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「対策の隙間から見えた課題」~2021.2.14 プレミアリーグ 第24節 アーセナル×リーズ レビュー

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目次

レビュー

強みでもあり弱みでもある

 今季の昇格組の中で最も高い順位にいるのが今節の相手であるリーズ。ビエルサのプレミア参戦や開幕節のリバプールとの派手な撃ち合いなど順位だけでなく話題性も今季のプレミアの中ではピカイチのチームである。

 彼らのサッカーの特徴は攻守にアグレッシブ。攻撃はショートパスをつなぎながら、縦へのダイナミックさを重視。1本でも多くのシュートを目指していくスタイルだ。守備はマンマークの成分が多め。相手が4バックで1トップのようなこの日のアーセナルのような陣形ならば、CFのバンフォードが相手のCB2枚を監視し、CB2枚で相手のCFを監視する。ほかのポジションはマンマークをベースにあまりにも動かされてしまったら受け渡すというイメージだ。

 そして彼らの特徴はもう1つ。これらの攻守の方針をどんな相手でもどんな展開でも貫くことである。これがビエルサのリーズの最大の特徴といってもいいくらいだ。この特徴は彼らの強みでもあるし、弱みでもある。弱みと述べたのは対策が立てやすいからである。

 アーセナルのこの日のやり方はリーズ仕様に対策されたものだった。プレッシングはオーバメヤンとサカが2トップのような形で左右のCBにプレッシャーをかけに行く。サカはSBとCBの中間ポジションのような形から外切りでプレスをかけていく。逆サイドのスミス=ロウのプレスは自重地味で控える形をとる。。

 トップ下のウーデゴールはアンカーのストライカーを監視、後方のCH2人も相手のインサイドハーフにマンマークに近い形でついていく。立ち上がりからアーセナルはリーズの中盤へのパスを立て続けにカット。ジャカのフィジカルの強さが光る立ち上がりだった。

 まとめると中央はマンマーク、サイドは中間ポジションで左右非対称な守り方だった。このあたりの狙いについては後述する。

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 前線のメンバー起用もリーズ仕様の人選だったように思う。トップに起用されたオーバメヤンは左サイドに流れる頻度が高かった。おそらくこれは動き回るスミス=ロウについていくシャックルトンの空けたスペースを狙ったものだろう。マンマーク色の強いリーズのやり方を利用したサイドへの流れ。中央に居座るよりも左右に流れた形ならばラカゼットよりもオーバメヤンということでのCF先発起用なのだと思う。

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 サイドに流れるCFが許容できたのはその分中央の受け手のタスクをこなす選手がいたから。トップ下に起用されたウーデゴールは体を張って背負いながらボールを受ける役割を果たしたことでオーバメヤンのCF起用時にアーセナルファンが感じるラカゼットへの恋しさが軽減される。

 この日、攻撃の局面で起点の役割を果たしていたのはダビド・ルイスだ。マンマークながらCBが1人余らせているリーズに対してズレを作るには、余ったCBが持ち上がるのが一番である。いつも以上に積極的な持ち上がりと攻め上がりを見せたルイスを食い止めるのにリーズの守備陣は苦労していた。

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■対策の効果、バッチリ!

 アーセナルが前半に取った3得点にはそれぞれにリーズの対策の成果が表れている。1点目はCBの持ち上がりから。この場面では持ち上がったのはルイスではなくマガリャンイス。彼が持ち上がることで浮いたジャカがスミス=ロウの落としを受けてフリーになる。先制得点をアシストしたのはこのジャカから。彼からパスを受けたオーバメヤンが一気にフィニッシュまで持って行った。

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 この得点のシーンで見られたスミス=ロウとジャカの関係はこの試合の頻出パターン。先程図示したルイスの持ち上がり(16分のシーン)も同様の構造。前線の選手が背負い、CBの持ち上がりによってフリーになった中盤の選手が前を向いてボールを持つというやり方である。

 2得点目で見られたのはアーセナルの左右対称のプレッシングである。アーセナルが狙い撃ちにしたのはリーズの左サイドの方向へのビルドアップ。先述の通り、こちらのサイドは非常に積極的に高い位置を取る選手にプレッシャーをかけていく。理由はメスリエのビルドアップの際の左足の使用頻度の多さ。おそらく右足はまだ自信がないのだろう。そのため左足を使った左サイドに向けたフィードに絞ってアーセナルはプレスしていた。

 PKを奪取したシーンでもそうなのだが、サカがプレスをかけた方向をとがめられてしまうと、逆足に消極的なメスリエには選択肢がなくなってしまう。慌てたメスリエのミスといえばそれまでだが、これもアーセナルの対策の賜物だろう。

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 3得点目はリーズのマンマークの特性を利用したものである。この日、最も対面の相手を振り回していたのはおそらくサカ。背負って受けてドリブルで外すまでを1人でやってしまっていた。対面のアリオスキにはハードな相手で、PK奪取しかけたがOFRを経て取り消されたシーンも彼がアリオスキを振り切った後のものだった。

 3得点目は右サイドでボールを持ったサカが左サイドに流れるように横断。アリオスキを連れた横移動をこなすことで、アーセナルの左サイドから上がったクロスにリーズは人が足りなくなってしまった。

■前半に潜む課題

 このようにアーセナルが得た3得点はいずれもリーズの特徴を生かしたところから生まれていることがわかる。では、前半のアーセナルは完璧だったのかといわれると答えはNoである。むしろ、アーセナルが抱える課題もこの得点シーンで垣間見えたといえる。

 例えば1得点目。この日のアーセナルの攻めのズレにスミス=ロウについていくシャックルトンの動きが使われたのは間違いない。そして流れたスペースにオーバメヤンが入り込むことでCBのエイリングをつり出す意識を持っていたことも確かだろう。

 では、サイドにオーバメヤンが流れるとなるとフィニッシャーはだれが務めるのか?オーバメヤンのWGが機能していたのは彼が内側に入る仕組みが設計されていたからこそである。CFをサイドに流してもフィニッシャーが内側にいればいいのだが、この日のアーセナルはどうもそういう感じではない。カットインしたオーバメヤンの高いシュート技術によって先制点はもたらされたが、この場面では2人のマークを引き受けながらシュートを打っている。この状況から点を決めることは容易ではないはず。

 つまり、オーバメヤンがサイドに流れてCBを引き出したスペースを使うフィニッシャーがこの日のアーセナルには見当たらなかったということである。この日のリーズ対策が完ぺきとは言えなかったのはまさしくこの仕上げの部分のふわっと感が残っていたからだ。

 3点目でも課題は見て取れる。サカの横断で左サイドでパスを受けたオーバメヤンは逆サイドにクロスを上げる。先述の通り、サカがアリオスキを引き連れていることもあり、アーセナルの右サイドは人が余っていた。だが、このクロスをベジェリンは折り返す。そうして再度密集に突入し、この密集を解決することで得点を得た。

 素晴らしい得点なのは前提だが、より強い相手と対峙した際はファーに正確なクロスを送った時点で仕留めなくてはならないと思う。確かにこのシーンに限ればベジェリン個人の判断に過ぎないかもしれないが、今のアーセナルにはファーのクロスに合わせられるサイドの選手が少ない。特にこれはストライカーをサイドに起用することが多い左のWGに比べて右のWGに顕著。

 ニアを封じるのが当たり前で、ファーの余った選手にクロスを送れることが希少価値が高い能力とされているのが現代のフットボール。アーセナルにもサカやティアニー、ペペなどクロスの名手はいる。ファーへのクロスをどう仕留めるかのパターンは持っておきたいところである。

■現実策に走る理由

 どんな状況でもどんな相手でも愚直にやるというのが裏目に出たのが前半ならば、そんな部分が強みとしてあらわれたのが後半のリーズといえる。3点差だろうと変わらずにチームのやるべきことをやり続ける姿勢からはビエルサのメソッドの浸透具合がうかがえる。

 さらに後半に上積みになったのは途中交代で入ったエウデル・コスタ。まさしく前半のサカのように右サイドからのドライブで内に切り込みながら逆サイドに展開することでアーセナルの守備を左サイドから攻めるお膳立てをした。

 余談だけど、最近はこういう動きをした選手がそのまま逆サイドにとどまりオーバーロードに加担する動きをよく見かける。例えばスターリングとかアダマ・トラオレとか。最近自分がそこを意識してみるようになっただけなのかな。

 セットプレーから1点を返したリーズは後半にさらにもう1点を追加。2失点目のシーンは少し不思議な感じ。ベジェリンがもう少し内側の立ち位置を取ればロバーツへの縦パスは防げるかもしれないが、シャックルトンへのマーカーがいないためどちらにせよ前進はされていたように思う。

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 コスタがいる分、足りなくなってしまったのだろうか。いつの間にかオーバーロードになってしまっていた感であり、それに対応できなかった状態である。

 アーセナルが後半早々に4点目を取っていたこと、そしてリーズが後半早々に交代枠を使い切っていたことで終盤に勝ち点を脅かされる状況にはならなかったが、リーズのペースに飲み込まれかけたのも間違いない。90分間継続してペースを握ることが難しいアーセナルにとっては後半はもう少しテンポを下げながらプレーしたかったところである。

 こういった柔軟性の少なさはアーセナルの課題になるだろう。準備されたプランを遂行することはできる、選手交代に伴った配置変更にも対応はできる。ただ、10分や15分区切りの試合の展開に合わせたピッチ内での調整があまり得意ではない。若い選手の方がこういう柔軟性は備えているように思う。サカとかウーデゴールとかスミス=ロウとか。そんなことを前半と同じテンポで前にフィードを飛ばすダビド・ルイスを見て思った。

 アーセナルはリーズではないので、やり方を変えていく必要がある。でもそれができるほど柔軟ではない。リードしているときのアルテタの交代策が非常に手堅いのもこういうスタイルが影響しているのではないかなと思った。

あとがき

■山場、スタート

 気づけば課題ばかり書いたのですごくダメだった試合っぽくなっているのだが、リーズを倒すための準備を監督がしっかりと行い、その準備を選手が実行したとてもいい試合だった。アーセナルがいい試合はプレッシングが素晴らしい。ジャカは地味だけどこういう部分でチームを支えている。

 ここからは30節までハードな相手が続く。6試合中トップ5以上のチームとの試合が4つ。残る2つもターフ・ムーアにノースロンドンダービーとタフだ。逆に31節以降はボトムハーフとの試合が6試合。30節終了時点での順位がリーグからの欧州カップ戦出場が狙えるかどうかの大きな判断材料になるといっていいだろう。ごまかしが効かない相手が続く1カ月半のリーグ戦を欧州カップとどう並行して臨むか。間違いなくここが山場である。

試合結果
2021.2.14
プレミアリーグ
第24節
アーセナル 4–2 リーズ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:13‘ 41′(PK) 47′ オーバメヤン, 45′ ベジェリンLEE:58’ ストライク, 69‘ コスタ
主審: スチュアート・アットウィル

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