第1節はこっち。
①【グループA】トルコ×ウェールズ
■『ぱなし』のツケ
イタリアに後塵を拝し、まずは2位浮上を狙う両チームの対戦。前節イタリアと対戦したトルコは、イタリアには明け渡していた大外のレーンをこの日は止めにかかる。イタリア戦よりは相手と組み合って渡り合う意識が強く出ているように見えた。
一方でウェールズはスイス戦と似たアプローチ。同サイドに相手を閉じ込めて食い止めるように試みる。したがって、トルコは大きな展開でウェールズの誘導から脱出を狙う。イタリア相手にはボール保持の時間そのものを作れなかったトルコだが、ウェールズならば保持の時間は作ることができる。左サイドから逆に振る大きな展開で大外のチェリクを使い、ウェールズを左右に揺さぶる。
しかし、右サイドのチェリクが決定的な動きができないこと、そして中央でのタメができないことからトルコの攻撃は停滞する。どちらかと言えば攻撃に鋭さがあったのは、カウンター主体のウェールズの方。特にベイルとラムジーのコンビは強力。受け手として優秀なラムジーと、タメが作れる上に自らがロングカウンターの旗手となれるベイルの2人がウェールズの核である。
この日、より効いていたのはラムジー。間受けに裏抜けにトルコのバックラインを翻弄。特に裏に抜ける動きはそのまま決定的なチャンスにつながっている。が、なかなかそのチャンスを決められないじれったい展開に。ようやく手にしたのは42分。3回目くらいの決定機をようやく沈め、ウェールズが前に出る。
巻き返しに出なくてはいけないトルコ。空中戦では優位に立ってはいるものの、どうしても決め手に欠く状況が続く。停滞した展開になったトルコはユルマズのポストを活用しながら中央に起点を作る方向にシフトチェンジ。ウェールズは時間が経つにつれ、ラムジーの戻りが遅くなってしまっており、中央にスペースはできるように。
ただ、トルコは攻守にきめ細かさがやや欠けていた。中央でのポストを使うにも動き直しが少なく、連携が完結しない。守備においてもラインの制御や守備のフォローが見られない。ベイルが失敗したPKのシーンも安易な飛びこみが引き金になっている。
押し込む状況は続くトルコだが、だんだんと攻めっぱなしの状況に。終盤は逆にウェールズのロングカウンターからの決定機が徐々にできてくるように。ラストプレーでロバーツの追加点が生まれたシーンでも、ベイルへのトルコのマークがあまりにも甘すぎる。攻勢に出るも攻守に集中力を欠いたトルコをウェールズが手堅く仕留めた一戦となった。
試合結果
トルコ 0-2 ウェールズ
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
WAL:42′ ラムジー, 90+5′ ロバーツ
主審:アルトゥール・ディアス
②【グループA】イタリア×スイス
■前後半で圧倒した中盤が完勝の源
両チームとも第1節と比べて大きく方針は変わらなかったように思う。イタリアは最終ラインからゆっくりとつなぎつつ、サイドから相手を押し込む。ハーフスペース付近の裏抜けかもしくは大外からSBがラインを押し下げるように抉る攻勢をかける。立ち上がりはやや右からの攻めが多いという左から攻めがちな前節との傾向の違いはあったが、大枠は同じといっていいだろう。
一方のスイスも第1節と同様、最終ラインからの縦パスでの前進を試みる。メンバー表だけを見るとジャカが司令塔となり、縦横無尽にパスを供給する役を命じられているように思うかもしれない。だが、組み立てにおけるこのチームのジャカの存在感はあまり大きくない。
相手のトップのプレスラインが中盤に設定されることが多く、ジャカにマークがつくことが多いこと、そしてプレッシャーを受けた状況でのプレーが不得手であるジャカをフリーにする仕組みを特にスイスが有していないことが大きな要因だと思う。そのため、後方から時間的に余裕があるCBが前線に縦のボールを付けるのが今回のEUROでのスイスだ。
第1節と似たスタンスで臨んだ両チーム。圧倒的に苦しめられたのはスイスである。イタリアは前線のプレスラインこそそこまで高くないものの、中盤のプレスの仕留め方が秀逸。ロカテッリ、バレッラのボールハント能力は抜群。個々のボールハントでスイスの攻撃はほぼ機能不全に陥っていた。第1節では推進力を発揮して大活躍したエンボロもボールが来なければ話にならない。
高い位置からのボールハントからの速い攻撃を活かして、イタリアは得点までたどり着く。ベラルディのタメから最後はロカテッリが走りこんでフィニッシュ。内容に見合った先制点を手にする。
後半のスイスは非保持で高い位置からのプレスを仕掛けることでイタリアの保持をひっくり返すことを狙う。しかし、ここはジョルジーニョを軸にイタリアの後方がロングボール、ショートパスを交えながら回避。10分もしないうちにスイスのプレスは交わされ、イタリアのロングカウンター祭りになってしまった。2点目をロカテッリが再度決めた時点で勝負は決しただろう。残りの時間も3バックを試しつつ、3点目を取ったイタリアの支配下だった。
前半と後半、それぞれでスイスの狙いを打ち砕いた中盤のトライアングルの活躍でイタリアがノックアウトラウンド進出一番乗りを果たした。
試合結果
イタリア 3-0 スイス
スタディオ・オリンピコ
【得点者】
ITA:26′ 52′ ロカテッリ, 89′ インモービレ
主審:セルゲイ・カラセフ
③【グループB】フィンランド×ロシア
■2列目の向こう側でのプレーに成功
第1節となったベルギー戦ではとにかくジューバへの放り込みを敢行しまくったロシア。この試合のロシアはベルギー戦と比べると前進の際のジューバへの放り込みは自重。サイドからその分丁寧に前進する。3-1-5-1というやや変わった布陣はサイドからの前進とジューバ周辺に人を集めるという2つの狙いの詰め合わせだ。
左はゴロビン、右はマリオ・フェルナンデスを中心に突破を狙うロシア。攻撃に傾倒した3-1-5-1ならばボールサイドとエリア内に人を両方配置することが可能である。サイド突破からジューバへのハイボールは仕上げに使うイメージ。そして、そのこぼれ球を拾うために2列目の人員も確保している形。ジューバの競り合いがシュートではなく、落としを優先していることからも、この傾向は伺うことが出来るだろう。
対するフィンランドはデンマーク戦と同じく速い攻撃で反撃。ロシアの2列目の5枚をスピードに乗った状態で超えることが出来ればチャンスを作ることはそこまで難しくはない。むしろ、フィンランドはデンマーク戦よりも簡単にチャンスを作ることが出来ていた。
特にロシアが手を焼いたのはそのデンマーク戦で得点を決めたポーヤンパロ。抜け出しのスキルが高く、あわや先制点という場面では冷や汗をかいたロシアサポーターも少なくないはずだ。
ロシアの被カウンター時の対応は脆弱さが覆い隠せず。スロバキアにめちゃめちゃにされたポーランドくらいには中盤にスペースがあった。ポーランドと違って攻め手がまだ機能していたのは救いである。
自陣の広大なスペースを犠牲にしても点が欲しいロシア。マリオ・フェルナンデス負傷後はジューバへの楔から中央でのパス交換をメインの手段に切り替え。そうなると狭いスペースを攻略するための細かいスキルが要求されることになる。それにこたえて見せたのがミランチェク。ジューバの落としから細かいタッチで相手をいなすと、狙いすました左足でゴールの隅に正確に押し込んだ。
前半終了間際にリードしたロシア。後半のテーマは「5」をフィンランドに越えられるリスクをどうとるか?である。初めはWBをやや下げることで対応してみたものの、アンカー周辺のスペースをカバーできる人員が増えたわけではなく、フィンランドの攻撃をスローダウンさせられたわけではないのであまり効果はなかった。
その後、作戦変更に至ったロシア。最終的な結論はフィンランドにボールを持たせてしまうことだった。2列目の位置をそもそも下げてしまうことによって、フィンランドがスピード感をもって列を越えることを防ぐことに成功する。
手を焼きながらも最後は2列目よりあちら側でフィンランドをプレーさせることに成功したロシア。フィンランドを下し、グループ2位通過の有力候補に躍り出ることになった。
試合結果
フィンランド 0-1 ロシア
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
RUS:45+2′ ミランチェク
主審:ダニー・マッケリー
④【グループB】デンマーク×ベルギー
■超ワールドクラスの証明
この試合の10分に行われるエリクセンの拍手までに失点するわけにはいかなかっただろう。デンマークの立ち上がりには鬼気迫るものがあった。この大会では珍しいオールコートマンツーでベルギーに面食らわせる。すると、2分には先制点がデンマークに。デナイデルのパスミスを誘ったデンマークのプレス、そしてポウルセンのフィニッシュとセレブレーションは録画みてもグッとくるものがあった。
3-4-3のミラーでの戦いだが、明らかに出足はデンマークの方が上。対面の選手に反転する自由を与えず、前進する余裕を持つことができないベルギー。中盤のティーレマンスという供給源を封じられた上に、最終ラインのビルドアップのためのサポートや動き直しが少ないため、早々に手詰まりになる。
左サイドのトルカン・アザールとカラスコのコンビまでボールをつなぐことさえできれば、チャンスにはなりそう。だが、その機会は限定的。好調のルカクにもボールは入らなければ意味がない。
ベルギーはプレスの勢いでもデンマークに劣っていた。プレスには出ていくものの、反転する余裕は持たせる程度の距離しか詰められず。オフザボールの動きをサボらないデンマークにとって前進は難しくなかった。前半は保持も非保持もデンマークペースだった。
後半に試合を一変させたのはデ・ブライネ。中盤に降りてくることができるデ・ブライネの登場で中盤のボールの預けどころを見つけることができるようになったベルギー。加えて、ルカクをサイドに逃がすことで前半よりも広い範囲で勝負できるように。同点ゴールはこの形から。ルカクの裏抜けから、前線に顔を出すところまで攻めあがったデ・ブライネが後方から追いついてきたトルカン・アザールにラストパス。同点に追いつく。
さらに、デ・ブライネは決勝点も。エデン・アザール投入でアタッキングサードの質が上乗せしたベルギーはデンマークの守備を完全に崩す。デンマークはデ・ブライネの登場以降、どうしても押し返すことができずに自陣に釘付けになった。
終盤はブライスワイトとダムスゴーの2人を軸に敵陣に迫るも、デンマークは最後の一崩しを上乗せすることができず。前半はデンマークペースだったが、デ・ブライネの登場で戦況が一変。アウェイの地で鮮やかな逆転劇を決めてみせた。
試合結果
デンマーク 1-2 ベルギー
パルケン・スタディオン
【得点者】
DEN:2′ ポウルセン
BEL:54′ トルカン・アザール, 70′ デ・ブライネ
主審:ビョルン・カイペルス
⑤【グループC】ウクライナ×北マケドニア
■存分に楽しませてくれるウクライナ
共に第1節を落としてもう負けられない両チームの一戦。特に北マケドニアはこの試合で敗れて、かつこの直後の試合でオランダが勝利してしまうと24か国の中で一番初めに敗退が決定してしまう。文字通り崖っぷちの一戦だ。
立ち上がりから勢いよく攻めに出たのはウクライナ。北マケドニアにとっては第1節で対戦したオーストリアとは桁違いの圧力でゴールに襲い掛かってくる。ウクライナで少し気になったのはやたら左利きを並べていたこと。前線はマジでレフティばかり。右から左にボールを動かすシーンがとても多かった。狙っていたのかな?とはいえターンする方向は北マケドニア目線でははっきりしていたように見えたので、その部分は守りやすそうだったけども。個人的には利き足はバラした方が守りにくそうと思うことが多いので、右利きほしい!という気持ちになった。
とはいえ、ウクライナはそれでも十分北マケドニアを脅かすことはできていた。その理由の1つは北マケドニアのDFラインが非常に乱れやすかったこと。北マケドニアはとてもよく組織されているチームだと思うが、それはあくまでカウンターの発動やプレスを受けた時のボールのスキルの話。受けに回って良さが出るチームではない。
とりわけ受けた時にアラが見えたのは6番のムスリウ。最終ラインに1人だけ残ってしまったり、あるいは逆に出ていったにも関わらず潰しきれなかったり(2失点目のシーンが一例)など、ラインコントロールを乱す要因になっていた。加えて、北マケドニアはエリア内の跳ね返しスキルも高くないので、何としても押し込まれたくはなかったはず。彼らの積極的なハイプレスはその裏返しといってもいいかもしれない。
そのハイプレスの回避を問題なくやってのけたウクライナ。右の大外に起点を作り、とっとと前半で2点を奪って見せた。特に流れの中で輝いていたのはマリノフスキー。球持ちがよく周りの味方や相手の出方でプレーを自在に調整できる選手。このEUROで一躍名を挙げそうな予感である。
ビハインド、かつおしこまれたら終わりという状況の北マケドニアはハーフタイムに2人の選手変更を敢行。4-2-3-1に変更し攻撃的な布陣に変更した。これに戸惑ったのはウクライナのCH。WGが戻らない彼らの基本方針において、前半の北マケドニアの5-3-2は中盤で枚数がばっちり。3人ともそれぞれの担当選手についていくだけで十分守れていた。
これに対して、後半の北マケドニアの4-2-3-1は両SHが内側に絞ることでウクライナのCHの仕事を増やす。これにより、デートしていればいい状況は崩壊。ウクライナから見ると守り切れない選手が出てくるようになる。
これにより、後半は押し込む状況を作った北マケドニア。英雄パンデフが得たPKをアリオスキが止められつつも気合で押し込む。一方のウクライナにもPKは与えられたが、これをマリノフスキは失敗。相手がオランダでも北マケドニアでも90分俺たちを楽しませてくれているウクライナは偉大である。
最後まで追いすがる北マケドニアだったが、押し込めないまま終了。直後の試合でオランダが勝利したことで北マケドニアの敗北が決定。もっともはやくグループステージで大会を去ることが決まってしまった。
試合結果
ウクライナ 2-1 北マケドニア
ブカレスト・ナショナル・アレナ
【得点者】
UKR:29′ ヤルモレンコ, 34’ ヤレムチュク
MKD:57′ アリオスキ
主審:フェルナンド・ラパッリーニ
⑥【グループC】オランダ×オーストリア
■終盤に効いた出場停止
第1戦と比べるとオランダは少しやり方を変えてきたように見える。変わったように見えたのは右サイド。ウクライナ戦で攻撃面で活躍したダンフリースを押し出すように、後方ではデ・フライがSB化。中盤もアンカー気味だったデ・ローンがデ・ヨングとフラットで底に2枚並ぶ形が多かった。
想像だが、前者はベクトルを自分たちに向けたような交代に見える。ダンフリースを攻守に前方に押し出すことで大外から押し込むことを狙っているように見えた。一方のデ・ローンとデ・ヨングがフラット気味な形になったのはオーストリアの中盤3枚に形を合わせる色が強かったように思う。
オランダは前に出る時は4バック気味でガンガン行こうぜプレスをかけるのだが、リトリートの際にはダンフリースを5バックの外に戻した形でかっちりブロックを組む。オーストリアとしてはオランダが前に出たところをかわし、かつ5バックを形成する前に攻め切りたかったはず。例えば27分のシーンのように。
しかし、そうしたシーンは非常に稀。なかなか攻め手を見つけられなかった。ザビッツァー、ウルマー、ヒンターエッガーが流れる左サイドから攻めたいのだろうけど、流れてくるタイミングや位置があまり効果的ではなく、変形で相手をずらすことができない。例えばオランダのDFのついていきたい習性を利用して、2トップのどちらかをサイドに流しつつザビッツァーをPA内に突撃!みたいなことをやってくれれば面白かったと思う。
そんなことをしているうちにオーストリアは主将のアラバがポカ。PA内でダンフリースを踏みつけてPKを献上する。試合開始から両軍はやたらタックルのテンポが合わずに無謀な警告を食らいまくっていた。このアラバは単に足があってしまい踏みつけてしまった感はあるけど、ファウルで落ち着かない立ち上がりを象徴していると思う。
後半は攻撃に出なければいけなくなったオーストリア。またしても得点に絡んだダンフリースに追加点を決められ状況は厳しくなる。だが、70分になってようやく縦パスが入るように。75分くらいにはもうオランダの中央がヘロヘロで攻め立て放題になったこともあり進撃が可能になる。
だが、とにかく火力がない。具体的にはエリア内の脅威がない。いや、これはアルナウトビッチでしょ。なんで出場停止なのよ。オランダを押し込むまでにはいったが、最後の仕上げの要素がピッチになかったオーストリアが最後は屈してしまう。北マケドニア戦の二匹目のドジョウを狙い、アラバを解放しても受け手がいなければ同じことだ。
結局試合はそのまま終了。2連勝のオランダが1節を残してグループCの首位通過を決めた。
試合結果
オランダ 2-0 オーストリア
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
NED:11′(PK) デパイ, 67′ ダンフリース
主審:オレル・グリンフェルド
続きはこっち。
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第3節前半