チーム情報
監督:マルック・カネルバ
FIFAランキング:54位
EURO2016⇒予選敗退
W杯2018⇒予選敗退
招集メンバー
GK
1 ルーカス・フラデツキー(レヴァークーゼン/ドイツ)
12 イェッセ・ヨロネン(ブレシア/イタリア)
23 アンシ・ヤアッコラ(ブリストル/イングランド)
DF
3 ダニエル・オショフネシー(ヘルシンキ)
22 ユッカ・ライタラ(ミネソタ・ユナイテッド/アメリカ)
2 パウルス・アラユーリ(パフォス/キプロス)
17 ニコライ・アルホ(MTKブタペスト/ハンガリー)
25 ロベルト・イヴァノフ(ヴァルタ・ポズナニ/ポーランド)
4 ヨーナ・トイビオ(ハッケン/スウェーデン)
5 レオ・ヴァイサネン(エルフスボリ/スウェーデン)
13 ピュリュ・ソイリ(エスビャウ/デンマーク)
18 イェレ・ウロネン(ヘンク/ベルギー)
15 サウリ・ヴァイサネン(キエーボ/イタリア)
MF
8 ロビン・ロド(ミネソタ・ユナイテッド/アメリカ)
24 オンニ・ヴァラカリ(パフォス/キプロス)
11 ラスムス・シュレル(ユールゴーデン/スウェーデン)
7 ロベルト・タイロル(SKブラン/ノルウェー)
19 ヨニ・カウコ(エスビャウ/デンマーク)
14 ティム・スパルブ(AEL/ギリシャ)
16 トーマス・ラム(ズヴォレ/オランダ)
6 グレン・カマラ(レンジャーズ/スコットランド)
FW
10 テーム・プッキ(ノリッジ・シティ/イングランド)
26 マーカス・フォルス(ブレントフォード/イングランド)
20 ヨエル・ポヒャンパロ(ウニオン・ベルリン/ドイツ)
9 フレドリク・イェンセン(アウグスブルク/ドイツ)
21 ラッシ・ラッパライネン(モントリオール/カナダ)
各試合振り返り
GS第1節 デンマーク戦
■90分戦いきった両者に称賛を
フィンランドの歴史的な国際試合初勝利という結果以上に、この試合の最も大きなトピックスになったのは前半終了間際にデンマークのエリクセンに起こったアクシデントだろう。幸い、容態は安定しているという一報までは確認できており、ひとまずは安心という所だろう。デンマークの選手、スタッフをはじめ、このゲームに携わるすべての人がこの事態に迅速にかつ適切に向き合い、90分を無事に終えることができた。関係者各位に大きな称賛を送りたい。そして、一日でも早いエリクセンの回復を祈りたい。
試合に関してはデンマークが一方的に押し込む展開になった。5-3-2で構えるフィンランドに対して、デンマークはサイド攻略を軸に挑む。特に右サイドのケアーから逆サイドに低弾道で送るフィードは効果的。5バックの手前、そして3センターのスライドが間に合わない位置に送り込むフィードでデンマークは横に揺さぶることができていた。
しかしながらクロスに対してフィンランドが粘り強い対応をしたこと、そしてGKのフラデツキーがゴールマウスに立ちはだかったことで得点を許さない。加えて、サイドからのボールの精度という部分でエリクセンという戦力を失ってしまったことも影響はあっただろう。
後半はフィンランドもより攻め気が強かった。そもそも、フィンランドは保持の機会こそ少ないが、少ない機会ではボールを大事にする傾向が強かった。特にWBが高い位置を取り、大外を起点にすることで押し込み返そうという狙いが見られた。その狙いがこの試合で唯一実ったのが先制点の場面。左サイドから上がったクロスをポーヤンパロがねじ込み、ファーストシュートで先行する。
守備面でも後半は攻略されていた右サイド側にカマラを置くことで、手当てを行うフィンランド。ただ、デンマークの狙いは相変わらずこちらのサイド。このサイドをカマラがいない間に攻略することである。サイドチェンジから3センターをどかしたところで同点のチャンスとなるPKを奪取。しかし、これはホイビュアが慎重に蹴りすぎた結果、フラデツキーに止められてしまう。
最終盤はヴェスターゴーアを左に入れて、さらなるテコ入れを図ったデンマーク。しかし、最後の最後まで跳ね返したフィンランドがデンマークをシャットアウト。よくしのぎ切った。デンマークにとっては手痛い敗戦だが、この試合を90分やり切った彼らには目いっぱいの称賛を送りたい。
試合結果
デンマーク 0-1 フィンランド
パルケン・スタディオン
【得点者】
FIN:59′ ポーヤンパロ
主審:アンソニー・テイラー
GS第2節 ロシア戦
■2列目の向こう側でのプレーに成功
第1節となったベルギー戦ではとにかくジューバへの放り込みを敢行しまくったロシア。この試合のロシアはベルギー戦と比べると前進の際のジューバへの放り込みは自重。サイドからその分丁寧に前進する。3-1-5-1というやや変わった布陣はサイドからの前進とジューバ周辺に人を集めるという2つの狙いの詰め合わせだ。
左はゴロビン、右はマリオ・フェルナンデスを中心に突破を狙うロシア。攻撃に傾倒した3-1-5-1ならばボールサイドとエリア内に人を両方配置することが可能である。サイド突破からジューバへのハイボールは仕上げに使うイメージ。そして、そのこぼれ球を拾うために2列目の人員も確保している形。ジューバの競り合いがシュートではなく、落としを優先していることからも、この傾向は伺うことが出来るだろう。
対するフィンランドはデンマーク戦と同じく速い攻撃で反撃。ロシアの2列目の5枚をスピードに乗った状態で超えることが出来ればチャンスを作ることはそこまで難しくはない。むしろ、フィンランドはデンマーク戦よりも簡単にチャンスを作ることが出来ていた。
特にロシアが手を焼いたのはそのデンマーク戦で得点を決めたポーヤンパロ。抜け出しのスキルが高く、あわや先制点という場面では冷や汗をかいたロシアサポーターも少なくないはずだ。
ロシアの被カウンター時の対応は脆弱さが覆い隠せず。スロバキアにめちゃめちゃにされたポーランドくらいには中盤にスペースがあった。ポーランドと違って攻め手がまだ機能していたのは救いである。
自陣の広大なスペースを犠牲にしても点が欲しいロシア。マリオ・フェルナンデス負傷後はジューバへの楔から中央でのパス交換をメインの手段に切り替え。そうなると狭いスペースを攻略するための細かいスキルが要求されることになる。それにこたえて見せたのがミランチェク。ジューバの落としから細かいタッチで相手をいなすと、狙いすました左足でゴールの隅に正確に押し込んだ。
前半終了間際にリードしたロシア。後半のテーマは「5」をフィンランドに越えられるリスクをどうとるか?である。初めはWBをやや下げることで対応してみたものの、アンカー周辺のスペースをカバーできる人員が増えたわけではなく、フィンランドの攻撃をスローダウンさせられたわけではないのであまり効果はなかった。
その後、作戦変更に至ったロシア。最終的な結論はフィンランドにボールを持たせてしまうことだった。2列目の位置をそもそも下げてしまうことによって、フィンランドがスピード感をもって列を越えることを防ぐことに成功する。
手を焼きながらも最後は2列目よりあちら側でフィンランドをプレーさせることに成功したロシア。フィンランドを下し、グループ2位通過の有力候補に躍り出ることになった。
試合結果
フィンランド 0-1 ロシア
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
RUS:45+2′ ミランチェク
主審:ダニー・マッケリー
GS第3節 ベルギー戦
■埋められなかったデ・ブライネとのギャップ
すでに突破を決めているベルギーに挑むのは引き分け以上でグループステージの突破が見えてくるフィンランド。ハムデン・パークで起こした奇跡をロシアの地でベルギー相手に起こす必要がある。
当然というべきか試合の主導権を握ったのはベルギー。ポゼッションの局面では悠々とフィンランドを押し込み、じっくりを腰を据えて攻略する構えである。保持の局面ではフィンランドの5-3-2のサイドから攻め込む形。ボールサイドにCH、WB、WG、そしてCFのルカクの4枚が揃うことでサイドを打開するパス交換を行う。ルカクはボールサイドに顔を出す担当。押し込んだ局面では中央に留まるよりもサイドに流れることが多かった。
同サイド攻略、詰まったらサイドチェンジという流れでベルギーの保持は進む。相手のスライドが間に合わないときはサイドのアタッカーの打開のチャンス。WGの個人技を生かす機会である。もちろん期待がかかるのはエデン・アザール。だが、この試合で広いスペースにおいてより存在感があったのは逆サイドのドク。サイドでの1対1においても、カウンターにおいても持ち上がる軽やかさでフィンランドを苦しめる。エデン・アザールより19歳の方が存在感があるというのは少し寂しい。
ベルギーの話をもう少しすれば、全体的にややパスワークに軽さが足りないところ。オランダやスペインのような軽さはない分、切り返しの鋭さやスピードで一撃ずつ威力ある拳で殴っていくイメージ。これが決勝トーナメントでどっちに転がるかはわからない。もっとも、ベルギーはワールドカップの時からこんなイメージだったけど。
フィンランドの攻め上がりは限られた機会においてのみ。直線的にロングカウンターに進む選択はベルギーのCB陣と正面衝突になってしまい厳しい。それよりは、左右に振りながら進んでいく方がベルギーの守備網をかいくぐるチャンスはあった。だが、高い位置からボールサイドに圧縮をかけ、即時奪回を狙うベルギーに対して逆サイドまで脱出する機会を創出することが出来ない。攻めあがれないながらもひとまず前半はベルギーを封じ、後半に望みをつないだ。
後半の頭にはフィンランドは高い位置からの奇襲。敵陣に迫るが、ベルギーのCB陣を越えるもう一崩しを組むことが出来ず、クルトワの牙城を崩すには難しいミドルシュートに終始する。
ベルギーにとってはトランジッションの機会があった方が好都合。前半のブロック崩しに焦れてフィンランドが前に出てきてくれたことにより、好機が転がってきた格好だ。
フィンランドは中央を閉じてひとまずカウンターを対応しようとするが、問題となったのはデ・ブライネ。フィンランドの守備陣にとっては中央を閉じたつもりでも、デ・ブライネにとっては中央をかち割るスペースが空いている。一度目こそ、オフサイドで得点は認められなかったが、先制点後の2回目はこのスルーパスでの中央打開が炸裂する。
デ・ブライネの間にあったギャップを埋められなかったフィンランド。ロシアの地でベルギーを攻勢を防ぎきることが出来ず、他会場の結果を祈る3位でグループステージを終えた。
試合結果
フィンランド 0-2 ベルギー
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
BEL:74′ フラデツキー(OG) 81′ ルカク
主審:フェリックス・ブリヒ
大会総括
■前線と最後尾の核で歴史の1ページを刻む
スタイルとしてはローライン気味の5-3-2がベース。今大会では小国でも割り切ってきっちり守るというスタンスは少なかった気がするが、フィンランドはその中では比較的しっかりと構えて相手の攻撃を受ける傾向が強い国だった。5バックだけでなく、カマラを中心とした中盤も含めてブロックを敷きながら粘り強く守ることを掲げることが出来るチームだった。
大きかったのは最終盤と最前線に核となる選手がいたこと。GKのフラデツキはスーパーセーブを連発。ローラインで相手に支配される国のGKとしてしっかりと腹をくくった様子でこの大会に臨むことが出来ていた。
前線はネームバリューとしてはプレミアファンになじみのあるプッキの方があるだろうが、この大会でのインパクトという意味では相棒のポーヤンパロの方が上だった。裏に抜けるスペース感覚を持てる選手で、チームとして押し上げられない分、自らが攻め切らねば攻撃は完結しないという意識の元にフィニッシャーとしてやり切る部分が好印象である。
EURO初出場となるフィンランドの記念すべき本大会初戦は思いもよらない出来事の連続だった。コペンハーゲンという敵地に乗り込んだ初戦はご存知の通り、エリクセンが心不全に見舞われるという非常事態が発生。本人の希望と両チームの意志を尊重し、試合は続行されたが『サッカーより大事なことがある』という事態を目の当たりにしながらサッカーを続けるというのは想像するに並大抵の心持ではなかったはずである。
そんな中でもデンマークの多くの好機と1つのPKに対してフラデツキを中心に守り切る。さらにはポーヤンパロが放ったこの試合唯一のシュートで史上初のEUROでの勝利を手にすることに成功した。
だが、これ以降は勝ち点を拾うことが出来ず。3-1-5-1という超攻撃的な防波堤を敷き、攻め込みまくってきたロシアには圧力で屈し、ベルギーには終盤の2発で沈んだ。同グループのポッド1の国がカウンターの強度が最強クラスのベルギーというのはちょっとフィンランドにとっては運がなかったかもしれない。
それでも歴史の1ページは十分に刻む大会となった。コペンハーゲンで手にした歴史的初勝利はフィンランド国民に新しい世界を見せる忘れられない1日となったはずだ。
頑張った選手→ルーカス・フラデツキ
超陽キャでビール好きという一面も持つおちゃめな守護神。ホイビュアのPKストップだけではなく、流れの中でのセービングでも何度もチームを救い、フィンランドの粘り強さの象徴として君臨した。