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【前半】
成否は壁を超えるか次第
大逆転負けのACLで呆然として帰路についたり、初優勝への布石となった勝利を胃が痛くなりながら見届けたり、杉本健勇に出鼻をくじかれて銀のメダルがまたしても1つ増えたり。一番大事なルヴァンカップの初タイトルの時はいなかったものの、埼玉スタジアムには個人的な観戦の思い出がたくさんある。延々と枠に飛ばないPK戦を爆笑しながら観戦したこともあった。これは浦和も川崎も関係ないけども。
DAZNはこの試合を盛り上げるために三笘と橋岡の対談を設けたらしいのだが、蓋を開けてみれば当人同士のマッチアップどころか共にベンチ外という驚きのメンバー表。企画した人はどんな気持ちになるのだろうか。誰も悪くないけど、誰かに文句は言ってやりたい気持ちかもしれない。
立ち上がりは一進一退の攻防であった。川崎は非保持4-3-3でスタートしたものの、すぐに脇坂は高い位置まで進出したため4-4-2のような形に。配置的には浦和のマッチアップと噛み合うような形になる。ズレを作りたい浦和は柴戸が動き回りつつ中盤からボールを引き出す。
浦和の攻撃の成否は守田を越えられるかどうかで決まってくる感じ。主な手段はハーフスペースで関根が前を向いた状況を作り出すこと。内側へのカットインからのチャンスメイク、もしくはフィニッシュをここから行いたい算段なのだろう。
3分のシーン、右で柴戸が作ったタメから杉本を経由して左に展開(この過程で守田を越えた)した流れでは山中のオーバーラップを利用してあわやのシーンも。外の山中からのクロスは重要なのだが、そもそもここまで時間を作って山中が上がる時間を作れるシーンが稀だった。
なるべく広いスペースからスピードアップしての攻撃完結の方が可能性を感じた浦和だが、なかなかそういう状況は作れず。相手のPAまでは運べる場面はちょこちょこあったのだが、川崎がブロックを組んでからはシュート機会を多く作るまではいかなかった。
右のSHに入った柏木はおそらく開けたところへの展開を求められての起用。SBのオーバーラップを誘発するためか関根同様内に絞った立ち位置を取ることが多かったが、効果的なPAや逆サイドへのボール供給はほぼできず。浦和は早い展開から守田という壁を超える形のシュートシーンを数回作るにとどまった。
【前半】-(2)
機会は少なくとも
それでも放送席を含めて「浦和ペース」ととらえる人が多かったのは、川崎の攻撃がスピードアップする機会を序盤は防ぐことができていたからだろう。個人的には浦和のペースとも思わなかったが、川崎ペースとも思えない時間が続いていた印象である。
浦和の守備は4-4-1-1のような並びだろうか。レオナルドはほぼ守備は免除。時にはプレスをかけることもあるが、帰陣する場面はそこまで多くはなかった。どちらかといえば帰陣することが多いのは杉本の方。リトリートしてスペースを埋めること自体はいいと思うのだが、何のために下がるのか?というところがふわふわしていたように思う。
例えば、アンカーを消すという役割を与えるとかはパッと思いつくのだが、特に杉本は守田にこだわる様子はなし。川崎はサイドでの多角形崩しがこの試合の主体だったが、サイドの突破が難しい!となったら中央に立つ守田を経由して逆サイドに展開することが簡単にできていた。
サイドでの崩しという意味では前半はあまりうまくいかないシーンが目立った川崎。浦和の両SHには素早い帰陣が求められていたようで、同サイドのSB、CB、CHと共に四角形を中心に川崎のSB、SH、IHを外に追いやるイメージ。川崎はこのサイドの包囲網から脱出したいのだろうが、なかなか相手を動かすことができない。
広いスペースでの1対1も今季の川崎の左サイドの突破のレバートリーになるが、この試合ではデンが齋藤に立ちはだかる。抜き切らないクロスで何度か小林にボールを送ることはできたものの、齋藤は前半にデンをぶち抜ける機会はあまり多くなかった。デンのSB起用は当たっていたと思う。橋岡を事前番組にキャスティングしたDAZNの人以外はこの日のSBでのデンの起用に不満はないのではないだろうか。
右サイドは幅を取る家長に山中と関根がダブルチームのように突く形。おそらく浦和は山中と家長の1対1は受け入れられなかったのだろう。ヘルプに関根が入る意識は高かった。いつもならば脇坂がハーフスペースに抜けてくるパターンが多いのだが、この試合では同サイドにいる脇坂に加えて逆サイドの大島が出張ハーフスペース裏抜けを敢行することもしばしば。PA内の侵入とラストパスまでは許しており、オーバーロード気味になると少し対応が難しくなっていたようだった。
ただし、大島の出張はあまり頻度が高くなく、数の論理以外では川崎が崩せる場面も少なかった。浦和が守田を越えてスピードアップした攻撃をしたかったように、川崎もまたこのサイドの囲いを突破してPAに突入できるかが成否を分けるファクターだった。
そんな中で先制点を決めたのが川崎。時間が進むにつれ、ふらふら前にプレスに行く機会が多くなった浦和の中盤。このシーンは柏木が前に出ていって大島に外されたことが起点。齋藤とパス交換でサイドに出ていくと、浦和はエヴェルトンと柴戸が柏木がいない分ガッツリスライド。
中盤の防波堤が中央に不在になったことを見逃さなかった大島が、脇坂に展開することで「囲い」を突破することに。脇坂はドリブルで槙野を引き付けつつ、家長にボールを預けそのまま裏に。奥行きを作ることで空いた手前のスペースに飛び込んだ山根が家長からのラストパスを豪快なボレーで沈めた。
川崎の決定機はプレビューで触れた通り、浦和の中盤のおしりが浮いたところを叩いたところから。ゴールはスーパーだったが、崩しは狙い通り。逆に浦和はSHの根性プレスバックでなんとかしていた部分が両サイドともほころんでしまった。決定機を多く作れない状況の中でも、少ないPA侵入のチャンスを逃さなかった川崎が先手を取り、試合はハーフタイムを迎える。
【後半】
2点目で我慢は終わり
前半に起点になれなかった柏木陽介。後半、彼にとって重要だった48分の場面だろう。開けた局面でレオナルドからフリーで受けたボールだったが、このプレーをミス。ニアに走りこむコースとっていたレオナルドだったが、結局はもう一度中央にコースを取り直してしまった。浦和が追いつくのには千載一遇のチャンスだったように思える。少なくともシュートまでに行きたかったシーンだ。
プレー自体は全然悪くなかったが、前半には突破できなかった齋藤学も前半我慢を強いられた。こちらも引き続きサイドからの崩しは虎視眈々と狙っていた。その機会が巡ってきたのは50分。家長を起点に浦和を後ろ向きに押し込むと、最後は小林への裏のパスをファーに送り込んで追加点。アシストになったのは齋藤学のクロス。前半には得点に抜き切らないクロスが得点に結びつかなかった齋藤だったが、ここで得点に絡む動きをすることができた。
このプレー後に浦和は選手交代。マルティノスと興梠を投入する。これにより左サイドの縦関係はマルティノスと山中に。こうなると前半のようにサイドに封じ込める守備は難しくなる。戻りが遅い浦和の左サイドに襲い掛かったのは前半に大島僚太の負傷交代でピッチに入った田中碧。オフザボールの動きで完全に浦和を上回り、深さを取れるように。
そしてPA内で光ったのは家長昭博。浦和の守備陣の動きも川崎の攻撃陣の動きもすべて見通しているかのようなプレーで得点の機会を量産するようになる。
浦和は川崎のプレーをキャッチで切った後の西川のリスタートは単発でチャンスになったものの、とにかくシュートまでが遠い。多少オープンになった分、川崎のゴール前に迫ることができる場面は確かにあった。しかし、どちらかといえばこのオープンな展開の恩恵を受けたのは川崎の方。浦和が作ったチャンスよりもはるかに多い決定機を生み出した。仕上げとなった3点目もその1つ。ダミアンは小林と同じく3試合連続ゴールだ。
興梠のポストやマルティノスの個人技によるドリブルなどフレッシュな前線の武器はあったものの、川崎のDF陣を前にネットを揺らすことはできなかった浦和。川崎相手に序盤は食い下がったが、終わってみれば0-3というスコアになった。
あとがき
■人事を尽くして・・・
できることはやったという部分が正直なところなのではないだろうか。SHがスペースを埋めてなるべくサイドから脱出させないようにするという前半のプランは、少なくとも川崎の波状攻撃を食い止めることはできていた。先制点のシーンも、両SHが前に残ってしまった結果。用意したプランを遂行できなかった隙を川崎に突かれてしまった状況である。柏木の起用、どうだったかなぁ。この役割ならほかの選手でもよかった気もするけども。
一方で2点目を取られた時点で展開としては白旗だったように思える。根性リトリートでのスペース埋めもこのタイミングで通用しなくなったし、少なくとも後半の給水までにリードか悪くて同点になっていなければ勝利は難しかったかなとも。川崎の隙に付け込めるシーンの少なさを考えると、リードを得られなかったのは致し方なし。この試合に臨むプランは悪くはなかったものの、力負けといっていいだろう。
■好調のサイクルゆえに焦れない
じりっとした立ち上がりになったにも関わらず、粘り強く戦うことはできていたように思う。確かに序盤から雪崩を打ったような攻め込みは見せられなかったが、変な失い方から浦和にチャンスを献上することもなかった。SHの遅れを刺したところも、相手の戦い方の中で出てしまった隙をうまくついたということで好印象。連勝は意識していないというが、勝っていることで相手を見て90分で倒すというイメージは付いているのかなと思った。
相手に良さを出させずに相手の隙から得点を得る。攻め込めなくても、攻め込めないなりに待てるのが今の川崎の強みなのかもしれない。
今日のおすすめ
75分。慌ててプレスバックする齋藤学。この時間にこれだけ走れるのえらい。ここ数試合の先手を取られる少なさは彼の守備における貢献度も見逃せない。以前は周りを見ない飛び込むプレスが目立ったけど、今年は左サイドで最もうまく守れている。攻撃だけに目が行きがちだけど、守備も良くなっていると思う。
試合結果
2020.9.20
明治安田生命 J1リーグ 第17節
浦和レッズ 0-3 川崎フロンターレ
埼玉スタジアム2002
【得点】
川崎:37′ 山根視来 50′ 小林悠, 90+3′ レアンドロ・ダミアン
主審:佐藤隆治