代表メンバー
▽GK
1 ドミニク・リバコビッチ(フェネルバフチェ)
12 ネディリコ・ラブロビッチ(リエカ)
23 イビツァ・イブシッチ(パフォス)
▽DF
2 ヨシプ・スタニシッチ(レバークーゼン)
3 マリン・ポングラチッチ(レッチェ)
4 ヨシュコ・グバルディオール(マンチェスター・C)
5 マルティン・エルリッチ(サッスオーロ)
6 ヨシップ・シュタロ(アヤックス)
19 ボルナ・ソサ(アヤックス)
21 ドマゴイ・ビダ(AEKアテネ)
22 ヨシプ・ユラノビッチ(ウニオン・ベルリン)
▽MF
7 ロブロ・マイェル(ボルフスブルク)
8 マテオ・コバチッチ(マンチェスター・C)
10 ルカ・モドリッチ(R・マドリー)
11 マルセロ・ブロゾビッチ(アルナスル)
13 ニコラ・ブラシッチ(トリノ)
15 マリオ・パシャリッチ(アタランタ)
25 ルカ・スチッチ(ザルツブルク)
26 マルティン・バトゥリナ(ディナモ・ザグレブ)
▽FW
9 アンドレイ・クラマリッチ(ホッフェンハイム)
14 イバン・ペリシッチ(ハイドゥク・スプリト)
16 アンテ・ブディミル(オサスナ)
17 ブルーノ・ペトコビッチ(ディナモ・ザグレブ)
18 ルカ・イバヌシェツ(フェイエノールト)
20 マルコ・ピアツァ(リエカ)
24 マルコ・パシャリッチ(リエカ)
■監督
ズラトコ・ダリッチ
GS 第1節 スペイン戦
突き詰めた結果、トランジッションが差を生み出す
互いに保持には腕に覚えがあるという両軍。立ち上がりは共にCBには過剰にプレッシャーをかけずに中盤をマンツーで噛み合わせるという似たような守備対応となった。
というわけで保持側がどのように対応するか?というところからスタートしたこの試合。先に手応えを持ってボールを動かすことができたのはスペイン。ファビアン・ルイスのサイドフローから左サイドのプレスの切れ目を繋ぐことで敵陣に侵入していく。
クロアチアはモドリッチがプレスのスイッチを入れて4-4-2気味になっていたがファビアン、ロドリ、ペドリの中盤の細かな移動でこれを上回る。逆にスペインがプレスをかける局面になった場合はIHが出ていくことでプレスをかけ切ることができており、スペインは保持でも非保持でも主導権を握る形となった。
クロアチアはそれでもボールを取り戻すことで時間を作りにいく。あくまでポゼッションからというのは彼らなりの矜持なのだろう。より大きく動きながらスペインのプレスの判断を乱していく。コバチッチ、ブロゾビッチの降りる動きからボールを落ち着け、少しずつポゼッションを取り戻すようになる。
ボールを自分のものにすることにフォーカスした結果、この試合ではプレッシングが先鋭化。徐々に互いにオールコートマンツーのような強気な守り方が見えるようになる。そうした中で増えてきたのはトランジッション。この流れにうまく乗ったのはスペイン。先制点の場面ではククレジャの跳ね返しからロドリ→ファビアンと繋ぎながら最後はモラタが仕留める形に。最終的にはボールを自分のものにする手段であるトランジッションから差を分けることになるという現象はなかなかに興味深かった。
2点目は好調のファビアンの切り返しでモドリッチを外すところから。陣地回復の過程を紐解くとククレジャの素早いスローインが前進の起点になっているのは興味深い。1点目も2点目も始点はククレジャである。
ボールを再び落ち着けることに成功したクロアチアだが、スペインは前半追加タイムに容赦なくセットプレーから3点目。前半で試合の行方を決定づける。
後半、クロアチアは強気のプレスで勝負を仕掛けていく。しかしながら、スペインはこれをすぐに平定。試合を落ち着かせることに成功する。
次節を見据えつつ強度を上げていきたいクロアチアはメンバーを変えながら強度をキープしつつ、高い位置から捕まえることをやめない。左に入ったペリシッチが好調なパフォーマンスを見せたのは後半のクロアチアにとっては救いだった。
遅ばせながら鋭さを伴うサイド攻撃のクオリティを見せたクロアチア。押し込む流れからのハイプレスでPKをゲット。しかし、このPKは決められず、その後の押し込むアクションもオフサイドでノーゴール判定。一矢報いることも許されない。
スペインも縦への鋭さには途中交代のオルモでクオリティを維持。早い展開には最後まで食らいついて行ったのが印象的だった。
試合はそのままスコアが動かずに終了。前半で試合を決めたスペインが開幕戦で勝利を飾った。
ひとこと
保持を突き詰めた結果、トランジッションが決め手になるのはなかなか興味深かったし、前線にそうした展開にフィットする鋭さを有するWGを置いているスペイン側がどこまでそうしたことに確信犯だったのかは気になるところである。トランジッションの観点ではヤバイ状況の時からチームを救えるロドリがいるかいないかも大きかった。あと、ストーリー的に書けなかったけど両軍のGKのセービングは素晴らしかった。
試合結果
2024.6.15
EURO 2024
グループB 第1節
スペイン 3-0 クロアチア
オリンピア・シュタディオン
【得点者】
ESP:29′ モラタ, 32′ ファビアン, 45+2′ カルバハル
主審:マイケル・オリバー
GS 第2節 アルバニア戦
目まぐるしくスコアと主導権が入れ替わる一戦に勝者はなし
互いに初戦は敗れてしまっているチーム同士の一戦。最終節がそれぞれイタリアとスペインであることを考えれば、ここは生き残りのために必勝と言ったところだろう。
立ち上がりにボールを持ったのはクロアチア。大外にSBを置いてWGはやや絞りつつSBと大外をシェア。その分、中盤が下がってビルドアップに関与するといういつものスタイルであった。
アルバニアはSHとCHがかなり後ろ重心でのスタート。時折6バックになるような形にもなっており、これで陣地回復は望めるのか?というような陣形になっていた。
ところが、アルバニアはボールを奪った後にクロアチアをきっちり押し込むスキルがあることを証明。中盤のパスワークでクロアチアのユニットを翻弄して、サイドにボールを預けてリポジションの時間を稼ぐ。右サイドでボールを動かしつつ、インスイングでボールを入れる形は鉄板。先制点以外のところでもこの形はボックスに迫る必殺パターンとなっていた。
アルバニアはマナイへのロングボールも収まるなど、陣地回復の手段が複数あることを証明。先制点をとって以降はSHの位置を時折高く見せるなど、自信を持って守れているのだろうなという挙動が際立つこととなった。
クロアチアとしてはやはりネガトラの遅れから後手の連鎖が始まっている。気になるのは3センター。ボックス突撃、サイドへのヘルプ、そしてビルドアップと多岐に渡るタスクのせいでロスト時にかなり陣形が間延びしている。やり切れるのであればそれでもいいけども、この日のクロアチアは中盤起因のミスもそれなりにあり、自分たちでアルバニアの反撃を受けるトリガーを引いていたのが印象的だった。
サイドの仕掛けの成功率も低い。単純に崩しにおけるポケットを取る動きが少ないし、あったとしても手前を作れないから簡単にバレてアルバニアに先に潰されてしまう。1on1で打開できるWGはペリシッチより上のクオリティの選手がおらず、そのペリシッチにはアルバニアはダブルチームで警戒を払っていた。
ブロックを組んでからの守備もまずいなという感じ。先に挙げたアルバニアの右ユニットのクロスには完全に後手に回ってしまっているし、インスイングのクロスに対するCBの対応も混乱気味。先制点の場面もサイドに流れるヒサイに釣られたグバルディオルのカバーをブロゾビッチが仕切れなかったのが要因である。
保持でも非保持でも完全に後手を踏んでいるクロアチア。唯一の救いはリヴァコヴィッチの奮闘で先制点以降の失点をなんとか食い止めたことくらいだろう。まるで悪夢のような45分でなんとか1点差でハーフタイムを迎えることとなった。
後半、クロアチアはスチッチとパシャリッチを投入。ともに右サイドにセットで組み込まれる交代となった。ブロゾビッチを削ったのはビルドアップ隊にかける成分を前線のオフザボールとハイプレスのエネルギーに変えましょうという判断だろう。
右サイドは彼ら2人にユラノビッチを加えたユニットを後方からモドリッチが操る形。保持のベースポジションは4-3-3にも見えたが、モドリッチが右に流れる頻度が増えたため、コバチッチと左右対称の4-2-3-1と見ることもできるなという感じだった。非保持はスチッチをトップ下に置く4-2-3-1だったけども。
右サイドはこのユニットの活用で一気に活性化。奥行きを取るアクションができるようになり、クロスに一気に殺傷性が生まれることとなった。左サイドに顔をだすグバルディオルも含めて、両サイドから総攻撃を仕掛けていく。
クロアチアのプレスが強まる中でアルバニアは前半ほどロングボールが刺さらず。トップのマナイがオフサイドを連発していたことを踏まえると、ここはラインコントロールの局面でクロアチアが上回ったということだろう。
このロングボールが60分を過ぎたあたりで収まるようになり、少しずつアルバニアにも攻撃の目が出てくる。しかしながら、攻撃を焦ってしまったのか前半ほどフリーランで動き回る味方を使うことができない場面がちらほら。攻撃を完結できないとコバチッチのキャリーなどクロアチアからのしっぺ返しが待っているので、二重の意味で地獄である。
クロアチアの同点ゴールのキーになったのはコバチッチのキャリー。アルバニアの守備陣を切り裂くように行われたドリブルを起点にブディミルを経由したボールは逆サイドのクラマリッチに。簡単ではないシュートだったが、見事股下を抜いて仕留めてみせた。アルバニアは直前の攻撃で簡単にキャッチされる選択をしてしまったことが悔やまれる。
このゴールで勢いに乗るクロアチア。ブディミルのポストで手前にフリーの選手を作り、裏抜けの破壊力を増幅させるパターンからチャンスを量産。逆転となるオウンゴールを誘発する。
4-5-1へのシフトで中盤の飛び出しにケアをしたが間に合わなかったアルバニア。苦しくなった後半だがグヴァルディオルではなくシュタロにつっかけることでなんとか前線に起点を作り、ここから左サイドに流して攻撃に打って出る。終盤のキーになったのは交代で入ったホッジャ。マーカーを2枚引きつけつつ、エリア内にラストパスを送ることでチャンスメイクを行う。
すると、この左サイドの集中攻撃が実ったのは後半追加タイム。ギャスラのゴールで試合を振り出しに戻す。
終盤まで息つく間もなくチャンスが生まれたスリリングな展開は痛み分け。直接対決を控えるイタリアとスペインにとってはありがたい結果となった。
ひとこと
シンプルに面白い試合だった。欧州ならアンダードックでも止まって味方を解放できるドリブラーがいるのだなと思った。
試合結果
2024.6.19
EURO 2024
グループB 第2節
クロアチア 2-2 アルバニア
フォルクスパルク・シュタディオン
【得点者】
CRO:74′ クラマリッチ, 76′ ギャスラ(OG)
ALB:11′ ラチ, 90+5′ ギャスラ
主審:フランソワ・ルティグシェ
GS 第3節 イタリア戦
2位通過を巡る大一番は後半追加タイムに劇的な幕切れ
雌雄を決する最終節。クロアチアは引き分けでは3位通過を狙うには難しい勝ち点であり、突破を見据えるためには勝利が必要という状況である。対するイタリアが引き分けOKというのがまた状況を厄介にしている。
ボールを持つスタートとなったのはクロアチア。4-3-3ベースでボールを動かしていく。5-3-2のイタリアに対してはSBのところが空きやすいのであるけども、攻め手になりそうなグバルディオルには早々にディ・ロレンツォがチェックに行くなど警戒ポイントに対してイタリアは抜かりがない。クロアチアとしてもなかなか前線の預けどころが豊富でないため、外のグバルディオルがチェックをかけられてしまうと苦しいところ。
イタリアの保持に対してはクロアチアはハイプレスでマンツー気味にスタート。イタリアは背後に一発で逃がすためのロングボールはなく、パスワークでどこかにギャップを作らなければいけない状況。ただし、少しでも隙があればジョルジーニョが左右にサイドチェンジを行うことで横幅を使い、クロアチアの4-3-3を振り回すことができる。ディマルコ、ディ・ロレンツォはこの振り回すアクションをかなり意識して攻め上がりの出足が良かったように思える。
ここにさらにイタリアはラスパドーリやペッレグリーニなど前線が手前に奥に動きながらボールを引き出すアクションが加わるように。横幅と縦のアクションが重なった前半中盤は明確にイタリアペースと言って良かった。
クロアチアはモドリッチが左に流れるオーバーロードやクラマリッチの絞るアクションなど人の偏りをあえて作り出しているようには見えたが、フィニッシュ設計から逆算するとボックス内に人がいないというしんどい状況。サイドからマイナスの折り返しでMFがミドルを狙うという形はクロアチアが得意な形ではあるがこの試合ではあまり見られず。ドンナルンマのミドルを警戒したのかもしれないが、単調なクロスに終始するなどそれに代わる攻め手を見つけられないままハーフタイムを迎えてしまった印象だ。
後半、クロアチアはブディミルを投入。やっぱりクロスのターゲットは必要ということになったのだろう。一方のイタリアもフラッテージを入れて互いに1枚ずつを入れ替えるHTとなった。
基本的には前半と大きく変わらない入りをした両チームだが、ボール奪取からカウンターを演出したグバルディオルの出足のいいプレーの分、いい入りをしたのはクロアチアだっただろうか。その流れに乗ってクロアチアはPKを獲得。フラッテージのハンドで決定的なチャンスを得る。
だが、モドリッチのPKはドンナルンマが完全に読み切ってシャットアウトして大ピンチを防ぐ。PKが止められた後は直後のプレーが流れを決める上で超大事。この直後のプレーでクロアチアが先制ゴールをゲット。ファーでクロスを合わせたモドリッチがPKのリベンジを果たした。ターゲットとしてブディミルをおいた効果も出ていいと言っていいだろう。それだけにイタリアはクロスの出し手への甘さが気になった場面だった。
このゴールを受けてクロアチアは自陣にグッと引く形でブロックを組む形に。バックスが6枚になって受けるシーンも増えていく。イタリアは失点直後にキエーザを投入して右サイドに攻め手を作る。しかしながら、キレはあるもののパス周りの判断と精度がやや鈍く試合を変えるまでには至らず。
初手でクロス対応にバタバタしていたクロアチアは冷静に跳ね返せるように。保持に回ればきっちり時間を作ることもできることで試合の流れは少しずつイタリアから離れてしまった感もあった。
陣形ごときっちり5バックにシフトし、後方を固めて試合をクローズしたいクロアチア。動きの鈍いイタリアはここまでかと思われたが、ラストプレーで左サイドからボールを運んだカラフィオーリからパスを受けたザッカーニが角度のついた位置から放ったシュートはゴールに吸い込まれていった。
2試合連続で後半ATの失点で3ポイントを逃したクロアチア。3位抜けの可能性は残っているが条件は厳しく、劇的な同点ゴールの代償は大きいものになりそうだ。
ひとこと
クロアチアはスコア推移だけ見ればもっともっと冷酷に残り時間を過ごせ!だったのかもしれないけども、前半の時間帯における普通に攻める手立てのなさは辛い。ビルドアップに人数を後ろに重たくなる陣形はプレス回避能力の高さ的には防衛策としてはいいけど、攻撃に打って出る形に昇華できるシーンがあまりにも少なかった。
試合結果
2024.6.24
EURO 2024
グループB 第3節
クロアチア 1-1 イタリア
ライプツィヒ・スタジアム
【得点者】
CRO:55′ モドリッチ
ITA:90+8′ ザッカーニ
主審:ダニー・マッケリー
総括
プレス回避のその先はどこに
日本国民にとってクロアチアは「ポゼッションの鬼」「窮地からもよみがえることができるゾンビ性」という感じのイメージだろう。しかしながら、この大会の彼らはそうした片鱗をわずかに見せつつも、あっさりと陥落してしまった。
基本的な構造はワールドカップと同じ。4-3-3のフォーメーションがベース。コバチッチ、モドリッチ、ブロゾビッチという3人の輝かしい中盤を軸としてMF、もしくはアタッカー色の強いWGが中央に集結。大外はSBが幅取り役となる形であった。
MFが自在な立ち位置で相手のプレスを翻弄するスタイルは往年と同じ。保持で相手の鼻を明かしてやるぜ合戦となったスペイン戦でも一時期は保持から押し返す時間を作るなど、この辺りの地肩の強さはさすがのように思えた。
しかしながら、中央に集約する前線を利用した得点パターンの構築にはかなり苦心したように思う。最も可能性がある形は全体を押し上げたところで中盤がボックスの外からのミドル、もしくはWGや中盤がボックス内に侵入する形を作ること。
だが、実際のところこのチームは押し上げるための方策を作ることができず。中央の預けどころとしてペトコビッチは心もとないし、外に張って勝負することができるのはペリシッチとグバルディオルくらい。前者はコンスタントに起用されたわけではないし、後者はCBとして起用されることもあり、幅を取ることができる選手がいないこともあった。
そのため、ゴールデン・トリオでの保持はプレス回避という防衛には使えるが、そこから先の得点構築のパターンの確立までルートを伸ばすことができなかった印象。むしろ、不用意なパスミスから自由な中盤のポジショニングを切り裂かれるようなカウンターを受けることもしばしば。体力面のマネジメントからフル出場をしなくなったことも含めて、3センターを根底に据えるやり方には限界を感じる部分もあった。
保持で逃げ切るプランが見えない中で2つの決定的な失点を後半追加タイムに喫してしまったクロアチア。もちろん、この2つの失点がなければ彼らはGSを通過していただろう。カタールから1年半、ワールドカップで勝負強さを見せたクロアチアだったが、EUROではその影を見ることができなかった。
Pick up player:ヨシュコ・グバルディオル
ポゼッション型電柱の片鱗を見せたブディミルと迷ったがこちらで。チームが明らかに詰まっていると判断すればCBから大外のレーンに出ていって1on1を仕掛けるという規格外な能力からなる越権行為はある意味モドリッチの意思を異なる形で継いでいるといえそう