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「手応えのある抵抗力」~2024.10.5 J1 第33節 FC町田ゼルビア×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

強引なプレスに出て行ける理由

 ACLでは光州相手に苦戦した川崎。アウェイでの勝利を吐き出した感がある敗戦だが、なるべく早くカップ戦にフォーカスするために、まずはリーグで安全圏の勝ち点を積み上げたいところだろう。

 立ち上がりの川崎は意外な表情を見せたスタートだった。セットプレーからのリスタートをデザイン性が高い形でトライ。ゴールこそ生まれなかったがこの試合に対しての準備を十分に行うことが出来たのでは?という期待感があるものだった。

 川崎のプレスのテイストは新潟戦と同じ。2列目にはきっちりと自陣に戻れる選手を並べつつ、前線のエリソンと山田のプレスの馬力にキャッチアップする形を意識していた。

 川崎のプレスが機能したかといわれると正直微妙なところだろう。遅れても前から捕まえに行くことで後方のブロックに穴を空けるケースはこの試合でもよく見られる。3分手前の望月や7:30の仙頭など、要所で川崎は非常にまずい形でボールを前に運ばれていた。

 そうした状況でもこの試合の川崎にはプレスに出て行く利があった。まずは新潟戦と同じく雨が降っていたこと。正確にボールをつなぐということに関しては障害があるという状況であり、後方からショートパスで相手を動かしていくというプランの遂行には非常に難がある環境だった。

 もう1つはデメリットが少ないという切り口から。町田という相手は仮に外されたとしても大きな事故にはなりにくい相手である。先に挙げた望月と仙頭がそれぞれフリーで持てるシーンだが、中盤と駆け引きしながら前に進んでいくような素振りは皆無。前にボールをとりあえずつけるシーンも多かった。

 よって、川崎としてはバックラインに対してプレスをかけることに失敗しても中盤から芋づる式に穴を空けて壊されるケースが少なかった。リスクは追い回す際の体力面だけ。どちらにしろ蹴られるのであれば、プレスに行って奪いに行けるポイントを要所で作るメリットを優先する理屈も充分にわかる。

 予習の時も思ったが、町田は前半戦よりも戦い方が画一化している。等々力では家長の周辺を仙頭で突っつくことで、ショートパスでの前進をベースに川崎のブロックを攻略していた。

 だが、そうしたショートパスで相手を動かすアプローチは川崎戦の予習で見た試合ではほぼなかった。春先には「ロングスロー、セットプレー、ロングボール」というパブリックイメージが先行している万能型のチームだなと感じた町田だったが、今の内容はむしろパブリックイメージに近づいているように思う。パブリックイメージとチームスタイルが時間をかけて近づいていくというパターンはあまりこれまでに例がないようなチーム作りの流れだなと感じる。

 というわけで川崎の守備をベースに考えるとプレスが外されるかどうかに関わらず、前線へのロングボールへの対応がうまくできるのかの方が重要。セフンではなくデュークが先発したこの日の町田の前線は長いボールを引き出すために、ラインを上下動させながら少なくとも跳ね返しは難しいような駆け引きをしていた。この辺りのロングボールのノウハウはさすがである。走りながらの対応となれば、相手に跳ね返されたとしても距離が出ないので、少なくともセカンド回収ゲームには持ち込める。ある意味ロングスローと似た理屈かもしれない。ロングスロー対応の厄介さは跳ね返しの距離が出ないことである。

 長いボールの競り合いにおいて、町田がもっとも手ごたえがあったのが藤本。上下動でのアクションに加え、ボールを収めた後のプレーのバリエーションも豊富。対面するファン・ウェルメスケルケンはかなり手を焼いていた様子だった。

 町田の先制点もこのマッチアップから。背後に抜けた藤本への対応にバタバタしている間に足を振れるスペースを享受した中島が豪快なシュートを仕留める。

 川崎からすると高井とファン・ウェルメスケルケンの連携が合わなかった印象だ。藤本への長いボールに対してはファン・ウェルメスケルケンが追いついているので、高井は反転させないように挟み込むのが理想だった。高井とファン・ウェルメスケルケンがこの位置関係で藤本を挟めば次のプレーの自由度は下がるし、万が一中島にパスがつながっても高井の二度追いは実際のゴールシーンよりはタイトになっただろう。

 こう書くと高井のフォローが良くなかったということになるかもしれないが、少なくとも抜け出した時点では藤本はファン・ウェルメスケルケンの内側で抜けきる動きを見せており、ファン・ウェルメスケルケンが一度藤本の足止めをするかどうかの確証は持ちにくい。

 この場面で真っ先に避けたいのは藤本が独走してGKと1on1になる状況。よって、高井がファン・ウェルメスケルケンの右側への対応を意識し、裏抜けの最短ルートを警戒するのは自然なようにも思える。

 ただ、結局のところ一連のプレーにおいて高井の存在は町田側の阻害に全く関与できておらず、彼が浮いてしまったのが一因なのは間違いないだろう。

 先制点で勢いをつけた町田は後方からのプッシュアップを増やして攻撃の圧力を増す。左の藤本へのロングボールを継続しつつ、右の相馬でスピード勝負!という両翼のフィジカルを活かしたプランで川崎に襲い掛かる。高い位置からのプレスからパスのインターセプトもできていたし、望月のエリソンへのアプローチも早く、波状攻撃の後押しができていた。

 川崎としては苦しい展開になったが、この日の救いは保持面できっちり町田の4-4-2を揺さぶるイメージができていたことだろう。少し、時計の針を巻き戻して先制点の前から川崎の保持を振り返ろう。

 町田の4-4-2に対して、意識していたのは2列目の4人を引き出すことだろう。もっとも典型的だったのは三浦の振る舞いである。3分過ぎのように2トップがケアするのか、SHが出て行くのか、あるいはCHなのかというファジーな位置に立つケースがこの日の三浦は多かった。

 このような立ち位置が取れるのであれば、町田の2列目を動かすことができる。特筆すべきは相手を引き付けた後の三浦が出てきた選手と入れ替わるように1列前に入る動きを取っていたことだ。

 降りる動きというのは基本的に悪とされがちだが、このように列上げで重心を回復するアクションが伴っていれば問題はないし、相手を引き出すという動きも伴うのであれば問題はないどころの話ではなく有効な一手ということになる。

 この日の川崎は三浦だけでなく山本、河原、脇坂の中盤が軒並み列上げでのサポートで素晴らしい働きをしていた。チームとしてボールと人が一緒になって前に進む意識があったということだろう。

 失点を喫した後の川崎の前進も非常にロジカルなものだった。山田は体を張って前で踏ん張るところでは昌子に屈するケースが多かったが、降りる動きで行動範囲を広げることで昌子から解放されることとなる。その分、前に人はいなくなるため、この降りるアクションには先があるかどうかが重要だ。

 同点ゴールはその点がきっちりと担保されていた。右に落ちる動きを見せた山田が数人に囲まれながらもキープして、左サイドでサポートに入った山本にボールをつなぐことが出来た。マルシーニョへのパスは攻撃のスピードを緩めないための適切なものだったし、三浦のオーバーラップが仕上げとなり、角度のある所から同点のゴールにつながった。

 同点弾で山田が降りた右のハーフスペースは、彼自身がゴール後にも再び使う素振りを見せていたし、脇坂も絞ってボールを受ける場所として使っていた。おそらくは町田のDFの切れ目という認識なのだろう。

 サイドから押し下げられるアクションが増えると、町田は苦しくなる。特に三浦のオーバーラップのケアに相馬が駆り出されるようになると前線のカウンターの破壊力は減少。引き分け前提の町田のロングキックは少しずつ拾えないようになる。

 押し込む川崎はハイプレスを起動するようになり、ペースを掌握。序盤と同じようにスキがあるハイプレスで町田に蹴らせて回収をすることが出来ていた。

 逆転ゴールのシーンは試合後の黒田監督のコメント通り、谷の判断ミスだったと思う。相手にひっかけてしまったというパスを通せなかった技術的な側面以上に、この場面では脇坂の背後を取るようなフィードを狙った判断がどうだったか。

 本人のコメントによれば脇坂は前方と後方の両方に睨みをきかせることができていたし、実際のシーンを見ても本人のコメントとあまり感覚は変わらなかった。

2点目のゴールは相手のキックミスではあったが、杉岡(大暉)選手を後ろに置いて、センターバックにもプレスに出られるし浮き球の緩いボールであれば杉岡選手にも行けるポジショニングをとれていたので、速いボールしか通らないと相手に感じさせることができたと思う

 よって、単純に脇坂の背後を取るのは難しい。ふわっと浮いたボールであれば、脇坂の二度追いが間に合うし、低いボールはそもそも最低限を脇坂より高いところにつけようとするとタッチを割ってしまう格好になる可能性がある。いわゆる解なしだ。

 そもそも、この場面は川崎の陣形が崩れていたわけでもないので、急いだところで町田のカウンターにつながるかは怪しい。ミスはそれ自体も重要だが、ミスをする必要がそもそもあったシチュエーションなのかも大事になるだろう。

 谷のパスミスをダイレクトでカットした脇坂は非常に落ち着いていた縦へのスイッチ。ダイレクトにパスしたからこそ山田のシュートを打つ間合いが開くことになった。町田のミスを見逃さなかったことで川崎は逆転に成功する。

 この前半はどちらのチームも苦しい展開に追い込まれることになったが、そうした状況における抵抗力には差があった。川崎が拾ったボールを中盤に降りる脇坂を起点に敵陣に逃がすことで息をついていたのに対して、町田は攻撃を終わらせた直後のプレーでミスを連発。特に望月は細かいミスが多く、川崎の波状攻撃を止めきれない一因となっていた印象だ。

ラインは上げども耐性は上がらず

 町田が早急に解決しなければいけないのは陣地回復の手段を確保することだ。町田の前線は相手のDFに競りかけることはできても、収めて時間をつくったりあるいは独力で攻撃を完結させたりするのは難しい。SHが押し下げられている状況を解消し、前線のロングボールからのセカンドボールを回収できるような陣形にする必要がある。

 藤尾、セフンの2トップをハーフタイムに入れたことにより、前からプレスに行くのかな?と思われた町田だったが、実際には藤尾が出て行こうとするセフンを制限するなど、中盤の管理を優先しつつ、機を見て前にプレスをかけるのが彼らのプランに見えた。あえて、町田のプランを正当化する理由を挙げるのであれば、彼らのCHはJ1水準で見れば守備範囲に無理が効くダイナモタイプではない。そのため、むやみに追い回して川崎の中盤の管理が杜撰になることを嫌った可能性もある。

 しかしながら、結果的にこの町田のプランは裏目に出る。藤尾とセフンがプレスに来ない分、余裕があった川崎のバックラインは左サイドへのロングボールからシンプルな陣地回復に成功。2回目のトライで長いボールからエリソンが谷からファウルをもぎ取ってPKを獲得。谷の飛び出しはきわどいタイミングではあったが、雨でボールが遅くなった分、エリソンが先にボールに触ったように見えた。

 ゴールの構造としては町田の1点目と似たような形に思える。ラインは上げるけど、枚数を合わせてホルダーを捕まえないなら、ロングボールへの耐性は持っておきなさい!という話である。藤本に自由を与えた川崎のように町田もこの場面では川崎に自由を与えてしまった。

 このゴールは試合の流れを完全に決めてしまった感がある。町田は右サイドを軸にハイクロスを上げてボックス内の競り合いに挑むように。だが、川崎はサイドの裏を作カウンターから町田の作るチャンスよりもはるかにクリティカルなチャンスを作ることでゴールを脅かす。

 おそらく、丸山周辺のスペースを藤尾のスピードやセフンの高さで突き続ければ、そのうちチャンスは作ることができたはずだ。だが、川崎にいちいち自陣まで運ばれるので、デュエルの試行回数を稼ぐことが出来ない。

 そのうえ、自陣のボックス内ではDF陣の糸が切れたようにフリーズ。川崎のオフザオールの動きに対して硬直するばかりで、ことごとくフリーでのシュートを許し続ける流れになっていた。ドレシェヴィッチのボランチ起用は戻りが遅くなった中盤のプロテクトだろうか。

 気持ちよくプレーを続ける川崎はマルシーニョのゴールで4点目をゲット。これでマルシーニョは7得点目にして、今季初めて勝利した試合での得点を決めたこととなった。

 川崎側の唯一の後悔は小林悠に5点目が入らなかったことくらい。逆に言えばそれ以外はすべて後半を思い通りにした川崎。45分間、町田を蹂躙し続けて残留確定に大きく近づく3ポイントを手にした。

あとがき

 3点目以降はボーナスステージだろう。完全に町田の糸が切れてしまった。それ以前の部分で見るべきところはやはり失点した後の抵抗力。失点前に刻んでいた悪くない保持のリズムで町田の圧力から脱することに成功した結果の同点弾は非常に大きな釣果だ。

 プレビューでは広島のコピーが可能か?という観点で話を進めたが、川崎は相手の背中を取り続けるボール保持という自分たちのカラーで町田を圧倒することが出来た。失点以降もその点でブレが見られなかったこと、今季ここまで苦しんでいた山本がその中心であること、4-1という充実のスコアと同じく内容面でも見るべきものがある90分だったといえるだろう。

試合結果

2024.10.5
J1リーグ
第33節
FC町田ゼルビア 1-4 川崎フロンターレ
町田GIONスタジアム
【得点者】
町田:13‘ 中島裕希
川崎:28‘ 三浦颯太, 38’ 山田新, 50‘(PK) エリソン, 71’ マルシーニョ
主審:今村義朗

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