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「良化の兆しはあったのか?」~2020.12.16 プレミアリーグ 第13節 アーセナル×サウサンプトン レビュー

スタメンはこちら。

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■オーバメヤンについての考察

 この徒然なるままに方式のレビューを始めてから今回で3節目になります。元に戻し方がわからなくなってしまったので、今節もこの形で行きたいと思います。勝てないとPV数が下がるアーセナル関連のレビューにおいてなぜかあのバーンリー戦さえ数字がよかったので、意外とこの書き方は好評なのかもしれません。

   ちなみにこの形式のエントリーだけですます調なのはその方がまだ全体的にマイルドな感じがするように思えるからです。逆に言えば、マイルドにしないとキツめの内容になってしまうからこそ、この書き方になっています。

 さて、前置きが長くなりました。今節はサウサンプトンとの試合。25試合ホームでは負けていないという相性絶好調の対戦相手に対して、これほどまでに下馬評が低いことが直近のアーセナルの混迷ぶりを象徴していると思います。

    スタメンの変更点は4つ。うち3つは出場停止(ベジェリン、ジャカ)もしくは出場停止明け(ペペ)に絡むものでした。それ以外だとラカゼット⇒エンケティアの入れ替えがありました。

 バーンリー戦のレビューではそんなことを話している余裕なんてなかったのでスルーしましたが、前節からオーバメヤンの役割にはマイナーチェンジが施されています。具体的には中央で相棒を組む選手との縦関係がフラットな横関係に変化しているように見えます。これにより、オーバメヤンがサイドでボールに触る頻度が増えました。前々節までのPA待ち構え大作戦よりもより従来のWGで果たしていた役割に近づいた印象です。したがって、彼とコンビを組む相方の役割も変化します。

    純粋なトップ下ロールというよりはPA付近を主戦場にする2トップの一角のようにふるまう機会が増えました。この変化に伴い、ラカゼットだけはなくエンケティアにもこなせる役割になっています。ターンオーバーという側面に合わせて、オーバメヤンの相棒の資質がグラデーションのように変化していったように思えます。

   CF起用時には崩しの段階でパスを引き受けることはほぼなかったオーバメヤンでしたが、CFとWGのハーフ&ハーフのような今回の役割だとパスを受ける機会が増えます。ただしパスを受ける機会はハーフスペースより外側になることが多かったです。縦パスの引き出しが中央で2つになったことで縦パスで中央を使う機会はわずかながら増えました。それに伴いCFの落としを受けて、CHがより前方で前を向いてボールを触る機会も増えることになります。この点はバーンリー戦に比べて進歩した点といえるはずです。

   相手の目先を変えるという意味では、右利きのオーバメヤンが左サイドに流れるというのも効果があったかもしれません。ティアニーとサカが担当することが多い左サイドの攻撃ですが、この日はオーバメヤンとサカという利き足の異なる選手が左サイドの攻撃をつかさどっていました。

    ただし、オーバメヤン個人にフォーカスした時にこのサイドでのボールタッチの増加がいいものなのかはわかりません。最終的にはPA内のいい位置で彼にシュートを打たせることがアーセナルの攻撃の終着点になります。オーバメヤンのCF起用はWGよりも単純にゴールに近い位置で持たせれば得点機会が増えるはず!という点で多くの現地ファンやジャーナリスト、ついでにTwitter上の日本のアーセナルファンも声高に叫んでいた変更かと思います。しかし、改めて言うことでもないですがシュートがうまい選手をゴールに近い位置に立たせればそれだけで得点機会が増えるわけではないということは、ここ数試合のアーセナルを見ていれば自明でしょう。

   むしろアーセナルにおけるオーバメヤンはかつてのWG起用時の方が多くの決定的なチャンスがありました。それは彼の斜めのゴールに向かうオフザボールの動きに相手のDFが対応しきれない場面があるからです。初めからそこにいるよりも、侵入してそこで受けるほうが結果的に機会が増えるというやつでしょうか。

   オーバメヤン個人にフォーカスした話が続きますが、この試合で彼は久しぶりの得点を挙げました。この得点の動きを振り返ると、スタートポジションとして外に開いた状態から斜め方向に切り込んでいく動きでシュートを放っています。この動きはオーバメヤンを生かすうえで理想的な攻撃といえるでしょう。

   しかしながら、このオーバメヤンの外から中に動くオフザボールでの斜めの走り込みはこのゴールシーンを除けば、ほぼみられるものではありませんでした。むしろ、彼がサイドに流れることを前提としたパスが送り込まれることは時間と共に増加していき、大外の深い位置からSBと対峙することもありました。こうなるといわれるストライカーをゴールから遠ざけるだけのWG起用に成り下がってしまいます。

    得点シーンにおいても、2,3人を引き付けることが出来るサカのウルトラCのドリブルがあってこそ、オーバメヤンには内側に入り込むスペースができました。裏を返せば、サカがこの難しいドリブルを成功させなければオーバメヤンにはシュート機会すら与えられなかったことになります。

    このように現状でのアーセナルはWG成分が増したオーバメヤンをフィニッシャーとして生かす設計が十分になされているとはいいがたいです。しかし、右利きの選手が左サイドの崩しに加わることや中央で縦パスの受け手が増えることなど一定の副次的な効果は目に見えました。これがバーンリー戦よりもわずかながらも良化したと感じられる部分ではあります。

■対応は今ある状況に対してするべき

    ボール保持時はオーバメヤンとエンケティアの4-4-2という表現がこの日のアーセナルにはしっくりきます。一方で、非保持の場面では5-2-3のような形で受けることが多かったです。オーバメヤンをWGとCFのハーフ&ハーフと表現しましたが、この日のサカはSHとWBのハーフ&ハーフといった様相でした。

   非保持における5バック化の目的はおそらく前方へのチャレンジ強化ではないでしょうか。サウサンプトンの特徴はフィールドプレイヤーの可塑性が高い布陣を組んでいることです。特に前線のローテーションは自在で、とりわけSHの内側に絞る動きやCFの降りてくる動きでDFラインとMFラインの間の内側のスペースで受けることを狙うことが多いです。ここから横パスを交換し、最終ラインをブレイクする裏抜けを前方の選手に促します。なのでここを積極的に潰せるように、アーセナルはCBが前方にアタックをかけやすいように5バックへの変更をしたのだと考えます。

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   しかし、アーセナルには誤算が2つありました。1つは楔に対するCHのフォローが不十分だったことです。理想的なのは縦パスに対して、DF-MFライン間を狭く保ち、ライン間に入るボールを圧縮して挟み込んで取り切ることです。

   ですが、セバージョスもエルネニーもこの役割を完遂したとは言えません。挟み込んで取り切るという役割を手助けにするのには効いていませんした。

 もう1つはCBの対人能力です。多少の不利があったとしても、今季の最後の砦として何とかしてくれているのがガブリエル・マガリャンイスでした。ただ、この試合では屈強でスピードのあるセインツの前線にかなり手を焼いていました。

   前に捕まえにいっていいよ!と後ろの枚数を余裕をもたせていたのですが、肝心のマガリャンイスがその対人で優位を作れずにそこから進まれてしまう状況が発生してしまいました。楔に対して出ていった選手のカバーにアーセナルの選手はわちゃわちゃすること多く、ボールサイドにやたら人数をかけて逆側やバイタルが留守になる結果になりがちです。

 この2つの課題が合わさったのがサウサンプトンの先制点の場面です。アダムスの楔に対して、エルネニーは簡単に滑ってしまい、セバージョスは挟み込むことを怠りました。その結果、マガリャンイスの出ていく動きと逆に向かうウォルコットの動きにアーセナルの最終ラインはついていけませんでした。

 アーセナルはあらゆる攻撃の起点となる絞るSHと降りるCFの動きについていけず、サウサンプトンの攻撃を90分通して受けることになりました。マッチアップの優劣とマガリャンイスへのフォローが中盤で不在ということを考えると、この試合においてはマガリャンイスが警告を受けずに試合を終わることは難しかったように思います。それだけに1枚目のボールを放り投げるアクションでの警告は非常にもったいなかったです。

   しかしながら、マガリャンイスが警告を受けた状況においてもアーセナルは楔に対して同じ解決法で臨んでいました。流れを見ると1枚目の警告の不用意さを嘆きたくなる(実際に僕も嘆きました)のですが、サッカーは常に今あるシチュエーションに対してどのような対応するかの連続です。

   2枚目の警告を受けたシチュエーションについて、時間的に不可逆な1枚目の警告の場面を嘆くというのは道理が通りません。アーセナルは彼が1枚すでに警告を受けている前提で課題の解決を図らなければいけなかったし、いいチームはそのようなカードトラブルに関する対応を容易く行います。モウリーニョがやたらうまいイメージです。

   すなわち、マガリャンイスの退場は戦術的な駆け引きにおいてアーセナルをサウサンプトンが上回った結果ということが言えるのではないでしょうか。楔を通された後の選手個々人の慌てぶりにもあてはまる話なのですが、刻々と変化している状況に対しての対応という面で今のチームは非常に未熟だといえるでしょう。

   10人になったことでサウサンプトンはやりにくくなったように見えました。縦横無尽に振り回すことでアーセナルの陣地に好き放題穴をあけていたサウサンプトンにとって、割り切って自陣に引きこもられるという対応は必ずしもいいことばかりとは限りません。攻撃機会をサウサンプトンが多く得るのは間違いないですが、その攻撃のシチュエーションの質が向上することが伴うことが保証されているわけではないのです。

   スペースがない状態での攻撃には当然人数をかける必要があります。したがってサウサンプトンはラインを上げて攻めあがる姿勢を見せます。サウサンプトンには最終ラインのスピード不足という課題があります。SBが高い位置を取り、重心を上げた状況は苦手です。だからこそ彼らは裏への長いボールを終着点とすることで、パスカットによるショートカウンターを受けないように工夫をしているのです。

   このシチュエーションはアーセナルにとってはロングカウンターの好機といえます。機会は減少しますが、質としては必ずしも悪い状況ではないように思えました。結果的には生かせなかったですし、生かす馬力もなかったですが。

■ファンが見たいものは何か

   この試合のアーセナルをまとめます。部分的な向上は見られたように思います。中央におけるパスの受け手、使う意識、左サイドのアングルの話など。どこまで狙った状況かは定かではありませんが、オーバメヤンのカットインからの得点が決まったことが一番大きい収穫になる可能性もあります。

   一方で自分のこの評価はバーンリー戦を見て、このチームの力は少し底が抜けてしまったと判断したことにも基づいています。したがって、改善が見られたとしてもサウサンプトンに勝てなかったり、あるいは負けてしまったりする実力のチームであることは認めなければいけません。

   いいプレーに対するチームメイトへのリアクション、悪いプレーに対する悔しがり方、不利なジャッジを受けた時の反発の姿勢(本来はよくないことかもしれないですが)など今のアーセナルにはあらゆる感情が欠けています。

    オーバメヤンが代表格なのですが、コンディションどうこうよりも魂が抜けてしまっているかのようです。多くの選手がはたから見るとあまりサッカーをすることやいいプレーを見せることにフォーカスしきれているようには見えません。

    なのでまだ勝利を目指す集団としてプレミアリーグで戦える水準には達していないように見えます。まずは戦術云々よりも相手より勝ちたいという気持ちを見せてくれるプレーが1つでも増えることを今のアーセナルファンは願っているのではないでしょうか。

試合結果
2020.12.16
プレミアリーグ
第13節
アーセナル 1-1 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:52′ オーバメヤン 
SOU:18′ ウォルコット
主審:ポール・ティアニー

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