このプレビューは対戦カードの過去の因縁やジンクスを掘り起こして、試合をより一層楽しむための物です。
Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第6節
2021.3.21
浦和レッズ(12位/1勝2分2敗/勝ち点5/得点3/失点6)
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川崎フロンターレ(1位/5勝1分0敗/勝ち点16/得点14/失点4)
@埼玉スタジアム2002
戦績
近年の対戦成績
直近5年の対戦で浦和の4勝、川崎の8勝、引き分けが2つ。
浦和ホームでの戦績
直近10試合で浦和の4勝、川崎の5勝、引き分けが1つ。
Head-to-head
<Head-to-head>
・川崎は浦和とのリーグ戦3連勝。
・埼スタでのリーグ戦は川崎が連勝中。
・直近6試合のリーグ戦のうち、5試合は勝利チームがクリーンシートを達成。
・直近12回のリーグでの対戦においてホームチームが勝ったのは3回だけ。
直近の成績は川崎が優勢。浦和とのリーグ戦は3連勝中で、仮に川崎が4連勝を達成すればこのカードの歴史上初めてのことになる。
直近2年間は埼スタでも川崎が連勝中。2年連続クリーンシートを達成している。川崎に限らず、浦和の勝利時も勝ったチームがクリーンシートを達成することが多いカードでもある。
外弁慶カードでもあり、直近12試合でホームの勝利は3勝のみ。2015年以降、埼スタで浦和が川崎相手に勝利したのは2018年の1回だけだ。
スカッド情報
【浦和レッズ】
・トーマス・デン、宇賀神友弥、西大伍、興梠慎三に欠場の可能性。
【川崎フロンターレ】
・大島僚太はふくらはぎの負傷で離脱中。
予想スタメン
Match facts
【浦和レッズ】
<浦和のMatch facts>
・直近14試合のリーグ戦で2勝。
・リーグ戦3試合連続無得点になれば2020年10月以来。
・今季ホームでは無敗。
・ホームでの2試合連続クリーンシートを達成すれば2020年7月以来のこと。
・阿部勇樹はここまで全試合先発出場中。
・西大伍はゴールかアシストを決めた川崎戦で5戦無敗。
大槻監督の退任が早々に決まり、リカルド・ロドリゲス新監督就任してからもリーグ戦の成績は好転しない。もちろん、新監督はスタイルから入るタイプであり、即結果が見込めるわけではないが、寂しい成績であるのは事実である。
特に成果が出ないのが得点。今季複数得点は1試合のみ。得点者は阿部勇樹と杉本健勇の2人だけ。3試合連続で無得点となればホームでの3連敗を喫した2020年10月以来となる。
ただ今季ここまで3試合のホームゲームは無敗。ここまでの得点もすべてホームで挙げたものである。失点も少なくここまでわずか1つ。ホームで2試合連続のクリーンシートになれば昨年7月以来となる。
新監督の就任に伴い、出場時間を飛躍的に伸ばしているのが阿部勇樹。昨年は102分、一昨年は593分の出場だったリーグ戦は今季は5節ですでに373分だ。
出場は難しいかもしれないが、西大伍はキャリアの中でゴールかアシストを決めた川崎戦は無敗。神戸と鹿島のユニフォームで川崎を苦しめた西は浦和になっても川崎が手を焼く選手になるだろうか。
【川崎フロンターレ】
<川崎のMatch facts>
・直近7試合のアウェイでのリーグ戦で2勝のみ。
・直近7試合のアウェイでのリーグ戦でクリーンシートはなし。
・関東でのアウェイでのリーグ戦は15試合連続無敗(W11,D4)
・複数得点がない試合が3試合続けば2019年6月以来。
・登里享平は直近10試合の出場した浦和戦において1敗のみ(W8,D1)
・脇坂泰斗が出場した浦和戦は3戦全勝。
前節は神戸にてこずったが、それに限らずアウェイでのリーグ戦の成績は振るわない。今季は夏の遠征祭りに備えてここまでホームでの開催が多く目立たないが、アウェイでの勝利は直近8試合で2勝。クリーンシートは9試合前の2020年10月の広島戦までさかのぼる。
ただし、関東アウェイはその限りではない。直近15戦無敗でさらに直近の11試合に限れば10勝を挙げている。だが、最後に関東アウェイで負けたのは2018年の埼スタだ。
直近の2試合はいずれも1点どまりで複数得点を逃している。複数得点なしが3試合続けば2年前の6月以来となる。ただ、4試合続いた2年前のこの時期はその間負けていなかったりする。
西と同じく登里もここまで今季出場はない。直近10試合の浦和戦で8勝と戦績がいいラッキーボーイの欠場が続くのは一抹の不安。左サイドのビルドアップを見てもそろそろ登里が恋しくなってきたころだ。
ラッキーボーイ要素でいえば脇坂泰斗は出場した浦和戦で全勝。本人としてはそろそろ数字が欲しいところで2019年にミドルを打ち抜いた再現を埼スタで狙いたいところだ。
展望
■日本のアーセナル…?
『アルテタのアーセナルにそっくりだな』というのが浦和を見た時の感想である。したがって、率直に頑張ってほしい気持ちになった。まぁ、日曜日は川崎が勝ち点をもらいますけども!!
というわけで本題。浦和のボール保持はCB-CHの4枚を基調とするいわゆるボックス型のビルドアップ。ショートパスで主体に彼ら4人で1stプレスラインを超えるのが大きな目的となる。CHは縦関係を形成し、低いポジション(主に阿部勇樹)の方は最終ラインに入りつつ段差を作り前進する。
ショートパスでの前進に対するこだわりは強めで、CFやトップ下など前方の選手の列落ちは許容されている。特に小泉がトップ下に入るときは積極的に落ちることによって数的優位を形成する。
プレスラインを越えた後はボールはサイドに渡る頻度が高い。サイドの崩しはハーフスペースと大外にそれぞれSHとSBを配置することでレーンを棲み分け。間受けと裏抜けを共に行う。特にこの関係が明確なのは左サイドで、汰木のドリブルや山中のクロスなどエリア内に入り込むべき武器がはっきりしており、それを活用する印象だ。
右サイドに入ることが多い明本はフィジカル的にJ1でもやっていけるが、SBとの連携はまだ未成熟。左に比べれば右のサイド攻撃は武器になっているとはいいがたい。
非保持のブロックは4-4-2が基調。おそらく高い位置からプレスに行きたいのだろうが、ある程度相手の前進を許すと2トップも含めてグッとラインを下げてローラインで対応する。
無理筋のプレスで最終ラインが一気に裏を取られることは比較的少ないが、前方のみがプレスに行くことで中盤が間延びすることはしばしばある。
簡単に言うとこんな感じなのが今の浦和なのだが、直近の札幌戦は例外。ビルドアップではショートパスをほぼ封印してロングキックで自陣を脱出する。右SHに関根と田中達也の2人を45分ずつ起用し、守備時はWB、攻撃時はWGの役割を課した。おそらくここに重心の高い札幌を打ち破る望みを託したのだろう。
ただし、これは選手、監督が『今日は割り切った』と試合後に述べていたように札幌の運動量を加味したうえでの緊急措置といっていいだろう。基本的には横浜FC戦までのスタイルが主体と考えるのが自然である。
■浦和が直面する3つの課題
上のように新スタイルに挑んでいる浦和だが、現状ではいくつか問題点があるように思う。
1. サイドに押し込まれた時の逆サイドへの脱出が少ない
浦和は攻撃の仕上げの前の段階でサイドを経由することが多い。この時、同サイドに追い込まれた際に、逆サイドまで脱出するための手段がない。したがって同サイドを切り崩すか、後方に下げて逆サイドに展開するかのどちらかを行うしかない。
より低い位置のビルドアップに関しても同様で、自陣PAのサイド付近に押し込まれた際には脱出が難しくなる。トップ下に小泉が入っている際には彼が降りることで助けることが出来るが、彼のスタートポジションがCHの際にははめ込まれてプレスを脱出するのがより難しくなる。
横浜FM戦では小泉へのパスを狙い撃ちしてショートカウンターに移行するなど、浦和の彼への依存度を利用された感があった。
2. プレッシャーをかけた時のボールコントロール
今の浦和はあくまで自陣からのショートパスが基調になっている。しかしながら、現状では強いプレッシャーにさらされるとボールコントロールが乱れやすい。速いテンポでのプレーではパスがズレたり、コントロールが流れたりなど。横浜FM戦ではうまくいかなかったビルドアップが、同じ試合の後半や横浜FC戦ではある程度落ち着いてできたのは相手のプレス強度が作り出すテンポの違いに起因することが多いように思う。
だからこそマンマーク主体でショートパスでの打開には個々のスキルで外すことが求められる札幌戦ではロングキック主体という割り切った手段に出たのだろう。現状では速いテンポ、強いプレッシャー下での正確なビルドアップはできていない。
もっともこれは今後、誰がどこにいるかを自動的に把握できるレベルまで連携が熟成すれば改善の余地はありそう。逆に言えば、今は受けてから次にどこに出すかを考えている節があり、認知の部分でプレーのテンポを上げるのが難しくなっているように思う。
3. 列落ちを許容するあまり、後ろが重くなる
得点が少ない一因だろう。トップ下やCFの列落ちを許容するあまり後ろが重たくなってしまうという状況である。アーセナルでもよくある話なのだが、ボックス型のビルドアップはなかなかにCHが最終局面に顔を出すのが難しい。
その上、SHはサイドで仕上げを担う頻度が高く、フィニッシャーにはなりにくい。したがって、CFはもちろんトップ下には得点力を求めたい。直近の浦和がトップ下に動き回りながらボールタッチをする小泉よりも、クロスに対してPAに張れる明本を起用するのはPA内の人数を確保したいからだろう。
もっとも根本的な解決策はトップ下の選手を落とさずにCH、CBでボールを運ぶことだ。それを実現するための手伝いになりそうなのはSB。山中はより高い位置での仕事を求められているように感じるので、求めたいのは逆サイド。簡単に言ってしまえば西大伍のフィットが飛躍的にビルドアップの質を高める可能性がある。
小泉や西のように低い位置で空いているポジションからボールを運んだり前に刺したりする選手が少しでも増えれば、列落ちなしでボールを運ぶことが出来るはずだ。
■理想を阻む要因
川崎がやるべきことは非常にクリアだと思う。上記に挙げた浦和の問題点を表出させるような戦い方が出来ればいいということである。
したがって、浦和が攻め込んできたときは全体をスライドさせてハーフスペースを埋め、同サイドに閉じ込めて浦和にやり直しを強いるべき。相手陣にはサイドに押し込むようにプレッシャーをかけてボール奪取する。サイドにいる際は思い切って圧縮し、ボールコントロールの狂いを誘発したい。
現状ではボールを運べるメンバーは決まっているので小泉を主体として運びどころを封じ浦和の前進を阻害するのもアリ。
川崎の保持の局面ではハイプレスからのショートカウンターを主な武器とし、浦和を一気に押し込んで序盤に心を折りたい。ゆっくり保持する場合は中盤を前線に引き出して、中盤を間延びさせ、ライン間で受ける選手に前を向かせることで浦和のDFラインと対峙したい。
札幌戦のように割り切ってもらえるならばより楽で、杉本へのロングボールを跳ね返しながら保持で押し込みながらサイド攻略に挑むことが出来る。少なくとも失点の心配は大きく減るように思う。川崎が押し込んだ相手に点を取れるかのミッションに挑むことになる。現状では分の悪い賭けではないのではないか。
もっともこれは川崎の『理想』である。開幕から続く連戦のせいで、ハイプレスで速いテンポに持ち込むのも、相手をつり出して目にもとまらぬスピードで連携を繰り出す頻度もだんだん陰りを見せている。未だ無得点の試合こそないが、得点数も決定機も徐々に少なくなってきている。
対するリカルド・ロドリゲスも札幌戦におけるロングボール主体の抜本的な手法の変更や、試合中の修正など現段階で哲学浸透を是が非でも押し倒すつもりはなく、現状の選手たちのスキルと折り合いを付けながら勝ち点を取るバランスを見出しているという印象だ。
連戦による疲れ、選手のフィット、そして日曜の埼玉スタジアムは雨予報だ。理想の戦いを具現化できればそれが最もいいのは間違いないが、現状と目指すスタイルの折り合いをうまくつけられるかが両チームにとってのこの試合の大きなテーマになりそうだ。
【参考】
transfermarkt(https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(https://soccer-db.net/)
Football LAB(http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(https://www.nikkansports.com/soccer/)