第1節後半はこっち。
第2節前編はこっち。
⑦【グループD】クロアチア×チェコ
■痛み分けだが対照的な最終節を迎える
前節の勢いそのままに立ち上がりから攻めに出るチェコ。ただし、高さ重視で直線的にガンガン!だったスコットランド戦とは異なり、サイドからボールを運ぶシーンが目立つ。狙い目としたのはクロアチアの右サイドの裏側。だが、全体を押し上げるタメが作れないのが問題となる。サイドからのクロスに合わせる厚みが中央にはなかった。
一方のクロアチアも前節と同じくモドリッチとコバチッチにすべてをベットする前進の手法。余談なんだけど、クロアチアのやり方は今回のEUROのトレンドである『3-2-5(もしくは3-5-2)での後方の数的優位確保からの前線への長いレンジのパスで進んでいく』という要素から最も遠いチームだと思う。
彼らは中盤を経由しないと進むことができない。モドリッチとコバチッチという他のチームであればボールを入れることもためらうポジションの選手にボールを入れて前を向いてゲームメイクしてもらう。
このポジションの選手にボールを入れにくいのは、守備の際にミドルプレスを敷くチームが多いから。そして、ビルドアップで彼らに前を向かせる仕組みが整備できているチームが少ないからだと思う。
クロアチアも他のチームに比べてその仕組みが整っているとは思えないのだけど、モドリッチとコバチッチはそれでもなんとかしてしまう。ので彼らのスキルは超一流なのだろう。確かにくぐってきた死線の数が違う感が出てるコンビである。
クロアチアはアタッキングサードで詰まると普通に困ってしまうチームなので、モドリッチとコバチッチは自らマークを外すボールの引き出し方をするだけではなく、局面を大きく進める展開まで求められる。そうなるとどうしてもチャンスメイクの頻度という点では劣ってしまう。
先制点を得たのはチェコ。エリア内でのロヴレンの肘がシックに直撃してしまい、これがファウルを取られてしまった。37分のこのファウルのせいで試合全体にピリピリした小競り合いが増えたのがちょっと残念な前半の終盤であった。
クロアチアは後半早々に追いつく。クイックリスタートから裏に抜けたペリシッチが1人でゴールまでを完結。確かにクイックリスタートを咎められなかったチェコも問題なのだけど、シンプルにここから得点まで持って行けるのはペリシッチの底力である。
だが、このゴール以降はクロアチアは停滞。チェコが選手交代で中盤の高い位置からプレスをかけるようになると、モドリッチとコバチッチ経由の攻撃が減少。前線の単騎に依存する形が増えていった。
選手交代後はスコットランド戦のようなロングボールからの速い攻撃はできていたものの、チェコも終盤は停滞。PKのシーンでの負傷の影響もあったか、シックが早い時間に下がってしまったのも決め手を欠く一因だったはずだ。
試合は痛み分けで終了。勝ち点を4に伸ばして突破に王手をかけたチェコとは対照的に、クロアチアは最終節に勝ってなお他会場、他グループの結果次第という天に祈る必要が出てくる展開になってしまった。
試合結果
クロアチア 1-1 チェコ
ハンプデン・パーク
【得点者】
CRO:47′ ペリシッチ
CZE:37′(PK) シック
主審:デル・セーロ・グランデ
⑧【グループD】イングランド×スコットランド
■達成されたただ一つの目標
フランス×ドイツとは別視点でのグループステージの目玉カード。英国ダービーがEUROで実現。しかもウェンブリーという舞台装置まで完璧な状況。特にボリスタの名鑑に『イングランドから勝ち点を取ることが唯一の目標』と書いてあったスコットランドにとってはここにすべてを置いていく!という一戦になったはずだ。
ほぼ全員の期待通り、戦術的な応酬が見られるような試合ではなかった。スコットランドは保持において最終ラインにプレスをかけられるとドギマギ。立ち上がりから前線にプレスをかけられる元気が持ち味であるイングランドにあっさり捕まり冷や汗をかく場面もあった。
一方のイングランドも保持では苦戦。クロアチアが第1節で見せた『とりあえずライスについていく』というやり方をマッギンとダイクスで挟みながら忠実に実行したスコットランド。特にこれに対してイングランドは対策を講じることはなし。第1節に引き続きシンプルにこれが効いてしまったのが切ない。
もっとも、共に上積みがあったのは確か。ただしそれは選手変更によってもたらされたものである。スコットランドはティアニーの復帰が朗報。ロバートソンからの左サイドクロスが唯一にして強力なスコットランドのエリアへの攻撃手段。この武器は後方にティアニーが入ることでより強化される。持ち運び、裏へのパスもできるティアニーの登場でロバートソンの威力が増加。自らもクロスを上げることができるティアニーが入ったことで左サイドから入るクロスのバリエーションは増えた。
イングランドで効いていたのはルーク・ショウ。前節にも攻撃の主体になっていた左サイドのトライアングルに左利きであるショウが入ったことによる上積みはあった。さらに利き足だけでなくオフザボールのポジションに長けているショウの存在で左サイドの崩しには磨きがかかった。
スコットランドは左サイドのクロスのパターンが増えた。イングランドは左サイドの崩しに磨きがかかった。だが、目を閉じてよく考えてみてほしい。両チームはそこさえクリアできればいい攻撃ができるチームだったでしょうか。はい。いいでしょう。目を開けてください。
1つしかない武器に+αが増えたスコットランドと結局左で崩すよりもスターリングとフォーデンにガンガン走らせた方が早いイングランド。共に構造的に第1節より大きな進歩があったかというと難しいところ。
それでもワーワー感を楽しむことはできた。後半は右に移されたスターリングがずーっと1人でなんとかしようとしているところとか、あるいは試合終了間際のイングランドのゴール前でのスクラムの組み合いとか、全体的にラグビー要素が強いのは面白かった。
結局スコアレスで終わった英国ダービー。試合終了後の表情は対照的。選手の多くがクラブから3割引程度の出来になってしまうイングランドに対して、ゴール前でDF陣で体を張ることで魂を示したスコットランドが充実感を示すのは当然だろう。
開幕前に掲げた『イングランドから勝ち点を取る』という目標を達成したスコットランド。攻守のダイナモとして中盤を支えたギルモアがMOMを獲得したことも相まって、選手もファンたちもさぞ意気揚々とウェンブリーを後にしたことだろう。
試合結果
イングランド 0-0 スコットランド
ウェンブリー・スタジアム
主審:アントニオ・マテウ・ラオス
⑨【グループE】スウェーデン×スロバキア
■2試合連続のクリーンシート。塩漬け+PKで王手
スロバキアにとってはまたとないグループ突破の大チャンス。初戦でポーランドを下したことにより、グループの本命であるスペインと戦う前に決勝トーナメント進出の権利を得る可能性が出てきたのである。
しかし、この日のスロバキアは苦戦した。それもそのはず。スロバキアの今節の相手はスウェーデン。彼らの思想はとりあえずリトリートして守備のブロックを組むことが最優先。自らスペースを明け渡すようなポゼッションをしてしまい、スロバキアに反撃の機会を与えてくれたポーランドとは異なる。
スペイン戦と異なり、スウェーデンはまずは高い位置からスロバキアの攻撃を止めにかかる。しかし、それは取り切るためではなくあくまでテンポを遅らせるため。その後のリトリート時のゾーンDFを安定して迎えるためにまずは初手でスロバキアを止める。ポーランド戦はボールを奪取して即座に加速できたことで攻撃機会を得ることができたスロバキア。この試合ではそもそも初手で封じられる。スウェーデンの望むペースでリトリートすることでスロバキアは保持時のチャンスの芽を摘み取られてしまった。
スペイン戦よりもボール保持の時間が増えたスウェーデン。絞るフォルスベリとシンメトリーにイサクが変形する形で3トップに変形する。その分、LSBのアウグスティンソンが高い位置を取る。後方は残りのDFラインが3枚。もはやEUROでは親の顔より見ているお馴染みの3-2-5変形である。
スロバキアはこれに対して選手の質を重視したマークを敢行。楔が入るフォルスベリとイサクのところをまず重点的に守る。特に警戒を強めたのはフォルスベリ。SHのコッセルニークを低い位置まで下げてフォルスベリについていかせることに。スロバキアもスウェーデン同様、全体の重心を下げながら対応。攻守の切り替えが少ない展開となった。
ドゥダ、ハムシークが前を向く状況を作りたいスロバキアだが、後半も展開は変わらず。スロバキアは保持においての起点を作れないまま時間を過ごすことになる。
しかし、スウェーデンの方は徐々に活路を見出していく。前半に比べてスロバキアのDF-MFのライン間がコンパクトさを維持できなかったこと、そしてフォルスベリへのマークが甘くなってきたことで段々と押し込む時間が長くなってくる。
フォルスベリがフリーになったことでラインの裏と逆サイドへの横断を使いながら徐々にスウェーデンがペースを握りだす。押し込んだ状態を作ったことで先制点を得たスロバキア。PK奪取は押し込んだ状況が続いたからこそだろう。これをフォルスベリが決めて先行する。
その後、反撃に転じるスロバキアだが結局スウェーデンをこじ開けることができず。未だにオープンプレーでは得点も失点もないスウェーデン。手堅い守備と1つのPKでスロバキアに代わりグループEの突破に向けて有力なポジションに躍り出た。
試合結果
スウェーデン 1-0 スロバキア
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWE:77′(PK) フォルスベリ
主審:ダニエル・シーベルト
⑩【グループE】スペイン×ポーランド
■対照的な両ストライカーの仕事
共に初戦を勝利で飾れなかったチーム同士の一戦。特にグループEの本命と目されていたスペインにとってはこの試合は是が非でも勝たなければいけない大一番だ。
スペインは第1節から1枚の入れ替え。右のWGをフェラン・トーレスからよりストライカー的なアルベルト・モレノに変更。逆サイドのダニ・オルモもワイドアタッカーというよりはストライカー気質が強い選手。3トップはナロー気味にエリア内を主な仕事場とする。したがって、大外は別の選手がカバーする2-3-5的な形で攻めに入るスペイン。
ちょっと不思議だったのは大外で張る役割と後方からサポートする役割の棲み分け。IHとSBが入れ替えながらやっていた印象だ。ジョレンテとコケの右サイドが入れ替えながらやっているのはわかるけど、アルバは大外を駆け上がりまくればいいのでは?と思ってしまった。最終盤はさすがに固定していたけども。
それでもサイドにおけるラインの上下動からエリア内への速いクロスまでのパターンは悪くなかったスペイン。特にモラタの抜け出しに合わせるパターンは非常にきれい。前節足りなかった前線のオフザボールの動きは明らかにこの試合で上積みが見られた部分である。ただ、とにかくシュートが決まらない。前後半通してPKも含めてシュートの外し方博覧会みたいになっていたのは切ない。先制点の場面を除けばそもそも枠に飛ばないシーンが多すぎる。サッカーが得点を競うスポーツでなければこのスペインは強いかもしれない。
そういった部分ではポーランドは対照的だった。スペインに対して大きな展開が決まり、薄いサイドを作ることさえできればシュートまで持って行けるポテンシャルは示した。だが、そこに至るまでのメカニズムが整備されていない。ワンチャンスで同点に追いついたレバンドフスキにモラタほどの決定機があればなぁと思ってしまう。
チャンスはあったが、フィニッシュが刺さらなかったスペインと届ければ一刺しするストライカーに届けることができなかったポーランド。後半の荒くて雑なプレーの応酬は、両チームのうまくいかなさが伝わってくるようだった。スペイン代表なのに、プレミアリーグみたいになっていたよ。交代選手が上手く試合に入れなかったスペインを見ると『まぁ、スタメンは妥当っちゃ妥当なのかな・・・』と思ってしまうのが切ない。
そういう意味では引き分けはこの試合の内容を反映したものとしてはしっくりくる。共に最終節に突破の可能性は残したものの、明るく前を向ける出来ではないことは確かである。
試合結果
スペイン 1-1 ポーランド
エスタディオ・ラ・カルトゥーハ
【得点者】
ESP:25′ モラタ
POL:54′ レバンドフスキ
主審:ダニエレ・オルサト
⑪【グループF】ハンガリー×フランス
■下さなかったファイティングポーズ
80分まで粘ったものの、難敵のポルトガルに屈してしまったハンガリー。1試合目同様に満員で埋まったプスカシュ・アレナで迎えるのはW杯王者のフランスである。
ポルトガル戦でも立ち上がりから引きこもることなく、勇猛果敢に前に出ていったハンガリー。WBは今節も高い位置から相手を追い回す。ハンガリーが狙いを定めたのはフランスの右サイド。このサイドの裏を積極的に狙うことでハンガリーはボール奪取から素早く縦に。フランスは早々に右のSBのパヴァールが警告を受けると、このサイドでは劣勢になる。ハンガリーが付け入るスキは十分にあった。
立ち上がりは面食らったフランスだが、10分踏ん張ると徐々にペースを取り戻す。5-3-2のブロックに対して、WBの手前のスペースを積極的に使う。そして3センターの幅を広げてライン間に楔を入れるための駆け引きをする。
一度前線にボールが入るとさすがの貫禄。ハンガリーがWBを高い位置まであげる守備をする分、ムバッペ、ベンゼマ、グリーズマンと同人数で対応しなければいけない機会が増えてしまう。
特に斜めの動きを駆使することで受け渡しの動きを増やす。特にグリーズマンがオフザボールでギャップをサポートするのが上手かった。ベンゼマもムバッペもこういう動きは得意。前線勝負に持ち込めればやはり力の差は感じる内容だった。
サイドでもプレスでだいぶ足を使わされたハンガリー。おそらく、終盤まで足は持たないので何とか前半に点を取りたかったはず。それが実ったのが前半追加タイム。立ち上がりから狙ったフランスの右サイドをロングカウンターから攻略したカウンターだった。
パヴァール、ヴァランの対応が軽くなってしまったフランスに対して、最後に得点を決めたのはWBのフィオラ。単騎でロングカウンターを完結できる力がないハンガリーにとってはWBが高い位置でカウンターに参加できるかが重要。高い位置を取り続け、ファイティングポーズを下ろさなかったハンガリーの粘りが先制点につながった。
後半も前半と同じく攻め続けるフランス。前半の自由度がさらに上がったように見えたし、ポグバはよりサイドに流れるようになった。しかし、ハンガリーは後半もファイティングポーズを下げない。いざとなれば狙うのはフランスの右。フランスは業を煮やしたキンペンベがこちらまで飛んでくることもしばしばだった。
そんな中で次に点を取ったのはフランス。ロリスのパントキックから相手を出し抜いたムバッペからの後方支援のグリーズマンがゴール。前線でシンプル勝負という機会を得ることができたフランスが質の高さで同点に追いつく。
このまま押し切りたいフランス。ジルー、デンベレなど押し込んだ前提で機能するメンバーを次々と送り込む。しかし、前線の機動力が下がったことでハンガリーが最も嫌な斜めの動きが減少。さらにはプレスにも出にくいメンツなので、普通に保持ができるハンガリーに最後10分で体力差を利かせることができず。
最後まで粘り切ったハンガリー。90分間下ろさなかったファイティングポーズが実り、満員のスタンドと共に勝ち点1を祝うことができた。
試合結果
ハンガリー 1-1 フランス
プスカシュ・アレナ
【得点者】
HUN:45+2′ フィオラ
FRA:66′ グリーズマン
主審:マイケル・オリバー
⑫【グループF】ポルトガル×ドイツ
■再現性+5レーンで柔軟性に欠けるポルトガルを大破
フランスに敗れてしまい立場が危険になってしまったドイツ。あとがないこともあり、立ち上がりからドイツは圧倒的に攻め込んでいた。狙い目にしていたのは右サイド。序盤からドイツはぐいぐい。右サイドからひたすらGKとDFラインの裏にクロスを入れ込み続けていた。前線の選手はほぼほぼ割り切っていた。ライン間に入り込むよりも、ラインに張る選手が多く飛び出しに的を絞っていた感がある。
ポルトガルはビルドアップにおいてもドイツのマンマーク気味のプレスを脱出することができず。反撃の機会すら得ることができなかった。それだけにドイツのCKの守備の隙をついた先制点はお見事。後ろにほぼ人を残さなかったドイツに対してポルトガルはカウンターで数的優位に。ベルナルドからジョタにパスを通した時点で決着。お手本のようなカウンターだった。
ポルトガルは先制以降、トップ下のブルーノ・フェルナンデスをIHにおいて中盤を5枚にシフト。ドイツが立ち上がりから起点にしていたハーフスペースを閉じにかかる。しかしながら、このIHの守備の強度がポルトガルのアキレス腱に。同サイドで埋める程度はできるのだけど、ラインを上下動させられた際の動き直しや逆サイドに展開された時のスライドで脆さが出てしまう。
右サイドのハーフスペースと大外の関係でフリーを作り、ライナー性のクロスを逆サイドに届けるというドイツの攻撃は再現性抜群。特に左サイドを駆けあがるゴセンスを監視する選手がいなかった。
5レーン志向+再現性の観点で言えば最強なドイツに対して、これだけハーフスペースと大外のケアができなければ前半のうちに逆転されるのは当然な気がする。3失点目、SHに起用されたレナト・サンチェスが大外を埋めに戻らなかったには驚いた。監督が指示しなかったのか、選手が無視したのかはわからないけども。
今大会は3-2-5隆盛なのでポルトガルがこの試合で見せた弱点は万人に展開できそう。ポルトガルの場合はサイドに人数調整が上手い選手がいないのがしんどい。この試合で言えばギンターとかアスピリクエタとかリュカとかSBもCBもできますよ!みたいな選手がいない。最後はセメドが3バックの右やっていたのはその証左。かといって6バックまで頑張れるほどSHのタレントに汗をかかせるわけにもいないのがジレンマである。
強みが全開に出たドイツだったが、フンメルスの交代以降はやや危うさもあり。フンメルス不在の最終ラインの連携とネガトラの脆弱性はこの試合でもはっきり見えた。4得点も2失点もレーブ・ドイツの強さと弱さが詰まっている総集編のような試合だった。
試合結果
ポルトガル 2-4 ドイツ
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
POR:15‘ ロナウド, 57’ ジョタ
GEN:35‘ ディアス(OG), 39’ ゲレーロ(OG), 60’ ゴセンス
主審:アンソニー・テイラー
続きはこっち。
第3節前半
第3節後半