①マンチェスター・シティ×ボルシア・メンヒェングラートバッハ
■貫禄の180分、悲願達成で上々の船出
2ndレグもマンチェスター・シティは万全だった。グラードバッハは4-2-3-1の立ち位置ながら、プレスはCFと両SHの3枚を1stプレス隊とした形。3トップのスタンスは外切りが基本で、内側に追い込みながらCHとトップ下の3枚で取り切るというイメージである。
いわば中盤中央というロドリやカンセロを軸としてここから進んでいきたいというシティの攻撃の中枢をまずは閉じてしまおうということである。ここ最近のシティ対策としては割と一般化している気がする。外が安全なわけではないけども、まずは外に追いやることで最短でゴールに迫られることは防ぐ!みたいな。
そうした時にとりあえず外に向かって外で崩すことが多いのがマンチェスター・シティだが、この日は積極的に内側を崩すことでチャレンジしていく姿勢を見せた。やはりキーとなるのは前後のレイアーの移動。定点で構えるのではなく、1人選手が降りてきたり、その分選手が前に動いたりなどの陣形全体のバランスを崩さない状態での移動が抜群。
わかりやすい例として挙げられるのは2点目の崩し方。降りてくるフォーデンは縦パスを受けた後、ターンでグラードバッハの中盤を剥がすと縦方向に一気に加速する。彼の前を走っていたのはギュンドアンとカンセロということを考えると、初期ポジションにこだわらずに縦方向の人数のバランスを取っているといっていいだろう。
グラードバッハも保持の局面では内外使いながらシティのプレスをいなそうとするが、規律十分のビルドアップもシティのプレスを外すにはやや不確定要素が足りないようにも見えてしまった。グラードバッハが悪いというよりはシティがいいのだと思う。高い位置からのプレスと縦方向での列の出入りを駆使して、徐々に押し込んでくるマンチェスター・シティ。あっという間に2点を挙げて、2ndレグでも一気に流れを引き寄せる。
結局180分を通してグラードバッハを圧倒したマンチェスター・シティ。悲願達成に向けてまずは上々の初戦突破となった。
試合結果
マンチェスター・シティ 2-0 ボルシア・メンヒェングラートバッハ
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:12′ デ・ブライネ, 18′ ギュンドアン
主審:セルゲイ・カラセフ
②レアル・マドリー×アタランタ
■勝負所をくじき続けて見せた格の違い
1stレグで1点分のアドバンテージのあるジダンが2ndレグに持ってきたのは3-5-2。カゼミーロ抜きだとこうやるのか!と思ったけど、どうやらリーグ戦でもカゼミーロ込みでの3バックはやっていたようなのでこの日のためのものかどうかはよくわからない。
ボール保持ではアタランタのマンマークをどう外していくか?というところがマドリーのキーになってくるのだが、彼らの選択は積極的な列落ちだった。3バックのうち、ラモスとヴァランがクルトワを挟むように横に広く立ち、その間に選手たちが次々と降りてくるという仕組み。モドリッチ、クロース、バルベルデ、メンディ、バスケスと降りてくるメンツは何でもござれ。
ただ、マドリーの選手がここでボールを触った後、普通にどっかにはけていくことが多いので、このやり方で何か明確な前進のプランがあるようには見えなかったし、誰がどのタイミングで落ちるかの規則性はあまり読み取れなかったので普通に近場にパスコースのない状態でクルトワが困り果てることもあった。だが、アタランタがプレッシングで完全に嵌め切るほどの勢いじゃなかったため、このフェーズでのビルドアップが致命的なパスミスを呼ぶことはなかった。
もっと言えば、間から前進しベンゼマとヴィニシウスまでボールが渡ってしまえばあとは自在。前線の質的優位をベースにゴールに迫ることが出来るマドリーだった。
落ちてきて外すのがマドリーならば、どちらかといえば裏に抜けていきながら外しているイメージが近いのがアタランタである。立ち上がりに押し込む機会が多かったのはむしろアタランタの方で、ワイドのCBを使ったおなじみの積極的な攻撃参加でレアル・マドリーを自陣に押し込んでいく。マドリーはマンマーク返しといわんばかりに相手を捕まえに行くのだが、捕まえきれずに押し込まれてしまう機会も多かった。
だが、アタランタはうまくいっているときには落とし穴にはまってしまう。ビルドアップからモドリッチにプレゼントパスを送るとこれをベンゼマに沈められて先手を奪われる。
2点がマストになったアタランタは後半にサパタを投入し、ムリエルがサイドに流れた時のエリア内の人員確保を行う。だが、さらに攻勢を強めるためにイリチッチを投入し、マリノフスキーのポジションを下げたところで再びマドリーが牙をむく。高い位置でボールを奪い、ポジションを下げたばかりのマリノフスキをちぎるとヴィニシウスがPKを獲得する。
一時は直接FKで1点差まで戻すも、直後にアセンシオが相手をあざ笑うかのゴールで再度突き放す。山王の深津くらい冷静にゴールを決めていた。
選手交代や追撃弾などここが勝負どころ!というところでマドリーにぶん殴られてしまうアタランタ。取れそうで取れないマドリーのビルドアップを仕留めきれなかったことが終盤に跳ね返ってきたように思う。『ここはCLのノックアウトラウンドだから!』というレッスンをマドリーがアタランタに授けたかのような90分となった。
試合結果
レアル・マドリー 3-1 アタランタ
エスタディオ・サンチャゴ・ベルナベウ
【得点者】
RMA:34′ ベンゼマ, 60′(PK) ラモス, 84′ アセンシオ
ATA:83′ ムリエル
主審:ダニ―・マッケリー
③チェルシー×アトレティコ・マドリー
■あがきを受け止め跳ね返す
1stレグは6バックまで引っ張り出してきたアトレティコに対して、貴重なアウェイゴールを手にしたチェルシー。突破に向けてゴールが必要になってきたのはアトレティコの方である。1stレグの撤退守備での戦い方は賛否あるだろうが、アウェイゴールを与えてしまうと正義は叫びにくいのは事実である。
というわけでハイプレスを基軸にチェルシーに襲い掛かっていくアトレティコ。しかし、チェルシーは至って冷静にこれを受け止める。U字循環のパスを活用しつつ、アトレティコのプレッシングをいなしながら時計の針を進めることに成功する。
マウントの出場停止で前線とのリンクマン不在という懸念はあったが、この部分はハフェルツが担当。降りてきながらボールの落ち着けどころとなることで、チェルシーの保持に一役買う。カンテとコバチッチに前を向かせる手助けをする。
アトレティコにとってはチェルシーの保持を阻害するのが非常に難しい状況になってしまった。ハイプレスが効いた25分のシーンでPKを取ってもらえなかったとぶつくさ言いたくなるのはわかる。ここが試合の流れを変えうるワンチャンスだったからである。
このシーンを除けばアトレティコは保持を含めてチャンス創出に苦しむことに。チェルシーを自陣に押し込んだ際もサイドのトライアングルが機能せずになかなかエリア内に迫ることができない。ジョアン・フェリックスを筆頭とした個人の突撃がわずかな突破口だが、これもチェルシーに封じられてしまった印象だ。
チェルシーが1stレグのアトレティコと異なったのは受けるだけではないところ。カウンターからアトレティコを脅威にさらして得点を挙げてしまったところである。ロングスプリントで無理が効くヴェルナーの存在は非常に大きい。試合の展開もあってチャンス量産!というわけにはいかなかったが、限られた機会をしっかりシュートに結び付けていた。先制点の場面も彼が起点となるカウンターからだった。
最後はサビッチが退場して万事休すのアトレティコ。最後はエメルソンにおまけの得点までついたチェルシーが180分でシメオネを圧倒した。
試合結果
チェルシー 2-0 アトレティコ・マドリー
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:34′ ジエフ, 90+4′ エメルソン
主審:ダニエレ・オルサト
④バイエルン×ラツィオ
■2ndレグでも健在な老獪さ
正直なところ、1stレグで勝ち抜けという意味での決着はついてしまっているように思う。が、ラツィオは前を向いてミュンヘンに乗り込んだ。だが、それでも前半から主導権を握ったのはバイエルン。内を固めつつ5-3-2で守るラツィオだが、最終ラインが幅を取った配球を行うことでラツィオのブロックを左右に揺さぶる。
スピードと精度を伴うミドルパスを使うバイエルンの最終ラインのせいで中央を固めるだけでは済まなくなったラツィオ。そうなってくると徐々に前線と中盤の距離感が甘くなる。バイエルンは間、間をつなぐように前進する手段も得て押し込みだす。この辺りの解きほぐし方はさすがである。
逆に守備時のバイエルンは内側を締めて外に追い出すように。自分たちが上手く使った大事なところを封じて迎え撃った。ラツィオもWB、IH、FWのトライアングルからサイドの打開は可能だったが、PA内への効果的な侵入の部分の頻度は限られることに。
後半頭からはラツィオがハイプレスをかけてバイエルンの最終ラインに圧力をかけていく。ノイアーではなく、ニューベルが先発したこともあり、こうなるといつもよりは確かに覚束ない感じは出るバイエルン。だが、ラツィオが逸した決定機の直後にチュポ=モティングが2戦合計6点目の得点を決める老獪さは相変わらずである。
ラツィオも奮闘し、セットプレーから1点は返すもここが限界。普通にいいチームのように見えたのだが、バイエルン相手だと吹き飛ばされてしまう部分もあるので、もう少し他の組み合わせの対戦でも見たくなるチームだった。
試合結果
バイエルン 2-1 ラツィオ
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
BAY:33′(PK) レバンドフスキ, 73′ チュポ=モティング
LAZ:82′ パローロ
主審:イシュトバーン・コバチ
⑤アーセナル×オリンピアコス
■10人の脅威も亡霊もカウンターの精度もなし
1stレグは畳みかけるような得点でアウェイでのアドバンテージを得たアーセナル。この試合ではノースロンドンダービーを規律違反でスタメン落ちしていたオーバメヤンがスタメンに復帰。セバージョスのトップ下でのスタメンはもしかすると初めてかもしれない。対するオリンピアコスは3-4-3を採用。アーセナルとは噛み合わないフォーメーションでの一戦となった。
最低でも3得点が必要なオリンピアコスは立ち上がりからプレッシャーをかけていきたいところ。しかし、テンポが上がらない。まず、アーセナルの前線のプレッシャーのかけ方がうまかった。ワイドのCBからWBに誘導、そこを袋小路にして前進を許さないという、前からのプレスにコースを限定する意思を感じた。特にこれがうまかったのが意外にもペペだった。
亡霊のようになんとなく前に出ていった1stレグとは異なるプレッシングを見せるアーセナル。だが、アーセナルが前からのプレスを外されることが全くないわけではない。しかし、そういった1枚外せる状況でもオリンピアコスは前にボールを進める選択肢をとることは少なかった。エムビラは対角のパスを積極活用し、推進力を与えていたが、他の面々の消極的なプレー選択が目立つ。
また、仕上げも工夫がなくアーセナルにひたすらニアで跳ね返されるクロスを連発。前半の終盤に徐々にターンができるようになり、後半に圧力を強めて1点を返したのだが、ブーストは甘く見て後半頭の15分ほど。トーマスとウーデゴールが登場し、中盤に懐の深さが出てきてからはアーセナルにペースを奪われる。
そして肘うちからの抗議で退場者を出して万事休す。週末のリーグ戦では10人になってあわあわしたアーセナルだったが、この日はスタイル的にも実力的にも10人のオリンピアコスにに脅かされる展開ではなかった。
勝ち抜けたアーセナルで気がかりだったのはたびたびあったカウンターがかなりもたついたこと。ペペは攻撃においても好調だったが、この日はオーバメヤンがやや重たさを感じる出来。前ラウンド突破の功労者だが、この1戦では輝くことが出来ず。
チームの勢いとしても負けは避けたかったアーセナルだが、同じく無得点に終わった『お隣さん』が迎えた結末と比べれば、ひとまず勝ち抜けたことに胸をなでおろして次に目を向けるのが賢明かもしれない。
試合結果
アーセナル 0-1 オリンピアコス
アーセナル・スタジアム
【得点者】
OLM:51′ エル・アラビ
主審:デル・セーロ・グランデ
おしまいじゃ!!