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「積み木ロボットとバズーカ」~2018.9.1 J1 第25節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

負けちまったぜ。スタメンはこちら。

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目次

【前半】
G大阪2列目の献身により限られた川崎の選択肢

 G大阪は5-4ブロック。ただし、序盤は自陣ベタ引きではなく倉田、小野瀬、渡邉を中心にハーフライン付近からチェイスをしていた。前線の選手が献身的なおかげで人を捕まえることができて、ブロック自体のスライドもかなり間に合っていた。

 5-4ブロックは全体の重心としてはかなり後ろに人数が多め。しかもワントップは渡邉であり、独力でロングカウンターの起点としては機能するのは難しい。となるとその前で攻撃を止めたいので、宮本監督は自陣ベタ引きではなくハーフライン付近からプレス開始で最終ラインはPA前の高さのミドルプレスを選択したのだろう。渡邉、倉田、小野瀬、藤春あたりは走力があるので、川崎の低い位置でミスが出ればカウンターにも出られる。

 G大阪の守備は刈り取るまで寄せるというよりはプレーをしにくい距離感まで詰めるという意識が高かったように見える。いわば我慢が必要な戦いを選択したように思えたが、これを後押ししたのが7分の先制点だろう。点が入らなくてもこのプランは継続していくつもりだっただろうが、先制点がこのプランの勇気づけに一役買ったことは間違いない。サイドにしっかり囲い込めていたと思う。いい日の川崎なら同サイドでの突破も可能だったかもしれないが、この日の川崎はプレービジョンの共有がイマイチでそれは無理だった。

 4分。おそらく車屋と谷口以外のすべてのフィールドプレイヤーが敵陣に入っているシーン。左下のエウシーニョ、中央の小林を除けば左サイドに6人いるが、このあとボールを持っている守田は左サイドにパスを出してロスト。カウンターを受けた。中央の中村に出したかった気もするがそのプレーは選択できなかった。

 同サイドが辛いならば中央を打開したいところだが、中央の遠藤、今野に加え倉田と小野瀬が空いた中央のスペースをかわるがわる埋めていたので、なかなかチャンスは作れない。

 それならば狙いは逆サイド。このシーンは倉田がセンターサークル付近にいるため、ガンバとしては陣形が片側によっている場面といえる。ボールホルダーは守田。後方の谷口にパス。倉田は谷口にプレスをかける。

 谷口は逆サイドのエウシーニョへ。しかしG大阪のDF陣のスライドは間に合っておる。この後エウシーニョ→小林へのパスを狙うもミスが起こり攻撃はそこで終了。

 おそらく倉田が谷口にプレスをかけた時点で藤春はエウシーニョへのチェイスができていたはず。守田が持っていた時にはかなりエウシーニョと藤春の距離は空いていたが、谷口を経由したことでスライドが間に合った。

 ネットならばこのパスはダイレクトでエウシーニョに通っていたかもしれない。もちろん守田の能力は高い。守備面はいわずもがな、同サイド縦方向の穴を見つけてパスを出す能力はシーズンを通して向上してきた。
ただ、このような同サイドを崩せない試合において、ネットの高速サイドチェンジが昨年までの川崎の大きな武器であったことは事実。今年に入ってサイドチェンジによる局面打開の質が下がっているのは明らかだし、この試合のように大人数での崩しの絵が共有できない試合でも、出し手と受け手の2人の呼吸が合えば、比較的平易にチャンスを作り出せた場面もよくあった。
彼のようにサイドチェンジができる選手はJリーグを見渡してもほぼいないので、守田に同様の能力を求めることは酷だろう。それならばこの試合も人数をかけた同サイドで崩す必要があった。

 それでもチャンスがなかったわけではない。中央で家長がボールを受ける。ハーフスペースで自陣におりてきた阿部に三浦がチェイス。この時にファビオは特にスライドしないためスペースが空く。阿部が反転し、三浦をはがす。ファビオの位置は先ほどと変わらない。

 そのスペースを家長が狙って侵入。秀逸だったのは遠藤の動き。中央の大島を捨てて家長のカバーに迷わず動いた。スピードは速くないが、判断が早い。家長のコントロールが大きくなった+遠藤のカバーにより大きなピンチにはならなかった。

 別のシーン。大外でボールを持った登里。開いた阿部に三浦がついていく。先ほど同様ファビオは中央から動かない。

 ファビオと三浦の間に侵入した中村が登里へパス。中央では大島が飛び込むスペースが空いている。このシーンは登里の位置がオフサイドになり、決定機にはならなかった。35分に登里がカットインした形も似たような構図。

 G大阪は2列目がうまくいれかわり立ち替わりカバーしあっているのとは対照的に、最終ラインのカバーリングには難が見えた。特にファビオのカバーリングは怪しかった。先に紹介したサイドチェンジのシーンではうまくスライドに成功しているが、あれはカバーしたというよりは小林というターゲットについていったと考えたほうがいいだろう。34分の小林のシュートもファビオの裏を使ったシーン。これは三浦がカバーした。

 川崎が狙える部分は確かにあった。しかしいずれもチャンスを生かせなかった。

 それでも前半の終盤を過ぎると川崎は中央のギャップを徐々につけるようになり、ライン間に選手が侵入するシーンが目立ってきた。それでも得点はおろか、枠内シュートすらままならない。PA内での対人守備においてはG大阪のDFは集中していた。

 そんな中でアクシデント。大島が負傷により離脱。この試合の大島は動きの頻度が少なく、試合途中で負傷したままプレーしたのではないかと推測できるくらいだった。これにより川崎は大島→齋藤学の交代を行う。家長がトップ下、中村がボランチに移った。

【後半】
大島→齋藤の交代の影響

 個人的にはこの采配がとても悪手だったように思う。
川崎の狙いどころはライン間に侵入してG大阪の最終ラインで穴が空いたスペースを使うこと。このライン間侵入は中村や大島(この試合は質量ともに不足していたけど)を軸に行われていた。
この交代によってチームで一番ライン間で受けて、その先の相手の痛いところを突くパスを出せる中村をその位置から遠ざけることになった。守田もこの動きはできるが、隣に大島と比べ守備の可動範囲に難がある中村がいる以上、むやみやたらに上がっていくわけにはいかない。

 さらに交代で入った齋藤は阿部に比べて特にインサイドのオフザボールの受け方がうまくない。そのため、ここまで右に比べると機能していた川崎の左サイドの崩しも機能不全に陥ってしまった。

 人についていきスペースを空ける最終ラインの間を使い、なんとかチャンスを作り出そうとするが、それが結実する前に再度G大阪が得点。

 このシーンではニアでボールが触れられると予測したのか、谷口が完全にファビオのマークを空けてしまう。今回の代表発表後に多くの川崎ファンは谷口の代表入りを望んでいたが、皮肉にもこのタイミングで代表を嘱望されるDFとしてはとても悔やまれるミスをしてしまった。1失点目の車屋もしかり、マンマーク形式のコーナーキックで両CBがそれぞれマッチアップ相手に出し抜かれた失点はいただけない。

 2枚目の交代カードは中村→知念。この試合に関しては人に強い知念の投入自体は悪くはないはず。小林のマークも空くし。ただ、中村を下げたことにより、もう川崎には少ないタッチ数で効果的なパスを打ち込める選手が単純にいなくなってしまった。
これに伴って行われた登里と車屋のポジションの入れ替え。登里がCBに入ることによって、若干パスのスピードが上がったようにも感じたがサイドの推進力が失われるデメリットと比べるとどうか。
3枚目の交代はエウシーニョ→鈴木。ちょっとこの交代も微妙。シュートが相対的にうまいエウシーニョを下げることもそうだが、鈴木が現状リードされている状況の攻撃のカードとしては比較的空中戦に強い以外にいい部分を見いだせないのがつらい。プレー選択の狭さやボールタッチの大きさがブロックを崩す足かせになっているシーンがちらほら。高さを生かすなら交代は阿部としたほうがベターだったのではないか。
いずれにせよ、人への対応に優れたG大阪の守備陣に対してスペースを生み出すような動きやパスが交代によって失われていったのは確かだろう。
試合はそのままG大阪が川崎相手にシャットアウトで勝利した。

まとめ

 G大阪の完勝といっていい試合だろう。スペース管理に難があるDF陣を5枚に増やすことで人に当たりやすい形にした宮本監督の采配は当たったといえる。しかし、目を見張るのは2列目の健闘。正直倉田や小野瀬は60-70分付近で機能性は落ちると思っていたが、交代までうまく川崎の攻撃を阻害していた。フル出場した遠藤と今野を含めてユニットとして高い機能性だった。
この機能性を落とさないまま、流れのままでの攻撃をいかに機能させるかが次の課題になってくるだろうか。

 川崎はピッチ上のパフォーマンス、ベンチワーク共に完敗といっていいだろう。この試合では攻略の糸口はつかんだが、生かすことはできなかった。広島の背中が遠ざかる手痛い一敗といえる。

【あとがき】
川崎が進む道を考える

 日ごろから思っていることなのだが、川崎のサッカーは積み木のようだなと感じる。あるいはCBから一つずつパーツを積み上げて、ロボットを作るようなサッカー。もちろん相手の妨害もあるのだが、一人一人がその都度必要なパーツに素早く変化して相手の邪魔が入る前に完成させる。ロボットの完成形も相手の弱点によって変わる。そんなサッカー。
この試合はCB陣が攻守に存在感を示せず中村、守田、大島の3枚も機能不全だった。いわば積み木の土台が揺らいでしまった試合といっていいだろう。この試合も代わってCBやボランチに入ったのは憲剛や登里。現段階ではあまりこの部分でスタメン以外の選手で代替は難しいという考えかもしれない。

 土台が揺らぐと合わせて顕在化するもう一つの懸念はロボットの最後に乗る頭が現状小林悠以外に見当たらないこと。フィニッシュワークの部分における小林への依存度の高さは相当深刻。裏抜けとエリア内シュートにおいては特に依存性が強く、この試合も枠内シュート4本のうち3本が小林によるものだった。土台作りがうまくいっているときはいいのだが、いかんせん最後の仕上げの部分がはっきりしてるのはうまくいかない時には痛い。ポジショニングや裏抜けのセンスや体の使い方は一流だが、スピードやパワーを備えて独力でこじ開けるタイプではない。

 しかし現有のスカッドでは積み木ロボットを組み上げるサッカー以外ができないだろう。先述したネットの移籍と守田以外に未だにフィットしない新戦力によってむしろシーズン序盤より幅は狭まっているといえる。

 川崎に足りないのは単体で相手を粉々にできるバズーカ。例えば柏のクリスティアーノや広島のパトリック(いたけどね)など。
しかし難しいのは川崎自体がほかの選択肢を排除することで、積み木ロボットの性能を上げている可能性がある部分。バズーカはロボットにはうまく搭載できない可能性がある。G大阪戦のような設計図が共有できない試合での破壊力は上がるかもしれないが、広島戦のような美しい崩しは損なわれる可能性はある。トレードオフの可能性があるのだ。

 川崎が「積み木ロボット」として生きていくとしたら、必要なのは中村憲剛の設計図を共有すること。特に中盤戦以降、中村憲剛への依存度は高い。川崎のリーグ戦での得点は32得点だが、そのうちの30得点は中村憲剛がピッチにいた時に生まれたもの。いなかった2点のうち、1点は敗れたセレッソ大阪戦での1点。もう1点は途中出場した神戸戦で決まっていた1点。神戸戦は中村が入った後に小林のゴールで得点を決めている。
つまり中村憲剛がいない状況で川崎は今季未だに勝利を決定づけるゴールは決めていないということだ。

 37歳の憲剛がいないと設計図がかけないロボットでは意味がない。近未来の川崎に必要なのは彼の頭の中の設計図を言語化し、ほかの人に共有する能力を持った指導者。相手の弱点をピッチ上で見出し、そこを攻略することにおいて中村憲剛の先天的な能力の高さは間違いない。しかし、この部分は後天的に伸ばすことができる部分なはずだ。川崎が高い技術をベースに先鋭化したスカッドで成績を残し続けるのに必要なのは、中村憲剛が頭の中に持つ設計図を後天的に授けることができる指導者なのではないか。

試合結果
2018/9/1
J1 第25節
ガンバ大阪2-0川崎フロンターレ
得点者:7′ 渡邉(G大阪)、55′ ファビオ(G大阪)
パナソニックスタジアム吹田
主審:小屋幸栄

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