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「蹴れますか?止められますか?という問いかけ」~2018.9.22 J1 第27節 川崎フロンターレ×名古屋グランパス レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【まえがき】
トメルケールダービーなの?

 この試合を観戦するにあたり、プレビュー的な物は一切目にしなかったのだが、トメルケール教の新旧対決だ!みたいな煽りがたくさんあったらしい。個人的にはあんまりしっくりこなかった。みんな「どっちも風間ルーツ」くらいの感じで使っているんだろうし、「トメルケール」より外して受けるほうが!とかトメルケールは議論の的になりやすいワード。別にこのワードの定義を語りたいわけではないけど、自分の中でトメルケールを説明するとしたら「次の動作に移りやすいようにボールをコントロールして、次の人にボールを渡したときに、ボールを受ける前より状況が好転させること。およびその技術」とかそんな感じ。

 別に「トメルケールを制する者はサッカーを制す!」ではないので、そこに特化したスカッドの川崎はともかく、名古屋はそれでいいのかなっていうのは試合前からほんのり思っていたところ。

【前半】
前で時間が欲しい名古屋

 風間八宏、初の等々力凱旋というわけでやたら注目度が高い試合となってしまった感。システムは紙の上では噛み合うような形でのやりあいでゲームは始まった。

 恥ずかしながら、快進撃を始めてからの名古屋の試合はあまり多くは見ていない。今節同様シャビエル不在の長崎戦だけ付け焼刃で軽く復習をした。
なんとなく名古屋について感じたのは、そこはかとないミシャ式風味だった。中盤の空洞化+前線への楔がキーパスになる部分は結構そっくりだなと思った。枚数のかけ方は違うけど、エッセンスの部分における話。最終ラインで人数をかけたパス交換をし、フリーでボールを持った選手(ネットか丸山なことが多い)を作り出し、そこからキーパスを入れるというのが名古屋のビルドアップのメインだったように見えた。

 この試合に話を戻せば、11分30秒にオフサイドになるまでの一連の流れは名古屋がこの試合でやりたかった形の一つではないか。ネットから楔が入りジョー、玉田、前田の連携から全体の陣形を押し上げる形。

  というわけで川崎にとっては縦パスを入れられないことがまず重要である。川崎がプレスで前線にかけるプレスは4枚。中村と小林がプレス隊となり2人がスイッチを入れて、SHやボランチと連携してボールを奪う。とりあえずは縦パスが出ても、防波堤があればいいという考え方で入った形。

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 とりあえず縦パスは遮断。この陣形のいいところはショートカウンターで人数がそろうところ。実際に大島と下田のところでインターセプトできたのは開始3分でそれぞれ1回ずつあった。川崎の理想的なボール奪取と言っていいだろう。

 名古屋の防波堤対策としては、防波堤の部分に前線から降りてきて人を増やすこと。この役割のメインは玉田だった。川崎からしてみれば怖いのは、サイドで数的優位を作られて突破されて、中央でジョーに合わせられる形だ。例えば下の図のような。

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 楔が入って中央の高い位置でボールキープ。和泉でエウシーニョを引き寄せて、金井で大外を狙う。エウシーニョは2択を迫られるし、奈良は中央にいるジョーを捨てにくい。とか。

 この日の川崎がよかったのは、相手の楔が入ったときに時間を与えなかった部分。特に大島と下田のプレスバックでの挟みこみの早さは素晴らしかった。この試合の名古屋はビルドアップにおいてのSBの位置がそこまで高くないので、金井にせよ、宮原にせよ最終局面にかかわるためにはやや時間がかかる。名古屋としては高い位置でボールをキープしたいところ。ジョーに高い位置でボールが入れば一発なのだが、そこのコースは川崎がうまくケアしていた。中盤に降りてきてもいいのだが、2人に囲まれる形になるので、さすがのジョーも厳しいところ。

 したがって、名古屋がサイドバックが上がる時間を稼げたのは、前線で連続してボールがつながり時間が作れたパターンが多かった。ただし、このパターンも楔の受け手には、川崎のボランチが厳しく寄せているため、名古屋の前線は素早く「トメルケール」ことが求められる格好だ。それがうまくいけばサイドの高い位置でフリーでうけられる。上に挙げた11分30秒のシーンもその一例だ。

 しかし、名古屋はこういった狭いところでのパス交換においては連携面でも技術面でもやや物足りなかった。
川崎がうまくいかない試合でもこういった感覚に陥ることはよくある。狭いスペースに厳しい寄せ。川崎はチームの設計上、トメルケールをやるしかないのだが、そういう試合は「おまえら、トメルケールできるの?」と問いかけられているような気分になる。トメルケールをやる側が厄介なのは、トメルケールができないチームでも、トメルケールができるかどうか問いかけれるチームはたくさんあるということだ。自分たちのコンディションが相手の「問いかけ」を上回れなければ、この日の名古屋のようになることは川崎サポは身に染みてよくわかっていることだと思う。

 名古屋からしてみれば、この日は川崎の厳しいチェックが「トメルケールできますか?」と問いかけているようだったのではないか。そしてそれに十分にこたえられなかったため、限られたチャンスしか創出できなかったということだろう。ジョーや玉田や前田はそれでもなお質の高さを見せていた。コンディションは良い状態なのだろう。

 何回あったトメルケール成功の末に宮原がサイドで浮いた状況。この時、ジョーはファーに流れて、エウシーニョとマッチアップする形を頻繁に作っていたので、ここで合わせられたら川崎的には嫌だった。あまりやってこなかったけど。

【前半】-(2)
選択肢の数の差

 もう1つ、名古屋に懸念があるとすれば、後ろの出し手がある程度決まっていることだ。ネットと丸山がメインの出し手だが、この日の川崎の狙いはネットだった。札幌戦に続き、今日もプレスのスイッチ役として機能していた中村憲剛を筆頭にネットには厳しくチェックをかけていた。気持ちよくプレーさせたときの怖さを知っている故だろう。ネットが序盤に発揮した存在感は徐々に失われていった。

 「トメルケール」ばっかりやっている川崎の強みとしては、パスが出せる選手と間で受けれる選手にバリエーションがあることだ。さらに、この日の名古屋のボールホルダーへのチェックはそこまで厳しくなく、数的優位な最終ラインからスムーズに川崎のボランチへのゲームメイクを許していた。パスを交換しながら、空いているところを探っては狙うという形を繰り返せばいい。中村や同サイドのボランチが流れることで、数的優位はうまく作れていた。先ほどの表現を使えば、名古屋は川崎への「トメルケールできますか?」という問いかけを軽くいなされてしまった格好だ。

 特に異能だったのは家長。間でボールを受けて相手を引き寄せてからパスやドリブルで打開。というパターンがとても多く見られた。間受けへの対応で出てきた名古屋のDFを剥がし、相手の陣形を崩す形がとても効いていた。悪い日の家長なら流れを停滞させる日もあるのだが、この日の彼は一味違った。

 その家長が大外から斜めに走りこむ形から先制点は生まれた。和泉には難しい対応になっただろう。家長の走り込みを見逃さなかった大島の視野は素晴らしかった。

 2点目のゴールは阿部がボールを持った時点で複数の選択肢があったのが大きい。中央では中村も下田もフリーだし、小林裕紀からしたら対応を迷う場面だったのだろう。もちろんミドルは素晴らしい。阿部はこの試合ではボール保持時にサイドに流れるよりも、中央でボールを待つ場面が普段よりも多かった。試合前に入念にミドルシュートの練習もしており、しっかり準備した形といえるかもしれない。後半にポストを直撃したシュートも、コンパクトな振りでシュートをかっ飛ばしていて驚いた。

 前半はそのまま川崎ペースで終了した。

【後半】
さすがの両エース

 後半の頭、選手を入れ替えたのは名古屋。和泉→青木の交代は、外しや受ける部分で苦しんでいたチームにおいて、運ぶ役割をもたらせる選手を入れたいというメッセージか。前田はいるけど、あんまり下がらせたくない!みたいな。下田のCKからの48分の流れとかは青木投入の狙いは出ていた。質は伴わなかったけども。

 青木投入の意図は見えても決定機にはつながらず、試合の流れとしては家長が引き続き全能の力を発揮し続ける川崎が主導権。この時点で3点目を決めるだけだ!って思ってた川崎サポもちらほらいたのではないか。

 しかし、そこは快進撃を続けるチームだ。個人の質はとても高い。ジョーのすごいところはPAを離れても重要な貢献ができる点だ。ポドルスキを見ていても思うが、欧州の一線級の選手は自分のカラーとは違う仕事の平均点が高いなと。絶妙に軸をずらす位置で受けた金井と、金井の貢献で空いたスペースを利用した前田も素晴らしい。前田がゴール前で怖さを見せているからこそ、ジョーが低い位置で受けるケースを有効につかえるのだろう。

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 逆に試合を通じてジョー相手に踏ん張っていた奈良はわずかに対応が遅れてしまった。試合後のインタビューで本人が語るように、悔しさが残る場面となってしまった。

 というわけで一気呵成の攻撃をかけたい名古屋。直後の前田のシュートが決まっていれば、試合は激流になったはずだった。シュートをストップしたソンリョンはこの試合の影のMVPだ。
今日の川崎が大人だったのはハイペースを仕掛けたい名古屋に付き合わなかったこと。ボランチコンビがボールを落ち着けるのに貢献していたし、前プレ隊の中村と小林も慌ててボールを奪い返しに行くようなそぶりは見せなかった。

 ボールを落ち着けたところで3点目が入った。下田と中村でサイドを攻略、谷口のヘッドで下がったラインを利用。正直に言えば、風間時代の川崎にとっても既視感がある、下がったラインの使われ方による失点だったので、ほんのり懐かしくなった。

 それにしても結果的にはゴールを決めてしまうのだから、小林悠は大したものだ。関係ないけど、決定機外した後の小林悠の表情が一昔前と違うなって思った。変な悲壮感がなくて、悔しがりながらも次のゴールを狙うことにフォーカスできているというか。続ければまたチャンスは来るという自信があるんだろう。自らが外しまくって負けた浦和戦での試合後コメントでのふてぶてしさはあっぱれだと思う。

浦和vs川崎Fの試合結果・データ(明治安田生命J1リーグ:2018年8月1日):Jリーグ.jpJリーグの試合日程と結果一覧。試合日には速報もご利用いただけます。www.jleague.jp

 いずれにせよ、この選手のすごいところはなんだかんだ外すといわれている日でも、なんだかんだ決めてしまうことのほうが多いことだ。自分の日に決められずに終わってしまうストライカーはたくさんいる。決定機を逸していることで頼りなく見るサポーターはいるかもしれないが、個人的には今季の小林はよりたくましさを増している印象だ。

【後半】-(2)
万能な交代カード

 今季たくましさを増しているといえば思いつく選手がもう1人。2枚目の交代カードとして投入された登里だ。
川崎の今季は守田の台頭や絶好調の中村憲剛に彩られている部分が多いが、登里の進境も著しいことは付け加えておきたいところだ。

 従来の突破力を発揮するのはもちろんのこと、秀逸なのはボールを受けるポジショニングや空いたスペースを埋める力がとても向上していること。数年前までは登里はむしろ、ポジショニングに難があるタイプの選手に見えた。それが今は涼しい顔をして、あいている内側のレーンを使ったり、自由に動く家長やエウシーニョのフォローをしている。川崎においては突出した技術を持つ選手ではないが、必要な時に必要なところに顔を出せる万能な選手に成長した印象をうける。
奈良の復帰がもたらしたポジティブな副作用は、こういった万能な選手をベンチにおいて必要な時に投入できることだ。

まとめ

 シャビエルの代役選びに苦心しているのがよくわかる名古屋だった。前節の児玉も今節の和泉や青木も説得力がある答えを出せたのかは微妙なところだ。シャビエルがいればもう少し川崎の守備を慌てさせる部分が増えた可能性は大いにある。

 ジョーを抑えたバックスやプレスのスイッチ役として機能した中村や小林は素晴らしかった。家長や阿部については言うまでもないだろう。しかし、この試合で名古屋の攻撃を機能不全に追い込んだのは献身的なプレスバックと深追いを使い分け続けた大島と下田のボランチコンビによるところが大きい。ほぼフルタイムを通じて中央をケアし続けた彼らは、黒子として立派な役目を果たしたといえる。

 トメルケールが試合を分けたのかは戦前の予想通り難しいところだ。この試合でどちらがトメルケールできていたのかといえば、それは川崎だろう。そして試合も川崎が制している。じゃあ、名古屋が「川崎を上回るくらいトメルケールやろうぜ!」っていう必要があるのかどうか。前線のタレントのカラーが幅広い名古屋がこの路線を突き詰める必要があるのかはとても悩ましいところ。トメルケールができない中でも、要所で怖さは見せていけた。

 個人的には、この試合で両チームの差を分けたのはトメルケールの質よりも「止めさせない、蹴らせない」を90分徹底できた部分に感じた。川崎が名古屋に「おまえら、トメルケールできるの?」と問い続けたように、名古屋も川崎に問いかけを投げかけることができていたら、この試合の結果は違うものになっていたかもしれない。トメルケールに軸足を置きつつ、しんどい時は相手の嫌なことをやらせないチームという万能型にシフトしていったほうが怖さが出そうだと感じた90分だった。

試合結果
2018/9/22
J1 第27節
川崎フロンターレ3-1名古屋グランパス
【得点者】
川崎:OG(20分)、阿部(34分)、小林(63分)
名古屋:前田(59分)
等々力陸上競技場
主審:廣瀬格

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