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「機会が同じならば」~2020.12.29 プレミアリーグ 第16節 ブライトン×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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■前節ほどうまくいかなかった理由

 どちらのチームもあまりうまくいった前半とは言えなかったでしょう。共にプレッシングをかけあうものの、そのプレスが的確にハマる頻度は少なく、相手をプレスでハメ殺すまでは至りませんでした。ビルドアップにおいても、プレスを完全にいなしてシュートまで持って行けるわけではありません。互いにボールを取る位置が深くなる上に相手を外しきれない状態になります。したがって、互いに拙攻が繰り広げられる前半になりました。

 アーセナルは前節と比べると前進が難しくなっていました。要因はいくつかあると思います。まずは前節と比べると重心が後ろ向きになりがちだったこと。とりわけこれはCHに顕著で最終ラインのCBの間に落ちたり、CBの脇に下りたりする頻度が多かったです。これがアドリブなのかそういう指針なのかは微妙なところです。ブライトンの守備は内側のパスを狙っていた節もあるので、危険なロストをなるべく避けるために迂回した外循環を重視した可能性もあります。

 個人単位で見るとエルネニーが中央で前を向く動きをするときにロストする頻度が前節と同じく多かったです。2,3回ほどブライトンのカウンターの温床になっていたので個人の判断でそれを避けていた可能性もあります。確かにボール奪取においてビスマは効いていました。いずれにせよ、CHのボールタッチの重心が下がってしまうことで、相手の2列目を動かすことができません。

 中央の起点作りという意味ではラカゼットの不在も大きいでしょう。オーバメヤンはワンタッチでのリターンが多く背負えない上に、降りてきたあとのエリア内に迫る動きが重く、組み立てに参加するとフィニッシュに顔をだせなくなってしまいます。

 ブライトンはグロスやプロパーのインハーや前線の選手が相手の配置に合わせてフォーメーションを変化させながらアーセナルをうまく追い込んでいたように思います。アーセナルがサイドに展開した時もブライトンの撤退は間に合っていました。チェルシー戦では相手に先んじて裏をとることもできていたティアニーのオフザボールの動きも、5バックのブライトン相手だと必ず1人はかわさなければ良質なクロスを上げられない状況でした。うまくいかなかった理由としては自分たちのプレーの精度に加えて、相手の要因もあったように思います。

■足りない理由はシンプル

 ブライトンの保持もうまくいっていたわけではありません。ブライトンの攻撃のいい時は幅と奥行き、そして間をうまく使い分けられている印象です。

 まず幅に関してはWBが大きな役割を果たしています。片方のWBがまずボールを持つことで相手を引っ張り、逆サイドまで展開してえぐります。もしくはダイレクトにフィニッシュ。しかし、これはランプティとマーチの両雄がそろってこそです。前者は欠場、後者はベンチになったこの試合では片側サイドからの単純なクロスに終始しがちでした。

 奥行きはウェルベックとモペイが作り出します。サイドに流れながらボールを引き出すことに長けているストライカーたちは内側に入り込めるWBやPA内まで駆け上がれるCHなどと相性が良好です。しかし、この試合のCFであるジャハンバクシュとアリスターはウェルベックとモペイほどスペースメイクに優れているわけではありません。

 そして、間。これは裏に抜ける人がいてこそ生きるという部分もありますが、キャラクターで言えばララーナのような選手がいたほうが機能します。要は、アタッカー陣を中心にこの日のブライトンは少しメンバー的には割引だったわけです。

 チャンスを作るが仕留められない!がデフォルトのチームにとって、そもそもの礎となるチャンスの数を作り出すメカニズムが成り立たなければこうなってしまうのはある意味当然です。

 先述のようにエルネニーを狙い撃ちしたプレスから数回ほどチャンスを得る機会は確かにありましたが、それを仕留められているならこんな順位にいるわけがありません。それがブライトンというチームです。

■強みを前に押し出して勝負

 シュートの数で言えば前半は相対的に組み立てがうまくいっていたブライトンが優勢でした。ビスマと最終ラインからのロングボールはアーセナルのプレスに対して効果を発揮しています。ブライトンはプレス耐性で言えば、プレミアでもかなり上の方だと思います。

 そして、後半はアーセナルの方が多くのシュートを撃つことになります。数字の増加はそのまま試合展開の優劣につながっていきます。後半にアーセナルが主導権を握り返した理由は、高い位置のプレスに来るブライトンに対してサイドから素早くハイラインの裏を狙うことができていたからです。

 最終ラインのティアニーや落ちるジャカからの素早い縦への展開は、スピード不足のブライトンの最終ラインを苦しめました。ブライトンのプレスはサイドの深い位置まで届かないことが多かったので、彼らから長いボールを出すことは可能でした。

 今のアーセナルの2列目の強みは何といっても動き出しです。マルティネッリ、サカ、スミス=ロウの3人の動き出しは今のアーセナルには大きな武器です。単体でのロングボールでの抜け出しはもちろん、CFの降りる動きと組み合わせることによってブライトンの最終ラインを前後に揺さぶることができます。オーバメヤンよりラカゼットの方がこの2列目と組み合わせた時に輝きやすいのは、この黒子としての働きに適しているからです。オーバメヤンも後半には改善の兆しを見せましたが。

 特にラインブレイクで違いを見せたのはサカでした。途中交代で入ったラカゼットへのアシストに加えて、斜め方向の動きを駆使しながら捕まえさせないフリーランでブライトンをかく乱します。

 他方、ブライトンは後半も苦しみました。マーチは1列前のシャドーでの起用でしたし、モペイを投入しても得点後にラインを下げたアーセナル相手には揺さぶりをかけられません。アーセナルも後半にバカすか決定機があったわけではないのですが、難易度の高いシュートを一発で仕留めたラカゼットの得点こそ、ブライトンに足りていないものでした。同じだけの主導権を握る機会、同じ得点機会だったらアーセナルが勝つ。そんな試合でした。

■迷える3人の起用法を考える

 さて、割とコンパクトに終わったので、今のアーセナルのアタッカー陣について考えていこうと思います。サカ、マルティネッリ、スミス=ロウのトリオ、そしてそれを助けるラカゼットは今のアーセナルの復調の象徴になっています。しかし、この過密日程の中でアタッカー陣は彼ら4人に頼るわけにはいきません。

 また若手選手が多いチームは確かに希望がありますが、若手を使うことが目的になってはいけません。疲労で彼らのパフォーマンスが落ちればその時はローテーションを採用することは当然視野に入れなくてはいけません。

 というわけでここでは中堅やベテランの3人の選手について起用法を考えていきたいです。

 まずはウィリアンについて。おそらく彼は裏へのフリーランをガンガンするタイプではないでしょう。むしろ、他の選手が裏抜けすることで作った間のスペースで受けながらボールを運ぶ役割が適しているように思えます。

 もっとも、その動きはすでに不調のタームにおいてもできていました。彼に関して気になるのは、むしろ受けてからの動きの重さ。アーセナルに加入してからの彼についての初めての印象は「あれ?守備ってこんな感じ?」というもの。チェルシー時代の守備に献身的だった彼の姿勢があまり見られなかったことが真っ先に気になりました。あとプレースキックも。

 スタメンの2列目の3人が非保持における貢献度も高い状態なので、まずはその水準はウィリアンには求めたいところ。それさえできれば攻撃の多少の重さには目をつぶっての起用も可能かと思います。いや、攻撃も動ける方がいいのですけども。

 次はオーバメヤン。CF起用時にラカゼットのような役割を求めることはそもそもお門違いでしょう。エンケティアに比べればボールを収めることには向いていますが、ゴールをどうとるかから逆算していくべきだと思います。

 前提としてとらえておきたいのは今季のアーセナルは彼が得点を取ることから逆算するところから始まったチームであるということです。そして、それにも関わらず彼の状態は駆け引きに機敏さがなく重さがあります。

 オーバメヤンの得点機会を確保するという面でゴールに近づけようというのがCF起用の意図でしょう。しかしながら、その位置に立っておけば得点を取れるというほど簡単ではありません。ラカゼットのトップ下起用も同じで、間受けを増やしたい選手をトップ下に置けば間受けは増えることはありません。

 むしろ、動いてそのスペースに入りこむからこそ、受けやすいという要素もあると思います。ラカゼットはCFで起用されていれば基本的にマッチアップはCBになるでしょうが、その状態で降りてくるために相手の選手が受け渡すかついていくかの選択を迫られてギャップができます。はじめからトップ下の位置に立っていては相手からするとアンカーがつぶしてしまえばそれでおしまいです。

 同じ理屈として、今のオーバメヤンには動きを伴いながらフィニッシュに向かったほうがいいかもしれません。相手にとっての捕まえにくさもそうだし、彼個人にとっても動きがなければゴールエリアに近づけないWGの方が今はあっているように思えます。まずは得点に向けて動くムーブを義務付けることでフォームを取り戻してほしいです。

 最後はペペです。今までのプレースタイルとのギャップを感じるここまでの2人と異なり、どちらかと言えば彼はこのスタイルをどう生かしていくか?が悩ましい選手です。

 現状としてはエクストラプレイヤーが最適でしょう。1on1でのタメの作り方や突破力で言えばチーム随一です。チェルシーもブライトンもそうではありませんでしたが、より撤退したチームに対しては彼の突破力は切り札になりえます。例えば、次節のウェストブロムはこれに当てはまるやり方を敷いてくる可能性があります。

 プレースキッカーとしても優秀です。PKキッカーとしてはおそらく1番手(もしかすると純粋なうまさではメイトランド=ナイルズの方が上かもしれませんが)、FKキッカーとしても有力な選択肢といえます。自陣に撤退しているチームに対してはセットプレーの機会も増えますし、課題である撤退時の守備のポジションも覆い隠されます。

 強豪相手の差し合いに関して言えば、この守備における課題が大きな足かせとなります。相手のLSBにぶつければ得点を生み出す可能性もありますが、一方でそこがブロック守備のほころびになりえます。

 これが3選手それぞれについての懸念、強み、使いどころになります。若手を使うことが目的になってしまってはいけないのと同じように、高い給料や移籍金も起用の理由にはなりえません。健全な競争でレギュラーを確固たるものにするには三者三様の課題があるというのが現在の自分の認識です。

目次

あとがき

■まずは自分

 ブライトン相手にはチェルシーにぶつけたやり方はそこまでハマらないことは個人的には想定内です。ブロック守備のリトリートは割り切ってくるし、後ろからどこが空くかを共有しながらつないでくるビルドアップには前節のアーセナルの精度のプレスではハマらないのは十分に予想できたことです。

 しかしながら、いい流れを久々につかんだチェルシー戦の手法を継続することもまた想定内ともいえます。これまでのレビューで散々述べたようにアーセナルはこれまで相手どうこうというよりも、自分たちが一定の水準に達していないために戦えてないことが問題でした。

 ひとまず、戦うやり方とメンバーを手にした前節のやり方を踏襲するのは当然です。というか、それ以外の選択肢はありません。中2日だろうが、ハマらない相手だろうがそれで臨まなくてはいけなかったはずというのが自分の見解です。もちろん、そこから策を広げる方向に向かわなければ勝ち点は落としやすいのですが。

 前節のチェルシーに比べれば、ここから対戦するウェストブロムもクリスタル・パレスもこの策が効きやすい相手のようには思いません。それでもまずはここで勝ち点を確保すること。そして、プレーの幅、選手起用の幅を広げる自信を手にすること。現実的にはこれが1月上旬の2試合の目標となるのではないでしょうか。

試合結果
2020.12.29
プレミアリーグ
第16節
ブライトン 0-1 アーセナル
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
ARS: 66′ ラカゼット
主審: クレイグ・ポーソン

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