代表メンバー
▽GK
1 ヘオリー・ブスチャン(ディナモ・キーウ)
12 アナトリー・トルビン (ベンフィカ)
23 アンドリー・ルニン(R・マドリー)
▽DF
2 ユヒム・コノプリア(シャフタール)
3 オレクサンドル・スバトク(ドニプロ)
4 マクシム・タロビエロフ(LASKリンツ)
13 イリア・ザバルニー(ボーンマス)
16 ビタリー・ミコレンコ(エバートン)
21 バレリー・ボンダル(シャフタール)
22 ミコラ・マトビエンコ(シャフタール)
24 オレクサンダー・ティムチク(ディナモ・キーウ)
26 ボグダン・ミハイリチェンコ(ポリッシャ・ジトーミル)
▽MF
5 セルゲイ・シドルチュク(ウェステルロー)
6 タラス・ステパネンコ(シャフタール)
7 アンドリー・ヤルモレンコ(ディナモ・キーウ)
8 ルスラン・マリノフスキー(ジェノア)
10 ミハイロ・ムドリク(チェルシー)
14 ゲオルギ・スダコフ(シャフタール)
15 ビクトル・ツィハンコフ(ジローナ)
17 オレクサンドル・ジンチェンコ(アーセナル)
18 ボロディミル・ブラジコ(ディナモ・キーウ)
19 ミコラ・シャパレンコ(ディナモ・キーウ)
20 オレクサンドル・ズブコフ(シャフタール)
▽FW
9 ロマン・ヤレムチュク(バレンシア)
11 アルテム・ドフビク(ジローナ)
25 バラディスラフ・バナト(ディナモ・キーウ)
GS 第1節 ルーマニア戦
90分間を象徴する両チームのポジトラの質
グループEは群雄割拠。どのチームが抜けてもおかしくはない拮抗しているグループ分けである。
ボールを持つことが多くなったのはウクライナ。CB+CHの4枚がベースとなるビルドアップ。SBにはかなり自由が与えられており、CBと同じ高さに立ち、5人目のビルドアップに関与するFPになる場合もあれば、インサイドに絞り高い位置で縦パスのレシーバーになることもある。なお、ボールサイドのSBに合わせてSHが低い位置を取ることもあったため、ウクライナのビルドアップは後ろに重たい形になっていた。
アタッキングサードではサイドから縦の突破を仕掛けてライナー性のクロスを入れる。右はコノプリャーとツィガンコフ、左はムドリクやスダコフが顔を出しての折り返しを狙っていく。
この形はもちろん悪くはないのだけども、ややサイドへの展開が早すぎだった感もある。スダコフ、ジンチェンコ、コノプリャーあたりがインサイドで後方から縦パスを引き出すことができれば、もう少しサイドの状況は楽になったのだろう。裏を返せばルーマニアが引くときに使わせたくないスペースからきっちり埋めていたことの証左でもある。
保持に転じたルーマニアは直線的な攻撃を仕掛けていく。CFに当てつつ、右の大外の縦コンビかシンプルにクロスを上げていく。攻撃をやり切る姿勢は悪くはないが、クロスはいかんせんシンプルなので、なかなかゴールに迫ることができない。
そうした中で結実したのはプレス。ローラインで堅実に守りながらも隙があれば高い位置まで出ていく姿勢を見せるルーマニアの良さが出たプレスから先制点をゲット。ハイプレスでボールを引っ掛けるとスタンチュがスーパーシュートを沈めてルーマニアが先制する。
ウクライナからすればマトヴィエンコにボールが渡った時点で脱出できたかなと思ったが、コースを消されたこともあり、処理が慌ててしまい、ルニンに爆弾パスを渡す形になってしまった。このゴールでルーマニアは一気に勢いづくように。カウンターからのシュートなど、少しネガトラの遅さが気になるウクライナのバックスに対して、シュートを増やしていく。
対するウクライナは保持での打開策が見つからず。ハーフスペースを堅実に潰し続けるルーマニアの守備に対してギャップを作ることができず。よりクロスを上げるのがハードになった状態でハーフタイムを迎える。
後半も大きく流れは変わらない。保持をベースに解決策を探すウクライナに対して、ルーマニアがきっちりとラインを下げて守る形を続ける。ウクライナはジンチェンコを気持ち高めの位置に配置したような気もしたが、大枠は変えず。前半と似た盤面が続くこととなる。
流れを変える決め手になったのはカウンターだろう。見事なキャリーを見せたスダコフをムドリクがトランジッションの遅れで助けられなかったウクライナのカウンターが不発になった直後に、ドラグシュのキープを脱兎のことく駆け上がって助けたラティウがカウンター完結までの道をつなげたという一連は90分間の両チームの勢いを象徴するものであった。
ルーマニアは1点目と同じく豪快なミドルをマリンが沈めてリードを広げる。さらには息をつく間も無く3点目。右サイドで落ち着きを見せていたマンが焦るウクライナのDF陣を翻弄している姿には2-0というスコアを感じざるを得なかった。
ウクライナは2トップに移行し、左右からのクロスからゴールに迫っていく。ここに気持ちを切らさなかったのは救いではある。ムドリクのプレースキックを含め、ゴールに迫る場面も作れており、反撃の姿勢が見られなかったわけではない。
しかしながら、得点に関してはドラグシンを中心とするルーマニアの守備陣がシャットアウト。1つ止めては互いを鼓舞し合う好循環でローラインで耐え続ける終盤戦を過ごす。
試合は3-0。思わぬ大差がついた一戦は先制点で勢いに乗ったルーマニアが完勝を飾った。
ひとこと
先制されるとめんどくさそうな国であるルーマニア。守備の堅さはどのチーム相手でもめんどくさそうではあるが、攻撃が成り立つかに関してはCFが後方の選手を攻め上がるための時間が作れるかで決まりそう。相手の守備陣とのマッチアップのバランスが変われば、押し返す手段を持てずに苦戦するパターンもなくはなさそうだ。
試合結果
2024.6.17
EURO 2024
グループE 第1節
ルーマニア 3-0 ウクライナ
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
ROM:29′ スタンチュ, 53′ ラズバン・マリン, 57 ドラグシュ
主審:グレン・ニーベリ
GS 第2節 スロバキア戦
ガラッと変わった後半を制したウクライナが逆転勝利
ベルギーを倒すという第1節最大の驚きを提供したスロバキア。連勝で一気に突破を決めたいところ。対戦相手は初戦を落としてしまい、ここで負けるとまずいこととなるだけに一戦必勝の構えである。
ボールを持ってスタートしたのはスロバキア。1トップのドフビクのみがバックスに圧力をかけるため、スロバキアのCBは距離を取るだけでボールを動かす事ができる。
ウクライナは中盤がマンツーできついマークをしていたため、スロバキアの攻撃は外循環。それでも敵陣に迫ることができていたのは左サイドのハラルソンがいたからこそ。彼が左サイドで圧倒的な存在感を見せており、対面をはがしてのクロスでチャンスを作っていく。
先制点もこの左サイドから。スローインからハラルソンがアクロバティックなクロスを入れてアシスト。シュランツがゴールを仕留めて先制する。
一方のウクライナはカウンターベースで反撃。縦に速い攻撃から一気にゴールに向かっていく。徐々に増えてきた保持局面でも4-4-2でコンパクトに守るスロバキアに対して苦戦。なかなかこじ開けられるほどの糸口を見つけることができない。
終盤には左のハーフスペースのムドリクへの縦パスか、対角パスからの右の大外のヤルモレンコの1on1からチャンスを作っていく。しかし、スロバキアはこの攻撃を凌ぎリードを維持したままハーフタイムに突入する。
後半、リードをしているスロバキアはハイプレスでスタート。ウクライナはボール保持からこのプレスを鎮静化。前半とは打って変わってウクライナがボールをもつ時間が長くなっていく。
しかしながら、展開を動かすのはダイレクトな攻撃。攻守が切り替わる展開からムドリクのスピードを生かしたファストブレイクが最も効率的に敵陣に入り込んでいく。
この形からウクライナは同点ゴールをゲット。ムドリクの陣地回復から敵陣に迫ると、遅れて入ってきたジンチェンコのクロスからゴールを奪う。
カウンターベースで反撃したスロバキアだが、前半に機能した左サイドのユニットは沈黙。ここのセットを入れ替えてもなかなかペースを掴むことができない。
すると、ウクライナは長いパスから勝ち越し。後ろから来たボールをアクロバティックなコントロールで巧みに押し込んだヤレムチュクが逆転ゴールを手にする。
4-5-1でブロックを組んでの逃げ切りに成功したウクライナ。逆転勝利で第1節での敗戦を払拭する3ポイントを手にした。
ひとこと
後半はムドリクの良さがほんのり出た展開だった。
試合結果
2024.6.21
EURO 2024
グループE 第2節
スロバキア 1-2 ウクライナ
デュッセルドルフ・アレナ
【得点者】
SVK:17′ シュランツ
UKR:54′ シャパレンコ, 80′ ヤレムチュク
主審:マイケル・オリバー
GS 第3節 ベルギー戦
打開策を見いだせないウクライナがEUROを終える
同じ勝ち点3同士のグループEの最終節。だが、共に生き残る道があるスロバキア×ルーマニアと異なり、こちらのカードはDead or Alive。もう一会場の勝敗がつかなかった時点でベルギーかウクライナのどちらかのEURO2024はここで終わりを迎えることが確実である。
仕掛けたのはドローの場合、ベルギーよりも順位が下になるウクライナ。5-3-2ながら2トップからサイドに誘導し、サイドで高い位置に捕まえに行くことでベルギーの保持を阻害する。左サイドはWBのマイコレンコ、右サイドはIHのシャパレンコがサイド封鎖の切り込み隊長を務めていた。
ベルギーの対応は非常に落ち着いたものだった。左右にスライドしながら、ウクライナにスライドを強要。特にデ・ブライネがサイドに流れて長いパスからサイドを変えるパスを出すという動きはウクライナの閉じ込める方策の裏を突くアクション。ベルギーはデ・ブライネとトロサールという預けどころがあったことで、ウクライナのプレスの鎮静化を図ることができていた。
もっとも、ベルギーの試合運びが完ぺきだったわけではない。プレスは緩く、中盤のスペースはがら空きになりやすい。スダコフやシャパレンコが前を向けばスピードアップを図ることはできており、そうなればベルギー陣内に攻め込むこともできていた。
ウクライナの惜しむらくはベルギーのパスミス発生時のポジトラに鋭さがなかったこと。相手の陣形がかなり乱れている状態で攻め切るシャープさがあれば、もう少し楽に得点が取れたように思える。
ライン間を侵入されたベルギーは4-3-3にシフト。引きわけでOKのベルギーは徹底して安全第一である。それでもウクライナにライン間に侵入はされていたけども。
それでもデ・ブライネを使った強引な前進から反撃をするなど凄みを要所で見せるベルギー。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半はウクライナが前半のようなハイプレスで出ていくスタート。前半と同じくベルギーはこのプレスをポゼッションで丁寧に外しつつ前進。敵陣にゆったりと入っていく。
前線を入れ替えることで後半もフレッシュさを担保したベルギー。カラスコがゴールに迫っていくが、ゴールのネットを揺らすことができない。
一方のウクライナも前線のメンバーを増やしていくが、こちらは動きが重たくゴールに迫る方策を見せることができない。CKから直接ゴールを狙うトリックプレーもカステールスに阻まれてしまい、空振りとなった。
試合はそのまま終了。他会場でも引き分けとなったため、ウクライナのEUROはここで終わりを迎えることとなった。
ひとこと
豊富なポジションチェンジと鋭さから攻め手には事欠かないイメージのウクライナだったのだけども、いつの間にかそうした多彩さも鋭さも消えてしまったのが残念だった。
試合結果
2024.6.26
EURO 2024
グループE 第3節
ウクライナ 0-0 ベルギー
シュツットガルト・アレナ
主審:アンソニー・テイラー
総括
スタイル的な過渡期に入ってしまった感
近頃は変幻自在のポジションチェンジによるボール保持と2列目のアタッカーのスキルとシャープさで国際大会で魅力あふれるパフォーマンスを見せているウクライナ。しかしながら、この大会ではそうした輝きを見せることはできなかった。
パフォーマンスの低調さはやはり初戦でルーマニアの勢いに飲まれるような90分を過ごしてしまった影響が大きいのだろう。収まる前線に後方から飛び込んでくる中盤とバックラインに対して、ウクライナのバックラインは全く対応することができず。あらゆるトランジッションで完敗を喫し大敗。思えば、混戦のグループEでは初戦でのこの大量得点差がルーマニアとの運命の差を分けたといえるだろう。
2戦目のスロバキア戦ではCFの左サイドのハラルソンに大苦戦。中盤をマンツーで締めだしてなお、外循環で圧倒されてしまう展開に。しかしながら、後半にポゼッションから勢いを殺し、速攻で巻き返しに成功すると、何とか逆転勝利を手にした。
逆転突破をかけたベルギー戦は勝利が絶対条件。ハイプレスから試合を活性化させようとするが、デ・ブライネという仙人が試合をあっさりと落ち着かせてしまい、どうにもならない状況まで持っていかれてしまう。そうなると抵抗の術を持たないのが今のウクライナである。
ジンチェンコが絶対的な存在ではなくなったバックラインだが、保持での可変を生かしての前進の破壊力はその分きっちりと割引。その割引した代わりの他の部分での上乗せが見られなかったのが今大会のウクライナである。
早い攻撃では頼みの綱のムドリクがポジトラからの出足がズブいというクラブで見せた課題を露呈。スピードは豊かなのだけども、攻めあがるべき場面に準備の観点で間に合わないのであれば意味はないだろう。
前線ではドフビクも不発。おそらくは組み立てで綺麗に運んだボールを綺麗にゴールで仕上げるのが彼の役目なのだろう。それだけに混乱気味の状況でピッチにいられた影響を感じざるを得ないパフォーマンスに終始してしまった感もあった。
新たなタレントはいないわけではないが、スタイル的な過渡期に入っており生かし方が見えてきていないというのがウクライナの現在地だろう。この大会後の舵取り次第ではドツボにハマる可能性も否定できない。
Pick up player:ヘオロヒー・スダコフ
シンプルに大会で見たウクライナの選手の中で一番いい印象を持った選手。うまいし列移動の気も使える。