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「縦に速いプランの意味付け」~2024.11.9 J1 第36節 京都サンガF.C.×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

中盤を経由しない裏抜けの意義

 川崎サポカップルの結婚式の真っ最中に行われたこの試合。僕はフラワーシャワーを投げながら丸山と佐々木がスタメンCBという断片的な情報を新郎新婦に伝えたり、試合中は各テーブルでスマホでの観戦が行われていた(カメラマンさんがそのインサート欲しがっていたので、やらせであえてみんなで見る画もとりました)り、得点があったことを司会者がアナウンスしたりなど盛り上がりながらこの試合を見守った。楽しかったな。結婚した2人、末永くお幸せに。ちなみに俺の結婚式の日は川崎が勝ったけどな!!

 さて、本題である。立ち上がりから両チームは割り切ったロングボールをぶつけあうという戦い方を披露。前線への長いボールがシンプルに前進への生命線になっていたように思える。

 どちらも相手を動かすという工夫はあまり見られなかったというのが正直なところではあるが、そういう状況の中でどちらかといえば感覚を掴んだように見えたのは京都だろう。まずは単純にターゲットがしっかりしていた。長いボールを預けられた前線の選手はきっちりとボールを収めることが出来る。

 京都は前線のキープ力を信じて心中するスタンスを全面に押し出すことが出来たのが大きかった。前が収まってしまえば、IHとSBが追い越すアクションをかけることができる。収まらなければ裏返される怖さが残るけど、まぁこの日くらい収まれば個人的には信じてOKなのかなという感じ。長いボールを当てた時に追い越すアクションからその先の手があった。

 保持に回った川崎はその点が微妙だった。この試合の川崎は自陣からのつなぐプレーの記憶がないくらいにガンガン蹴っ飛ばしていたのだけども、前線は裏に抜け出すプレーばかり。前に当てて、中盤を活用して広いサイドに展開!ならば、割と川崎らしいロングボールの活用方法かなという点で腑に落ちるけども、一発で抜けきってそのまま仕留めたる!という形の動きが多かったのはちょっと不思議であった。

 これは別に前線に限った話ではないというか、チームとしてそういう意識づけがあったように思えた。ゴールキックは軒並み長いボールだし、京都の前線がプレスに来たらとにかく蹴ってしまう。京都のプレッシングはFWとMFの間やWGの背後が空きやすい(いずれのスペースもIHがカバーすることになることが多いため)という難点があるが、川崎はそれを活用する姿勢は全くなし。バックスは追い込まれたら簡単に蹴るし、前線は抜け出して一発しか狙わない。

 こうなると、川崎の中盤が存在意義を示すのは難しい。浮いている中盤のスペースに構えていてもボールは戻ってこないからである。それも成功率が高ければいいのだが、そういうわけでもない。サイドから抜けようとするも相手を振り切れずに折り返して、アーリーめのクロスを入れるところにたどり着くのが関の山であった。

 自陣からのロングボールフォーカスと敵陣でのアーリークロスを軸とするプランを見る限り、割と川崎の戦い方は早めに京都のバックスを壊すことにフォーカスをしていたのだろう。鬼木監督は「前へ前へという選手が多かったがそれは自分が求めていたこと」と述べているし、佐々木と橘田は「相手は前から来るからその背後を狙う」という形で口をそろえている。

 ただ、プレスをかけられたバックラインから苦し紛れによーいドンという形で蹴るのであれば、それは徒競走に他ならない。アーリークロスも明確に京都のバックス相手に制空権が取れているなら意味はあるが、そういうわけでもないだろう。京都を壊すために縦に速い攻撃を仕掛けるのであれば、相手の足を埋めつつ、背後に正確なラストパスを送る中盤を経由する必要がある。

 川崎はその点が不十分だったように思う。唯一、エリソンだけはポストプレーから中盤を解放しようとしていた。エリソンから橘田への落としから右サイドの遠野の抜け出しまでの一連はこの試合の前半で数少ない川崎らしいボールの動かし方といえるだろう。

 だが、基本的にこうした場面は稀。そうなると機動力で相手を置いていけるマルシーニョにボールが集まるのは必然だろう。

 京都は直線的な川崎の攻撃をひっくり返す形で前線に素早くボールを送る。特に右サイドのトゥーリオの裏抜けから全体を押し上げる形が有力。場面自体が少なくはあったが、京都がショートパスで川崎のハイプレスに対応する場面でもWG-SBの間に出来たギャップを使うことで裏抜け手前のポイントを整備。川崎の左サイド側に生まれた背後のスペースを生かすことで効果的に前進することが出来ている。

 両チームともアタッキングサードでの精度の低さは目に付いたが、ボックスにたどり着く前の下ごしらえの部分では個人的には京都の方が好感触だったかなと感じる前半だった。

前半のプランを正当化した山田と大島

 後半、先に攻め手を固めたのは京都。左サイドで起点を作りつつ、セットプレーから決定機を作り出す。ソンリョンが早々に原が迎えた決定機を抑えて難を逃れる場面から残りの45分はスタートする。

 立ち上がりは川崎の右サイドはポジションチェンジに対応できずに苦戦。特にファン・ウェルメスケルケンは2枚目のカードを貰って退場していてもおかしくはないくらい怪しい対応が続くことに。この時間帯に退場者も失点もなかったのは個人的には幸運だったように思える。

 苦戦が続く川崎の立ち上がりだったが一点突破で先制点を獲得。活躍したのはHTに途中交代で入った3人のうちの2人。三浦のボール奪取から発生したカウンターのチャンスを大島→山田に繋ぎ、山田が対面を引きちぎって最後は太田との1on1を制した。

 イメージとしては前半の縦に急ぐ攻撃というゲームモデルに大島の技術をのっけた形だろうか。受け手に取ってコントロールの難易度が低いパスを置くように出し、山田にDFを剥がすことにフォーカスさせることによって前半は機能しなかったタッチダウンパスを成立させたのがこのゴールシーンといえるだろう。

 この得点場面ではいい方向に転がった山田の猪突猛進のプレーではあるが、試合全体でこのイケイケ感が常にいい方向に転がったわけではない。左サイドに裏抜けした終盤は1枚しかいないインサイドにボールを送るのは尚早だったと思うし、右の大外の佐々木を無視して反転シュートを枠外に飛ばしたシーンにも疑問の余地は残る。

 ただ、ゴールシーンのようにあまり機能的とは言えない展開でもゴールを生み出すような力があるから山田がここまでゴールを決めてきたというのは否定できない。「1回スローダウンして」とか「フリーの味方に出して」というのが最適解のシーンもあるが、そういうところで綺麗にプレーすると1点目の良さが消えちゃうんじゃないかなという懸念もある。

 そういう意味で伸びしろがあって楽しみなのは間違いない。その反面でこの伸びしろを埋めるのは結構難しいのではないか?と思ったりする。それ一本で勝ってきた形に折り合いをつけるのは外野から見るほど簡単ではない気がしてしまう。

 川崎は先制点以降も押し込みながらボックスに迫っていく。主役となったのはもう1人の交代選手である家長。相棒に瀬川とファン・ウェルメスケルケンを使いながらボックス内に侵入していく。一度家長がカットインした場面ではPKがあってもおかしくはなさそうであったが、主審の判定はノーファウルとなった。

 すると、京都は後半頭の川崎のようにこちらも劣勢の状況から反撃。ボックス内で上げたクロスが橘田の手に当たって京都にPKが与えられる。肩よりも上に上がっているのは確かではあるが、不自然だったかは疑問がわかれるところだと思う。

 終盤川崎はジェジエウのセットプレーでの攻めあがりが最も色濃い攻撃のチャンスとなっていた。対する京都も前線に豊川というポイントを増やすことで反撃に。再びオープンな展開に終盤は逆戻りとなった。

 終盤まで続く一進一退の攻防はどちらも実ることはなし。試合はドロー決着となったが、試合後に行われた磐田が敗戦したため、京都と川崎は共に残留を決めることとなった。

あとがき

 本文中に紹介した鬼木監督の「前に前に~」というコメントの後には「ただ、行ったり来たりという難しい展開になっていたので、縦が速かったですがもう少し横の揺さぶりが出てくればよかったと思います。」と続く。大枠の方向性はよかったけど、どう縦に急ぐかのところは不十分だったということなのだろう。

 今年というか近年の川崎は縦に急ぐことも珍しくなくなっている。個人的にはそれ自体は別にどうも思わないのだけども、マルシーニョ以外の選手はとにかく縦に速いだけのロングボールというフレームの中では特別力を発揮するわけではないことは頭に入れてほしいと思う。

 川崎が縦に急ぐ意味を付けるのであれば、この日のエリソンのように収めて中盤を解放し、前を向いた状態でラストパスを付けることではじめてバリューが出る。相手の足を埋めた状態で中盤のパスを刺すイメージだ。

 この日のように行ったり来たりの展開が続くのであれば、中盤に大島や山本は不要で、速く動き、広く守りながらゴール前に雪崩れ込むことが出来る選手の方がはるかに重要だ。ピッチを沸かせるパス1つよりも何回でも繰り返して上下動ができる方がバリューは高い。大島は得点のおぜん立てはしたけども、彼を中盤に置く意味付けというのはこの試合においては甘かったのかなと思ったりする。大島と生きていくのならば、意味付けまでしっかりしないとデメリットは覆えない。

 今のJリーグで何でもできるスカッドは手に入らない。そんなものはどのチームも持っていない。差はあれど、目の前のスカッドとにらめっこしながらできることとできないことを判断しながら目の前の相手と立ち向かう作業が必要である。京都戦ではここがあまりうまくいっていなかったように思える。川崎のスカッドの特色を活かす縦の速さの落とし込み(=中盤がアタッキングサードにラストパスを出せるように前を向く)が足りていなかったと思う。

 なんだかんだ終盤になんとか間に合った感のあった昨季と比べると、できる試合1つの後にできない試合が続く今年はもどかしい。現状を把握しながら1つずつできることは増やしていかないと結局強くなるのは難しい。

試合結果

2024.11.9
J1リーグ
第36節
京都サンガF.C. 1-1 川崎フロンターレ
サンガスタジアム by KYOCERA
【得点者】
京都:79′(PK) ラファエル・エリアス
川崎:59‘ 山田新
主審:笠原寛貴

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