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「理想的な中2日」~2021.4.14 J1 第19節 川崎フロンターレ×アビスパ福岡 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■4-4-2への3つのアプローチ

 プレビューでも触れたが、この試合の最も注目すべきポイントは福岡の4-4-2ブロックに対して川崎がどのような攻略法を提示できるかという部分である。

 この部分が重要な理由は川崎の攻撃の局面だけでなく、守備の局面(=福岡の攻撃の局面)にも効いてくるからである。福岡の攻撃の手段として最も優先度が高いのは手早い攻撃でFWとSHでゴールを陥れることである。したがって、高い位置からボールをひっかけてショートカウンターへの移行を実現できれば、福岡にとってはいい守備なだけではなく、いい攻撃の機会にもなりうるということだ。

 そういう意味で最も福岡が理想的なボールのひっかけ方をしていたのは立ち上がりだろうか。川崎が手早くボールを入れるところをひっかけてカウンターを発動。福岡が相手陣に入り込む機会を得ることが出来ていた。

 しかしながらすぐに試合を落ち着かせると川崎がボール保持から試合を進めるようになる。川崎が前進の手段として使ったのは主に3つである。

1. 裏への長いボール

 6分の谷口の裏へのフィードがその代表例である。福岡のプレッシングはミドルブロックを維持することが多い。ただ、CBが機動力に優れているわけではないので、裏への長いボールへの対応はそこまで得意ではない。まずはラインを下げさせれば福岡のカウンターの脅威も減る。

 自軍の被カウンター機会を減らすことと、ラインを下げて相手のブロックを縦方向に間延びさせることがこの手段の目的である。

2. 車屋→長谷川の流れ

 車屋、谷口のこの日のCBコンビの攻撃面でいいところは配球の部分、とりわけ左利きで足元に自信がある車屋が左のCBに配置されることで、縦方向や左サイドへの展開力が高まるところである。

 この日非常に多く見られたパターンは車屋⇒長谷川へのパスである。左サイドへのパスとしては車屋にとってはSBの登里という選択肢があるが、長谷川といういわゆる1つ飛ばすパスを選択する傾向が強かった。

 このパスの利点は守備側の視点を変えられることだ。福岡のSHである吉岡からすると当然まずは登里に意識が向いている。そういった中で登里が内側に絞ったり、あるいは長谷川-登里-車屋が直線状に立った際に車屋⇒長谷川にパスが渡ると吉岡やSBのサロモンソンの意識がそちらに向く。

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 もし、SHの吉岡がついてくれば内側が空くし、SBのサロモンソンがついてくれば裏が空く。つまり、長谷川がサイドの大外で受けることで内側への折り返しや裏への抜け出しなどを促すことが出来る。

 ここから先の長谷川-遠野-登里の崩しやオフザボールの連携については改善の余地はあるものの、長谷川を大外の起点として活用できたことはチームにとって大きかった。

3. 内側での縦パス

 リスク軽減を加味した大外や裏への配球は非常に大事ではあるが、結局それは4-4-2ブロックを歪ませる下準備の要素もある。であるので、余裕があるときには縦に刺すようなボールを入れるのも必要である。

 この日のCFの知念はDFを背負いながらボールをキープできるスキルを有している。IHの一角がストライカー色の強い遠野だったこともあり、そこからの連携にも本人は手ごたえを感じているようだった。

--そこに至る展開で、一度受けるために下がってから、中に入っていた。自分の良さを出せた?
     『今シーズンというか、今の川崎はFWの周りに、シャドーがサポートにけっこう来てくれる。うまく絡みながら、というのは意識してやっていました。』

https://www.jleague.jp/sp/match/j1/2021/041413/player/

 以上の3つの手段はそれぞれ福岡の4-4-2ブロックに対する縦方向、幅方向、そして間へのアプローチにそれぞれ対応している。川崎がそれぞれの前進の手段を使うことで、福岡の2列目に徐々に迷いが出るようになる。これは川崎がライン間に縦パスを入れる選択肢も見せていたことが大きいと思うのだけども。

 したがって福岡のゾーンの位置は普段よりも下がって受けるシーンが増えていた印象。川崎の押し込む時間帯が増えていき、その流れに乗るようにCKの一連から先制点を獲得する。点を決めたのは武者修行先として福岡で1年を過ごした遠野。2試合連発の先発で結果を出した。鳥栖戦に続いて対九州勢に連続得点ということになった。

■フアンマのロングボールの受け方

 押し込まれてしまうとなるといい形でショートカウンターを起動することが出来ない。そうなると保持の部分で何とかしなければならない福岡。ただ、多摩川クラシコからもわかるように福岡の採用する4-4-2は川崎の4-3-3に対するプレッシングと比較的相性が悪い。配置の移動をするならば別だが、福岡はそういった工夫はそこまで多くないチーム。無理に保持に傾倒すると、FC東京戦の川崎の1点目のような失点を喫する可能性もある。現に12分ごろに奈良がショートパスをミスった場面はそのリスクが具現化したシーンといえる。

 というわけで彼らが用意していたのはロングボール。この日起用されているフアンマに目掛けたロングボールを主とした前進を行っていた。ポイントはフアンマの競り合いが行われているのが最前線に限らないこと。サイドに流れるのは川崎のSBに対するミスマッチを利用するものということもあるが、中盤に降りて競り合いをすることもあった。

 なのでロングボールのターゲットになるフアンマは立ち位置でいえばトップ下。彼のそばにSHが絞ってこぼれ球を拾い、トップに残る渡に裏へのパスを出すのが主な攻撃の手段だった。

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 ターンオーバーを加味してもこの試合の川崎のスタメン選びは少々意外だった。プレビューでも福岡のスタメンは読みにくいと確かに述べたが、ここ数試合の流れからフアンマの先発の可能性は結構高かったはず。フアンマが起用された際はこういう形での前進は想像がつくので中2日とはいえシミッチ、ジェジエウを共に外して福岡に挑むのは個人的には驚きであった。

 福岡は『FWの特性に合わせた縦への加速が最優先で、それが難しいならサイドに展開してクロス』という流れで保持を組んでいると思う。ただ、この日はサイドへの展開は少なかった。薄いサイドを作る作業中にプレスに引っかかった際のリスクが大きいこと、クロスを上げる主力の1人である志知が出場停止であること、そして川崎の中央の高さがいつもよりも低かったことなどの要素が絡まってのフアンマに向けたハイボールへの傾倒につながったのだと思う。

 中盤にシミッチがいない川崎はDFラインから多少無理にでもCBが出ていって競り合う場面があった。そういう事情もあって、最終ラインはやや乱れやすくなる。よって競り合うフアンマ以外にラインに張る渡の存在はめんどくさかった。

 同点ゴールのきっかけになったシーンはその渡のフリーランからのFK。きっかけはハイボールというよりは長谷川の仕掛けのミスからだった。確かにこの試合では長谷川のボールロストは目立っていたし、それも遠因ではあるものの、個人的にはこの場面ではクリーンに取り切ることがうまくできなかったなという部分の方が大きい。4人行ってファウルで止めるというのはちょっともったいない。この日の家本主審の判定はコンタクトに寛容だったのは確かだが、この場面では谷口は手を使って渡の上半身を進行方向に遮るように止めているので、ファウルを取られてしかるべきだと個人的には思う。

 もちろん、こういう話になるということはこのFKが大きな結果を生んだからこそ。前半のラストプレーであるサロモンソンのFKで福岡は同点に追いついてハーフタイムを迎える。

■輝きを放つ脇坂泰斗

 得点が必要になった川崎は後半に再び前に出ていく。この日の福岡がボールホルダーへのチェックが甘かったこともあり、IHは比較的低い位置に降りる動きを挟めばフリーになることはできていた。

 後半に個人的に際立ったパフォーマンスをしたと感じるのは脇坂だ。福岡はボールホルダーへのチェックはそこまで激しくなかったが、ボールサイドに陣形を動かすという横方向のスライドは怠らなかった。なので縦方向への楔は前半よりも入れるのが難しい状況に。知念の組み立ての局面での顔を出す頻度がやや薄れた印象なのはがっちりマークがいたからだろう。

 したがって、横に揺さぶりながら薄いサイドを作っていく意識が必要となる。そのタクトを振るったのが脇坂。特に敵の選手を引き連れながらの少ないタッチでの逆サイドへの展開が見事だった。

得点シーンでは脇坂のサイドを変える展開が効いた。もちろん、その先の知念の降りてくるポストもよかった部分ではあるのだが、その前に福岡がラインを下げざるを得なかったのは密集を脱する脇坂のサイドチェンジがあったからこそである。

 後半はこうした横に揺さぶる川崎の狙いがよく見られた。例えばクロスに関してもWG⇒WGというファー狙いのものが多数。長谷川のクロスから小林が決定機を迎えたシーンもそうだったし、小林のクロスに長谷川が届かなかったシーンも同様。2点目のシーンも山根がファーを狙ったことで杉山がゴールマウスを空ける羽目になっている。

 後半も福岡の長いボールには苦しんだ川崎だったが、塚川とジェジエウの投入でロングボール大作戦は鎮圧。下記の鬼木監督の試合後コメントから察するにブルーノ・メンデス投入のタイミングで福岡がフアンマを残すかどうかで、ここから先の交代策を考えたのではないだろうか。

    『2点目が入った時間帯はすごく良かったと思います。あの形で3点目を狙いたかった思いがありました。ただ相手の狙いもはっきりとした、普段ならフアンマ選手を下げて、というところだと思います。ただプラス、ブルーノメンデス選手を入れてきて、パワーをかけてきました。自分も福岡の試合を何試合も見ている中で、最後の時間帯に得点が多いところがありました。そういう意味では、ノーマルで3点目を取りにいければ良かったですが、今日の天候や中2日であること、そこを考慮しながら、守るべきところはそういう選手を入れて守る、やらせない。相手にリズムを与えないことをしながら、それで3点目を取りたかったです。』
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/19.html

 まずは長いボールを跳ね返す準備で福岡の押し込む手段を奪うと、最後は三笘、家長、ダミアンで自軍が前に進む手段を得る。最後の仕上げは代表帰還後もフル出場を続ける山根のゴール。ほんとによく走る。化け物かよ。すげーな。

あとがき

■中2日としてはパーフェクト

 福岡のようなソリッドなチームに勝てたことは大きな自信になるだろう。強いて言えば長谷川に結果が、そして小塚に出場機会が欲しかったところ。だが、知念や遠野の貢献や車屋が安定したパフォーマンスを見せるなど、ここまで出場機会が十分ではなかったメンバーの出来が上々なのは大きい。昨年は20人前後のスカッドの質の高さで勝ったようなものだから。中2日という部分を加味したスタメンと展開に合わせた応急処置、得た結果も含めて非常にいい試合だったように思う

 今季始まる前に4-4-2で守り切るタイプのチームと聞いてJ1では苦戦するかな?と思った福岡だが、思ったよりも完成度は高い。どこのチームにとってもめんどくさい存在にはなりそう。欲を言えば前線をもう少し固定し、どこのチームにも通じる攻撃の武器が欲しいところ。個人というよりはできればユニットで。外国人枠も含めて陣容が少しダブついている感じが気になるが、武器の種類が多岐にわたるまでに完成度が高まるならば、さらに相手チームにとって厄介な存在になるだろう。

今日のオススメ

 81分の丹野の飛び出し。試合がまだどちらに転がるかわからない展開の中で、ピンチを未然に防ぐこの飛び出しが出来たのは大きい。最終ラインとの連携もここまで問題なさそうだ。

試合結果
2021.4.14
明治安田生命 J1リーグ
第19節
川崎フロンターレ 3-1 アビスパ福岡
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:19′ 遠野大弥, 55′ 知念慶, 90+5′ 山根視来
福岡:45+3′ エミル・サロモンソン
主審:家本政明

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