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「僕らのエースは1日1バイシクル」〜川崎フロンターレ 中間報告 2021

目次

【Part 1】川崎の前半戦はどんな感じでしたか?

■まずは理想を定義する

 シーズンも半分を終わったということで今季の川崎について振り返っていきたい。無敗!最高!で終わらせてもいいのだけど、それだけではアレなのでもうちょっとあれこれ探りながら話をしていきたい。

 振り返る前にそもそも今年の川崎はどのようなサッカーをやるのが目標なのか?そこから考えていきたいところである。個人的にヒントとしたのは5/30の第17節の鹿島アントラーズ戦の鬼木監督の試合後会見でのコメント。

── 前半は本当にスーパーなプレーだった。後半に落ちることは織り込み済みなのか。それともトータルで考えているのでしょうか。その辺のチームマネジメントについては?
『一番の理想は、ああいう強度の高いサッカーをスタートから最後までしたいと思っています。そういう中で、一番は、前半で得点を重ねられれば、そこで点を取り切ることが一番の目標ではあります。取りきらなければ、苦しい時間があるのもわかっています。またそこで失点すれば、もっと苦しいのもわかっています。そこのゲームコントロールもありますが、強度を伸ばしていけるようにしていきたい。当然、ゲームマネジメントはこちらでしますが、いけるところまではいく。交代やフォーメーションも含めて、できるだけ強度を落とさずにやりたい。今日は強度が落ちた中でやりましたが、もっともっと面白いことが起こせるんじゃないかと思っています。』
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/17.html

 鹿島との一戦を振り返ってみると、前半は完全に川崎の試合だった。ただ、後半中盤に鹿島にペースを握られると、同点に追いつかれるも、終盤でなんとか勝ち越した。要は後半中盤にペースが敵に流れるのを防ぐことが今季の川崎の理想といえるだろう。

 では今年の川崎にとって『強度が高い』とはどういう意味合いだろうか。一昔前の川崎から想起されるボールを握り倒すという意味ではないことは確かだろう。基本的には即時奪回までは同じ、それに加えて縦に付けた勢いをそのままに敵陣を攻め落とすというのが適切な表現な気がする。

 したがって、相手にボールを渡さないのではなく、奪回と攻撃を早いサイクルで回す。攻守のサイクルを早く回すことで速いテンポでのプレーの精度の差、そして連携の差を見せることができるというのが鬼木監督の考えだろう。

 早いサイクルでという方針の理由はまだある。前線のプレイヤーのキャラクターである。川崎の今を支える3トップはこの速いサイクルを回す手法にフィットしている。

 相手のDFラインの位置を決めることができるフィジカルを有しているうえ、ポストでの連携にも磨きがかかったレアンドロ・ダミアン。目の前の相手を剥がすことにおいては最強の三笘薫。そしてタメを作り、味方に時間を与えることができる家長昭博。この3枚に素早くボールを渡すことができれば、得点の可能性はかなり高まる。立ち上がりから強襲し、初めの飲水タイムまでに心を折る。

■今季の戦い方をもう少し具体的に

 では川崎はどのようにその強さを表現していたかをもう少し具体例を交えながら話してみたい。大きく分けて川崎の方針の分類は2つである。

1. ピッチを幅広く使いながら押し込む

 非常に乱暴な表現なのだが、今季の川崎を『強い』と感じる時はこのやり方が機能しているときである。特長的なのは左右均等であること。ということは次にもう1つのやり方がシンメトリーではないということなのだけど。

 具体例として挙げられるのは逆転劇となった等々力でのC大阪戦。この試合では三笘をマークするために全体が右に寄ったC大阪の陣形の攻略がテーマ。この状況を打開するために、最終ラインから谷口が逆サイドに長いボールを蹴る。これにより、圧縮された三笘のサイドが解放。左右両方を見せることができるようになったため、前半は窮屈だった左サイドから攻略をすることができた。

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 もう1つの例として挙げられるのは先ほど言及した鹿島戦。レオ・シルバという門番を越えられるか?というのがテーマだったこの試合。田中碧と旗手怜央はそのテーマをあっさりとクリア。中央で起点となり、左右に自在な攻撃を仕掛けることができた。

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 この自在にサイドを変える手法を使う試合の傾向をまとめると、攻守の切り替えが多くテンポが早くなる展開や、カウンターの応酬になる相手であることが多い。鹿島やC大阪、そして横浜FM相手のように殴り合いを厭わない対戦相手にはセンターラインで真っ向勝負。薄いサイドへの展開で相手を振り回す。

 このやり方の場合、鬼木監督が述べたような『取り切らなければ苦しくなる時間帯』のトーンダウンが顕著。激しい攻守の切り替えに加えて、ピッチのどこを使ったらいいかという認知の部分にも多くの負荷がかかっているやり方のように思う。

 その分、ハマった時は強力。川崎がこのやり方で主導権を握った時は割と無敵感が強い。

2. 片側サイド偏重で崩しきる

 サイドチェンジを駆使しながらバチバチに殴り合うやり方が1のやり方なのだとしたら、こちらはどちらかと言えば落ち着いて戦いたいときに選択されるやり方である。

 川崎の基本システムは4-3-3。前目の選手はWG、IHという2つのポジションが左右対称に計4人いる計算である。この4人のうち、3人を同サイドにおいて特定のサイドを攻略することを狙うイメージである。

 主にサイドに偏るのは三笘のいる左サイド。大外を担当できる彼を基準に内側、裏などに人を置く。逆サイドの家長がこちらに来るとかなり緩急のメリハリがつくイメージである。IH、WGの4人のうち、同サイドに寄らなかった1人はダミアンを挟んで逆サイドでクロスを待ち受ける役割だ。

 この手法が見られたのは撤退する守備を組むものの、同サイドへの圧縮がやや甘くなりがちなチームを相手にしたとき。例として挙げられるのはホームの横浜FC戦である。最大のメリットは数の論理での優位。なのでそれを無にしようとしてこないチーム相手には効きやすい。

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 亜流といえるのは徳島戦など登里不在の序盤戦で見られた旗手をSBで起用するパターン。IHとしてもSBとしてもプレーできる旗手のおかげで、IHが足りなくなりそうになった試合においても、中盤に顔を出せる人を確保することができる。

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 試合のテンポはボールを持たない側で決まることの方が多いので、一義的に川崎側で決められる部分ではない。だが、理想の話をするのならば、恐らく1の手法を目指していきたいのだろう。前に前にというサイクルをベースに3トップに攻撃機会をたくさん供給し、圧倒する。それが理想であるはずだ。

 3トップが輝くために、後方には汗をかいている選手が多くいる。典型的なのはIHだ。この川崎のスタイルを支えているのはこのIHの多岐におけるタスクである。

 守備においては前に横に前線のプレスのカバーに出ていく必要がある。特に重労働になるのは家長の後方。切りきれていないWGへのパスや、戻りが遅れた際のスペースを埋める役割を前提に動く必要がある。1.5人分の働きだ。

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 攻撃においてのタスクも多い。サイド攻撃に参加し、ハーフスペースを抜けたり相手を背負ったり。必要とあればビルドアップに加わる必要もある。先ほど述べたように逆サイドまで顔を出さなくてはいけない試合もあるし、クロスに飛び込むのをサボればダミアンが完全に孤立してしまう。サボると攻守の流暢なリズムが途切れてしまう。川崎の今季のサッカーはこの献身性で成り立っている。

 中でも際立っていたのは田中碧と旗手怜央。とにかくすべてのプレーが高次元で中盤でのあっさりとした当たり負けも最近はほぼ見かけなくなった田中。同じく攻守に弱点が少ない上、インサイドでのターンなど細かい旋回で攻撃のベクトルを変えることができる旗手。五輪でもセットの縦関係で呼ばれたように三笘との連携は随一。田中碧は移籍してしまうようだが、この2人が川崎の序盤戦のIHの中心。共に家長のカバーを涼しい顔でしながら、ローテンポな試合もハイテンポな試合もそつなくこなしている。

 その後方のSBも重労働。彼らがどれくらい頑張れるかでIHの負荷が軽くなくかが決まる。例えば攻撃で彼らが1つ前の部分で起点になることができれば、IHは自陣まで落ちて受ける必要はない。

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 守備でSBがWG裏の泣き所まで出ていけるのならば、中盤はそこまで出ていく必要がない。

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 ただ、そうしてSBが後方範囲を増やすとアンカーのシミッチや2CBのカバーすべき範囲が増える。という具合に過負荷を分割していくのが今年の川崎である。スタイルを回すために過労状態にあるIHをどう担保していくか?が非常に重要な部分。先に挙げた旗手のSB起用は中盤とサイドのどちらにも顔を出せる旗手の能力を活かし、SBにいながらもIHの人員を0.5人増やして負荷軽減を図るというアイデアである。

 爆発的な攻撃力を持つ3トップを軸にサイクルを早く。そしてそれを支えるIHの負荷を周りがマネジメントする。ざっくり言うと川崎のスタイルはそんな感じだ。

【Part 2】川崎の倒し方を考えてみる

川崎の倒し方候補3つ

 前半戦を無敗で折り返した川崎を相手に回した時に勝つにはどうしたらいいのか?川崎のレビューを書く身ながら、川崎の倒し方を3つ考えてみた。

【打倒川崎プランA】 自分たちの時間に猛チャージする

 例えば、先に挙げた鹿島戦。前半は川崎ペース、後半はフラットな展開が続いた。そんな中で60-75分の時間帯はかなり鹿島が主導権を握っていた。時間にすればわずかかもしれないが、その時間で同点に追いつき、あわや逆転するところまで肉薄した。

 繰り返しになるが、鹿島戦の川崎は紛れもなく1の『ピッチを幅広く使いながら押し込む』という手法だった。ということはある程度の時間まで射程圏内でしのぐことができるならば、自分たちの時間で追いつくことができる。特に後半開始から飲水タイムまでが川崎相手の狙い目である。だが、ある程度、川崎の時間帯にはシュート精度に祈る部分も必要になる。川崎の時間帯を無得点でしのぐのは相当困難。この日の鹿島のように1点でとどめて自分たちの時間を迎えることができれば上出来だ。

 ただ、得点は水物。いくら決定機を生んでも得点を決められない日というのはどうしてもある。決定機を仕留める部分がうまくいけば豊田スタジアムでの名古屋戦のように序盤で心を折ることもあるし、うまくいかなければ終盤までもつれる等々力での鹿島戦のようにラストワンプレーまでもつれることになる。意外とその2つの展開を分ける差は小さい場合もある。1つ間違えれば大量得点も苦戦もありえるのが川崎のスタイルである。

 シュートを外すのを祈るだけではアレなのでなるべく大きな展開を許さないという指針で守備を行いたい。いわばピッチを広く使いたい川崎に対して、同サイド攻略を強いるという方向性である。1をやりたいのに2をやらせる的な。同サイド圧縮を徹底し、サイドチェンジの精度が劣るDFラインまでボールを下げさせて、サイドチェンジには時間をかけさせない。上げたいテンポに対して少しでも強引にブレーキをかけさせることで祈る準備を整えたい。

 鹿島のように10数分で追いつける火力のあるチームならば、自分たちの時間帯までしのぐことで勝利を手にできる可能性は十分にある。

【打倒川崎プランB】 IHをオーバーフローさせる

 プランBとは言ったもののAと相反する話ではない。こちらは攻撃の際の指針の話である。川崎のIHの仕事が多岐にわたるのはすでに述べた通り、当然狙い目となるのはその忙しくしている人たちの周りである。

 入り口とするのは家長の裏で問題ないだろう。このサイドにボールをつけることで後方からIHを引っ張り出す。

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 これで中盤の陣形がずれるはず。仮にSBの山根が出てきたら狙うのは山根の裏、もしくはジェジエウと谷口の間である。できればどちらの選択肢も持っておきたいところ。

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 IHが出てきたならば、今度は内側に旋回したい。川崎相手の攻撃の成否はシミッチをどうスマートに超えるかによって決まる部分が多い。ボールサイドのカバーに意識が行くシミッチを同サイドにおびき寄せた後、逆サイドへの展開を基本線として、縦にボールをつけられるなら楔をいれる。それが理想だ。

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 したがって、基本的には選択肢を複数持って、川崎の守備の対応によってその状況に応じて判断していくイメージである。IHの多い仕事によって生じた歪みを後出しを続けて攻略していく。それが論理的な川崎の崩し方といえるだろう。

 ちなみに攻撃においてもシミッチを抑えるのは最重要項目。とりわけ4-4-2のようなアンカー番を置かないフォーメーションで川崎に臨む際は彼をどう抑えるのかが第一関門になりえる。

【打倒川崎プランC】ボールを取り上げる

 このやり方が多分一番効く。単純に撤退守備やそこから陣形を崩してプレスに出てくるフェーズが川崎が最も苦手な部分。ただし、ここに挑むチームは少なくなった。以前の神戸はそうだった。そして、今季で言えば横浜FCや徳島、鳥栖がこれに当たる。

 ただ、こういったチームはCBに馬力があるチームが少ない。ボールを保持して押し込むメリットは川崎の前線を深い位置まで押し下げることで簡単にカウンターからの連携を発動させないことにある。そのためには孤立するダミアン相手にCBがタイマンを張れなければいけない。孤立しても仕事をさせてしまうのならば意味がないからである。鳥栖戦でマッチアップ相手のDFを独力で退場させたように、ダミアンには単独で仕事ができてしまうポテンシャルがある。

 なので、川崎を順位表の半ばに突き落とすためには孤立させたことに意味を持たせるポゼッション型のチームが数多く出てくる必要があると思う。

 余談だが、川崎が2019年にリーグ戦で成績を残せなかったのは多くのチームが川崎相手に保持である程度時間を作ることができたからである。その上で、当時はトランジッションにおいても横浜FMという最強のチームがいた。試合はコントロールされるし、殴り合いには負ける。アイデンティティを失った1年だった。

 今のリーグにおけるトランジッション主義の代表格は鹿島と横浜FMだろう。でもそこには勝つことができた。横浜FMに関しては開幕戦というのは奏功した感はあったけど。だが、トランジッションの土俵では今のところリーグでもかなり優位があるといっていいはずだ。加えて、今川崎相手に保持で時間を削り、CBにダミアンとのマッチアップ任せられる力があるチームはなかなかない。

 そういう意味では将来的に個人的に一番怖いのは浦和である。最終ラインに強度があるチームが本格的に腰を据えてボールを取り上げる方に舵を切る方向性が一番怖い。今季の補強の方針を見ても、開幕の時点でリカロドさんに寄りそう戦力を揃えるスタンスは見ることができたし。

 とか言っていたら江坂を獲るかもとかいう話が出てきた。ちょっとそれは浦和は生き急いでいないか。大丈夫なんだろうかとも思ったけど、今はその方向性のチームが浦和しか見当たらないので意見は変えないことにする。話がぶれるから強調するけど、ユンカーや酒井や江坂がいるから浦和が怖いと述べたわけではない。でもユンカーも酒井も江坂も怖い。それは両立する話。

 だから、ザーゴがいなくなった胸をなでおろした部分はある。相馬アントラーズも強かったし、いいサッカーをすると思う。だが、トランジッションを主戦場にしてくる以上は川崎が移籍に伴って戦力ダウンしたとしても、同じ土俵で戦うことができるし、負けても2019年のようにアイデンティティの喪失を感じるような負け方にならなさそう。

 心を折られる負け方をしそうという意味で怖いのは浦和と予想してみる。

【Part 3】より川崎が強くなる方向性を考えてみる

■後半戦の伸びしろはどこか

 さて、相手が川崎を倒す方法を考えて提示するというだけというのは締まりが悪いだろう。ここまででももう十分長い文章なのだが、もう少しのお付き合いをお願いしたい。

 じゃあ、川崎がより強くなるにはどうしたらいいのか?という部分について考えてみるのが最終章である。

【川崎強化指針A】ペースダウンした時間を取り繕う

 提案Aから早速で申し訳ないのだけどこのやり方は鬼木監督の鹿島戦の試合後コメントを基準とするならば理想ではない。攻撃を早いサイクルで回して相手を圧倒する部分を突き詰めるというのが優先事項ならば、ペースが落ちた時の対策を考えるというのはその受け皿にしかなりえない。

 とはいえ強いチームがより強くなるのにあたって一般的なサイクルはこちらだろう。トランジッション最強のリバプールがボール保持に挑んだり、保持最強のシティが被カウンター対応部分を強化したりなど欧州でもやり方としてベーシックなのはこっちのような気がする。アジアのコンペティションや多くのタイトルをにらめばにらむほど倒さなければいけない相手が多いのだから、戦い方に多様性が出るのは当然である。

 相手に押し込まれた撤退時のサイドの守備、ミドルゾーンでの守備における前線からの誘導、そしてゆっくりと相手を外しながらいなすような保持。速いサイクルで回せない時など自分たちの攻撃で試合を支配下に置けない時の局面で弱みを見せないというのは、自分たちが倒したい武器を活かすための重要な手段である。

【川崎強化指針B】交代選手で質を担保する時間を伸ばす

 こちらは理想を突き詰めるほう。スタメンで90分持たないのならば継投をすれば問題ないのでは?という発想である。昨季の川崎が強いとされていたのは5人交代最強やないか!というところによる部分が大きい。猛威を振るった昨シーズンに比べると、今季はまだ層の厚さという部分では不安が残る。最もそれは当然だと思う。山村、齋藤、宮代のようなJリーグでの実績があったり、川崎のサッカーに慣れ親しんでいる選手が多かった。

 今季は川崎のサッカー初年度となる新戦力やリーグ戦での実績がない大卒ルーキーor2年目が多い。選手の構成的にそもそも織り込み済みだとは思うが、昨シーズンに比べると交代によるブーストが薄いのは確かだ。

 加えて、川崎がやっているサッカーは昨シーズンよりもより尖っているように思う。川崎のサッカーはかつては『誰が出ても同じように強い』といわれたことがあったけど、たぶん今シーズンは当てはまらない。レギュラー格ですら、誰がどのポジションで出るかによって味が変わるイメージである。精度に速さと相互理解をかけ合わせた分、交代によって質を維持するのは難しい。したがって、その選手が適応段階にある中では交代によってブーストがかからないのはわかる。

 言い換えれば選手さえフィットしてしまえば、その選手にしかない味を組み込んだより多様性を持たせたスタイルに昇華することが出来るということである。というわけで、その視点から後半戦期待の3人をピックアップしてみた。

橘田健人

 質を落とさないという意味で最も重要なのはタスクが非常に多岐にわたるIHである。この記事のプロットを書いている段階では田中碧に具体的な移籍の噂はなかったのだけど、仮に田中碧が残留していてもピックアップしていた選手。彼のプレータイムが伸びるようになれば、長い時間質を落とさずにIHからチームを機能させていくことが可能になる。

小塚和季

 動き回ることでチャンスを作る今年の川崎の中で止まることで時間を作ることが出来る唯一の存在が家長昭博。アフター家長を見据えた際に、今のスカッドでその役割を託せるポテンシャルがあるのはこの選手だろう。動き回るチームや相手選手の中で止まることによってできるギャップを使えるようになれば彼もまた異能な存在になれるはず。まずはライン間で体を当てながら受けるところから逃げずに立ち向かいたいところ。

宮城天

 現地観戦した天皇杯では非常に印象的な働き。大胆なカットインと積極的なフィニッシュワークで終盤の攻撃を牽引した。延長までもつれた天皇杯の特殊な展開と下部カテゴリーという相手を考えると、リーグ戦で通用するかどうかには未知な部分は残している。だが、今の三笘が請け負っている大外から味方を使いつつ、自らがフィニッシュに絡んでいく動きに関してはもしかすると長谷川より合っているかもしれない。

【川崎強化指針C】慣れて認知の負荷を下げる

 激しい運動量と多くのタスクを求める川崎のスタイルをこのまま継続したとする。その場合、スタメンとして出場し続けている選手たちの体力がめきめき上がって90分適応するようになりました!というのはまず考えにくい。体力面での伸びしろは多くのシニア選手にとっては頭打ちと考えるのが自然だろう。むしろ、継続して消耗が激しい試合を繰り返すことでパフォーマンスは低下すると考えるのが普通だ。

 だが、サッカーの試合で疲れるのは体だけではない。おそらく、この川崎のスタイルで疲れるのは頭も同じ。どこが空いているか、誰が走りこんでいるかを川崎の早いリズムの中で判断し続けなければいけない。いわゆる認知不可の話である。そのためには誰がどこにいるか、状況がどうなっているかをボールを受ける前から常に考えつづなければならない。しかも、僕らのような俯瞰ではなく平面で。

 これは相当難易度が高く、ストレスがかかる部分だと思う。連戦によってパフォーマンスが落ちるのも体力と同じ。現に田中碧も下記の動画中のインタビューで認知のパフォーマンスが低下していることを感じた旨を述べている。14分手前くらい。

 いいところがあるとすれば、体力と異なり認知の部分はある程度繰り返すことで慣れて負荷が下がることが期待できること。認知の話はよく車の運転に例えられる話である。同じ道を運転していれば、だんだんと気を付けるべきポイント、その道の特徴を把握して楽に運転することが出来るはず。例え、車から見える景色が全く同じ日はなくとも経験値は重要な要素。サッカーにおいても全く同じシーンの再現はないといわれる。だが、それと同じ理屈で、同じ地図をもとに動きを繰り返せばうまく回る時間は少しずつ伸びていくようになると思う。

あとがき

 もうすぐACLですね。ACLはさっぱりわからんのですが、とりあえずここを目的に仕上げてきた以上、もう言い訳は許されません。『ACLで全力を出していないのではなく弱いだけ』という悲しい上に、力説しても説得力が薄い主張を繰り返すのはもう嫌です。

 いろいろと書いたけど、実際この中断期間で控え選手が完璧にフィット!認知も完璧でやりたいスタイルを全試合で90分貫き通せるようになりました!なんてことはあり得ない話である。

 それでもその理想を信頼できるのは、鬼木監督が勝つために必要なことをわかっていて、今の立ち位置から勝利に手を伸ばすための手法を試合単位で実行できるしたたかさを併せ持っているからである。やりたいことのために伸ばすべき能力や掲げるべき指針と、目の前の目標にコミットした最適化の両輪を回すことが出来るからである。それが川崎の今の一番の強み。

 守田や田中碧の移籍を皮切りに、川崎から多くの選手が海外にはばたくサイクルが始まる可能性もある。2019年のリーグ戦の低迷で一番悔しかったのは横浜FMもFC東京も鹿島も主力を引き抜かれたのとは対照的に、引き抜かれなかった川崎が沈んでいってしまったことである。

 なので、若手の移籍サイクルにチーム作りが追いつくのか?というのは川崎が国内の強豪に定着するための最後の関門として個人的には位置付けている。現実最適化と理想の追求を両輪を回すことを継続し、『勝ちながら反省』を繰り返しながら、選手の流出を歯を食いしばりながら見届ける。中期的に見ればこのサイクルへの耐久度が川崎にとって最も大きな課題となるはずだ。

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