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「サッカーは変わらない」~2024.10.18 J1 第34節 川崎フロンターレ×ガンバ大阪 レビュー

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レビュー

繰り返される優先度が整理されないプレス

 川崎サポーターの鬼木監督への感謝のコールがキックオフ前に等々力を包み込んだキックオフ前。試合が始まる前のエモーショナルな雰囲気とは裏腹に川崎がこの日の立ち上がりに直面したのは厳しい現実であった。

 序盤から明確にペースを握ったのはG大阪だった。初手は左サイドのウェルトンへのロングボールから攻撃をスタート。瀬川、脇坂の川崎の右サイドはロングボールを収めることができる上に正対したら相手を剥がすことができるウェルトンと、オーバーラップをする黒川に対して完全に後手を踏んでいた。

 ウェルトンへのロングボールが厄介なのは背後への動きを絡めているところ。そして、チームとしてこの動きを生かそうという意識がキッチリしているところである。3:30のシーンはウェルトンに向かってのロングボールを蹴った場面であるが、このロングボール自体には瀬川が触ることはできている。だが、背後に走りながらの対応になったため、クリーンに処理することができなかった。

 川崎のSBの対応は逆サイドの山下に対してもスピードを活かす背後へのボールが増えている分、ファン・ウェルメスケルケンが繋ぐ形で処理できる場面が少なかった印象。左右のWGへの長いボールに関してはG大阪がセカンドを回収する意識をきっちり持つことができれば、二次攻撃のチャンスに繋げることができる形になっていた。

 上に図示したのは先に挙げた3:30の場面。ウェルトンへのロングボールのセカンド回収で宇佐美が山本に勝利している。ここが機能すればG大阪は川崎の守備が整う前にボールを動かすことができる。さらには、黒川のオーバーラップが脇坂をおいていき、ファーへのクロスに飛び込むダワンをファン・ウェルメスケルケンが捕まえられないという形で初手のズレを連鎖的に使っていった。

 地上戦でズレを見逃さなかったのは坂本。前に出ていく意識の高い川崎のMFの背後をとるように降りるアクションで川崎のDFを振り切り、反転から逆サイドへの展開も。川崎のプレスの意識を利用した前進もできていた。

 さらにはG大阪はセットプレーでも工夫が見られた。この日徹底的に狙っていたのはファーサイドを浮かせて狙う形。初手のCKでは半田がファーをケアしようとするファン・ウェルメスケルケンをブロックし、浮いた宇佐美がフリーで足を振るシーンをつくる。

 地上でも空中戦でもオープンプレーでもセットプレーでも川崎の守備に対して優位をとったG大阪は7分に順当に先制点をゲット。鈴木のパスから裏に抜けた半田が並行に走り込んだウェルトンにラストパスを送り、そのままゴールを決めた。

 失点の直接要因をゴールに近いところから見ていくとやはり半田の裏抜けを許したところだろう。ファン・ウェルメスケルケンは山下を気にしていた分、反応は遅れてしまった。G大阪が低い位置でのパス交換を行った分、マルシーニョがなんとなく前に戻ってしまい、後方のマークの数が合わなかった。マルシーニョと橘田の守備の割り当てが被っていた分、川崎の守備では浮いたコマが出てしまった。

 ただ、もっと手前のところを振り返ると半田にパスを出した鈴木のマーカーが浮いていたのが苦しい。この試合に限らず、鈴木はこういう長いキックを蹴るのが上手いので、彼へのマークが曖昧になってしまったのは痛かった。

 やはり問題となるのは2トップの守備だろう。山田とエリソンの2人はCBへの前向きなプレスはやるが、自分を越えられた後のプレスバックが甘い。特に山田はこの傾向が強く、この場面でも鈴木にほとんど無関心な状態で自由なゲームメイクを許してしまった。

 後方での個人の優位が昨今ほどない川崎においては特にこういう守備が後方へもたらす影響が大きい。川崎のこの試合でのよくあるパターンはCFが特に右の奥にハードに追い回した結果、マルシーニョがそれに釣られるようにインサイドに絞り、その背後を使われる形である。

 この形はルヴァンカップの新潟戦ですでに山ほど見た形である。CHの受け渡しの甘さもそうだし、ハイプレスに無計画に出ていく部分も含めて前線の守備はルヴァンカップの敗戦を全く糧にしていないことが一目でわかる出来だった。

目の前の相手をなんとかするかどうか

 攻撃においては川崎は3バックへの変形が常態化。丸山と佐々木を後方に固定しつつ、そこに+1で誰かが入ってくる形。左CBの丸山は特に保持時における可動域が狭いため、彼の左側にファン・ウェルメスケルケンか山本が落ちるケースが多かった。右のSBの瀬川はビルドアップ関与はほぼ免除という格好で後方の3-2ブロックに入るシーンはほぼなし。左右のSBはキャラクターに応じて役割を設定されたように見えた。

 右サイドで瀬川が関与できない分、右のSHの脇坂は中盤仕事が増える展開。引いて中央に残る橘田と2人でCHを形成することが多かった。まとめると丸山、佐々木、橘田を位置固定でそこに脇坂、ファン・ウェルメスケルケン、山本のうちの2人がブロック形成に絡んでくるというイメージであった。

 ただ、この後方のユニットがボールを動かしてどうこうというのは特にできなかった印象。ショートパスから穴を作ってという点でこの後方の自在な変形が役に立つことはなかった。しかしながら、エリソンや山田、マルシーニョへのロングボールに関してはG大阪のMF陣がプレスバックして挟み込むシーンは少なかったため、川崎のCH陣は少なくともいることで相手のCHを自陣側に引き寄せる効果はあったかもしれない。

 ルヴァンカップで戦った新潟は徹底して中央の中盤を挟み込むことで潰してきていたが、G大阪の2列目の4枚はそうしたプレスバックはなし。捨てるエリア、囲うエリアのメリハリと前線の守備へのリソースの裂き方は新潟ほど徹底されたものではなかった。

 よって、川崎は前線へのロングボールから敵陣に入り込むことができていた。ただし、サイドからの仕掛けはマルシーニョに依存。とにかくアタッキングサードでのオフザボールの動きが少なく、1人の動きを周りが使うということが皆無。それそれが目の前を相手をなんとかしましょうの連続だった。

 そんな状況だったため、スピードで対面に勝てるマルシーニョのところでなんとかしようというところだろう。もちろん、そんな攻撃でボックス内のスペースを作ることは困難であり、川崎の選手は常にG大阪のDFに捕まり続ける展開だった。

 こうなると、G大阪にとってはなんとか追加点が欲しい展開ではあるが、ウェルトンの負傷によりロングボールの的が消失。中盤で繋ぎながら前に出ていけば川崎の隙があるハイプレスを剥がすことはできるのだが、前半で見せたような後方の選手の攻撃参加が少なく、追加点を刺すところまでは至らなかった印象だ。

4人の交代選手が果たした役割

 両チームともメンバー交代がなかった後半のスタート。川崎は左サイドにボールと人を集めることで攻めるポイントを集約。バックラインの押し上げに伴う高い位置からのボール奪取で敵陣でのプレータイムを増やそうとするプランであった。

 しかしながら、非保持の機能性が押し込む局面の継続を邪魔する。瀬川が警告を受けた場面は明らかに注意力不足だし、橘田の不用意な二度追いはG大阪のカウンターからの決定的なチャンスにつながっている。エリソンはCBへのプレスを優先する決め打ちで中盤に簡単に運ぶことを許している。ライン間にスペースが欲しい坂本、そしてサイドでスピード勝負を挑む山下にとっては自分たちの持ち味を出しやすい展開だったはずだ。

 特に山下は瀬川を狙い撃ちするような格好で繰り返し勝負を行っていた。退場でゲームから締め出したいという目論見だろう。

 流れを変えたい川崎は4枚を一気に入れ替えることで攻撃の活性化を図る。交代選手は明確にそれぞれの役割を果たした印象だ。もっとも即効性があったのは両WG。右に入った遠野は裏に抜けるフリーランを増やすことで前線のプレーのバリエーションを増やす。抜け出した後のプレーの精度は課題ではあったが、このアクション自体が前線に足りなかったものなので、まずは最低限の役割を果たしたということだろう。

 左サイドの山内はやや窮屈なプレー選択もあったものの、逆サイドへの展開でG大阪の守備陣(と川崎の攻撃陣)の目先を変えることに成功する。左サイドの起点作りはメンバー変更以降、改善が見られた。左に流れる山本とファン・ウェルメスケルケンでG大阪の右のSHである岸本を挟み撃ちにする。山本が浮くことが多くなったことで、川崎は大外にゲームメーカーをフリーマンとしておくことができるように。家長と山内も低い位置にも絡んでくるので、G大阪の守備の優先度はバラバラに。ちょうど前半の川崎の前からのプレスのような閉じる場所の整理ができていない形であった。

 宇佐美→山田康太の交代は中盤での守備を整理するためのものかと思ったが、山田康太の投入以降もG大阪は中央の脇坂と左に流れる山本を捕まえるための変化を見せることができない。川崎の押し込むフェーズの仕上げとなったのは4人交代で入った残りの2人。小林を囮としてロングボールを収めた家長が抜け出す遠野にスルーパスを送ると、この折り返しを仕留めたのは小林。福岡の上から叩いたヘッドで試合を振り出しに戻す。

 G大阪は林を前線に入れる投入でチェイシングの意志を明確に。控えていても川崎の中盤を捕まえられていなかったし、スコア的にも同点に戻されてしまったので前線のエネルギーを投入するというのはとても良い打ち手のように思う。

 オープンな展開は主審の笛の基準の軽さもあり、ファウルでぶつ切りに交互に攻める流れ。川崎はボックス周辺に佐々木が突撃する場面が増えるなど、最後までチャンスを作りにいくが、再びネットを揺らすことはできず。試合はタイスコアのまま幕を閉じることになった。

あとがき

 勝てなかったことがどうこうというよりも、前半は保持でも非保持でも新潟戦で通じなかったことをただそのまま確認しているだけという感じの過ごし方をしており、シンプルに時間の使い方がもったいなかった。これは無理ですよ、通用しませんよということを突きつけられた時にどのように跳ね返しにいくのかという姿勢を見るのは個人的には好きなんだけども、そこに対しては愚直にまた同じことをやったなという感じ。

 ルヴァンカップの敗退もそうだし、鬼木監督の退任のリリースもあったなど、川崎的にはいろんなことがあった1週間だった。でも、サッカーは11人で1つのボールを相手のゴールにどうやって叩き込むかというスポーツがこの1週間で変わったわけではない。自分たちが取り組み方を変えなければ、まぁ同じようなものが飛び出してくるというのは当たり前のことなのだなということを痛感する90分だった。

試合結果

2024.10.18
J1 第34節
川崎フロンターレ 1-1 ガンバ大阪
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:81′ 小林悠
G大阪:7′ ウェルトン
主審:山下良美

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