スペインに対する回答提示が間に合わなくなった日本
立ち上がりは1分も経たずに細谷がエリック・ガルシアに裏抜けから警告を引き出すスタート。ロンドン五輪の永井とイニゴ・マルティネスのシーンを思い出したのは自分だけではないだろう。
このように日本は前から勢いを持って試合に入った。左サイドでポイントを作ると、スペインはWGのオロスを下げてスペースを埋めたので、ブロック守備に関してはある程度人海戦術で守らないとまずいという考え方もあったのかもしれない。
あるいはスペインからすれば保持さえできれば、陣地回復はなんとでもなるという考え方もある。細谷と三戸がフラットに並ぶ4-4-2で向かってくる相手を4-3-3で外していこう!という命題はスペイン人のナショナルチームの文脈からすれば、おそらく一歩目といってもいいだろう。まずはバックスのボール回しでアンカーを解放し、サイドに散らすという方法論が世界で最も確立しているナショナルチームがスペインである。
日本は細谷と三戸がアンカーのバリオスを気にかけつつCBにプレスをかけるやり方でなんとかしようとしていたが、時折揃ってバリオスを開けてしまうシーンがあり、ここから右サイドのオロス-大畑のマッチアップに持ち込み、クロスを上げることで日本のゴールを脅かしていく。
徐々に試合はスペインの保持の局面が濃くなってきたところで先制点が生まれる。背負って受けようとした三戸のところを咎めることに成功したスペインは敵陣でカウンターを起動。距離のあるところながらフェルミンがゴールを仕留めてリードを奪う。
リードされた日本は後方の同数を受け入れて中盤にハイプレスに出ていくケースが増えた。2トップは2CBをケアし、アンカーをケアするのは日本の中盤の仕事になる。
やや、極端な主導権の引き寄せ方ではあるが、この方向性転換はあまり効果がはっきりしなかった。というのも、ここから徐々に試合は日本の保持の場面が増えていくからである。
スペインは敵陣にハイプレスに出ていくところと、自陣側でリトリートすることを使い分けるようになっていく。自陣側のリトリートで特に気にしていたのはサイドの枚数をきっちり合わせること。4-3-3の王道であるWG-SB-IHのトライアングルのアタックに2列目を下げてついていくことである。
ハイプレスに出ていってもいいが、リトリートでサイドの枚数を合わせることは合わせてくれ!というのがスペインの守備の要点である。日本はGKの小久保が預けどころになったり、蹴っ飛ばしたところで前線の細谷がきっちりボールを収めたりなど、スペインのハイプレスに対抗する術を見つけてはいたが、スペインがハイプレスからリトリートに移行する前に攻め切る手段はなかなか見つからない状況だった。
スペインの自陣での振る舞いは「ボールを持たせてやるから解決策を探してみろ」というものだった。その答えに日本が手をかけたのが、細谷がネットを揺らすもオフサイドで取り消されたシーンである。きっかけは列を上げることでフリーになった藤田。ここから細谷に正確な縦パスを送ると、反転からシュートを決める。サイドの枚数はあわされていた日本は藤田の列上げによって、撤退守備の課題を解決しかける。オフサイドは結果でしかないので、プロセスとしてはスペインの要求に答えを出したシーンだったと定義して差し支えないだろう。
不運にも後半も追いかける展開は続くことになる日本。ハーフタイムを挟んで、スペインは高い位置からのプレスを強めることで日本のバックラインにより時間を与えない方向性を強く打ち出すようになる。スペイン側の問いかけとしては「よりバックラインに強くプレスをかけたらどうしますか?」である。
日本はハーフタイムに交代した藤尾のサイドにボールを集めることで答えを提示しようとする。大外の藤尾を基準に、ハーフスペースの裏を関根が襲撃する形から日本はラストパスを狙うことができている。後半はスペインが前に出ていく圧力を増やしたので、前半にケアできていたサイドの枚数合わせが効かなくなったというのは至極理解しやすい流れと言えるだろう。
しかしながら、日本は関根からのラストパスに入ってくる選手まで設計することはできず。前半よりも総じて忙しい展開だったので、押し上げが効かず、最終局面に関わる選手が少なかった影響もあるだろう。左サイドに交代で入った佐藤にはこのラストパスに合わせるフィニッシャー役を託したかったところだが、日本の右のハーフスペースの裏抜けは佐藤の投入後に体力面の影響からか激減してしまったので、なかなか効果が見えづらくなってしまった。
スペインは保持に回った時も日本のプレスを引き付けつつ、日本のMFの背後にCFを下すことで日本のCBをつっつく場面を増やしていく。高井、木村は総じてよく迎撃していたが、前へのプレス意識が強いMFの影響で、相手を挟み込めない分、ポストで逃してしまうと自陣に穴を開けてしまう場面がちらほら見られるようになった。
スペインは前半以上に保持局面を増やすことで日本に違う角度からのプレッシャーをかけるようになる。押し込む頻度が増えたスペインはCKからのフェルミンのミドルでさらに追加点をゲット。小久保にとってはスーパーなシュートからゴールを守れなかった悔いが残る2失点となってしまった。
それでも最後まで諦めなかった日本だが、CKからのニアストーンが機能せず3失点目を喫してしまったところで試合としてはジエンド。東京に続き3年ぶりに立ちはだかったスペインにまたしても日本のトーナメントの扉は閉ざされることとなった。
ひとこと
勝てなかったのは後半のスペインの問いかけに対して、日本の答えの提示が時間経過による体力低下で間に合わなくなってしまったことが大きいだろう。強度ベースの解決策であることはビハインドの時点である程度仕方ないというか、そういう勝ち方を国際大会でしてきたのが日本なので、仕方ないと言えば仕方ない。ガソリンが切れる前になんとかしたかった。
前半のボールを持たされる展開からの解決策提示は日本にとってはあまり得意ではない分野。守田でも冨安でもなく藤田がこの大舞台でその答えに手をかけた意味は個人的には大きいように思う。
奇しくもスペインに敗れて涙するという構図は3年前と同じである。この涙から成長した東京組の背中を追って、パリ世代の選手にも悔しい思いを再び世界の舞台で晴らすチャンスが訪れることを切に願っている。
試合結果
2024.8.2
パリオリンピック
Quarter-final
U-23 日本代表 0-3 U-23 スペイン代表
スタッド・ド・リヨン
【得点者】
ESP:11′ 73′ フェルミン, 86′ ルイス
主審:ダハン・ベイダ