①【グループA】トルコ×イタリア
■後半に顕在化した脆さを一網打尽に
立ち上がりには組み合う様子を見せたトルコ。しかしながら、ミドルゾーンで構えてしまうと最終ラインのコントロールが不安定になってしまうという難点がすぐに露呈。ということで、トルコはひとまず撤退。今大会は保持寄りに傾倒したメンバーで臨んでいるイタリアがトルコを攻略するという構図に落ち着いた。
中を固めるトルコに対して、イタリアはなかなか解決策を見いだせない。どちらかと言えば兆しがあったのは左サイド。最終ラインの表と裏のそれぞれに顔を出せるインシーニェの存在が大きかった。それに右サイドから斜めに走りこんでくる逆サイドのベラルディのランも効果的だった。
一方で大外からのクロスの威力は限定的だった。フロレンツィやスピナッツォーラが抉れないでただ上げるだけではニアサイドから跳ね返されるばかりで打開策にはならず。結局はインシーニェに頼む!の様相が強かったイタリアだった。
イタリアのポゼッションが不完全だったのは即時奪回のフェーズが含まれないからというのもある。加えて、トルコのビルドアップが安定していたからというのも大きい。GKのチャクルを中心にバックラインの精度が高かった。局面の転換を素早く回せずに停滞するイタリア。だが、トルコのカウンターの精度も高くなくゴールに迫ることもできない。
膠着して迎えた後半、焦れてしまったのかトルコがやや前に出てきたことがイタリアにとって奏功した。前半の立ち上がりと同様、サイドの裏を取り放題になったイタリアがトルコのゴール前に迫る場面が徐々に出てくるように。すると先生は53分。サイドの深い位置までえぐられたトルコはデミラルがクリアしきれずにオウンゴール。続く2点目も同様にサイドを崩してのもの。スピナッツォーラの逆サイドからの走りこみという攻撃的な用兵が効いてインモービレの得点を呼び込んだ場面だった。
仕上げとしてカウンターからインシーニェが3点目。ここでは前半に強みとなっていたトルコのビルドアップにミスが出てしまった。前に出て不安定になった上、ミスをしたトルコの脆さを一網打尽にしたイタリアが開幕戦を大勝で飾った。
試合結果
トルコ 0-3 イタリア
スタディオ・オリンピコ
【得点者】
ITA:53′ デミラル(OG), 66′ インモービレ, 79′ インシーニェ
主審:ダニー・マッケリー
②【グループA】ウェールズ×スイス
■優勢に進めるも脆いところに付け込まれる
日ごろから代表シーンのサッカーを見ることがない。というわけで第1節は名鑑とのにらめっこになる。スイスはショートパスを軸に進んでいくチームで、プレスに晒されてもロングパスに逃げることは少ないということである。一方のウェールズはコンパクトな守備ブロックでボールを絡め取り、ベイルにボールを預けて頼んだぜ!がお決まりのパターンのようである。
そういった名鑑に乗っている両チームの事前情報通りの試合になったように思う。立ち上がりからボールを持つのはスイス。3バックを軸とした数的優位でのビルドアップ+シャキリをフリーマンにした仕上げで押し込む。
一方のウェールズは割り切ってスイスにボールを持たせていた。プレミアファンがあのベイルまで自陣深い位置まで撤退をしているのを見れば、彼らの狙いは一目瞭然といったところだろう。ただし、ベイルが深い位置まで下がっている状況では、すぐにボールをベイルに託すことはできない。したがって、1トップのムーアにボールを当てることで陣地回復を図った。
イタリア相手に撤退したトルコと異なり、ウェールズはトップがサイドに誘導する。さらにはSBが高い位置に出てくることでスイスを食い止めるなど押し込まれないための工夫を施していた。撤退守備の完成度は同じくボールを持たせたトルコよりも上といっていいだろう。
保持ではスイスも工夫を見せていた。特にキレていたのはゾマーとアカンジの縦パス。特にアカンジの縦へのパスを前線が受けて反転し、そのまま推進していくことでチャンスメイク。特に脅威になっていたのはエンボロ。彼の加速力を軸にスイスは徐々に前進できる機会を得られるように。スイスの先制点はセットプレーから。ロバーツにとってはエンボロとのエグいミスマッチになってしまっていた。
しかし、スイスもクロスの対応に難あり。ウェールズにとっては押し込めればチャンスがある様相であった。同点に追いついたのはスイスと同じくセットプレーから非常に練られた形から最後はムーアが仕留める。全体的に優勢の時間が多かったのはスイスだったが、少ないチャンスからウェールズに上手く絡めとられてしまった。
試合結果
ウェールズ 1-1 スイス
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
WAL:74′ ムーア
SWE:49′ エンボロ
主審:クレマン・トゥルパン
③【グループB】デンマーク×フィンランド
■90分戦いきった両者に称賛を
フィンランドの歴史的な国際試合初勝利という結果以上に、この試合の最も大きなトピックスになったのは前半終了間際にデンマークのエリクセンに起こったアクシデントだろう。幸い、容態は安定しているという一報までは確認できており、ひとまずは安心という所だろう。デンマークの選手、スタッフをはじめ、このゲームに携わるすべての人がこの事態に迅速にかつ適切に向き合い、90分を無事に終えることができた。関係者各位に大きな称賛を送りたい。そして、一日でも早いエリクセンの回復を祈りたい。
試合に関してはデンマークが一方的に押し込む展開になった。5-3-2で構えるフィンランドに対して、デンマークはサイド攻略を軸に挑む。特に右サイドのケアーから逆サイドに低弾道で送るフィードは効果的。5バックの手前、そして3センターのスライドが間に合わない位置に送り込むフィードでデンマークは横に揺さぶることができていた。
しかしながらクロスに対してフィンランドが粘り強い対応をしたこと、そしてGKのフラデツキーがゴールマウスに立ちはだかったことで得点を許さない。加えて、サイドからのボールの精度という部分でエリクセンという戦力を失ってしまったことも影響はあっただろう。
後半はフィンランドもより攻め気が強かった。そもそも、フィンランドは保持の機会こそ少ないが、少ない機会ではボールを大事にする傾向が強かった。特にWBが高い位置を取り、大外を起点にすることで押し込み返そうという狙いが見られた。その狙いがこの試合で唯一実ったのが先制点の場面。左サイドから上がったクロスをポーヤンパロがねじ込み、ファーストシュートで先行する。
守備面でも後半は攻略されていた右サイド側にカマラを置くことで、手当てを行うフィンランド。ただ、デンマークの狙いは相変わらずこちらのサイド。このサイドをカマラがいない間に攻略することである。サイドチェンジから3センターをどかしたところで同点のチャンスとなるPKを奪取。しかし、これはホイビュアが慎重に蹴りすぎた結果、フラデツキーに止められてしまう。
最終盤はヴェスターゴーアを左に入れて、さらなるテコ入れを図ったデンマーク。しかし、最後の最後まで跳ね返したフィンランドがデンマークをシャットアウト。よくしのぎ切った。デンマークにとっては手痛い敗戦だが、この試合を90分やり切った彼らには目いっぱいの称賛を送りたい。
試合結果
デンマーク 0-1 フィンランド
パルケン・スタディオン
【得点者】
FIN:59′ ポーヤンパロ
主審:アンソニー・テイラー
④【グループB】ベルギー×ロシア
■隙に付け入る前にゲームセット
Bグループの本命と目されるベルギー。初陣の相手は自国開催の前回のワールドカップで躍進したロシアである。
ボールを握ったのはベルギー。3CBで後方に数的優位を作り、ポゼッションで落ち着きを作る。ただし、そこから先の前進の手段が見えにくいのが難点。特に中盤を使った前進があまり多くなかった。充実したシーズンを過ごし、今大会でも大きな期待を背負っているティーレマンスだが、この試合はあまりうまく入れなかったように見える。
ロシアはとにかく前線のジューバにボールを当てることが最優先。何せでかい。あと、地味に器用で左右に動きながらもボールを収めることができる。彼の周りに1人置くことさえできれば高い位置で前を向ける選手を作ることができる。
そして、彼に長いボールが入ると会場がとても盛り上がる。おそらく、有観客で自国での試合というのは大きいと思う。ちょっとギャグっぽいけど、この手段をうまく味方につけている感はなんか相手からすると厄介な気がする。
保持はできるけど難はあるベルギー。前進の手段があるロシアにとっては十分に付け入るスキがある相手のように思えた。しかし、早々に痛恨のミスからみで失点を喫してしまう。クリアミスをしてしまったセミニョフはこれ以降もアワアワする姿が見受けられ、開幕戦という舞台に浮足立っていた感が否めなかった。
前半のうちに2点目を取って試合の大勢を決めたベルギー。トルカン・アザールのクロスのこぼれをムニエが押し込んで勝ち点3を大きく引き寄せた。
後半は負傷者が両チームに出たこともあり、ややトーンダウンした展開に。そんな中でも絶好調だったのはルカク。インテルでの充実なシーズンをEUROでも開放するようなパフォーマンス。ボールを引き出して良し、ドリブルで進んでも良しと状態の良さをうかがわせた。
逆にまだ時間がかかりそうなのはエデン・アザール。この試合では試運転にとどまったが、彼と負傷のデ・ブライネがどれだけ状態を上げてこれるかがノックアウトラウンドを見据えた伸びしろになってくるだろう。
試合結果
ベルギー 3-0 ロシア
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
BEL:10′ 88′ ルカク, 34′ ムニエ
主審:アントニオ・マテウ・ラオス
⑤【グループC】オーストリア×北マケドニア
■圧力増加の積極策で歴史を切り拓く
共に勝てばEUROの本戦での初勝利。オーストリアと北マケドニアの一戦は歴史の1ページを手繰り寄せるための大一番となる。細かい部分で違いはあれど、両チームの非保持におけるコンセプトは似ていたように思う。5バックで最終ラインの人数を揃える。そして、サイドチェンジを許さずに同サイドに封じ込める。
というわけでこの試合は相手の守備の同サイド圧縮をどのように解決するか?がテーマになってくる。その答えを先に出したのはオーストリアだった。解決策として提示したのはスーパープレー。ザビッツァーからの逆サイドのライナーへの高速ピンポイントクロスである。素早く低弾道で通した逆サイドへの一撃はクリティカルヒット。超絶美技でオーストリアが一歩前に出る。
対する北マケドニアが手にしたチャンスはオーストリアのミスに乗っかったものだ。味方に偶発的にぶつけた締まったボールからマケドニアがチャンスを迎える。最後にこぼれ球が目の前に来たのはパンデフ。北マケドニアが歴史の扉を開けるならば、この男しかありえないという神の啓示があったかのようだった。確かにパンデフしかありえない。英雄が北マケドニアのEURO史上初の得点を決めて、同点に追いつく。
ここから前半終了まではやや北マケドニアが優勢だったか。オーストリアの方が高い位置で止めようという意識が強い分、北マケドニアには前に進むスペースが与えられていたように思う。
同点で迎えた後半。徐々にボールロスト後のプレスを強化したオーストリアが主導権を取り返す。圧で勝るオーストリアが北マケドニアの陣内でのプレー時間が増えていく展開に。北マケドニアはエルマス、バルディのキープからアリオスキなど脚力のある選手のフリーランで一刺しを狙っていく。オーストリアはキープを狙う北マケドニアの中盤に圧をかけてミスを誘発していく形だ。
勝負の分かれ目となったのは終盤の選手交代。エルマスを前にスライドさせて、ドローもOKというスタンスを見せた北マケドニア。選手層を考えれば仕方ないことだと思う。一方のオーストリアは2トップを総入れ替え。これを皮切りにエリア内への放り込みを増やしていく。加えて、この日は3バックの中央を務めていたアラバを解放。自由度を高めて相手陣に入る頻度を増やす。
決勝点となったのはその2つの変更の掛け合わせ。クロスの受け入れ態勢強化とクロスの出し手となるアラバの解放がオーストリアの決め手になった。左サイドからアラバが放ったクロスはピンポイントでスペースに。グレゴリッチに走りこむスペースを教えてあげるようなクロスは、人数は十分揃っていた北マケドニアでも対応はできなかった。
仕上げは決勝点を挙げたグレゴリッチの相棒。アルナウトビッチが試合を決める3点目で交代した2トップはそろい踏みだ。歴史的な初勝利を掴んだのはオーストリア。終盤の交代の積極策で圧力をかけて北マケドニアをねじ伏せた。
試合結果
オーストリア 3-1 北マケドニア
ブカレスト・ナショナル・アレナ
【得点者】
AUS:18′ ライナー, 78′ グレゴリッチ, 89′ アルナウトビッチ
MKD:28′ パンデフ
主審:アンドレアス・エクベーク
⑥【グループC】オランダ×ウクライナ
■香車型WBの活躍で乱打戦を制する
先行して第1戦を開催したイングランド(グループ順に記したこの記事では後ろだけど)に続き、オランダも非常に強度の高いプレーを見せた。攻撃時はWBが高い位置をキープ。加えてIHのワイナルドゥムも機動力を活かしてエリア内に侵入。立ち上がりから厚みのある攻撃でウクライナを攻め立てる。
ここまでのチームはサイド攻略が主体のチームが多かったが、オランダは中央突破が主体。デパイのように間受けが得意な前線のプレイヤーを活かして、中央での細かいパスワークからの裏抜けでチャンスを作る。
そんなオランダに対抗するウクライナ。4-3-3の守備網は中央を固める立ち位置を取る。そうなったときに手薄になるのがサイド。特にオランダの右サイドであるダンフリースがこの試合では効いていた。WGの裏で受けて持ち上がりウクライナの左サイドをえぐる。ダンフリースにとっては、IHのワイナルドゥムが中央の攻撃参加に加えてサイドの手助けができることが大きかった。中央でのパスのコンビネーションと大外の香車型WBの突撃というコンボでオランダが立ち上がりから攻め立てる。
しかし、ダークホースとして有力視されるウクライナも黙ってはいない。彼らの持ち味はトランジッション。ボール奪取からのロングカウンターはウクライナの狙い目。距離が空きやすいオランダの3センターの間でCFのヤレムチュクが受けることで、カウンターの起点となった。敵陣に攻め込んだ後はロスト後のゲーゲンプレスもウクライナの強み。ラインコントロールが危ういオランダを脅かす場面も十分にあった。
互いに攻撃面で強みを見せながらもスコアレスで前半を終えた両チーム。待っていたのは得点ラッシュの後半だった。オランダの得点のキッカケとなったのはダンフリース。重戦車のように突き進み右サイドを打開。ワイナルドゥムとベグホルストの得点を続けざまに挙げる原動力になる。
だが、試合はここから一変してウクライナのペースに。前半に指摘したオランダの被カウンター時の3センターの脆さがさらに顕在化。オランダのCBが出ていくも潰しきれずにむしろ傷口が広がるシーンも。止められるファン・ダイクがいればこれでもいいのだろうけど。怪しいカウンター対応に付け込んだウクライナはここから一気に追いつくところまで。2点目のヤレムチュクのシーンを見るとオランダのセットプレーの守備にも不安が残る。
しかし、試合を手にしたのはオランダ。そしてまたしても活躍したのはダンフリース。前半にドフリーで外したヘッドを今度は叩きこみ貴重な勝ち越し点をゲット。トータルで見れば打ち合いでの破壊力に分があるオランダがウクライナを上回った一戦だった。
試合結果
オランダ 3-2 ウクライナ
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
NED:52′ ワイナルドゥム, 58′ ベグホルスト, 85′ ダンフリース
UKR:75′ ヤルモレンコ, 79′ ヤレムチュク
主審:フェリックス・ブリヒ
終わり。続き。
第1節後半
第2節前半