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「きっちり描いた成長曲線」~2024.5.19 プレミアリーグ 第38節 アーセナル×エバートン レビュー

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レビュー

サカ不在の右サイドの機能性は?

 昨年は37節で潰えた優勝への望みを今季は最終節まで繋ぐことができたアーセナル。エミレーツの観客はスマートフォンを片手にタイトル争いに向けて一喜一憂する権利を持ってホーム最終戦を迎えることとなった。

 立ち上がりからボールを持ったのはアーセナル。ベースとしては4-4-2であるエバートンだが、トップ下役のドゥクレがIHのライスに比較的引っ張られたポジションを取るため、バックラインへのプレッシャーは薄め。普段よりもドゥクレ、ゲイェ、オナナの3人の役割は均質的であり、1トップに残されたキャルバート=ルーウィンも基本的には中盤スタートのポジションをとっていた。

 そのため、アーセナルはバックラインが自由にボールを持てる分、エバートンの中盤からボールを引き出す必要がある。アーセナルのベースは3-2-5。冨安とライスがトーマスの相棒とIHのロールをシェアしながらポジションを入れ替えていたが、基本的な座組には変化がなかった。

 細かいポジションチェンジを行っていたのはむしろ敵陣に入ってから。攻め手となったのはサカのいない右サイド。マルティネッリとホワイトのどちらかが大外をとり、ここにウーデゴールとハヴァーツが絡んでくる4枚での崩しで攻撃を行っていく。

 ポジションチェンジは動き回ってフリーになることはもちろんのこと、タイミングをズラしてのラインブレイクという狙いがあった。エバートンは基本的に裏を抜ける選手に対してラインを下げて捕まえるアクションを優先していたため、アーセナルの選手の1人が裏を取るとエバートンの守備のラインは乱れる。ハヴァーツは特に左右に神出鬼没という感じなので守備側からすれば捕まえるのがとても難しかった選手であったはずだ。

 これにより、アーセナルはライン間への縦パスのスペースやあるいはラインが乱れたところへの動き直しからチャンスを作っていく。1人の選手が作った影響を他の選手が使うイメージである。

 狙い目となるのは右のハーフスペースの奥。大外の選手から斜めに入れ込むような形でウーデゴール、ハヴァーツ、マルティネッリなどが侵入。ここからGKとDFの間に入れるボールもしくはマイナスのボールを入れる。ハーフスペースの奥を取った時点で右で作って左で仕留めるというのは共通認識なのだろう。トロサールがボックス内に飛び込むのはもちろん、マイナス方向から冨安がミドルを狙えるポジションをとっているのも印象的だった。

 ただし、この日のアーセナルは右一辺倒ではない。ポケットを取るのが難しいと判断した場合はPAの外側を舐めるように逆サイドに迂回。トロサールや冨安との1on1を仕掛ける。もしくは、右のペナ角付近から対角のクロスをファーに入れて、折り返しかフィニッシュを狙っていく。

 右に入ったマルティネッリはそれなりに良いプレーを見せたと思う。クロスは少し鋭くて受け手が合わせるのがしんどそうではあった。だが、直近の左サイドではドリブルで敵陣に進んだ後に、切り返して右足に持ち替えてシュートのところの間合いを掴めずにいた感じがあった部分は克服されたように思う。この試合では右に起用された分、角度的にシュートは難しい場面は多いので、クロスなりラストパスなりの自分のプレーをきっちりやり切ることができていた。

 対面がヤングであることは考慮しなければいけないし、本来であれば左で切り返してシュートまでをやり切る方がいいのは確かだろう。それでも右の大外で起点になるというチームとしても求められていることには応えていたし、プレーをやり切ることに専念したことで無駄に悩むシーンが減ったように見えたのは個人的には悪いことではないのかなと思う。

 押し込むフェーズは完璧。揺さぶることもできている。だが、相手はエバートン。押し込まれてプレーすることに関しての場数が段違いである。ボックス内に侵入されてからが本番!と言わんばかりに、押し込むアーセナルのシュートを次々ブロックしていく。いいか悪いかは置いておいて、シュートを打たれること自体は慣れているので!という守備陣の余裕が見受けられた。

 前線にキャルバート=ルーウィンを1枚だけ残しただけではカウンターの成立は難しそうなエバートン。左右に流れながら奮闘していたキャルバート=ルーウィンだが、流石にサリバとガブリエウ相手であると分が悪いという感じではあった。

 それよりもクリティカルに効いていそうだったのは左サイドのキャリー。マクニールの自陣からのロングスプリントのドリブルやオナナの配球などからチャンスを作る場面はちらほら。アーセナルはトーマスがトランジッションで後手を踏む場面を見せてしまったこともあり、少しずつやりきられる場面が増えてくるようになった。

 すると、エバートンはセットプレーから先制点をゲット。マクニールのドリブルからトーマスがファウルを犯してしまうと、壁に当たった幸運な跳ね返りはそのままネットにすっぽり。アーセナルは失点を喫することに。

 自軍が非保持に回ったときはプレスは控えめだったアーセナルだが、失点したことで敵陣でのプレスの強度を引き上げることにしたようだった。さらに押し込むフェーズを作るアーセナルは再三見せた右サイドの突破から同点ゴールをゲット。ハーフスペースの裏をとったウーデゴールから折り返しを冨安が仕留めて同点に追いつく。

 同じタイミングで2点リードのシティが1点差に追い上げられたという速報が入り、エミレーツのスタジアムのボルテージはこの日一番上がることとなった。しかしながら、これ以上スコアを動かすことができなかったアーセナル。試合はタイスコアでハーフタイムを迎える。

2-3-5で求められるバックスのスキルは?

 迎えた後半、アーセナルのプレッシングは再び落ち着いたスタンスに回帰。試合を無理に動かすハイプレスは一旦棚上げし、前半の頭のような強度に戻る。どちらかといえば、思い切りよく攻めることを意識していたのはエバートンの方で、彼らのアップテンポな形に付き合うアーセナルがオープン合戦に乗っかるというイメージで対抗していく。

 後半に前半以上に目立ったのは右の大外のマルティネッリ。流動的だった前半に比べると、後半は右の大外でマルティネッリが固定される場面を多く見た気がする。

 マルティネッリはカットインからの左足を使うトライもしていたが、縦に速く進むところでは少しクロスが受け手にとって雑になってしまう部分も見受けられた。前半の繰り返しになるが、本格的に運用できるかどうか(言い換えればこのポジションの補強の優先度を下げられるかどうか)は微妙なところと言えるだろう。

 押し込むフェーズが続きながら決めきれないアーセナルは負傷でガブリエウが下がった交代に加えて、ティンバーとスミス・ロウという意外な控え選手を活用。これにより、保持時のユニットは2-3-5という形になる。

 これは本当に想像でしかないが、おそらくアルテタが開幕から見据えていた形はこれなのだろう。左右のSBがインサイドもアウトサイドでもプレーできる。外だけでも内側だけでもダメ。これならアンカーに入っているライスも後方の陣形次第では突撃することができる。ティンバー、冨安は多分このシステムでのSBはいけるだろうし、ホワイトも多分なんとかなりそう。ジンチェンコだとフィルター機能が微妙だが、保持は成り立ちそうという感じである。

 実際にワイドからカウンターを喰らうとかなり一気に押し下げられるのでCBにはカウンター対応時に上下左右を動かされてもなんとかなる広い守備範囲が必要。インバートするSBがCB並みのストッパー性能を持っているとなおいい。だからジンチェンコよりもティンバー、冨安、ホワイトの方が向いてそうかなと思う。

 この試合では少し前半でオフザボールの動きがピークアウトしてしまった感があったため、仕組み的に左右の崩しの枚数を増やしましょうという発想が根底にあったと予想する。構造的により多くの枚数での崩しをしやすくするためのフォーメーション変更と予想する。

 アーセナルにとってありがたかったのはCFのキャルバート=ルーウィンが下がってくれたこと。正直、シェルミティと比較するとカウンターで起点になる能力は数段違う。冨安とサリバであれば明らかになんとかすることができるマッチアップであった。ライスの85分のカウンター対応も見事。コントロールが大きくなった瞬間を狙い、一気に距離を積める殺法をものすごい速さでやっていた。

 エバートンに前線の起点がなくなったことでアーセナルは高い位置でのプレータイムを増やしていく。アーセナルは終盤戦に殴り続ける展開を迎えることに。決勝点が決まったのは89分。オナナの苦しいバックパスからヤングが中央に放ったパスをジェズスがカットすると、ここからのカウンターでハヴァーツがウーデゴールのラストパスを仕留めてみせた。

 苦しみながらも追加タイム直前に決勝ゴールを決めたアーセナル。優勝は叶わなかったが、最後までアーセナルはシティにプレッシャーをかける形でシーズンの幕を閉じた。

あとがき

 いやー、悔しい。ただ、ここで優勝してもできなくても来季やることは変わらないように思えるのでそこは迷わず進んでいってほしい。昨季終わりにまだまだ強くなれると思えたチームがまずは1年間きっちりと成長曲線を描くことができたことは褒め称えたい。

試合結果

2024.5.19
プレミアリーグ 第38節
アーセナル 2-1 エバートン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:43′ 冨安健洋, 89′ ハヴァーツ
EVE:40′ ゲイェ
主審:マイケル・オリバー

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