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「反撃の時は来るのか」~2021.4.6 UEFAチャンピオンズリーグ Quarter-Final 1st leg レアル・マドリー×リバプール レビュー

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目次

レビュー

■DFラインがスクランブルな影響は?

 コソボ戦に向けたスペイン代表の活動中に負傷したセルヒオ・ラモスの欠場に続いて、試合の数時間前に飛んできたラファエル・ヴァランのCovid-19陽性反応。これを受けてマドリーはレギュラーのCBを2人失うことになった。

 対するリバプールもファン・ダイク、ジョー・ゴメス、ジョエル・マティプとレギュラークラスのCBがシーズン全休レベルの離脱。この試合どうこうというレベルではないので、カバクを緊急補強でシャルケから獲得した。

 ということで測らずしもスクランブルな最終ライン(もっともリバプールはもうしばらくこのメンバーで戦っているのだが)で臨むことになったベスト8の試合だった。

 立ち上がりのレアル・マドリーのプレッシングはボールサイドのインサイドハーフが積極的にリバプールの最終ラインを捕まえに出てくる。どうやらこれは普段のリーグ戦に比べて前から相手を追いかける仕様のようである。後方のカゼミーロや、最終ラインの面々も降りていくリバプールの選手たちについていく。

 マドリーのこのやり方が成り立ったのは前線の守備の誘導が効いていたからだ。リバプールのボール保持は縦への色気はあったものの、マドリーの前線の角度限定が上手でマドリーは縦パスの通るところをあらかじめ推察することができていた。特にマドリーの右サイド側はこれが顕著。モドリッチの消し方が上手いのと、クロースが前プレに加わった後に降りてアンカーを消し逆サイドへの可能性を限定するのが一因ではないかと思う。

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 リバプールの保持は素直だった。誘導の通りに勝負を仕掛けて、マドリーに摘み取られる。非保持のマドリーは逆に老獪さを見せたといえるだろう。こういう時にマドリーの誘導を避けられそうなチアゴがリバプールにはいるのだが、今日スターティングメンバーには名を連ねていなかった。

 15分のアレクサンダー=アーノルドのインサイド突撃とか、最近のリバプールではあんまり見ないタイプの攻撃なのだが、やはりどことなく単調な部分に変化をつけたかったのかなと推察する。ケイタにもこういうボール運びへのアクセントを期待しての起用なのかもしれないけども。

前線の核を基準に動く

 一方のマドリー側の保持に対して、リバプールはそこまで追い込むことはなかった。この日のリバプールは流れの中でプレスをかけに行くことはあれど、マン・シティ戦のように今季数回しか見られることがなかった修羅のプレスモードを纏うような試合ではなかったということである。

 それでも一定のコンパクトさは保てていたし、悪くはなかったリバプール。しかし、この日は保持側のマドリーの方が修羅モードであった。保持時のマドリーはIHが低い位置に降りながらゲームメイクに参加する。リバプールはここにプレッシングには積極的にはいかない方針だった。3トップは中を固めながら、最短ルートを閉じる。

 結果から振り返ればこのリバプールの選択は間違いだったといえそうである。なぜならば、マドリーは前線の裏への駆け引きがリバプールのDFラインを上回ることが多かったからである。CB-SBの間を抜けるように裏を取るWGと大外に陣取るSBのコンボでリバプールのDFラインを迷わせる。

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 さらにめんどくさいのが動き回るベンゼマの存在。放っておけないベンゼマが動くことで最終ラインに歪みが生じる。マドリーのOF陣はこのベンゼマを基準に動く。具体的には彼の引く動きに合わせるようにヴィニシウスが裏を取る。そしてアセンシオが絞るようにしてフィニッシャーの役割を担う。

 ポゼッションの核がないリバプールとは対照的に、前線の核をベースに攻め込むマドリー。加えて最終ラインからのクロースの砲台としての役割は相変わらずのハイクオリティ。マドリーが前半に決めた2得点はいずれもこのクロースが起点になったもの。ホント機械みたいだなと思う。特に涼しい顔で前線へのプレスをこなしつつ、アンカー消しにプレスバックからのボール奪取ですぐに前線の裏にボールを送るという一連とかね。SBが基本あがるリバプールに対してこのトランジッションは効果が抜群だった。

 リバプールが仮にこの試合でチアゴ抜きの前半を成り立たせるのだとしたら、クロースとモドリッチの2人をIHで捕まえるタスクを負わせることだったと思う。だが、ワイナルドゥムはともかくケイタはあまりそういったタスクワーカーではないように思う。どちらかと言うと攻撃においてアクセントを作れる選手だ。この役割を預けるならば、ベンチに座っているミルナーの方が適任のように思う。

 いずれにしても40分過ぎにケイタをチアゴに代えたことで、この日のクロップは先発の人選に失敗したことを認めたようなものである。チアゴを起用しなかったこの試合の前半はリバプールの完敗だった。

■匂いは得点に通ず

 後半の頭、リバプールは反撃の素振りを見せていた。誘導をかわせるチアゴの登場により、マドリーの陣地奥深くまで侵攻する機会が増える。気になったのは後半立ち上がりのマドリーの対応である。ファウルを与えたルーカス・バスケスのタックルや、交わされてしまったカゼミーロのタックルなど、リバプールの攻勢に対してやたら早く決着をつけようとする動きが多かった。カゼミーロのタックルは失点に直結するしね。

 おそらくだが、やはりマドリーからするとこの日のDFラインでは押し込まれたらアウト!ということなのだろう。それだけになるべく高い位置で止めようとするあまり、無謀なタックルでピンチの傷を広げてしまうようなシーンが徐々に出てくる。そうなってきたところで仕留めたのはサラー。反撃の空気をスコアにしっかり結びつける。

 しかし、このリバプールの得点を境に徐々にレアル・マドリーが勢いを取り戻し始める。保持で落ち着けられるモドリッチとクロースはさすが。一気に決めようと前がかりになるリバプールに対して、落ち着く時間を作ると今度は長いカウンターから好機を得るマドリー。1つ目の大チャンスはGKからの素早いカウンターで最後はパスを選んであっさりフイにしてしまうが、続く2つ目のチャンスでヴィニシウスがこの日2得点目のゴールを決める。

 余談だが、この試合のゴールはいずれもその前に得点の匂いを感じさせるものばかり。前半の2つの左サイドからの裏抜けはそれまでマドリーが愚直に取り組んでいた形だし、後半頭のサラーの得点もマドリーのむやみなタックルが彼らがリバプールのポゼッションに冷静に対応できていない印だった。

 そして、この3点目も同様。通常は決定的なシュートチャンスを外してしまうと罰されると考えるのが通説だが、1つ目のカウンターをこの試合における『匂い』とするのならば、3得点目もこの試合の流れに沿ったものといえる。ちょっとオカルトが過ぎるだろうか。

 ただ、この試合においてその『匂い』にまつわる仕掛けをたくさん施すことができていたのはマドリーの方だったと思う。前線の核であるベンゼマを基準に行われるヴィニシウスやアセンシオ、メンディやバスケスの裏抜けに中盤の核であるクロースがピタリと合わせる。

 ヴィニシウスの前半の得点は、それ以前のハーフスペースを直線的に抜けるような動きではなく、CBをかわすように斜めに入り込むような動き。よりゴールに向かうような抜け出しとなっている。得点以前の動きを布石にゴールを取るためのさらにもう一手先を読めていたように思う。

 2点目のアセンシオもひたすらにベンゼマが作ったスペースを埋める動きを繰り返したご褒美といえるだろう。チアゴ投入以前は攻守にチーム内に格がない状態だったリバプール。対するマドリーは核を基準とした動き出しで前半にアドバンテージを得た。

 その後はリバプールがボールを保持する展開が続くも、ゴールの匂いを感じられることはなかった。この試合では匂いのないところから得点は生まれない。したがって試合は3-1のままホームのマドリーが逃げ切ることになる。

あとがき

■チアゴとリバプールの物語は始まるのか

 なんだかんだ自分はプレミアウォッチャーなのでリバプールの話を少し。この試合でのキーポイントの1つは間違いなくチアゴの投入のタイミングだろう。最終ラインに続出した離脱者や前線の爆発力の低下などイレギュラーだらけのシーズンの中で、今のリバプールがクロップのサッカーをどれだけ体現できているかはわからない。

 そんなスカッド事情の中で欧州ではお馴染みの速い展開で相手を飲み込むのではなく、この試合のようにスローテンポなポゼッションになることもしばしば。そういった展開においてリバプールが試合を掌握するにはいつの間にかチアゴが不可欠な存在になっていることがこの試合ではよくわかった。不在だった序盤も思ったし、彼を投入して巻き返した後半にも思った部分である。

 年齢的には決して若手とは言えないチアゴ。だが、今後リバプールがゆったりとしたポゼッションを織り交ぜて試合を進めるのだとしたら、彼を軸に据えるのが最も近道なのは間違いないだろう。

 非常に印象的だったのは前半終了間際にアイドリングを終え、ハーフタイムで一足早く出てきてアップをしながら後半の反撃に静かに燃えるチアゴの姿。今後、もしくは今季リバプールが彼を中心に再び覇権を握る展開が訪れたら、自分はこの日ウォームアップで反撃の準備に備えるチアゴの姿を思い浮かべるかもしれない。

試合結果
2021.4.6
UEFA Champions League 
Quarter-Final 1st leg
レアル・マドリー 3-1 リバプール
アルフレッド・ディ・ステファノ
【得点者】
RMA: 27′ 65′ ヴィニシウス, 36′ アセンシオ
LIV: 51′ サラー
主審: フェリックス・ブリヒ

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