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レビュー
■対策の答えは4-4-2
2週間のA代表ウィークを経るということでまず注目が集まるのは片野坂監督が川崎に対してどのような策を講じてきたか?ということだろう。片野坂監督が出した答えはなんと4-4-2であった。2トップの長沢と町田はやや縦関係気味。まぁ、直近の試合とは違う形もあるだろうなとは思っていたけど、なかなかに想定外のことをやってくるものである。
直近の3試合で見た形の中からあえてこの4バックを分類するならば、CHの片方(小林)をへそ、もう片方をフリーマンとして最終ラインに入り、その位置にいる選手が押しあがるというイメージである。
大分のビルドアップのコンセプトとしては縦へのポストを早めに使いながらフリーマンを作り、その選手から裏へのボールを使う形。特にSHは絞りながらの動きが多く、渡邉などもポスト役として加わる。これをSBが追い越したり、あるいはポストでフリーで受けた中盤から大きな縦への展開で一気に進むやり方が大分がやりたかった進み方だろう。
このボールをつなぐ過程で強くプレスにくる川崎のDF陣を引き付けながら裏のスペースを空けることができれば、大分にとってはよりカウンターのチャンスが広がる。
しかし、川崎のバックスはこのプレスに出ていく過程でうまく大分を捕まえていた。特に目立っていたのが山根。出ていくなら潰しきらなければピンチになるというのがこの日の彼の立ち位置。SHに対して潰していくのはもちろんのこと、44分のようにスクランブルでSBの福森に対して出ていった際もファウルでしっかりプレーを切ることで後方の大きなスペースを使わせることは少なかった。
それでも大分が前に進むことに成功したシーンもある。例えば4分30秒のような縦への長い裏へのボールが出た形。だが、この試合では谷口のカバーリングがさえわたっていた。加速のスイッチは山根や登里がきっちり潰し、エラーは谷口が摘み取る。
シミッチもこの試合では効いていた。攻撃面での配球がこの試合では称賛する人が多かったようだが、守備における役割もなかなか。降りてくる2トップの一角やほぼ中央までポストしにくるSHを一手に引き受けて跳ね返しに成功。大分の速い攻撃を阻止する。
大分の4-4-2のメリットの1つは前線と川崎のバックスの枚数が合うこと。あわよくばズレれば(44分に山根が福森についていったシーンのように)数的優位を得ることができるはずだった。だが、あまり大分はカウンターを完結させられないことでこのメリットを享受できなかった。
■整った左サイド
一方で川崎のビルドアップに対する受けという部分に関して言えば大分の4-4-2ブロックは難しさもあった。まず2トップはアンカーの受け渡しをしながらCBへのチェックを敢行。3対2という定性的な数的不利の状況で試合を進めることになる。
押し上げた後は左サイドを主体として進める川崎。理想的といえるのは36分の流れだろう。ダミアンがサイドに絡みながらも最後のクロスを上げるタイミングまでクロスを上げるための時間稼ぎを行い、PA内でターゲットになる。崩しからクロスのタイミングまでが完璧。シュートは決まらなかったけども。
この場面では絡まなかったが、左サイドで言えば登里の復帰は大きかった。旗手のSBは縦に一気に進むというダイナミズムという点で魅力的なのだが、登里のSBはとても整う。彼が内に入ることで三笘は大外で受けられるし、サイドの崩しにおいても常にパスコース作りをサボらない。加えてオフザボールの動きも良好で、エンドライン際から抉るような突破も可能。
先ほど紹介した直後のシーンで、オフザボールでの登里の抜け出しを引っかけてしまった大分。このファウルから先制点を許してしまう。ややピンボール気味になった状況で押し込むことができたのは三笘。余談だが、川崎の選手は突発的にきたボールに対するコントロールとプレー選択がだいぶ早いように思う。この場面で叩くシュートを選べる三笘がその部分に関する強みを存分に生かした先制点のシーンであった。
左サイドでの崩し以外の川崎の武器はロングカウンター。大分が人数をかけながら押し上げることは何回かあったが、むしろこれは川崎のカウンターの格好の機会だった。特にこの日光っていたのはIHの脇坂と旗手の長い展開。高い大分のDFラインの裏を突く長いパスは状況を一変させて攻勢に移行することができていた。
具体的なシーンで言えば少し先だけど58分くらい。旗手が長いボールを家長に通した場面は上の例の代表格といえるだろう。旗手はIHとして今季初先発になったが、SB時代のようにアンカーの横で組み立ての手助けをしつつ、フィニッシャーとして最後の場面まで顔をだせるように。SBでの先発や代表を経てさらにマルチ性に磨きがかかったように見える。縦へのシームレスな移動は彼の大きな武器になったといえそうである。
■二転三転のシステム変更
三笘の先制点でビハインドで後半を迎えることになった大分。後半頭からシステム変更を施す。システムとしては5-4-1というのが妥当だろうか。方針としてはビルドアップを頑張りたいということだろう。それが目指す先が主導権の掌握なのか、攻守の切り替えの頻度が下げて落ち着く時間を作りたかったからなのかは読み取り切れない。が、確かに前半と比べれば攻守の切り替えが少ない展開になったし、そうなった大きなファクターとして大分のシステム変更が挙げられるのは間違いない。
このシステム変更は個人的に悪くなかったと思う。コンセプトとしては広島戦が近いか。ビルドアップはGKの高木が絡む機会がさらに増加。CBがGKと並ぶように立ち、ワイドのCBはSBロールといっていいくらい開く。少し広島戦と違ったのは小林も下田も降りる動きを見せなかったことくらいか。
狙いはワイドのCBで川崎のWGをつり出し、サイドで数的優位を作るためだろう。少しずつ発生した歪みを前に送るイメージである。
ただ、川崎も悪くはない。プレビューでも触れた通り、大分の5-4-1には割と段差ができやすくそのギャップから進むことができる。例えば後半開始直後の登里は早速大分のブロックの泣き所に入り込んだ感があった。
前半に比べれば攻守の切り替えが少なく、より互いの保持を受ける時間が増えたイメージ。それでも前半は相手陣まで進むことがままならなかった上に、進んでもクロスを上げることができなかった大分からすれば、交代で状況は好転したといえる。
時間が進むにつれ、特に右サイドから大分は徐々に川崎のエリア内に攻め込むようになる。あと一歩で決壊させることができそう!ということで大分に痛恨のミスが出る。CHのパス交換でボールロスト。三笘にショートカウンターを沈められてしまう。パス交換の距離感も含めて、このシステムにおいてのCHの役割は少しぼやけてしまっていたかもしれない。とはいえこれは後半の方針や点差を考えればやってはいけないミスだった。
給水後の交代で大分は再び戦術を変更。4-4-2気味にシフトする。ただ並びがどうこうというよりはむしろ敵陣での根性マンマークプレスが主体。なるべく高い位置から咎めてチャンスを作ろうということだろう。しかしながら、この日の川崎はプレス回避がさえていた。特に家長など前線の選手が降りて顔を出すタイミングが秀逸。IHがそれに呼応するように終始動きながらマークを外し、プレスに屈することはなかった。逆に大分は根性マンマークに専念できた敵陣での守備はともかく、自陣における守備にはやや戸惑いが感じられた。
2点目以降、逆転の匂いは見事にシャットアウト。川崎が大分を寄せ付けずに完勝した。
あとがき
■フォーメーション変更に感じる悩み
大分の視点で言えばまず前半を0でしのぎたかったというのはあっただろう。タイスコアで後半頭のチャレンジまで進むことができれば3ポイントまで進むことはできたはず。ここ3試合を見た印象としては、サイドから数的優位を先に送るような崩しをするしか大分には道はないように思うのだが、鈴木や岩田、田中など柱となる選手が不在では従来のクオリティを出しきれないということだろうか。まだどこに進むかが定まらない感があるのが今の大分。この試合における度重なるフォーメーション変更はその表れだろう。
■感じた個人とチームの成長
大分の4-4-2には面食らっただろうが、川崎はよく対応できていたと思う。大分が用意した川崎対策を上回りチャンスらしいチャンスを作らせなかったといっていいだろう。この試合では光ったのは自陣まで運ばれる機会をことごとく跳ね返したCB陣ときっちり求められた仕事をこなした丹野。点がポンポン入る展開じゃないだけにミスをせずにピンチをシャットアウトした彼らの功績は大きい。
守備陣の頑張りに加えて、プレッシングという今季の頑張りポイントを上乗せして2点目を取った試合運びには成長を感じる。得点を決めた三笘以外にも脇坂や旗手、山根など代表活動参加後の選手たちの好パフォーマンスも光った。新しい刺激をベースにさらなる成長が期待できるシーズンになるかもしれない。
今日のオススメ
本文でも取り上げたが44分過ぎの山根のファウル。ここ運ばせたらダメなところはやらせない。最低でもファウルで止める。山根の高い位置での守備の貢献度がさらに上がれば、川崎の支配力はもう一段上がる。
試合結果
2021.4.3
明治安田生命 J1リーグ
第7節
川崎フロンターレ 2-0 大分トリニータ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:39′ 66′ 三笘薫
主審:谷本涼