しいボールに対して、カウンターに出ていくことができない。
リバプール戦のように押し込まれてしまったことで劣勢に追い込まれるブライトン。すると30分過ぎにアーセナルはPKを獲得。左サイドで大きな展開を受けたジェズスがドリブルで仕掛けてランプティからPKを獲得。ボールをつっついたランプティだったが、結果的にジェズスの足ごと刈る形になってしまった。
序盤はリズムの悪かったアーセナルだったが、時間の経過とともに立て直すことに成功。主導権と先制点を手にしてハーフタイムを迎えることに。逆にブライトンはサイドでの守備に後手を踏み続け、2失点目を回避することがやっとという形で前半を終えることとなった。
サカをサポートする右サイドのメカニズム
後半、試合のテンションは再び上がる。特にブライトンがプレスに出ていきネジを撒き直しに行ったことは前半の展開を踏まえれば必然。スピードが上がった状態で敵陣で一気に陥れる形を作ろうというのは得点を取るという観点で言えばむしろそれ一択というイメージである。
アーセナルは自陣でのミスがちょいちょい出るなど完全にビルドアップでブライトンのプレスを回避できたわけではないが、直線的なショートカウンターに打って出られるような致命的なミスは少なめ。最低限ブライトンのプレスは受け流せたと言えるだろう。
保持においてはアーセナルは右サイドを軸に攻撃。前半からのこの試合の特徴とも言えるのだけどもサイド攻撃においてサカが正対から仕掛けて崩すという形は平時よりは少し少ないかなという感じ。裏抜けであらかじめスピードアップした形からのチャンスメイクはあったが、0からスイッチを入れるにはまだコンディションが戻っていないのかなと思わせるパフォーマンスだった。
後半にこの点でのフォローが光ったのはハヴァーツ。エストゥピニャンを引きつれることができるサカがインサイドに絞るとアーセナルの右サイドにはぽっかりと穴が開くことになる。この穴に精力的に顔を出していたのはハヴァーツ。サカがいなくなったサイドから奥をとることでサイドからの押し下げに貢献する。彼が流れてもインサイドには左WGのジェズスがフィニッシャーになれるのは大きい。CFとしてロングボールの体を張る役割とサイドのフォローをバランスよくこなすハヴァーツのCFの完成度は試合を追うごとに高まっていると言えるだろう。
そういう意味では右サイドからの裏抜けという珍しいアクションからアシストを決めたジョルジーニョはハヴァーツがこの試合で行っていた動きをトレースしていたのかもしれない。いつもであれば出し手になる右サイドの裏抜けを自ら実践して、折り返しからハヴァーツのゴールをお膳立て。リードを広げる。
ブライトンからすると、サカが倒れたことで少し対応がエアポケットに入ってしまった感があった。抜け出したジョルジーニョに対して、最終的にケアに行っていたのがサカに釣られて持ち場を離れたエストゥピニャンだったことを踏まえれば、ブライトンがサカが去った後のサイドのスペースをどのように埋めるかは共有されていなかったという印象。ジョアン・ペドロという攻撃の切り札を直後に交代で入れたことを踏まえればタイミング的にも手痛い失点となってしまった。
2点のリードをしたことでアーセナルはシティ戦モードに突入。中央に枚数をかけるローブロックでブライトンの攻撃を受けるフェーズに入る。サイドに出ていくのは基本的にはSHとSBのうちどちらか1枚というイメージである。
ブロックの外からはボールを持つチャンスがあったブライトンだが、外から壊す武器として前半のエンシソのミドル以上のものを見せることができなかった。インサイドにジョアン・ペドロやアンス・ファティが入ったこともあり、縦パスをインサイドに入れるという意識を最後まで持つことはできていたが、CBが最後の壁となった立ちはだかる。
特にガブリエウのパフォーマンスは秀逸。ジョアン・ペドロに対して明らかに逆を取られたトロサールの背後から出てきてミドルシュートを完璧にブロックするなど、ゴール前に君臨する最後の壁として素晴らしいパフォーマンスを見せた。
冨安が登場してからは少しラインを上げたアーセナル。ブライトンがアーセナルのプレスをいなして前進するという前半の立ち上がりのサイクルが強度をグッと下げて再登場した形となった。
相手のテンポに合わせてDFラインを巧みに操るアーセナルはその後も試合を混然に掌握。仕上げとしてトランジッションから抜け出したトロサールが3点目を仕留めて完全に決着。中2日同士の対決となった試合はアーセナルが勝利。CLに向けて弾みをつける勝利を手にした。
あとがき
ブライトンがこの試合に勝つとしたら立ち上がり10分のうちの先制点はマストだったように思う。本来であればブライトンは押し下げて人数をかけた崩しを仕掛けたいところ。だが、アーセナルに戻られてブロックを組まれてしまうと、得点の匂いが消えてしまうため、縦に鋭い攻撃の完結を強いられてしまい、結果的にジリ貧になったのは切ないところだった。アーセナルがそこに誘導したのが見事ということになるだろう。
アーセナル目線から言えば10分ほどで立ち上がり特有のバタバタを抑え込み、以降の80分を掌握。90分のゲームコーディネートの巧みさが光る展開だった。元来の強さであるWGからの仕掛けという部分がなかなか戻らないという事情もある中で、ブロック守備に対して2得点を挙げて試合を安全圏に持っていくという流れは貫禄すら感じられた。
いい流れで来れていること自体は悪くはないが、CLはやはり別物。中2日2セット目という過酷なスケジュールで90分間強度を問われる展開をこなさないといけない。勝利を喜び、しっかりとギアを入れ替えて大一番に臨んで欲しいところだ。
試合結果
2024.4.6
プレミアリーグ 第32節
ブライトン 0-3 アーセナル
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
ARS:33′(PK) サカ, 62′ ハヴァーツ, 86′ トロサール
主審:ジョン・ブルックス