スタメンはこちら。
【前半】
左で作り開けた右へ
これまでで最も短いスパンで迎えた開幕。楽しみだけどなんか違和感。そして、これまでにない厳しい角度でのカメラの画角。クレイブン・コテージにて手前のタッチライン付近がほぼ別映像になってしまうのは、メインスタンド改修の影響らしい。
というわけで今季のアーセナルの開幕戦の相手は昇格組のフルハム。プレーオフを勝ち抜いてプレミアラスト1枠を勝ち取ったラストワンのチームである。2018年にウェンブリー買収計画が報じられたようにパキスタン人のオーナーは比較的懐に余裕があるよう。牧歌的なスタジアムの雰囲気とは異なり、野心を感じる部分があるクラブだ。
序盤のアーセナルは非常に硬さが目立った。新加入のマガリャンイスはもちろん、長期離脱をしていたレノやレンタルバックのエルネニーあたりは昨季終盤の基本形になった5-2-3には不慣れだった部分もあるだろう。特にボール回しにおいては、後ろに選手を多くかけすぎており重たさが目立つ。高い位置で受ける選手がいない分、出し手がボールの出しどころに困る。仕方なくマイナスに出したタイミングでフルハムはプレスのスイッチをオン。4-4-2の形をベースとして、アーセナルのマイナスのパスに合わせてプレスを強めてGKまでプレッシャーをかけに行く。
後方の連係ミスもあり、先にゴールに迫ったのはフルハムの方だった。しかしアーセナルは落ち着きを取り戻していく。フルハムの4-4-2ブロックの2トップは徐々にアーセナルのCH2人を見るように。アーセナルのCBには時間が与えられるようになっていった。
起点となったのは左サイド。フルハムの2トップの右側からボールホルダーが侵入することで前進できるようになる。いくつかのパターン(ジャカが左に落ちるとか)があったがベタなやり方はティアニーを左サイドバック化すること。ポイントはこれに合わせて前の選手が内と外の両方にパスコースを作ること。WBのメイトランド=ナイルズが主に内側を担当。そして、WGのオーバメヤンが大外と相手の動きに合わせて裏を狙う。メイトランド=ナイルズがSBのオドイを釣りだせたら広いスペースでオーバメヤンとヘクトルが勝負するという算段だった。
先制点の場面はエルネニーが中央の低い位置で受けた分、2トップ脇で受けることができたマガリャンイスから大外のティアニーへ。中央のウィリアンが斜めのパスをポストし、メイトランド=ナイルズが前向きで受けることができて逆サイドに展開することができる。相手のラインを押し下げることでフリーになったCHのエルネニーから、さらに深さを取るパスが出たことでPAで勝負ができた場面だった。
4バック相手ならではの幅の揺さぶりでフルハムを攻略したアーセナル。出発点は左から、そして複数のパスコースから前を向く選手を作った後に開けた右に出す。これがアーセナルの前進の方法。広い位置への展開において貢献度が高かったのがウィリアン。ベジェリンと内外を使い分けたレーンを使うのは当然として、得点シーンのように内側に神出鬼没に現れて少ないタッチで状況を好転させていた。
ラカゼットのビルドアップでの負担が減ったのは、ウィリアンがこの中央での起点の役割をこなすことができるからだろう。ペペやサカとは違う持ち味である。この試合ではラカゼットがフィニッシャーだったり、裏抜けでエリアに迫る場面が昨季より多かった。ウィリアンは「フィニッシュまでにエネルギーを使いすぎてしまっている」というアルテタの昨季のラカゼットについての懸念を修正できる存在といってもいいだろう。
【前半】-(2)
ボール保持の狙いは見えたけど
フルハムのボール保持に対して、アーセナルは強気の姿勢を見せた。ラカゼットと並ぶようにウィリアンが2トップ気味にCBにチェイスに行く。この影響もあり、右サイドは非常に強気な配置でボールを奪いに行く。ベジェリンは相手のSBのところまで出ていくし、ハイプレス起動時はホールディングが敵陣にいることも珍しいことではなかった。その分、マガリャンイスが右サイドまで出張で出ていくことも。
長い展開がフルハムにあればまた違ったのだろうが、彼らにはその武器はまだなかった。狙いたいボールの動かし方としては右サイドからが多かった。オドイとケバノの縦関係から右サイドの裏を狙ってアーセナルを押し下げる動きを見せる。右のハーフスペースでオノマーが前を向けるとなおよし。
ただ、そこから先のPAを強襲する術が見えなかったのと、そもそもこの状況を作り出す機会が少なかったことが問題。アーセナルの高い位置からのプレスをかわさないとそもそも裏は取れない。ひとたびアーセナルが撤退するとフルハムは5-4-1ブロックの穴をふさぐのは難しい。フルハムファンの竹内さん曰く、中盤3枚の中で最もボールを獲る能力が高いのはトップ下のオノマーということなので、もっと高い位置で止めてショートカウンターに移行したかったのかもしれない。
35分にエルネニーを釣りだしたスペースにカマラが入っていく場面は惜しかったが、ここは後追いでウィリアンがつぶす。守備もさすがやで!な兄貴であった。
前半の終盤はフルハムがボールを持つ時間を増やすものの、アーセナルは撤退で受ければびくともしない。時間だけが過ぎていく展開で前半は終了。0-1でアーセナルがリードしてハーフタイムを迎える。
【後半】
巻き直しをへし折る
後半の立ち上がりにとりあえずネジを巻きなおすというのはビハインドを背負ったチームのあるある。この試合のフルハムもそうだった。長いボールを蹴りこんで、前半に比べて高い位置から追いかける。なるべく相手のゴールに近いところでボール奪取を決めて、ゴールに迫りたいというフルハムの狙いを体現すべく前に出てくる。
それに対してアーセナルは前半に比べると重心を低めにして対応。ティアニー、マガリャンイス、ホールディングがフラットに並ぶ。前半は内側に絞ることが多かったメイトランド=ナイルズが幅を取るというオーソドックスな5バックの並びで組み立てを行う。
前半は後ろが重めになった際は後ろにボールを下げてしまい、フルハムのプレスであわやという場面を作られてしまったが、後半は長いボールを使ってひとまず回避。オーバメヤンの低い位置に降りる動きにティアニーが合わせることでプレスを脱出した。
とりあえずフルハムのプレスを回避したアーセナルはセットプレーからマガリャンイスがデビュー戦ゴールを叩きこみ、さらにフルハムを突き放す。フルハム、セットプレー苦手らしいよ。GKも出れなかったし、ヘクトルは競り負けてしまうしでちょっとこのセットプレーの守備はプレミアにおいて課題になりそうな予感である。
2失点目を受けてもう一度巻き直したフルハム。しかしながら3失点目はそのハイプレスを裏返された形から。ジャカが降りた動きからベジェリン、エルネニー、ラカゼットとつないでプレスを外すとウィリアンが一気に空いた逆サイドに展開。受けたオーバメヤンが斜めにカットインし、右足を一閃。昨季終盤に見られた対強豪でのゴールの再現のような形からオーバメヤンのフィニッシュ。脱出からフィニッシュまでの流麗さに加えて、ゴール前にかけた人数を考えれば、チームでこのフィニッシュの画が共有されているといっていいだろう。フルハムの心を折る良いゴールだった。
ミトロビッチ、ザンボ=アンギサが入ってくるとフルハムは5-3-2気味にシフトチェンジ。ハーフスペースをより取りやすい陣形にはなった。ボールサイドに中盤が顔をだす意識も上がったことでサイドで多角形を作りボールは回るように。しかしながら、ターゲットになりうるミトロビッチが結局サイドに流れてしまったり、エリア内に人がいなかったりなどで人数やタスクの調整はまだまだ必要な模様。
逆にアーセナルは途中出場のセバージョスが入ると右サイドのボールの循環が活性化。試運転は上々のところを見せつけた。
終始うまくコントロールしたアーセナルが完勝。0-3で開幕戦を飾った。
あとがき
■武器はどこに
厳しい船出となったフルハム。ボール保持を思ったより頑張るという印象はあったが、去年のノリッジを見ても保持だけがんばればいいぜ!というわけではないのが今のプレミア。なぜならみんな割とボールを持てるからである。というわけでどれだけ粘れるか?がこの試合では大事だったのだが、それは早々に決壊してしまった。
各局面の水準もプレミアレベルの武器!といえる部分はまだ見えず。この日の展開ではさすがに勝ち点を得るのは厳しい。ここから補強もあるのだろうが、まずは強みをどこで見出すのかからになるだろう。まだパーカーの航海は始まったばかりだ。
■まずはスカッドを整えたい
完勝である。この試合に関しては何回やっても勝てる気がしたのではないだろうか。得点の取り方もボール保持、セットプレー、プレス回避からの擬似カウンターチックなものと多岐にわたっている。苦しんでいた得点機会の少なさという部分は昨季末からゆるやかに解消に向かっているように思う。
ここからの課題は人員整理だろう。MFに新戦力の獲得を目指しているのはもう公然の秘密。そのターゲットがトーマスとアウアーであることももう疑いようがないはずだ。彼らが来るか、それに加えて放出がどの程度まで行われるかで4-3-3に取り組むべきか?もっと根っこのどのようなサッカーができるのか?という部分が変わってくる。
選手の去就は不透明な状況ではあるものの、ピッチでの内容に関しては視界良好。わずか1か月のオフからの開幕やものすごくきつい角度のカメラも物珍しいが、開幕で会心の出来をみせたことが何よりも慣れない。慣れないけどうれしい開幕戦を飾ることができたことをまずは喜ぶべきだろう。
試合結果
2020.9.12
プレミアリーグ
第1節
フルハム 0-3 アーセナル
クレイブン・コテージ
【得点者】
ARS:8′ ラカゼット, 49′ マガリャンイス, 57′ オーバメヤン
主審:クリス・カバナフ