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①スイス×スペイン
■プレスをめぐる駆け引きの先にはGK劇場
ここまでの試合を見てくるとスタイルがよりはっきりしているのはスペインだろう。彼らのポゼッションを軸としたスタイルに対して、ジャカを出場停止で失ったスイスがどのようなスタイルを取るか?という部分が注目ポイントになる。
スイスはこれまでの5-2-1-2のフォーメーションを放棄し、4-4-1-1にシフトチェンジ。2トップの一角だったエンボロをサイドに流し、中盤に組み込む形である。スイスの非保持のコンセプトとしてはシャキリがアンカーのブスケッツにマンマークを行う。後方のフロイラーとザカリアはインサイドハーフを監視。中盤は人を捕まえる様相が濃かった。
しかし、それだけであれば5-2-1-2のフォーメーションを維持したままでも形的にはできる。4バックに変えたフォーメーション変更の意図としてはサイドの数もあわせたいという所だろう。
もう1つのスイスの特徴はボール奪取後。セフェロヴィッチ、シャキリ、エンボロのアタッカー陣だけではなく、CHの2人も含めた多くの選手がボール奪取と共に前線に駆け上がる。おそらく、瞬間的にはスペインに対して数的優位となる人数に高い位置を取らせているはず。中盤でボールを奪った時は縦に一気に向かう形である。中盤の要だが、機動力に難があるジャカがいないことを逆手に取った中盤の厚みを使った攻撃だった。
人は捕まっている、そして引っかけると早々にカウンターに打って出られることを把握したスペインはすぐに対応。後方からの長いボールでスイスのライン間を開けさせる。そして数的優位の状態のCBから、セフェロヴィッチのマークがついていない方(主にラポルト)がボールを運び、中盤のホールドを解除する。
スイスの一気呵成のカウンターに対しては、スペインは特に対策を講じている様子はなし。『中盤はミスらないでね』というやや前時代的な保持に関するスタイルはいかにもスペインらしい。個人的にはどこか懐かしく好感を覚える。
ボールをロストした場合はスペインは即時奪回に移行。スイスに蹴らせてボールを回収し、無限の攻撃のループに突入。アルバのミドルから誘発したオウンゴールで先制点を手にしたこともあり、序盤はかなり支配的な展開だった。
とはいえ、このスペインのスタイルで90分をまるっと支配するのは至難の業。特に連携面でほころびが出やすいナショナルチームであればさらに難易度が上がるといっていいだろう。
スイスが講じた対策は2つ。1つは自陣からのボール保持でつなぐ意識を高め、1stプレスを外すこと。顕著だったのはCBの動き直し。決してポゼッション傾倒ではないバックスがショートパスでポジションを取り直すことで、スペインの1stプレスをいなすことを強く意識するようになった。
もう1つはプレスを外した先の部分。高い位置を取るスペインのSBの裏を取り、ラインを押し下げる。スペインは即時奪回が決まらなければ、攻撃時の重心が前に傾いている状態からポジションを整え直す時間を作ることができない。スイスはこの部分を露わにするために、危険を冒してショートパスをつなぐ意識を高めたのだと思う。
だが、スイスのこれまでの得点はサイドから合わせる形よりも、直線的にゴールに向かう形であることが多い。したがって、サイドからフィニッシュに向かう部分でどうしても刺さる形を作ることができない。スペインはスペインで撤退守備の強度は明らかな弱点なので、ハマらないハイプレスもノーミス発注のボール保持もやめるわけにはいかない。というわけでスペインの先制点以降は互角な状況が続く。
そんな均衡が崩れたのは68分。サイドからの攻撃に蓋をしようと出ていったラポルトの勝利がパウ・トーレスに当たり、跳ね返りを拾われる。これをシャキリが決めて同点に。跳ね返りを拾ったのはCHのフロイラー。サイドからの押し下げと中盤の手厚いカウンターサポートというスイスの方針がかなった同点ゴールだった。
しかし、直後にスイスはそのフロイラーの退場で数的不利に。そこからはゾマー劇場。10人でしのぐスイスの最後尾で大きな壁となり、スペインにたちはだかる。
ただし、延長戦をしのいだ先に待っていた主役はウナイ・シモン。2,3本目と立て続けにグラウンダーのボールをストップし、4人目のバルガスはふかしやすい上側を狙うプレッシャーをかけられてしまった感。線で見てスイスのキッカー陣に圧をかけ続けたウナイ・シモンが圧倒したPK戦だった。
両GKの目覚ましい活躍が見られた120分だったが勝者はスペイン。スイスはフランス戦に続き、PK戦での強敵撃破には至らなかった。
試合結果
スイス 1-1(PK:1-3) スペイン
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWI:68′ シャキリ
ESP:8‘ ザカリア(OG)
主審:マイケル・オリバー
②ベルギー×イタリア
■カウンターを殴り返せるポゼッション
『事実上の決勝戦』という看板もちらほらあった両チームの対戦。ベスト8に進出したチームのうち、ここまでの試合で全勝しているのはこの2チームだけである。
立ち上がりから両チームの色はハッキリしていた。保持の時間帯が多かったのはイタリアの方。保持のイタリア、カウンターのベルギーという形で両チームの攻め手は明確だった。イタリアの4-3-3での保持に対してベルギーの3バックはWBが低い位置を取ることを選択。WBは最終ラインに入り横幅を取って守ることでイタリアの保持を撤退気味に受け止める選択をした。
撤退の選択肢をベルギーが取ることができたのは、ロングカウンターというわかりやすい武器があったから。むしろ、被カウンターにおけるバックスの強度というのはわかりやすいイタリアの課題でもある。ベルギーの撤退+ロングカウンターというのはその課題を十分に突き付けることができる選択だった。
実際にルカクが右サイドに流れるところから発動したロングカウンターは威力が十分。イタリアが積極的に高い位置を取るイタリアの左サイドの裏に付け込んだカウンターでベルギーはフィニッシュまでたどり着くことができた。
この構図の試合の場合、保持側が攻めあぐねながらカウンターで沈むパターンはあるあるである。実際にベルギーのカウンターの一撃は重い。ドンナルンマが驚異的なセービングをしていなかったら先制していたいたのはおそらくベルギーの方だっただろう。
だが、ベルギーがカウンターでイタリアを殴ったように、イタリアもまたベルギーをポゼッションで殴ったのがこの試合だった。ベルギーは3トップを前に残し、後方を5-2という形で受ける。イタリアでまず動いたのはIH。ヴェラッティとバレッラは比較的外側で受けることが多かった。
イタリアのWGが外に張り、ベルギーのWBをピン止めしているため、こうなるとイタリアのIHに出ていかなくてはいけないのはベルギーのCH。ここを引っ張り出して中央を手薄にすることでイタリアの攻撃は始まる。ここにWGやSBのオーバーラップが絡んでくることでサイドを崩しきる。
特にストロングだったのは左サイド。カットインできるインシーニェと大外は全て賄えるスピナッツォーラをヴェラッティが操る。おそらくティーレマンスは目が回るほど忙しかったはず。さらには逆サイドに展開された場合にはベルギーのCHはスライドしなければいけない。いくらヴィツェルとティーレマンスが優秀とはいえ、2枚で横幅を賄うのはほぼ無理である。
イタリアの2得点はいずれも持ち味が出たもの。ポゼッションで高い位置まで持ち込み、即時奪回でのショートカウンターから仕留めたのが1点目。そして、2点目は釣りだしたティーレマンスが空けたスペースにインシーニェがカットインして決めきった。ベルギーは3人前に残すならば、少なくとも殴り合いには勝たねばならなかったが、前半から後手を踏むことになった。
ベルギーは速攻では破壊力が十分のルカクとデ・ブライネが遅攻では不発。オフザボールの動きが少なく、イタリアをうまく乱すことができない。というわけで暴れ馬のドクが全てを担うことに。狭いスペースでのタッチがよくなってきたエデン・アザールが負傷していなければもう少しやりようはあったかもしれない。
しかし、ドクの突破からPKで1点返して以降は沈黙したベルギー。ドクの守り方に徐々に慣れてきたディ・ロレンツォや細かく立ち位置を変えながらカバーにいそしむイタリアにはさすがにDNAを感じた。大会随一のハードパンチャーであるベルギーを後半は封じたイタリア。負傷し、大会絶望となったスピナッツォーラの分までてっぺんまで駆け上がりたいところだろう。
試合結果
ベルギー 1-2 イタリア
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
BEL:45+2‘(PK) ルカク
ITA:31‘ バレッラ, 44’ インシーニェ
主審:スラブコ・ビンチッチ
③チェコ×デンマーク
■交代選手の質の差が最後の結果を分ける
立ち上がりから落ち着かない状況が続いた中で早々に先制したのはどちらかと言えば押し込まれていたデンマーク。セットプレーから1つ目の好機を制し、やや前に出る。
基本的に攻守の切り替えが少ない展開。共に時間をかけて前進していくというスタイルのように見えた。時計が進むにつれてようやく徐々に両チームの前進の仕方にカラーが出るように。
先制されたチェコはショートパスをつなぎながら前進。方針の問題なのだけど、縦に刺せるタイミングが合っても、無理に入れることをせずにマイナスのパスを使いながら少しずつ前進していく。終着点としてはとりあえずエリア内に選手を多く送り込みたいのだろう。だからこそ、ゆっくり進む。ただし、決まったメソッドはない。スマートさはないものの、焦れずにつなぎながらPAに人が入り込むのを待つ印象である。だが最後のクロスが決まらない。クロスを跳ね返すことに長けているデンマーク守備陣に阻まれ続ける前半だった。
一方のデンマークは先制点を取ったこともあり、じっくりとしたビルドアップ。相手が出てくるところを待ち、縦に進む隙を見せた瞬間高い位置まで出ていく。相手を引き寄せながら、一気に縦に行く瞬間を狙っていく形である。
デンマークの2点目はこの形が活きた形。クーファルとの駆け引きをメーレが制せるとヴェスターゴーアが判断し、加速の号令となるスルーパスが出る。そこからのアウトに欠けたクロスで追加点。前半終了間際にデンマークがさらに突き放す。
後半の頭はチェコの猛攻。4-1-3-2に変更し、高い位置からのプレスをさらにかけていく。前線にもデフォルトで人数を多く配置。畳みかけるようなプレスで早々に1点を返したのは計算通り、高い位置での圧力を増して一気に追いつく算段だったはずだ。
その後はデンマークが5-3-2にシフトチェンジし、重心を下げる。その分、チェコが保持、デンマークがカウンターという構図が後半はよりはっきりした形である。そういう構図の中で効いたのはポウルセン。ロングカウンターの担い手とプレスバックの1人2役をこなしながらチェコを攻守に苦しめる。
一方のチェコは終盤にシックが腿を抑えながら退くとどうしても最後のゴールの預けどころが定まらなかった印象。最後の最後はシックという意識はアタッキングサードにおけるチェコの面々のプレー選択にも如実に表れていただけに、彼の不在は重くのしかかった。
終盤は競り合う形になったが、紙一重の差になったのは交代FWの質か。ポウルセンが見事なリリーフを見せた一方で、シックの不在が効いたチェコは最後の一押しが効かなかった。
試合結果
チェコ 1-2 デンマーク
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
CZE:49′ シック
DEN:5′ デラニー, 42′ ドルベリ
主審:ビョルン・カイペルス
④ウクライナ×イングランド
■早過ぎたシステム変更の代償
打ち合い上等、今大会屈指のヒットメーカーのウクライナと日本の欧州サッカーファンの寝落ち製造機と化しているイングランドのほこたて対決である。
ウクライナのフォーメーションは5-3-2。前線の並びはここまでサイド起用が多かったヤルモレンコが最前線に張り、ヤレムチュクとの2トップを形成する。マリノフスキーが急遽欠場という影響もあったのかもしれないが、少しこれまでとは異なる風情の前線の構成になった。ちなみにジンチェンコはこの日はIHの一角。内側での起用となった。
これに対してイングランドはWBの手前のスペースを使い、相手をきっちりと押し下げる。安全にボールを運ぶことができる、相手を敵陣に押し込むことができるという部分ではOK。ただ、ギャップを作るところが不十分。そこを早々に補ったのはスターリング。サイドでボールを受けると横移動でパスコースを創出。ザバルニーがずれた分、スターリングはケインへのラストパスをつけることができるように。これが先制点につながる。
先制点後も自陣に釘付けになり苦しむウクライナ。サイドに流れるヤルモレンコがボールを引き出そうとするも、トップから流れる分、エリア内に人を送り込めずにフィニッシュの圧力が出てこない。
加えて、最終ラインに負傷者が出てしまったウクライナ。しかし、これをシェフチェンコは逆手に取る。4-3-3気味に移行して、狙いとしたのはイングランドの右サイド。フィリップスのスペース周辺にヤレムチュクが降りるポストの動きやジンチェンコの外への流れをトリガーとした大外とのレーン交換で反撃。同サイドから深さを取り、PA内にマイナスのクロスを送る。
これをしのいで前半を無失点で終えたイングランド。後半はウクライナの3センターを逆手に取り、左のアンカー脇から入り込む。ハーフスペースに位置どったケインがファウルを得ると、ここからのFKで追加点。
さらには同サイドの攻略で決定的な3点目。スターリングを追い込すショウという動きでウクライナを完全攻略。ウクライナはWGが戻らないというコンセプトのツケを払う形での失点を喫してしまっている。ここからはヘンダーソンを投入し、試合をきっちり握るイングランドに死角はなかった。
4-3-3への変更は効いていただけに悔やまれるウクライナ。だが、ハーフタイムを挟めば、当然対策されてしまうだろう。負傷者の関係もあるかもしれないが、イングランド対策として用意されていた4-3-3を引っ張り出すタイミングが早すぎたせいで、イングランドに悠々と試合を隙を与えてしまった印象だ。
試合結果
ウクライナ 0-4 イングランド
スタディオ・オリンピコ
【得点者】
ENG:4′ 50′ ケイン, 46′ マグワイア, 63′ ヘンダーソン
主審:フェリックス・ブリヒ
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