【ベスト8】ドイツ
ナーゲルスマンが見せた上々の突貫工事
大会前にフリッツを解任してナーゲルスマンが新監督になるという話を聞いたときは「え、それは爆死フラグではないのか。EUROに浅野はいないから落ち着いていいのではないか。」と思ったりもしたが、ドイツは普通にまともなチームで帰ってきた。開催国がベスト8と聞くと結果には満足できないかもしれないが、敗れた相手が優勝国だったことと内容を踏まえれば仕方ないところもあるのかなという感じである。
保持でのベースは2人のCBとクロースの3人。この3人が横の関係性を見ながら相手のブロックにギャップができるかを探っていく。CBはターもリュディガーも運ぶことは可能。ボアテングにボールを持たされてアワアワしていたロシアW杯のメキシコ戦とは時代は変わったのだなと思うし、スコットランドやハンガリーなどの引いて受けることを前提とするチームが多かったグループだったので、保持での駆け引きの手段を持っていたのはとてもよかったように思う。
もっとも楽なルートはスコットランド戦のようにこのクロース+2CBのプレス隊で相手が簡単にズレてくれること。そうなればライン間の住人であるギュンドアン、ヴィルツ、ムシアラにボールが入り、ここから前にボールを進めることができる。
それができなければ、例えば裏にハヴァーツが引っ張ったり、あるいは外からミッテルシュテットやキミッヒが襲い掛かったりなど縦に横に広げる手段がある。大外を駆け上がってクロスを上げたり、ボックス内でギリギリの折り返しを見せたりなど、キミッヒの振る舞いは偽とかではなく、純粋な縦移動のSBのタスクが多かった。
2列目はナローに、大外はSBでというナーゲルスマンの王道型をベースに選手の特性を掴んだ陣形をここまで短期間で形にするのはさすが。落とし込み方と仕上げる速さの両面で感銘を受けた。受けること一辺倒のチームがこのドイツと当たれば、正直太刀打ちするのは難しかったように思える。
その一方でトランジッション勝負に持ち込まれた時間帯もあったスペイン戦では脆さを見せたのは反省点になるだろう。基本プランがしっかりしていることの裏返しなのかもしれないが、あまり戦い方に幅があるチームではなく、多様な戦況に対応するというよりは自分たちのスタイルで押し切るチームということだろう。スペインがクローズしたライン間ではなかなか自慢の2列目は生きなかった。
まぁ、もちろん就任直後のチームなので足りない部分があるのは当然だろう。そういう意味では気になるのはクロースの引退の方かもしれない。このチームの保持の初手を担う司令塔の引退は今大会のベースプランの強度の維持に大きくかかわってくるはず。ナーゲルスマンにはクロース不在でのベース構築と多様な局面への対応力あるチーム作りが残りの2年で求められることになるだろう。
Pick up player:ヨシュア・キミッヒ
MFがSBをやっているというよりは普通のSBロールができる人がバリバリに足元がうまいくらいの感じ。バイエルンでも今は外のレーンでの仕事が多いので、普通のMFをしているところをあまり見なくなってしまった。
【ベスト8】スイス
大会随一の完成度と対応力を併せ持つ好チーム
代表チームがクラブチームのように成熟した戦い方を見せられなくなって久しいが、「まるでクラブチームのように戦う」という点で今大会個人的にナンバーワンだったのはスイス。完成度の高さを武器にベスト8入りは当然!という形で勝ち上がってきた。
もっとも、興味を引くのはやはり左サイドの可変だろう。WBのアエビシェールはインサイドに絞って働くことができるだけでなく、10番としてライン間に君臨。ハンガリー戦ではアタッキングサードで決定的な仕事を果たして、見事に勝利に貢献して見せた。
スイスの完成度の高さはこの左サイドのアエビシェールの動きをアナーキーな個人の動きにとどめないことだろう。同シャドーのバルガス、CBのロドリゲスは大外に代わりに張ることで幅を担保。アエビシェールにインサイドに入っていくことを促す。
CFのエンボロもサイドに流れつつ奥へのランで手前にスペースを作る動きを見せている。フィニッシャーとしてだけでなく、チャンスメーカーとしても大きな貢献を果たしているといえるだろう。
こうしたサイド攻撃をアカンジやジャカが操るとなれば、安定感は折り紙付き。ジョーカーの飛び出しを起点とした攻めをバランスよくユニットで支える仕組みができており、この大会の中でも随一の完成度を見せていた。
保持一辺倒ではないのもチームとしての魅力。リトリート、ハイプレス、カウンターなどほかの局面においても完成度の高さを見せているのもこのチームのいいところ。イングランドはスイスの保持に対してきっちり対策を組んできたが、スイスはストロングの左サイドを使わずに揺さぶるなど対策をされた時の対応力も良好。敗れはしたがこの大会でもっとも好感を持って応援したくなるチームとなった。
主力の年齢的にも2年後も期待できるチームといっていいだろう。コンスタントな成績と裏腹に突き抜けるビッグトーナメントでの成績がないチームとしての印象が強いスイスだが、ワールドカップではそのガラスの天井を突き破る大きなチャンスを迎えることになるだろう。
Pick up player:ブレール・エンボロ
パワーとスピードで押していくタイプなのかなという先入観とは裏腹に、細かい芸当やオフザボールの動きのきめ細やかさも際立った。いい意味で裏切られた選手。
【ベスト8】ポルトガル
異なる個性のサイドアタックとフィニッシュのバランスに苦戦
おそらく、これがロナウドの最後のEUROになるであろうポルトガル。だが、8年ぶりのタイトル獲得とはならず、フランスを前に散ってしまうこととなった。
グループステージではスペインと並び、2節目までで首位での通過を決めた2つのチームの内の1つではあった。そう聞くと順調な感じもするが、結果的に王者となったスペインと比べると、内容面ではしんどいものがあった。
ビルドアップではCBとCHが連携し、SBを解放するのが基本線。特に右のSBに入ったカンセロはフリーロールを務めることが多かった。ビルドアップ隊は左右のサイドを解放することが最優先である。左右のサイドには前進の仕方にかなり個性があった。
右サイドは不定形。ベルナルド、ブルーノ・フェルナンデスといったMF系の選手たちが入れ代わり立ち代わり出入りしながらフリーマンを作ってクロスを上げていく。左サイドはレオンの単騎。1on1で対面を振り回しながら根性で突破していく形からチャンスを作る。周りを使えればなおいいのだけども、連携らしい連携は見られずに最後まで単騎で押し切る!という感じ。
単騎型にはコンセイソン、ネトというチェコ戦で結果を出したジョーカーコンビがいて、連携型としてはジョタが控えている形ではある。ジョーカーの機能性としては正直名前の割には微妙だなという気持ちもあった。単騎型はチェコ戦以外でバリューを出すのに苦しんでいたし、連携型のジョタは交代前の選手よりもFW寄りの選手なので、単純に与えられた役割に苦しんでいたように見える。
しかしながら、やはり一番のノッキングはフィニッシャーとしてのロナウドだろう。ファーサイドを中心に競り合いを仕掛けるのだが、なかなかこのヘディングが枠に飛ばなかった。単純にこの年齢でこれだけガンガンクロスに合わせていくのはすごいなとは思うのだが、相手を外してフリーになる場面は心なしか減ったように思える。
もっとも、これはロナウドだけの問題というよりは彼以外にターゲットマンがいないというチームの問題である。2列目から飛び込む選手がいれば、もっとクロスの幅は出てくるがそうした動きはあまり多くは見られなかった。もしかすると、崩しにかける人数とのバランスがうまくいかなかったのかもしれない。
敗れたフランス戦では後方の堅さとトランジッション強度、サイドの大駒の生かし方など、いくつかの項目ががっちりと上位互換な相手を引いてしまった感じ。オウンゴールでビハインドに陥った後になかなか打つ手が見えなかった。今後の指針としてはロナウドに代わるフィニッシャーがラモスで十分か?ということと持て余している感のある崩しの精度の改善がメインになるだろう。
今大会は残念な結果ではあったが、スロベニア戦はハイライトになる一戦として多くの人の記憶に残るはずだ。決めれば史上初の6大会連続得点となるPKを仕留められないロナウドの涙は画になるし、スロベニアサポーターが盛り上がる空気を涼しい顔でひっくり返したディオゴ・コスタのPK戦の1つ目のセービングも忘れられない。代表戦ってこうだよね!っていう試合を提供してくれた今大会のポルトガルには感謝したい。
Pick up player:ぺぺ
ロナウドよりも年上で見た目もきっちり老けているのに、プレーは全然老け込まない人。ゆがんだフォーメーションのケツ拭きとかを平気でやれてしまうクオリティは今大会でも維持されていることが証明された。
【ベスト8】トルコ
タレント集団の台頭と守備での柔軟性の向上が躍進の原動力
EUROにはきっちりと出場を続けている一方で出た大会ではなかなか思うように結果を残せていないトルコ。ビックトーナメントでは失望が重なる時期が続いていたが、今大会でのベスト8はようやく胸を張っていい成績を上げることができた。
最も大きいのはやはり前線のタレント化が進んでいることだろう。ここで改めていうまでもなく、ギュレルにとっては才能を世界に示す大会になった。直線的にゴールを陥れる能力はもちろんのこと、降りるアクションから試合を落ち着かせるスキルも持っていて、テンポを変えたりギャップづくりができるあたりもえげつないなと感じた。
ユルマズ、ユルディズといったほかの前線や自由に動き回るコクチュ、SBから個性を発揮したカディオグルなどのタレントの台頭も顕著。見ていてワクワクするチームに変化を遂げた。
地味に目を向けたいのはバックスの安定感である。こちらは個々の守備力が大幅に上がったとは言い難いが、試合の流れの中でアイハンなどMFとDFラインを適切に行ったり来たりできる選手が登場することで後ろの負荷を下げることができていたのは受けに回る展開になった時の助けになっていた。
多少は落ち着かせる算段はあるとはいえ、オーストリアに空中殺法を仕掛けられた時の危うさや、10人のチェコに死なば諸共特攻を食らった時のアワアワ感を見ると、優位な展開を守るための自衛手段が今後は課題になってくるのだろう。どこが相手でも風穴を開けることはできる勢いはあるけども、なんでもない時間をきっちりやり過ごすことも昨今の代表戦のサッカーには求められる。そこをクリアできるかが悲願のW杯出場に向けた課題になるのかもしれない。
Pick up player:アルダ・ギュレル
まさしく才能を世界に示す大会になった。ゴールよし、クロスよし、ゲームコントロールよしと個人で貢献できることはほぼ全てやったのではないか。来季のマドリーでのパフォーマンスを見るのが今から楽しみだ。