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「献身性はどう転がるのか」~2024.9.22 J1 第31節 名古屋グランパス×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

セカンドボールが左右する主導権

 チーム史上初めて、蔚山でのアウェイゲームを制した川崎。中3日でリーグ戦に戻ってのアウェイ連戦。関東以外では勝てていない川崎は今節名古屋に挑むことになる。

 ミッドウィークに試合があったのは名古屋も同じ。そして、新潟相手に快勝を収めている。名古屋はこの新潟戦のスターターを完全にリピートする形。対する川崎は蔚山での試合から4枚を入れ替える形でターンオーバーとなった。

 立ち上がりは川崎が押し込み、名古屋がブロックを組む形が主流。しかし、この構図は主導権争いにそこまで意味をもっているようには思えなかった。この試合の前半のキーポイントは断然セカンドボール争いである。

 序盤はこの点で川崎が名古屋を上回っていた。名古屋はかなり川崎に対して積極的なプレス。和泉を大島にマンツーマンにして、永井と森島で高井と佐々木を抑える。さらにはサイドではWBが川崎のSBに出て行くと前からハメる形をきっちり準備していた。

 名古屋の守備の原則で押さえておきたいのはマンツーに特定のマーカーを決めているわけではなく、必要であればスライドやダブルチームを怠らないこと。特に、CHの稲垣と椎橋はこの傾向が強い。「セカンドボールがキーになる」ということを言い換えるならば、名古屋の守備の献身性がどちらに転がるかが試合に大きく影響したといえるだろう。

 献身的であれば名古屋がセカンドボール回収に有利ではないか?と思うかもしれないが、試合の序盤はそうでもなかった。川崎は自陣に名古屋のマークを引き付けつつ、ロングボールで前線に蹴り飛ばす形から前進を狙う。

 正直、このロングボールはアバウトであまり狙いが感じられるものではなかったが、椎橋が対面の河原を追っている分、中盤ががら空きに。絞った家長がセカンドボールを回収すると、左サイドに展開してボックス内にクロスを上げてゴールに迫る。

 背後を使われるのはまずい。そのため、8分の手前のシーンで同じくCHの稲垣は前線のマークと後方のロングボールへの挟み込みを両方行おうとする。しかしながら、全体が間延びしていればどちらも!は間に合わない。河原のマークから、山田のロングボールの挟み込みに移動するもプレッシャーをかけられず、山田は稲垣がもともとついていた河原にボールを落とすことが出来た。この場面に関して言えば、稲垣が二度追いをしたからこそ、河原が空いたともいえる。いわば献身性が裏目に出た格好だ。

精彩を欠く川崎のセンターライン

 だが、徐々に名古屋の献身性はプラスに推移していく。この日の名古屋のセットで献身的だったのはCHだけではない。IHの森島と和泉も動ける選手たちである。中盤のヘルプが必要と考えた彼らは徐々にセカンドボール争いに参戦。中盤でのデュエルで川崎を凌駕するようになる。

 セカンドボールを拾ったあとは前を向いた選手から前線の永井へ一気にロングパス。DFが2人いても気にしないようなすり抜け方をした永井はオフサイドながら早々にネットを揺らし、川崎に冷や汗をかかせる。

 セカンドボール争いで劣勢になった川崎は保持でバリューを出したいところ。マンツー気味にやってくる相手に対しては効果的な移動をすることで時間を作っていきたいところ。相対的に効果的だったのは橘田のSB起用だろう。16分のようにインサイドに絞って縦パスを受けてからの横断は非常に興味深いものだった。

 18分には逆サイドの三浦も絞るアクションからのデュエルを制し、セカンドボールを回収して前にボールを進める原動力となっている。

 サイドの選手の絞る工夫が面白い一方で、中央の選手がそれに答えられなかった感がある。大島は橘田が絞ることで生み出した16分過ぎの場面で高い位置を取るのが遅れてしまっている。本来であれば下の図のような位置にいてほしいところである。

 大島は時折非保持で糸が切れたようなプレーを見せて縦パスを通されてしまったり、保持でのパススピードが上がらなかったりなどこの日のプレーはかなり懸念が先行。本格復帰前の状態に戻ってしまったかのようなパフォーマンスは気がかりであった。

 18分のシーンでセカンドを回収した遠野はこの日はボールを受けた後の判断が良くなかった。この場面では少なくとも裏にパスを出すためにDF1人(おそらく河面がベスト)の足を止める位置までドリブルをしなければならない。

 しかし、遠野はDFの足を止めるためのドリブルを挟まず、そのまま裏にパスをリリースしている。河面も三國も何の躊躇もなく山田をケアすることが出来ている。相手の足を止めてパスが通らなかったならば技術の問題であるが、これは判断の問題であり、遠野の積年の課題でもある。

 遠野に関しては19分も裏へのフリックという博打でチャンスを潰してしまっている。この場面は和泉がGKに二度追いをしており、川崎はこの和泉の献身性を罰するチャンスだった。和泉が本来マークをしていたであろう河原にボールを落とすことが出来ればチャンスを作れていたはずだ。

 また、ソンリョンのパフォーマンスも厳しいものがあった。先の和泉の二度追いの場面のように二度追いで名古屋のFPの誰かがプレッシャーをかけるとすぐに前線に蹴ってしまう。基本的には自分にプレッシャーがかかっている時は誰かしら近くの選手がフリーになっているはず。22:30のシーンを例にとれば、橘田に縦パスをつければ右に流して前進ができたはず。ソンリョンのロングボールはクリーンに繋ぐ機会をフイにしてしまった。

 このように川崎は保持に回っても名古屋の献身性を逆手に取ることが出来なかった。献身性のマイナスが消えた名古屋は中盤に顔を出し続ける名古屋のシャドーの存在により、徐々に劣勢を強いられることに。

 川崎は家長が降りるアクションは見せるが、この効果はかなり薄かった。ブロックの手前で受けては狭いスペースに強引に差し込んでカウンターの起点となっていた。絞ってもいいので相手のMFラインの後ろに立っていてほしかった。孤立無援の山田も強引なターンを三國に見切られるようになり、前半の途中からはほぼ完封。中央の起点としてはノーインパクトだった。

 すると名古屋はセカンドボール争いを制する形で先制点をゲット。前線で二度追いに励む大島をよそに三國がロングボールを入れる。河原しかいなくなった中盤のセカンドボール争いを名古屋が制すると裏の永井にボールを運ばれて見事なミドルシュートを決められてしまう。

 ゴールに近いところから気になる点を述べると、まずはソンリョンのポジショニングだ。

永井のプレーの選択肢は
1. 橘田の右手側から抜ける。
2. 橘田の左手側にドリブルする。
3. その場からシュート。
4. ファーで構える選手へのクロス。

以上の内のどれかに絞ることが出来る。

 4つのどの選択肢においてもソンリョンが前にでていく必要性を感じない。①は橘田が抜かれても高井がスライドできる位置にいるし、②は数的優位の川崎の守備ブロックに特攻する形、④のファーへのクロスも佐々木と三浦が対応できそうな体勢だ。よって、ゴールマウスを離れる意味はない。裏抜けの場面で一度離れた後はゴールマウスに張り付く対応でいいのではないだろうか。

 橘田のアクションも気になる。永井が右足に持ち替えた時点で橘田は③④の選択肢の警戒度を引き上げるべき。にもかかわらず右足に持ち替えたことに対してほぼ反応していないのはいただけない。縦に抜かれるのが怖い気持ちはわかるが、逆足側でのコントロールが必要な上に、先述の通り高井のカバーも間に合いそう。まずはホルダーのマーカーとしての責務を果たしたかった。

 もちろん、セカンドボール回収において大島が中盤に穴を空けていたことにも触れるべきだろう。可能性の低い前線の単騎プレスに精を出して自陣に穴を空けてしまうのは切ない。まさしく、献身性が裏目に出たシーンだ。

 副審のフラッグアップの件に関してはホルダーにプレーできる橘田は副審の動きを確認する様子はなかった(ソンリョンはわからない)ため、直接この失点に影響しているかは微妙なところだろう。だが、高井と三浦は手を挙げており(佐々木は副審を確認したが特に何もリアクションをしていない)、三浦は明確にスピードを緩めた。

 今回はハンドによるフラッグアップだったということだが、ハンドにせよオフサイドにせよ主審が一時的にディレイしてプレーを続けさせることはままある。疲労している中でフラッグアップができたら反射的にプレーを緩めてしまうことはあるかもしれないが、それで損をするのは自分たち。意識的に対応するようにしていきたい。

 また、主審はナイスジャッジ。仮に永井がシュートを放ってゴールインするまでの間に笛を吹いていればVARの関与は不可能。名古屋側が猛抗議するジャッジになっていただろう。副審のフラッグアップに対するリアクションとしては適切なものだったように思う。

前半の勢いをそのまま押し出す名古屋

 前半の先制点以降、この試合ははっきりと名古屋がペースを握る展開となった。スローインから永井→和泉と続き、クロスに野上が飛び込むという形での早々の決定機は前半の勢いを後半も継続するのかなという予感が漂うものだった。

 後半も川崎はボールを持つことができるが、相手のマークを外す動き、もしくは味方の動き出しを活用するオフザボールのポジションは皆無。こうなると、相手を背負った状態でプレーする人以外は価値を発揮することができないので、家長にボールを渡す以外なくなってしまうという悪循環である。

 その家長も前半に引き続き低い位置に降りてゲームメイクをするので、アタッキングサード付近で相手のズレを作ることができない。家長自身のキレも悪く、パスの精度が低いのでカウンターのきっかけになることもしばしば。名古屋の前線はトランジッションをきっちり狙っており、前線の3人を中心に追加点を狙う形になっていた。

 非保持ではSHを上げる形で強気に出ていく川崎だが、このプレスも空転。攻守に効果的な動きが見出せない時間が続く。

 すると、名古屋は追加点をゲット。後半の頭にあったスローインからのリスタートを活用し、和泉がゴールを奪い取る。川崎はバックスの動きがバラバラであり、スローインで前方に大きく送られたことによってできたスペースを埋めることができなかった。

 2点のリードを奪い、きっちりを下がって受けることを選択する名古屋。保持でも川崎のプレスは怖くないので、カウンターだけでなくボールを動かしながら時間を作ることができる。そうしている中でファン・ウェルメスケルケンが退場した川崎は10人になってしまい万事休す。名古屋に逃げ切りを許すこととなった。

あとがき

 まぁ、先制点を奪われるとこの相手、この日程だと難しくなるなという感じ。先制点次第では大きく違う結末が待っている可能性はあっただけに、先制点にたどり着くまでの細かいプレーの積み重ねが大きな差になったと言えるだろう。川崎のセンターラインを軸とした雑なプレーの連続は名古屋の献身性をマイナスにすることができなかったし、セカンドボール回収と裏抜けを繰り返した名古屋の3トップは見事に献身性を得点に繋げた。

 先制されたら苦しくなるのは今季の内容的にも日程的にももうわかりきっていること。名古屋が相手ならば尚更だ。ひっくり返すエネルギーを出すのが難しいのだとすれば、もっと永井の先制点までの時間を丁寧に戦いたかった。

試合結果

2024.9.22
J1リーグ
第31節
名古屋グランパス 2-0 川崎フロンターレ
豊田スタジアム
【得点者】
名古屋:34′ 永井謙佑, 67′ 和泉竜司
主審:アブドゥルハディ・アルルアイレ

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