代表メンバー
▽GK
1 マヌエル・ノイアー(バイエルン)
12 オリバー・バウマン(ホッフェンハイム)
22 マルク・アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)
▽DF
2 アントニオ・リュディガー(R・マドリー)
3 ダビド・ラウム(ライプツィヒ)
4 ヨナタン・ター(レバークーゼン)
6 ヨシュア・キミッヒ(バイエルン)
15 ニコ・シュロッターベック(ドルトムント)
16 バルデマール・アントン(シュツットガルト)
18 マクシミリアン・ミッテルシュテット(シュツットガルト)
20 ベンヤミン・ヘンリヒス(ライプツィヒ)
24 ロビン・コッホ(フランクフルト)
▽MF
5 パスカル・グロス(ブライトン)
8 トニ・クロース(R・マドリー)
10 ジャマル・ムシアラ(バイエルン)
11 クリス・フューリッヒ(シュツットガルト)
17 フロリアン・ビルツ(レバークーゼン)
19 レロイ・サネ(バイエルン)
21 イルカイ・ギュンドアン(バルセロナ)
23 ロベルト・アンドリヒ(レバークーゼン)
25 エムレ・ジャン(ドルトムント)
▽FW
7 カイ・ハバーツ(アーセナル)
9 ニクラス・フュルクルク(ドルトムント)
13 トーマス・ミュラー(バイエルン)
14 マクシミリアン・バイアー(ホッフェンハイム)
26 デニズ・ウンダブ(シュツットガルト)
※MFアレクサンダル・パブロビッチ(バイエルン)が体調不良で不参加となり、MFエムレ・ジャン(ドルトムント)を追加招集(6/12)
■監督
ユリアン・ナーゲルスマン
GS 第1節 スコットランド戦
クロースの動きで場を支配したドイツがOPマッチを飾る
大会の開幕を告げるのは開催国のドイツのオープニングマッチ。またしても日本に苦杯を飲んだフリックからバトンを受け取ったナーゲルスマンが代表の大舞台の初陣を飾る一戦。舞台はその2人の指揮官にゆかりの地であるミュンヘンである。
ドイツのフォーメーションは4-2-3-1。ここからお馴染みのクロースの左落ちでのDFラインへの組み立てへの参加から変形が始まる。2列目はギュンドアン、ムシアラ、ヴィルツの3人がナローに入る。ムシアラとヴィルツは自由に左右を変えてOKという様子。その分、大外はSBが出ていく形であった。
スコットランドはバックスに無理にプレスをつけない形でのスタート。だが、ドイツはフリーになるクロースから自在にパスを繋いでいく。よってこなければ対角パス、ライン間へのパスを使い分け。対面のマッギンが自分にマークについてくれば同サイドのミッテルシュテットを使う形も見られた。
この辺りのクロースの司令塔ぶりは本当に自在の一言。先制点はクロース→大外のキミッヒによってラインを押し下げつつ、サイドからライン間に入り込んだヴィルツがミドルを仕留めるという流れだった。
このようにスコットランドは完全にクロースへの対応に後手に回ってしまった感がある。ライン間と大外の両方を覗かれてしまい、押し込まれるフェーズが続くことに。保持に回ればショートパスで繋ぎながら追い越すアクションを見せたがっていたスコットランドだが、徐々に保持の局面でもそうした余裕がなくなってしまう。
2点目も起点はクロース。縦方向の移動の自由度を増やしたギュンドアンへの縦パスが通ると、裏への抜け出しを精力的に行っていたハヴァーツが奥行きを作り、最後はムシアラがゲット。さらにリードを広げる。
クロースとギュンドアンのコンビに対してスコットランドに止める術はなし。PKこそギリギリ免れたが、クリスティがファウルを犯したシーンはかなり後手に回った対応。ミッテルシュテットから一気に押し下げるという形はキミッヒがアシストしたドイツの1点目と左右が逆になっただけという感じであった。
スコットランドは5-3-2にシステムを変えて、左落ちのクロースを監視することを常態化しやすい形に変更。ただ、ドイツもこれは織り込み済み。クロースが落ちる位置をCBの左から間に変更。CLのドルトムント戦で見たやつである。なお、ドイツが織り込んでいるのか、マンツーをつけられた時の初手としてクロースが織り込んでいるかは不明である。
というわけで再び守備の基準点を失ったスコットランド。目の前にターがいるのに、降りてくるムシアラが登場することにマクトミネイが混乱。その間にムシアラがあっという間に敵陣を切り裂くと、ポーテアスがギュンドアンに危険なアプローチで一発退場。これでドイツは数的優位と3点目を手にする。
後半、スコットランドは5人目のDFを投入し、5-3-1と5-4-0の間のようなフォーメーションを採用。ドイツはグロスが登場し、基準点をさらに増やす。ただでさえ中央に立つクロースによって両CBが解放される機会が増えるのに、新たな基準点が増えるというのはなかなかに地獄みがある。
序盤はガチ感が出ていたドイツだが少しずつ試合自体のテンションがトーンダウン。スコットランドもドイツも次節以降を見据えて主力をガンガン代えていく。それでもドイツはフュルクルクやミュラーの投入により、前線にやる気が再点火されるので厄介。片方はオフサイドで認められなかったが、フュルクルクは2回ネットを揺らした。
終盤、スコットランドはセットプレーからオウンゴールをゲット。シュートと言えないところから得点を生み出し一矢報いる。このまま終わると収まりが悪いという感じだったドイツだったが、終了間際にエムレ・ジャンが得点。口直しに成功した。
開幕戦をこれ以上ない快勝で飾ったドイツ。存分に支配力を発揮し、順調な滑り出しを見せた。
ひとこと
クロースとギュンドアン、あまりにもサッカーがうますぎる。ただ、左落ちに関しては初手も初手だった感もあったので、うまくいくかは別としてスコットランド側にももうちょっと準備の跡が欲しかった。
試合結果
2024.6.14
EURO 2024
グループA 第1節
ドイツ 5-1 スコットランド
フースバル・アレナ・ミュンヘン
【得点者】
GER:10′ ヴィルツ, 19′ ムシアラ, 45+1′(PK) ハヴァーツ, 68′ フュルクルク, 90+3′ ジャン
SCO:87′ リュディガー(OG)
主審:クレマン・トゥルマン
GS 第2節 ハンガリー戦
ハヴァーツが作り出したギャップを生かし切るMF陣
全チームの中で第1節最多得点を決めた開催国のドイツ。連勝すれば突破は決まり。突破一番乗りを賭けた初戦となる。
立ち上がりに強襲を見せたのはハンガリー。長いボールの処理ミスを誘発すると、そのままあわやというシーンを作り出す。
ハンガリーのプランはこのようにきっちりと組んだところからの速攻ベース。5-4-1のローブロックを組み、ライン間はコンパクトに。左右に移動して最終ラインに落ちるクロースに惑わされることなく、シャドーが前に出ていくことと合わせてワイドのCBが前に出ていって陣形のコンパクトさを維持していたのが印象的だった。
このコンパクトな布陣でボールを奪い、攻め上がるとそこからセットプレーも含めて立ち上がりのハンガリーはコンスタントにドイツのゴールに迫る勢いをみせた。
それに呼応するようにドイツのチャンスもトランジッション色が強め。右のサイドに流れるハヴァーツがギャップを作り出してラインを押し下げつつ、中央に侵入するギュンドアン、ムシアラ、ヴィルツにチャンスを供給する。ハヴァーツの動きだしはブロックを組んだ静的な局面でも機能。5バックにギャップを作り、オフサイドにかからないように手前と奥でスペースを受けながらコントロールするスキルはとても見事であった。
ライン間のわずかなスペースの創出を右サイドからコンスタントに行っていたドイツは前半のうちになんとか先制点をゲット。サイドからライン間のギャップに差し込んだヴィルツのパスを起点に中央を一気に攻略。ギュンドアンのコンタクトはお咎めなしとなり、ムシアラのゴールが認められることとなった。
このシーンでも思うのだが、ドイツのMF陣は速いボールを狭いスペースで受けてコントロールするのが抜群にうまい。この特性とハヴァーツが作り出すわずかなスペースは相性がいいのだろう。
ハンガリーはショボスライのFK以降、なかなかチャンスを作れず。ケルケズの思い切りのいい攻め上がりまで辿り着けば推進力を持ってゴール付近まで辿り着けそうな気もしたが、そうしたシーンを作り出せるようなタメは少しずつハンガリーから失われていった。リード後はドイツの支配を崩せないままハーフタイムを迎える。
後半も試合の流れは同じ。きっちりとボールを動かすドイツに対して、ハンガリーは速い攻めからのカウンターでセットプレーまでたどり着く。ドイツの支配は苦しかったが、カウンターに出ていける分だけ前半のいい時間の感覚は取り戻したかなというハンガリーであった。
しかしながら、優勢なドイツは愚直にフリーの選手から背後のスペースを狙うアクションを欠かさずにハンガリーを自在に押し下げる。このフリーランのサボらなさは相手からすれば脅威だろう。
すると、左サイドからのミッテルシュタットの裏抜けからの折り返しに合わせたのはギュンドアン。深さができたところに飛び込むお馴染みのゴールシーンでさらにリードを広げる。
この2点目はハンガリーに重くのしかかった感がある。ゴール前まではいけるが、クロスはきっちり跳ね返されるという状況のハンガリーにとって勝ち点獲得が視野に入るのは1点差までだったよう思う。
最後はアダムを入れてストライカーを増員するが、押し込むという前提を作ることができないまま終戦。終盤もシュートを重ねるドイツに対してハンガリーはピタッとシュートが止まってしまった。
ローブロックを丁寧に壊したドイツが連勝に成功。11人が相手でも問題ないことを証明し、GS突破一番乗りを果たした。
ひとこと
主導権を保持で握り返してくるタイプの相手と戦っていないのは気にはなる。だが、押し込む相手に対してなかなかこじ開けられないシナリオを回避するという最低限のミッションはクリアしたと言えるだろう。
試合結果
2024.6.19
EURO 2024
グループA 第2節
ドイツ 2-0 ハンガリー
シュツットガルト・アレナ
【得点者】
GER:22′ ムシアラ, 67′ ハヴァーツ
主審:ダニー・マッケリー
GS 第3節 スイス戦
なりふり構わぬナーゲルスマンを救った最強のスーパーサブ
すでに突破を決めているドイツだが、この試合もフルスカッド。2位濃厚とはいえ勝ち点を重ねて突破を確実にしたいスイスにとっては迷惑な話だろう。
立ち上がりはフラットなスタートだったが、徐々にドイツがボールをもつ展開にシフト。いつも通りのレーン移動が自在な2列目とハヴァーツで左右に動き、クロースはバックスに落ちる位置を変えながらスイスのバックスと駆け引きを行う。
スイスは5-4-1の陣形を守りつつクロースに対してはリーダーが深追いするパターンを時折見せる。ただし、マンツーで絶対に捕まえる!というわけではなく、遠い場合には陣形をキープすることを優先する柔軟さを見せる。
リーダーが出て行く行かないに関わらず、中央をきっちり閉めるアクションはスイスはできていた。ムシアラの落としをギュンドアンが狙ったシーン以外は中央をこじ開けるような形をドイツが作ることができなくなっていた。
そうした中でアクセントになっていたのは左の大外のミッテルシュテット。背後をとっての左サイドからの押し下げでボックス内にスペースを作る。ファウルにより得点は無効になったが、インサイドに起点を作ることができないドイツにとっては大外からの押し下げは非常に助かるものだった。
しかし、ドイツはこのゴール取り消し以降、少しずつボールをロストする位置が低くなっていく。スイスは自陣からの長いカウンターを効かせられる状況ではなかったし、保持での変形を見せるほど時間が稼げるわけでもなかったが、高い位置から捕まえられるとなれば話は別。中盤のプッシュアップから少しずつドイツに圧力をかけていき、敵陣での時間を作る。
すると、先制点を決めたのはスイス。左サイドのシンプルな攻略でドイツの背後をとるとエンドイェが抜け出しからゴールを決めて先制する。
テンポを取り戻したいドイツだが、中央でのコンビネーションが機能不全な状況を改善できず。特にムシアラの球離れの悪さがこの試合ではマイナスに作用しているように思えた。持ち味と紙一重なので難しいところではあるが、ライン間に2列目を集約している連携がうまく機能しなかったのは確かだろう。
逆にいえばスイスのコンパクトさがムシアラを狭いスペースから締め出してタッチ数を増やすことを誘発したとも言える。それくらい中盤のスイスの守備の連携は見事。中盤で出ていって3枚になっている時のカバーリングも含めて枚数が微妙に変わっても埋める守備ができていることはドイツを苦しめて前半をリードで折り返す要因となった。
後半の頭もペースとしてはスイスが優位。高い位置からの追い込みが機能し、ドイツのビルドアップを阻害する。ブロックの中でボールを受けることができないドイツは苦戦。ヴィルツからのタッチダウンパスのようなアクロバティックなチャンスメイクからでなくてはゴールに辿り着けない。ラウムとシュロッターベックを投入する後方の左サイドのユニットチェンジも効果は限定的だった。
ここからは両チームとも選手交代によるシフトチェンジを図る。3枚替えで前線を総とっかえしたスイスはプレッシングのためのエネルギーを再チャージ。連携面ではやはり未成熟なところもあるし、エンボロのように独力で体を張って時間を作ることができる選手もいなかったが、それでも高い位置から追いかけて行く形で勝負をかけていく。
持続可能のための交代を図ったスイスに比べて、ドイツは抜本的なモデルチェンジに着手。バイアー投入による2トップ移行を皮切りに、フュルクルクなどタワー系の選手を投入。サイドにはサネを入れてワイドから起点を作る。大外からのシンプルクロスという前半とは全く異なるアプローチでひたすらスイスを殴る。ハヴァーツと交代で入った2人のFWをひたすら狙っていく。
かなりテイストの変わったドイツの攻撃が奏功したのは後半追加タイム。決めたのはフュルクルク。最強のスーパーサブであるストライカーがスイスから首位の座を奪還。フランクフルトで相見えた両チームは共にノックアウトラウンド進出を決めたが、首位での突破は開催国のドイツという結果となった。
ひとこと
フルメンバーでのスタメン+なりふり構わない首位奪還というナーゲルスマンのスタンスはグループBとの対戦となる2位だけは絶対回避!ということでいいのだろうか。あと、ジャカのミドルとノイアーのセービングは大会名勝負数歌。
試合結果
2024.6.23
EURO 2024
グループA 第3節
スイス 1-1 ドイツ
フランクフルト・アレナ
【得点者】
SWI:28′ エンドイェ
GER:90+2′ フュルクルク
主審:ダニエレ・オルサト
Round 16 デンマーク戦
命運を分ける数分間をモノにしたドイツが後半を制圧
開催国のドイツは第2試合に登場。ドルトムントで迎え撃つのはデンマークである。デンマークは5-4-1の布陣を選択。まずは自陣で受けるブロック守備を敷く。
ドイツはグループステージ3試合を通して5バックとの対戦だったが、この試合でも継続。その3試合と同じようにボールを動かしながらブロック守備の攻略を狙っていく。
多少メンバーは変わっていてもドイツの仕組みは大体同じ。落ちる位置を変えながら調整するクロース、大外はSBに任せて2列目はインサイドに集結。WGタイプ寄りのサネが起用されていても、右サイドの大外を取るのはキミッヒである。
ハヴァーツのサイドに流れる攻撃など、サイドの奥を取ることでドイツが押し込む立ち上がり。特に効いていたのはセットプレー。序盤のCKはほぼドイツが先に触ることができていた。一本目のシュロッターベックがネットを揺らしたシーン(おそらくファウルで得点は無効)を皮切りに、続々とドイツの選手たちがシュートを狙っていくセットプレーの連続となった序盤戦だった。
ドイツは地上戦でも少しずつ工夫を見せる。SBを少し自陣寄りで受けさせることでデンマークのWBを手前に引き寄せつつ、CB-WBの間に選手を走らせてギャップを突く。これにより少しずつ2列目の選手が大外で働く機会が増える展開となる。
一方のデンマークも保持に回ればゆったりと。サイドからのシンプルなクロスではあったが、ファー狙いと裏へのスペースに置くようなクロスが多かったため、ドイツは対応に苦慮していた。
また、ドイツは押し込まれるところを跳ね返されるフェーズを挟むと縦に速い攻撃が増える傾向がある。この傾向により少しずつ試合はオープンに。展開としてはドイツの一方的な保持からフラットな主導権争いに移行。と言ったところで雷で試合は中断することとなる。
中盤明けは再び押し込むドイツがセットプレーからチャンスを作り出すなど、前半の焼き直し。デンマークは再び押し込まれる機会があったが、ドイツの中盤での珍しいパスミスからホイルンドが決定機を作るが、惜しくもシュートは枠を捉えることができず、試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半、デンマークはシャドーをやや前に出す5-2-3で少し前からのプレスを強める。望んだ通りに少しオープンになった展開で先にゴールを揺らしたのはデンマーク。しかし、デラネイのオフサイドでアンデルセンのゴールは認められず。
すると、今度はドイツにゴールチャンス。左サイドからのクロスがハンドを誘発し、PKを獲得。このPKをハヴァーツがきっちりと鎮めて先制する。ハンドを犯したのはゴールを取り消されてしまったアンデルセン。天国から地獄に一気に落ちる数分間になってしまった。
以降は撤退守備の時間を増やしながらきっちりとブロックを組む時間を増やしたドイツ。自陣からのロングカウンターやデンマークのプレスを引き寄せての加速など速い攻撃を効果的にかつ自在に打てるように。ムシアラのゴールはシュロッターベックの落とすようなフィードが見事。ストロークを抑えることでGKの飛び出しを防ぐ見事な軌道であった。
2点のビハインドとなったデンマークはガンガン放り込んでいきたいところであるが、なかなかギアアップができず。もう少しシンプルに放り込んで試行回数を増やしてもいいのではと思うのだが、なかなか入れられないままドイツのカウンターから更なる失点の危機に晒されることとなった。
終わってみれば完勝だったドイツ。運命を分ける数分間で先制点を奪うと一気に試合の主導権を持っていき、ベスト8進出を決めた。
ひとこと
クロースの連戦起用がどこまで持つかは気がかりではあるが、きっちりと特徴を出しながら手堅いチームを試合運びで上回ったのは見事であった。
試合結果
2024.6.29
EURO 2024
Round 16
ドイツ 2-0 デンマーク
BVBシュタディオン・ドルトムント
【得点者】
GER:53′(PK) ハヴァーツ, 68′ ムシアラ
主審:マイケル・オリバー
QF スペイン戦
ダニ・オルモの奮闘がWG以後のスペインを支える
準々決勝のスタートであるとともに、最注目カードであるこの試合。だが、その注目とは立ち上がりの展開は違う方向にヒートアップ。速い展開からファウルが目立つ展開となり、特にドイツのファウルが嵩むことに。その結果、ペドリが負傷交代するなどあまり見ていて気持ちのいい序盤戦とはならなかった。
速い展開に関してはスペインの方が得意そうだった。縦に早くという流れに関してはペドリ→オルモの交代は渡りに船という感じ。トランジッションについていけるファビアンも含めて縦に速い攻撃ではドイツの中盤の戻りを上回っており、WGの仕掛けも含めてフィニッシュまでの道筋が明確に描ける展開となった。
一方のドイツはクロースのらしくない強引な縦パスがカットされたり、あるいはキミッヒの早い段階での仕掛けがアバウトだったりなど、攻撃が跳ね返される要素が満載。スペインの速い展開を呼び込むような戦いをしてしまったと言える。
時間の経過とともに試合は保持局面を重視する展開に。バックスに対して強引にプレスに行くことはしない流れだった。より対策色が明確に見えたのはスペイン。ナローに締める4バックは、2列目が絞って勝負するドイツへの対策をきっちりやっていた感がある。
そのため、ドイツのライン間の住人にとっては苦しい展開に。狭いスペースで受ける工夫をしなきゃいけないムシアラにとってはかなりハードになる一方で、降りる動きと裏抜けの両面で勝負ができるハヴァーツや機を見たオーバーラップで抜けるキミッヒが効く展開になっていた。
スペインは保持に回っても優勢。ギュンドアンがロドリ番で安定となったことを利用し、持ち上がる機会が増えたラポルトを起点にドイツ陣内に侵入していく。さらにはルイスの降りるアクションも絡めると、対面のジャンが出ていくか悩ましい駆け引きに。クロースに広大なスペースを管理させてしまうのはまずい!となった結果、右サイドの対応が遅れてしまい攻め込まれるシーンもあった。
スペインは左サイドで攻撃を完結させれば上々ではあったがクロスまで持っていくと逆サイドとのフィーリングが合わなかった感。スペインが優勢ながらも試合はタイスコアでハーフタイムを迎えることとなった。
迎えた後半、どちらも選手を入れ替えての勝負。ポジションは入れ替えず、人だけを入れ替えたのが両軍の交代の特徴であった。
優勢だったのはスペイン。前に出てくるドイツのプレスをシモンのフィードでいなしつつ、ミドルゾーンの加速で敵陣に一気に攻め込んでいく。ドイツは選手を入れ替えたものの、構造的な課題は同じ。中盤の戻りの遅れはずっと気になる展開となった。
そうした中で先制点を決めたのはスペイン。右サイドのヤマルが作った深さを利用したオルモがマイナスで受けて先制点をゲット。アンドリッヒはルイスに引き寄せられて最終ラインに吸収されてしまうという手痛い状況となった。
構造は変わらないドイツは後半も同じ形で勝負。スペインは前半ほどライン間をタイトに管理できていなかったこともあり、ライン間に縦パスを差しつつ、外の滑走路を走って一気に押し下げる。特に右サイドは裏に抜けるところからの押し下げに成功した感がある。
それでもスコアを動かすことができないドイツはハヴァーツに加えてフュルクルクを投入。さらにはここにミュラーを入れるパワープレーに移行。この根性が実を結び、ミッテルシュテットのクロスをキミッヒが根性で折り返すと、ヴィルツがゴールを叩き込む。
ウィリアムスとヤマルというファストブレイクを完結させる両翼を下げてしまったスペインはだらっと早いリスターを繰り返すツケが回ってきた形。延長戦も優位に押し込むのはバランスが取れていたドイツの方だった。
しかしながら、スペインも反撃の手段がなかったわけではない。左のハーフスペースに佇むダニ・オルモにボールを預けて徐々に押し上げの時間を作ると、ドイツの攻撃を縦に速いカウンターに抑えるようになる。
すると、このダニ・オルモからスペインは勝ち越しゴールをゲット。オルモから放たれたクロスは2人目のボックス内のターゲットとなったメリーノの元に。値千金の勝ち越しゴールはソシエダのMFから生まれることとなった。
粘りを見せたドイツだったがここで敗退が決定。スペインの二の矢に屈し、ベスト8で姿を消すこととなった。
ひとこと
WGがいなくなった時点で攻め手が危うくなったと思われたスペイン。二の足を生み出したダニ・オルモの存在は偉大だった。あと、カルバハルとククレジャやばかったぜ。
試合結果
2024.7.5
EURO 2024
Quarter final
スペイン 2-1 ドイツ
シュツットガルト・アレナ
【得点者】
ESP:51′ オルモ, 119′ メリーノ
GER:89′ ヴィルツ
主審:アンソニー・テイラー
総括
ナーゲルスマンが見せた上々の突貫工事
大会前にフリッツを解任してナーゲルスマンが新監督になるという話を聞いたときは「え、それは爆死フラグではないのか。EUROに浅野はいないから落ち着いていいのではないか。」と思ったりもしたが、ドイツは普通にまともなチームで帰ってきた。開催国がベスト8と聞くと結果には満足できないかもしれないが、敗れた相手が優勝国だったことと内容を踏まえれば仕方ないところもあるのかなという感じである。
保持でのベースは2人のCBとクロースの3人。この3人が横の関係性を見ながら相手のブロックにギャップができるかを探っていく。CBはターもリュディガーも運ぶことは可能。ボアテングにボールを持たされてアワアワしていたロシアW杯のメキシコ戦とは時代は変わったのだなと思うし、スコットランドやハンガリーなどの引いて受けることを前提とするチームが多かったグループだったので、保持での駆け引きの手段を持っていたのはとてもよかったように思う。
もっとも楽なルートはスコットランド戦のようにこのクロース+2CBのプレス隊で相手が簡単にズレてくれること。そうなればライン間の住人であるギュンドアン、ヴィルツ、ムシアラにボールが入り、ここから前にボールを進めることができる。
それができなければ、例えば裏にハヴァーツが引っ張ったり、あるいは外からミッテルシュテットやキミッヒが襲い掛かったりなど縦に横に広げる手段がある。大外を駆け上がってクロスを上げたり、ボックス内でギリギリの折り返しを見せたりなど、キミッヒの振る舞いは偽とかではなく、純粋な縦移動のSBのタスクが多かった。
2列目はナローに、大外はSBでというナーゲルスマンの王道型をベースに選手の特性を掴んだ陣形をここまで短期間で形にするのはさすが。落とし込み方と仕上げる速さの両面で感銘を受けた。受けること一辺倒のチームがこのドイツと当たれば、正直太刀打ちするのは難しかったように思える。
その一方でトランジッション勝負に持ち込まれた時間帯もあったスペイン戦では脆さを見せたのは反省点になるだろう。基本プランがしっかりしていることの裏返しなのかもしれないが、あまり戦い方に幅があるチームではなく、多様な戦況に対応するというよりは自分たちのスタイルで押し切るチームということだろう。スペインがクローズしたライン間ではなかなか自慢の2列目は生きなかった。
まぁ、もちろん就任直後のチームなので足りない部分があるのは当然だろう。そういう意味では気になるのはクロースの引退の方かもしれない。このチームの保持の初手を担う司令塔の引退は今大会のベースプランの強度の維持に大きくかかわってくるはず。ナーゲルスマンにはクロース不在でのベース構築と多様な局面への対応力あるチーム作りが残りの2年で求められることになるだろう。
Pick up player:ヨシュア・キミッヒ
MFがSBをやっているというよりは普通のSBロールができる人がバリバリに足元がうまいくらいの感じ。バイエルンでも今は外のレーンでの仕事が多いので、普通のMFをしているところをあまり見なくなってしまった。