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【前半】
低重心のレスターとシティの狙い
全局面の大会と化しているチャンピオンズリーグをボール保持×ハイプレス特化型で突き進んでいるグアルディオラのシティ。そして、奇跡の優勝からクラブカラーを一新し、ボール保持を軸としたイメージに塗りなおしているロジャーズのレスター。共にボールを持ちたい両チームの一戦ということで、ボールの握りあいになると予想していた人もいるだろう。
しかしながら蓋を開けてみれば広がっていたのはシティがリトリートするレスター攻略に挑む光景であった。形だけ見れば直前のトッテナム×ニューカッスルとほぼ同じという。
レスターの5-4-1ブロックにはプレスの意思はあまり強くは見られなかった。ラインの設定は二段構え。ボールが中央にある時はトップがハーフウェーラインを越えた位置、最終ラインはPAから10mくらい手前。ボールが少し高めのSBにある時はトップがハーフウェーラインより手前で、最終ラインはPA付近に位置するイメージである。1トップのヴァーディはCBは放置、それどころかCHのフェルナンジーニョやロドリすら放置するときもあった。
大外はWBの担当。中盤の4枚は中央を閉じることを優先でシティに真ん中でのパス交換を許さないことをまずは優先しているように見えた。
レスターはかなり低い重心のアプローチ。4分にセットプレーからマフレズに先制点を決められたとて、この方針にブレはなし。まずはリトリートで近いスペースを埋めることが優先として、シティのボール保持を迎え撃った。
シティの狙いはとにかくニアのハーフスペース。ウルブス戦も思ったけどなんか原点回帰した感があるなっていうくらいこのスペースを狙っている気がする。ただ、レスターも厳しく5バックでスペースを制限しているため、このスペースを攻略できることは稀。シティは大きいサイドチェンジを挟みながらこのスペースを狙う。それでも突破してシュートまで行けるシーンはあまりなかった。それだけレスターのブロックの完成度は高かったということだ。
【前半】-(2)
ローラインなだけじゃない
レスターがニューカッスルと違うのはボール保持における仕組みも機能していた点。最終ラインは3バックからソユンクとエバンスの2CB体制に。アマーティがRSBのように振舞い、WBのカスターニュがサイドの高い位置まで出ていく。SHだったプラートが内側に絞る。メンディをアンカーとした4-1-4-1のような形に変形する。
ボールを動かしながら攻めることもできるレスターだが、この試合で光っていたのがカウンター。キーポイントとなるのは「フェルナンジーニョを越えられるかどうか」である。PKのシーンは飛び出してきたフェルナンジーニョをナンパリス・メンディが交わしたところが起点。この日はもち運び役として抜群の働きを見せたバーンズがヴァーディにラストパスを送ったところでウォーカーが引っかけてPK。
マフレズの寄せにも屈せずタメてタメて、丁寧なラストパスを送ったバーンズの素晴らしい仕事と相手の死角からゴール方向に抜けていくヴァーディの職人芸の組み合わせによる見事なPK奪取だった。
逆にフェルナンジーニョを越えきれなかったのは40分のシーン。一度はフェルナンジーニョを振り切って前に運べたジャスティンだったが、持ち直しているうちにフェルナンジーニョがもう一度プレスバック。ここで攻撃は終わりとなってしまった。ここを越えられるかどうかがレスターの攻撃の成功率と比較的リンクしていたように思う。
ブロック守備を頑張りつつ、カウンターで牙をむく。対シティとしてはかなり完璧な試合運びにも見えるが、気になる点がないわけではない。セットプレーの守備である。シティが前半作った決定機はセットプレーとオープンプレーがほぼ同じくらいか前者が多いくらい。もちろん、流れの中でよく抑えているともいえるのだが、セットプレーになると途端に被決定機が増えるのは気になった。ほぼ毎回シティは決定的なシュートまで迎えていたし。あんまりシティにセットプレーの得点の印象もないし。継続していく中で泣き所にならないか気がかりである。
持てるが攻めあぐねたシティに対して、カウンターによる一太刀でリードをチャラにしたレスター。試合は1-1のタイスコアで後半を迎える。
【後半】
なくなった壁
後半の入りは前半の焼き直し。マンチェスター・シティが必死こいてレスターの5-4-1ブロックの解体に挑むという展開。後半もこの形が長く続くのかな?と思っていたけど、試合はいろんな意味で結構早く動いた。まずは動いたのはマンチェスター・シティ、というかグアルディオラ。デラップを入れてフェルナンジーニョを下げる采配で中盤を削る。
デラップは見たことない選手だったけど、おそらく中央に陣取る9番タイプ。自由に動き回っていたシティの前線に基準点を設けたイメージである。ただ、より気になるのは後方のリスク管理の方。中盤の防波堤になっていたフェルナンジーニョが下がり、デ・ブライネとロドリがコンビを組むCHの強度がレスターに耐えられるかどうかである。
ロドリはこの試合では相棒がフェルナンジーニョだったこともあり、プレスで前に出ていく場面が結構あったんだけど、フェルナンジーニョがいなくなってからも同じノリを維持しているのは気になった。デ・ブライネに後方任せてプレスとかいいのかそれは。
受けに回る守備の脆さの懸念は割とすぐに当たることになる。54分のヴァーディのゴールのシーンは、レスターの右サイドの連携に対してシティの左サイドがあまりにも無力。縦に鋭いパスを出したティーレマンスも裏に抜けたカスターニュにも全く制限をかけることができなかった。
レスターの攻勢は続く。今度は左サイドから。フェルナンジーニョがいなくなったサイドである。先ほどまでフェルナンジーニョが埋めていたスペースでティーレマンスは悠々とボールを持ち運んでいた。大外のバーンズから機をみたヴァーディへのラストパスは同点弾と全く同じ形。思わず引っかけてしまうヴァーディの動き出し、なんなんだろうな。すごいね。
いずれにしても、中盤の防波堤であるフェルナンジーニョがいなくなったことでレスターのカウンターはより刺さりやすくなっていった。それどころか、シティのプレスの後方からの連動が甘くなってしまったことから、ゆったりボールを持つことも可能になったレスター。ボール保持の時間を徐々に増やしていくことに。より攻撃的に出よう!ということで変更したシティの布陣が、レスターが得意とする局面を増やしてしまうというのはなかなか皮肉な展開である。
セットプレーでアケが1点を返すが、流れの中からのペースはレスターサイドから動かない。マディソンの4点目は確かにスーパーゴールだが、あの位置で自由を与えすぎなのも確か。ミドルを叩きこむクオリティが高いのは間違いないが、あの位置でマディソンにプレッシャーがなければただじゃすまないのは当然といえば当然。ロドリがサイドに釣りだされてDFラインの前ではレスターの選手が自由にプレーできていた。
この日3回のPKとなった5点目はここまでの2つのPKと同じ形。PA内に侵入するレスターの選手の動きについていけずに、後ろから引っ張り倒してしまう形である。本来はシティが崩しの局面でやりたかったハーフスペースの裏抜けだが、この試合では完全にこの崩しはレスターの形だった。
試合は2-5。予想のつかない乱戦はレスターが制して3連勝を決めた。
あとがき
■使い分けた顔でシティを圧倒
お見事。ローラインでスペースを消して完全にシティを封じた上に、前に出ていく馬力も披露したレスター。相手が前がかりになると今度は保持でじっくりと崩す形も出てくるというフルコース。シティに合わせて繰り出してくる様々な顔はいずれもクオリティが高く、シティを苦しめていた。ローライン、カウンター、そしてボール保持。局面に合わせた装いは力んでもがいてミスを重ねるこの日のシティとは対照な大人なチームであった。
特に攻守に高いクオリティをみせたのは中盤のプラート、バーンズ、メンディ、ティーレマンス、加えてWBのカスターニュ。今季はなんでマディソンが控えなんだろう?と思ったけど、このユニットの崩したくなさはなんとなくわかる。周囲を使うタイミングと自ら持ち運ぶ局面の使い分けが絶妙。中盤以外も高い完成度で、プレミアの中でもかなり今やりたくないチームである。
唯一気になるのはセットプレー。失点も決定機もこの試合のほとんどのピンチはセットプレーから。ここから先手を取られると嫌な感じはするが。
■悪循環を断ち切りたい
尖っていることで刺されてしまった感のある昨季のCL。それだけに序盤戦でこのような尖っているところをへし折られる昨季のような敗れ方はダメージが大きいだろう。フェルナンジーニョ不在がこの試合では悪手のように見えたし、個で解決できない最終ラインはメンバーを入れ替えても同じ。もちろん、加入間もないアケと若いガルシアにすべての責任があるわけではないが、左サイドのメンディも含めて受けに回ってしまうと苦しいDFラインであることは間違いない。
ならばボール保持を何とかしたいところだが、こちらも今日は不発。前半はニアのハーフスペース裏抜け、後半は単純なクロスに偏りが見られ、手段を織り交ぜて相手を惑わすような駆け引きをする余裕がなかったように見えた。連携で崩すシーンはあまりなく、9番がいるほうがいいのかいない方がいいのかも正直よくわからなかった部分ではある。
怪我人に病人と苦しい台所事情であることは考慮しなければいけないが、CL敗退から続く悪い流れは早めに断ち切らなければ、王座奪回への道は険しいものとなる。
試合結果
2020.9.27
プレミアリーグ
第3節
マンチェスター・シティ 2-5 レスター
エティハド・スタジアム
【得点者】
MCI:4′ マフレズ, 84′ アケ
LEI:37′(PK) 54′ 58′(PK) ヴァーディ, 77′ マディソン, 88′(PK) ティーレマンス
主審:マイケル・オリバー