決勝点は塹壕戦の壁を築く前に切り拓く
ここまで全勝。誰もが納得の強さでファイナルまで進んできたスペイン。史上最多の4回目の優勝を目指す彼らに立ちはだかるのは2大会連続で決勝まで辿り着いたイングランド。やいのやいの言われながら悲願の初優勝に手をかけているサウスゲートのチームが立ちはだかる。
構図はすんなり決まった。スペインがボールを持ち、イングランドが受ける。ほぼ駆け引きなしでこのフェーズに辿り着いた感があった。イングランドの色が出たとすれば、フォーデンをがっちりロドリにつけたというところだろう。そこも含めて最もオーソドックスなスペイン対策でスタートしたと言っていい。
スペインはズレを作るところ探しを始める。初手は左WGのニコ・ウィリアムスを活用。1枚剥がしてインサイドに入り込む場面を作るが、ライスやストーンズの素早いカバーリングが光り、なかなかこじ開け切ることができない。
受ける前の段階でズレを作ることができればウィリアムスは勝負ができるが、ウォーカーと正対すると置き去りにするのは難しい。ここまでスペインの大きな武器になっていたWGの質的優位を消し去ってしまうあたりはさすがである。
さらには逆サイドでも大外ではヤマルにショウが対応。完全にヤマルの大会になりつつある空気なのだが、それと逆行するかのようにストッパーとしての役割を果たした。
スペインは移動を織り交ぜることで少しずつ対応をしていく。ファビアンが引いてできたスペースにヤマルが絞ってきたり、オルモが逆サイドに顔を出したりなど、ここまでの試合で見せた顔を使いながら瞬間的にフリーの選手を作っていく。
イングランドの選手の対応は見事で瞬間的にできたスペインの構造的なギャップを後追いできっちり消し切って見せていた。この辺りの非保持でのトラブル対処はイングランド代表の面々がかなりしなやかに対応しているなという印象だ。
イングランドが保持に回った際にはまずはサカのマッチアップを狙うスタート。こちらもククレジャとのマッチアップはボールを受ける体勢が重要。サカからすれば正対することができればククレジャ相手に十分な駆け引きはできる状態であった。
ウォーカーのオーバーラップなどのサポートもあり、サイドから深さを作ることはできていたイングランド。しかしながら、グラウンダーでボックス内に折り返されるクロスはDF陣に先回りされていたし、マイナスでバイタルから狙う形はロドリが爆速の押し上げですべてシュートブロックに入るという大立ち回りを見せて無効化されていた。
ケインがカードをもらってからは前線でベリンガムがロングボールのターゲットとして暗躍して深さを作る。だが、この形もイングランドの攻撃の軸とはなりきれず散発的な攻撃が続くことに。試合はお互いにチャンスが作れない堅い展開のままハーフタイムを迎える。
迎えた後半、スペインにアクシデントが発生。ロドリの負傷でハーフタイムからスビメンディが投入されることに。これでフォーメーションはファビアンを下ろした4-2-3-1にシフトすることとなる。
ロドリの不在により困ったのはスペインよりもイングランドだった。ベースの陣形は変わってしまったし、キーマンはいなくなってしまったけども、中盤はマンツー気味に捕まえるという前提は4-2-3-1のままでも継続するべきか否か。
イングランドの前線の守備基準が曖昧になっているうちに、つけ込んだのはカルバハル。対面のベリンガムの背後を取ると、絞るヤマルにボールを届けることに成功。前半からヤマルが絞るケースはあったが、ここまで綺麗にライスの背中を取るケースはおそらく初めてだろう。中盤に穴を空けたヤマルはそのまま逆サイドに展開。ガラ空きになった左からニコ・ウィリアムスがゴールを仕留めて先行する。
イングランドはこのゴールを受けて前に出るプレスでいく腹を括ることができたようであった。バックスにプレスをかけてウナイ・シモンが危ういキックを蹴らなければいけない状況を作り出していく。その分、イングランドは中盤の背後が空くので、このスペースをスペインのIHやWGに使われる場面が多く見られていた。
それでも前プレ起動の甲斐があって敵陣に押し込む機会を作ったイングランド。バイタルエリアで金棒を振り回しているロドリはいなくなったので、こうなると前半よりは有望な攻撃が見えてくるイングランドであった。
その流れに乗るようにイングランドは右の大外のサカを起点にした攻撃で追いついて見せる。パルマーのフィニッシュもさることながら、サカにダブルチームに来ていたスペインに対して、間を通すベリンガムルートを開通させた攻略は見事。下のツイートで言うところの①の打開策を見事に実践して見せた。個人的には「あ、これこないだ習ったやつだわ」って思いました。
イングランドは同点になるとサカをWBに下げる5-3-2にシフトする。サカは得点以降もイケイケで仕掛けられそうだったので、流れに乗らないんかい!とも思ったが、スペイン相手にハイプレスは絶対にやらなきゃダメな時以外は使いたくないという気持ちはわからなくはない。現に中盤の背後は使われていたし。
しかしながら、イングランドは保持においてはサカが前に出ていく手筈だったので5-3-2を敷くにはフォーメーションを変えるための時間を稼ぐ必要がある。可変のための時間稼ぎができなかったのがオヤルサバルの決勝ゴールの場面である。スローインからの素早いリスタートでファビアン→オルモと縦パスをテンポよく繋がれてしまえば、サカが戻る時間を稼ぐことはできない。パルマー、ライスはそれぞれ対面の選手を捕まえるのが遅れてしまった印象だ。
オヤルサバルの外へのパスはタイミング的に早く、かつパススピードは遅いかなと思ったが、ククレジャが質とタイミングがドンピシャなダイレクトクロスで帳消しにした。イングランドの陣形を築くスピードを上回る決め手となったクロスだった。
終盤のイングランドは高さを生かした空中戦から決定機を迎えるが、これはシモンとオルモの連続ストップで回避。結果的にこれがイングランドのラストチャンスに。大ピンチを凌いだスペインが終盤は落ち着いて時計の針を進めて逃げ切りに成功。12年ぶり4回目のEURO王者に輝くこととなった。
ひとこと
イングランドもスイス戦以降は悪くなかったように見えたけども、WGの大外優位が効かなかった際のその先の手数をきっちり見せたスペインはやはり強いなと思った。ヤマル、くれぐれも大怪我しないでおくれ。というわけでEUROお疲れ!!
試合結果
2024.7.14
EURO 2024
Final
スペイン 2-1 イングランド
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
ESP:47′ ニコ・ウィリアムズ, 86′ オヤルサバル
ENG:73′ パーマー
主審:フランソワ・ルティクシェ