スタメンはこちら。
【前半】
特色に合わせた人選
プレビューを書いていると予想をガッツリ外すというのはよくある話なのだが、中村憲剛の話をこれだけガッツリ書いておきながらベンチ外というのは悲しいものである。
広島のスタメンは予想的中。部外者の自分にも当てられるほcお広島のスタメンが予想しやすかったものであることを考えると、鬼木監督がこの日の川崎のスタメンに求めるものが見えてくる。
広島のボール保持において最も警戒が必要なのはPA付近まで運ばせないこと。レアンドロ・ペレイラとドウグラス・ヴィエイラはPA内での働きは抜群でここで勝負されると川崎は厳しい。右のシャドー兼2トップの一角のように振舞うドウグラス・ヴィエイラに対してPA内でも対抗するために登里ではなく車屋が空中戦の強みがある山村の隣に収まる。森島の抜け出しにはジェジエウがつぶす役割だろう。抜け出したのはレアンドロ・ペレイラだが、22分のような形に対応するためだ。
RSBがマテウスではなく山根だったのは人についてくる意識が強い広島のDF面を考慮しての部分ではないか。オフザボールに長けている山根の方がスペースに侵入する能力は高い。ターンオーバーだけど、狙いはわかりやすかったDFラインのメンバーだった。
ただ、ここ数試合の広島を見てみると、昨年以前と比べて左サイドの崩しの頻度はそこまで多くない。柏の仕掛けはかつてよりも存在感が薄まってしまっている。なので彼らの1stチョイスは早く中央に縦パスをつけること。レアンドロ・ペレイラや森島などをレシーバーとした楔を最終ラインから狙う。
しかし、ここの縦パスが来ることは川崎も予期していたように思う。川崎もここ数試合と比べれば無理に前線から追い回すこともしなかったし、広島としても川崎の選手を動かすようなボール回しは見られなかったので、なかなかすんなりとラインを超えるパスが通ることはなかった。それでもセカンドボール回収からPAに迫った際の迫力はさすが。広島の悩みはこの状況をどう作り出すかである。
川崎のボール保持に対しての広島は5-4-1。ただし、シャドーは札幌戦や仙台戦よりは積極的に前に出てくる(ヴィエイラはただの前残りかもしれないけど)ため、CBにも一定のプレッシャーをかける意識がある場面もあった。しかしながら、これまで対戦した相手に比べるとCBにもアンカーの守田にも時間は与えられていたので、川崎がボールの出しどころに悩む場面は少なかった。
特徴があったのはダミアンが降りる動きが多かったこと。相手を背負って起点になれるCBの場合はダミアンが降りるやり方は有用。この試合でも左のハーフスペース付近に降りる場面は目立っていたし、マッチアップした野上も背負える公算があったのだろう。ただ、広島の特色を考えると狙いはむしろ相手CBを動かすことにあった気もする。
広島は人海戦術で数的優位を担保しつつ、目の前の相手についていく意識が強いので、ダミアンが動けば簡単にその分のスペースを空けることができる。例えば7分の場面はその典型。車屋がダミアンの空けたスペースに侵入してシュートまで。威力はなかったが理想的な攻撃の流れだった。
繰り返しになるが、山根を使ったのは相手が空けたスペースに侵入する能力の高さと広島の守備の特徴がマッチングしたからではないかと推測している。先制点のシーンは旗手とのコンビネーションで柏と佐々木を引き出すと、田中碧にラストパス。田中を見ていた川辺は一本マイナスのパスを挟まれてしまったために、意識が前に向いてしまい、最終的には放置してしまった。オフザボールとフィニッシュワークへの関与に自信がある田中碧らしい得点だった。
【前半】-(2)
横と人数確保で裏狙う
飲水タイム明けに荒木が見せた持ち上がりはこの試合の前半の広島のベストなビルドアップかなと思う。サイドに時間を与えてシャドーのポストを介して、早めに縦に展開する。広島としてはこういう攻撃やりたかったんだろうなと思ったシーンだった。
飲水タイム明けの広島は4-1-5気味に変形。CHの2人が段をつけて最終ラインに1人が入ることで形はミシャ式のような陣形になった。
最終ラインに人数を確保しつつ最前線に5人並べて横幅を取る。4-4-2のように並ぶ川崎に対して中盤を空洞化する。広島の狙いは明らかで裏をとってレアンドロ・ペレイラのところで勝負すること。そのための起点をWBに定めるための変形かと。サイドから多角形のパス交換で崩すというよりはアーリー気味に裏を狙ってさっさと崩しにかかるのがこの日の広島。
前線に5枚並べて4バック相手に広島が数的優位を確保したこともあってか、中盤に1人残ることが多かった川辺を意外と捕まえられない守田と田中。やっぱり後方の方が気になっただろうか。
5バックで横幅を取ったこともあり、川崎の最終ラインは横に広げられる。横に相手を広げられた分、広島は裏をとりやすくなった感。川崎はギリギリの対応を強いられる場面もあった。川崎がカウンターでやり返すこともあったが、前半の終盤は広島のペース。ゴールまであと一歩の場面まで迫れていたが、ネットを揺らすことは叶わなかった。
試合は1-0。ホーム川崎のリードでハーフタイムを迎える。
【後半】
問題点を炙り出し早々に決着
勝敗という意味での決着は後半早々についてしまった印象である。ハーフタイムに三笘、大島の2枚を投入して左サイドを入れ替えた川崎。結果的には三笘によってもたらされた2点目が非常に大きい意味があったといえそうである。
この失点を紐解いてみると前半から目立っていた広島の守備における「ボール周りの出来事<自分の目の前のマッチアップ」という優先度が悪い方向に出たように思う。この場面では三笘とハイネルがマッチアップしていた。ハイネルの後方に構えていた野上の行動の基準は目の前の大島にある。この場面では大島がボールから離れていく方向に動いたため、当然野上もボールから離れる方向に動く。したがって、ハイネルが抜かれた後は三笘はPAをえぐるように一直線。カバーに入るのは野上より遠い位置にいた川辺だった。
誰が悪いのか?というのは微妙なところ。個人的には三笘と対峙するハイネルのカバーは相当優先度が高いのだが、仮に「ボールの位置に基づいた守備よりも目の前のマッチアップ相手を優先しなさい」という指示が出ていたのならば、野上はそれに従ったまでとも考えられる。
個々人が何とかする!という前提に基づいた守備は4点目のシーンでも。荒木は間に合わないタイミングでダミアンにチェイスに行き、裏のスペースを空けて田中碧に入り込まれる。確かにこの場面は青山と川辺の緩慢さは目立った場面ではあるけども、荒木がボールにいったタイミングが適切だったかは微妙。
いずれのシーンにおいても、もし上記における「目の前の相手をそれぞれが何とかする」という作戦に基づいて守備なのだとしたら、それぞれの失点のシーンは三笘に抜かれたハイネルが悪いし、田中碧に走り負けた青山が悪いということになる。ただ、普通に考えればハイネルは三笘に抜かれるだろうし、田中碧に青山が走力で勝つのは難しいだろう。失点の原因がそこになってしまうのは何とも言えないやるせなさを感じる。
川崎目線で言えばそういう基準で広島が来てくれるのならば三笘を入れることで対人で優位に立てる部分を作ってしまえばいい!ということになる。もしかすると今季オフザボールでの動きの向上も見られる大島もセットでデザインされた崩しなのかもしれない。いずれにしても、広島の守備における優先度を川崎がうまく利用してあっという間に突き放してしまったなというのが後半序盤の印象だった。
広島は茶島、エゼキエル、そして浅野を投入する。ドウグラス・ヴィエイラを下げて高さがない分、ファストブレイクの意識は強め。横幅を使ってフリーでWBが仕掛けられる場面が徐々に出てくる。ここでも気になるのは柏。56分のようにかなりスペースがある状態で余裕を持って受けられた場面でもクロスまで持って行けない。流れでPA内まで上がった野上が何も起こらずに戻ってしまったように、味方はクロスを期待していたシーンだと思う。川崎からしても抜き切らずともクロスが飛んでくる方が怖かった。その1分後に実際クロス上げたシーンは怖かったしね。こういうシーンが以前に比べると少なくなってしまったなと思う。
純粋な高さがなくなった分、エゼキエルや浅野などシャドーの鋭さで勝負する場面が増える広島。90分に一矢報いたシーンは浅野が川崎の守備陣が緩慢な対応をした隙をついて一振り。小林悠のPKで5点目を取った川崎に1つかみつき返すことができた。
が、反撃もここまで。試合は5-1。川崎が後半頭の大量得点で広島を下した。
あとがき
■何が正しいのか
基準がどこにあるのかがわからないので、何が悪いのか誰がよくないのかの判断が非常にしにくいチームだった広島。外から見て一見よくない選手でも実は内々では悪くない評価!とかいうのは全然ありそうである。守備面での課題はプレビューで指摘した通りの人によって動かされたスペースの埋め方。人が余っているけど、相手に嫌なところに侵入を許してしまっている場面がこの試合では目立ったので、人海戦術が通用していなかったように思う。
攻撃面ではシャドーやWBのキャラクターによって色が結構変わるのは面白い。川崎戦でも相手陣に迫れた時間帯では脅威を示すことはできていたと思う。レアンドロ・ペレイラのPA内での威力は話題にはあまりなっていないけどなかなか。エゼキエルや浅野など途中交代のシャドーの選手たちもエネルギッシュで面白かった。課題はそこまで届ける手段をどう調達するか。ポテンシャルは確かなだけにビルドアップを整理すれば・・・というのは昨年のレビューで挙げた広島の課題と同じ気がする。うーむ。
■用兵が光った前半戦
後半にギアを一段上げて完勝というのはここ最近のおなじみパターンになりつつある。三笘薫と大島僚太の投入を号砲に、この試合では相手が嫌がるスペースの使い方や、対人のマッチアップを仕掛けることができた。
ここ数試合で出番が増えてきている守田や車屋、齋藤は自信をつけてきている様子が見えてきている。田中や山村のように久しぶりの起用になった選手たちが結果を出せるのは今年の強み。地味だがこの試合では山根の継続起用も光っていたように思う。コンディショニングコーチもさることながら、鬼木監督の用兵も見事の一言。
ひとまずは折り返しだが、鬼木監督本人も言うように勝負はここから。守田が試合後インタビューで言及していたが、前半は連勝を積み重ねていたチームが後半に失速したチームはJリーグでは非常に多い。とはいえ、過密日程で苦しむチームが多いことを思えば、次の試合をわくわくしながら迎えられる状況はチームにとってもファンにとっても悪いことではないはず。やっと半分。あっという間だった気もするが、しんどいのはここからだ。
とりあえず13連戦お疲れ様!
今日のオススメ
普段はゴールシーンは選ばないのだけど、今日に限っては3点目の山村和也のミドルシュートのシーン。とてもよかった。おめでとう。
試合結果
2020.9.13
明治安田生命 J1リーグ 第16節
川崎フロンターレ 5-1 サンフレッチェ広島
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:14′ 51′ 田中碧, 47′ レアンドロ・ダミアン, 50′ 山村和也 88′ (PK) 小林悠
広島:90′ 浅野雄也
主審:東城穣