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「苦戦の収穫と懸念」~2020.10.10 J1 第21節 川崎フロンターレ×ベガルタ仙台 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
大人なリスタート

 激闘のカップ戦から中2日、入れ替えたスターティングイレブン、そして最近の試合ではお馴染みとなった大雨。準備万端のリスタートとは言えないかもしれないが、タイトル獲得に向けて再びリーグ戦を走るための試合である。

 この試合のポイントとして個人的に位置づけたのは立ち上がりの入り方である。ルヴァンカップのFC東京戦は序盤に勝負のパスを入れるタイミングを見つけられず、先制点を取られた上で相手のテンポにハメられてしまった。

 同じく今年のユアテックスタジアム仙台でのアウェイゲームの前半も同じ展開だった。仙台の構える守備ブロックに対して、動かせずにあれよあれよいう間に点を取られてしまった試合である。個人的には仙台はカップ戦からのリスタートという意味では最も適した相手といってもいいくらいだ。

 求められるのはカップ戦からのリバウンドメンタリティ。そういう状況下では川崎が「猛烈プレス」とか「シュートの雨あられ」という形で攻め立てる状況を想定していた。しかしながら、今年の川崎は自分が想像するよりもはるかに大人なチームだったのかもしれない。

 立ち上がりのボールの行き来の展開が落ち着くとボールを握ったのは川崎だった。川崎は攻め急がずに局面を見て仙台の4-4-2の守備ブロックを動かし続けていた。FC東京戦での川崎の問題点は片側にボールと人を集めて局面打開にこだわりすぎていたことにある。

 仙台戦の川崎もFC東京戦と同じく比較的ボールサイドに人を集めていた。WG、SB、IHでのパス交換でサイドから押し込む動き。IHの大島と中村の両名は揃って同サイドに集結することも珍しくなく、仙台に対してある程度人数を確保していた。ただ、ボールサイドと逆側のWGは必ず逆サイドで幅を取ること。鬼木監督はこれを徹底して要求していた。

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 ボールサイドに集めて逆サイドに展開する。逆サイドのWGが孤立しないように、SBがガイド役としてサポートする役割に。ダイレクトにWGにサイドチェンジできれば最高だけど、なかなか一発でクリティカルに決定機がつながることは難しいので。そして仙台の2列目の守備がボールサイドによることもあり、逆サイドのSBのスペースが空きやすいというのもこのサイドチェンジが効く要因である。

 3分のシーンはこの仕組みがよくわかりやすいシーンであった。右で作って車屋を経由して三笘で勝負!みたいな。最後は裏抜けを柳に止められてしまったけども。

【前半】-(2)
気になる仙台の重心

 仙台のサイドでの守備の問題点はボールホルダーに対してはある程度近い距離で守れているものの、ボールホルダーが次に出しそうな選手へのマークが遠く、パスワークを阻害できないこと。ただし、上で述べたように仙台側も中盤はボールサイドにはスライドするので、川崎のサイドチェンジを許せば刺さってしまう。そして、サイドチェンジを許さずにサイドで閉じ込めることもできないというジレンマである。

 サイドにおいてボールホルダーの周辺選手へのプレッシャーが弱い分、仙台の選手たちがどこを気にしているのかというと後方のスペース。重心を後ろに下げて後方に人数を割く選択をしていたように思う。仙台としてはサイドから押し下げられてしまうことをあらかじめ意識していたのかもしれないが。

 サイドでラインを下げることで弊害もあった。34分のシーンが一例。裏に抜ける旗手にマテウスがパスを出したシーンである。一見、ギリギリでカットした関口のファインプレーにも見えるが、そもそも関口のスタートラインが後ろすぎる気もする。マテウスにプレッシャーがかからなかったのは彼のスタートポジションが原因な気もする。

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 もう1つ、仙台の守備で気になったのは仙台のMFラインの手前にいる川崎の選手がフリーでボールを持てたこと。仙台は重心が後ろ向きになっていたものの、ラインの設定自体はそれほど低くない。したがって、後方からの裏抜け狙いで一気にラインを2列分突破されるパスに弱かった。DFラインと川崎のアタッカー人の駆け引きでは流石に川崎の方が上。百戦錬磨の小林悠を個人でなんとかし続けなさい!というのはポテンシャルの高いアピアタウィアといえど流石に厳しい。

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 先制点の場面もこのシーンから。三笘から小林悠へのスルーパス。ボールの奪い合いがたまたま落ち着いた一瞬をしてやられた仙台。ただ、ここのエリアへのプレッシャーがそもそもかなり緩かったことを考えると、ハイライン+ボールホルダーへの甘いプレスという弱点を川崎がうまくついたともいえる。

 ただ、川崎も川崎で万全ではなかった感があるのは、手始めに形成するサイドの密集の段階での突破があまりなかったこと。密集はあくまでフリということならわかるけど大島、中村、三笘という密集が好きそうなメンバーが集結した割には打ち破る機会が少なかった気もする。仙台の守備陣が体を張って頑張っていたのももちろんあるだろうけど。

 なにはともあれようやくこじ開けた川崎。1点のリードで前半を折り返す。

【後半】
降りた受け方と問題点

 前半のスペースで紹介しきれなかった仙台のボール保持の局面。サイドの選手の内側と外側の棲み分けがハッキリしているのが特徴。SHが内側のレーン、SBが外側のレーンに位置を取ることが多かった。内側のレーンでSHが起点となり、そこから外のSBに展開することでエリアに攻め込む体制を作るのが仙台のやり方である。

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 理屈は上の図の通り。なかなか前半はこのやり方が通用しなかった。CHがそのスペースになかなかパスを供給できず、ボールが通ってもSHには川崎の選手がタイトにマークについており、仙台の選手のサポートも乏しかったため、外に無事に展開する機会はかなり少なかった。

 後半のボール保持における仙台の変化点は後方の人数を増やしてポゼッションの時間を作ろうとすることだった。そのために椎橋が最終ラインに落ちたり、SHの道渕や関口はより低い位置で受けるために降りてこようとするアクションが増えていた。

 確かにこのアクションにより、ボール保持の時間を増やすことはできた仙台。しかしながら、後ろの人数が増える分、ボールの受け手は少なくなってしまう。その部分の人数調整の工夫はそこまでできていなかった分、スムーズに前進!とまではいかなかった。後方でのボール回しも川崎がハイプレスに来た時には怖さもあり、実際に危険な状況でのロストもあったので収支は微妙なところだ。

 ボール保持における列落ちに対する人数調整は川崎の方が上手だったように思う。三笘が低い位置で受ける動きに合わせて、柳を引き付けてアピアタウィアが広いスペースを管理するように仕向ける。引く動きと裏を狙う動きがセットになっていたので効果的な前進につながっていたように思う。

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 追加点は取れずとも展開としては万全だった川崎。しかしながら、徐々に川崎もサイドのスペースからほころびを見せるようになる。仙台のターゲットとなったのは川崎の左サイド側。後半は特に車屋のパフォーマンスが気になった。62分の柳のPAの侵入を三笘が体を張って食い止めたシーンでは、車屋は強く前に出ることもなく、相手のプレーを遅らせることもできず、かといって後方に追いなおすわけでもないという不思議なプレー選択。65分には簡単に道渕に振り切られるシーンもあり、ちょっとコンディションが気になるところである。仙台としてはこちらのサイドを狙うことで、仮に攻め落としきれなくても三笘を相手陣に押し込めるのはおいしい。

 三笘⇒齋藤にSHをスイッチしても川崎の左サイドの状況は変わらず。同サイドに投入された下田も高い位置に出ていくことが多く、川崎の左サイドは塞ぎきれなかった。下田の役割はちょっとイマイチピンとこなかった。

   仙台の右サイドでは突破力のある柳の大外での躍動に加えて、中央には交代で入った長沢もゲデスに加勢。ファーサイドの高さが足されたことで、クロスの威力はさらに増していた。80分を超えてからの右サイドの攻勢を強めた仙台。クロスバーをかすめる場面もあったものの、最後までゴールを割ることはできなかった。

 試合は1-0で川崎の勝利。苦しい場面もあったが、何とか逃げ切った。

あとがき

■あと一歩であっている?

 最終盤の20分を見れば試合は仙台のもの。確かに勝ち点まではあと一歩だったという風にも見ることはできる。ただ、今年の仙台の試合はあと一歩で勝ち点を逃すことがとても多いように思う。C大阪戦は逃げ切りに失敗するガス欠。この試合は後半に追い上げるも届かずという形。川崎相手に20分弱は主導権を握ったものの、それだけで試合を決めきるほどの前線の決定力があるわけではない。

 ボール保持についてはショートパスをなるべくつないで進みたいのだろうが、現状では個人個人が相手を剥がして前を向くアクションができるかどうかに打開はかかっている。先発メンバーで言えば道渕は受けて相手を剥がす動きにおいて一定の成果をみせられたといってよさそうだが、ほかの選手はなかなかうまくいった!と胸を張れる水準には至っていない。途中で出てきた田中は面白かった。

    個人だけでなく仕組みとしてもこのやり方が十分かどうかも難しいところ。列落ちを許容するならもう少し安定以上の意味は持たせたい気がする。システムも個人もスケールアップして、来季につなげる残りシーズンにしたいところだ。

■大人な対応、気になる個々の状態

 遮二無二プレスに行くというわけではなく、相手の空いたスペースに応じて広い方向にボールを動かすというやり方は非常に大人。エネルギーがみなぎらせる!という手法とは異なるアプローチで主導権を握ることで70分までは仙台を枠内シュートなしでねじ伏せた。

 クローズの局面はうまくいかなかったわけだが、ここは守備の局面における個人のパフォーマンスレベルで気になった部分。本文中で触れた車屋と下田はこの状態ではレギュラー争いに名乗りを上げるには厳しいパフォーマンス。

 ただ、ひさびさの出場となった選手の中では奮闘した選手も。ボールホルダーに対してマイナスのパスコースを作ることで落ち着けどころをもたらしていた中村と、ピッチを広く使うやり方に対して出し手としても受け手としてもフィットするマテウスは好印象。共に適応できるポジションの狭さからベンチ入りは遠ざかっているが、出場の機会を得た際には今季ここまで安定したパフォーマンスを見せてくれている。

今日のおすすめ

   9分。カウンターの一連の中村憲剛。対面の椎橋がなんとかしづらい角度で入って右に叩いて、もう一度左に展開、そして最後のファーでのクロスも含めてボール運びから揺さぶりまでの一連の巧みの技が素敵。

試合結果
2020.10.10
明治安田生命 J1リーグ 第21節
川崎フロンターレ 1-0 ベガルタ仙台
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:41′ 小林悠
主審:福島孝一郎

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