負け試合ばっかり分析してるのもあれなので、たまには勝ち試合も。時間もできたので。スタメンは以下の通り
【はじめに】
チャンスってどういう状況?
この試合について話す前に、チャンスって何ぞやって話をしたいと思います。チャンスってどういう状況ですか?と聞かれたときにあなたはなんと答えますか?答えに窮する人もいるのではないでしょうか。
最近スタッツで見かけることが増えてきた「チャンスクリエイト」の定義は「シュートにつながったラストパスの回数」となってます。でもこれは状況を説明をしているわけではないですよね。
一番自分が今まで聞いた中でしっくり来た”チャンスの定義“の説明は「相手のDF-MFのライン間で前を向いてフリーでボールを持つこと」です。記憶が定かではないのですが、確かアンチェロッティの戦術本に書いてあったものだったかと思います。いろんなご意見あるかと思いますが、今回のブログではこれをチャンスの定義としたいと思います。
なんでこんな話をしているかというと、川崎フロンターレがチャンスの数が得点にそのまま結びつきやすいチームだからです。無論、どのチームもそうなんですが、川崎は特にその傾向が強いチームです。前線の選手はスピードもパワーも特に非凡なわけではなく、得点能力が抜群に高い選手を擁しているわけではない。基本的にはチャンス(=2ラインの間で前を向く状況)を多く作り、その局面において多くの人数をかけることで複数の選択肢を準備することで得点を重ねているチームだと思います。川崎はこの試合でそれができていたかについてに焦点を当てながら、まずは序盤を振り返ります。
【前半】
食いつくMF、押し上げないDF
川崎ボール保持時の陣形は図の通り。あくまで目安ですが。川崎の3枚のインサイドのMF(大島、守田、中村)は自陣低い位置でボールを持つとき
・自陣最終ライン
・相手2トップ脇
・MF-FW間のライン
の3つの位置にポジションすることが多いです。
この試合の前半、清水の守り方は
・川崎の後ろ3枚に対しては2トップでプレス
・川崎のボランチのラインの選手にボールが入ったら、2トップのうちの1人が降りてきてブロックに参加する
という形が多かったでしょうか。
実際にこの陣形で清水のボランチがボールをカットしてから清水の先制点は始まっています。組み立て時にワイドに開いて高いポジションをとる川崎のSBの裏を清水のSHがしっかりつきました。素早く縦に入れた河井もいい判断でした。最後はドウグラスの個人技。
ただ、トータルで見るとこの清水のプレスが機能していたかは微妙なところ。そもそも得点シーンまでに2回は高い中盤のプレスラインを破られています。そしてその後、川崎がボールを持ち、清水は最終ラインの高さが序盤よりもやや下がった状態での展開でも危うい場面は数多く見られます。
前半18分のシーン。川崎のLSBの登里がボールを保持。ここから一度ボールは後方の車屋に受け渡されます。清水の中盤がラインをやや上げているのに対して最終ラインはそれほど押し上げられていません。
そこから守田にボールが渡りました。加えて河井が守田にチェックに行ったことで赤いスペースも新たに使用可能になります。この時点でフリーのスペースには川崎の選手が3人。3人とも前を向けない位置に敵の選手はいません。川崎の右サイド大外のエウシーニョを含めると、守田にはかなり豊富な選択肢がある状況です。
このシーンでは守田からのパスを受けた家長が近くにいた中村にパスを落とし、前を向いてフリーでボールを持っています。いわゆるチャンスの状態になります。
このシーンは
①高い位置のSBにボールが入り、清水の中盤のラインが下がる。
②マイナス方向のCBにパス。清水の中盤が上がる。
③ボランチにパス。清水の中盤を食いつかせて中盤のラインのギャップを作る。
という流れです。このような形は試合中比較的多く見られました。
川崎のサイドを経由した組み立てが有効だったのは、清水の中盤のラインの上下に最終ラインが連動できなかったからです。ボールサイドにおいて中央や逆サイドに展開できないような追い込み方ができなかったのも一因でしょうか。
清水のDFラインがあげられなかった理由は、川崎の1トップが裏抜けが得意な小林であること。ハイラインですでに序盤に複数回突破を許していることなどがあげられます。
川崎の視点で言えば登里と阿部がそれぞれ左サイドでレーンのすみ分けができており、ピッチを幅広く使うのに役立っていました。
川崎が同点に追いついたシーンも、図解した部分と似たような形からです。この時は中村が先ほどで言う守田の役割でした。中村は大外でフリーになっているエウシーニョを選択。彼がフリーで上げたクロスが得点につながっています。
【前半】-(2)
ドウグラス交代後の清水の策の有効性は?
清水はその後ドウグラスの負傷によって交代カードを切ることになります。この際清水はシステム変更をします。代わって入った石毛は右サイドハーフ。金子をインサイドハーフ、河井をアンカーに移動した4-1-4-1に移行します。
この変更は一定の効果があったといえると思います。2トップのプレスは機能していなかったし、使われたくないスペースに人を置くことはできています。ただ、スペースは点ではなく面の話なので、河井の両脇に同時にポジションを取られるとスペースは使われてしまいます。
なので川崎の対策という意味では改善はしたが、根治はできてない交代というのが僕の見立てになります。
また、川崎は守備時のマークの受け渡しが遅く、スペースが空きやすいので、インサイドハーフの枚数を増やして前線への飛び出しを強化したこの清水の交代には手を焼いた部分も大いにありました。43分の谷口のオーバーヘッドクリアが一例です。清水としてはドウグラスという強力な個を補える交代だったのかなと思います。
【後半】
大島僚太がW杯以降に向上した部分
ヨンソン監督はハーフタイムにDF-MF間のラインを狭めるように指示を出したのでしょう。川崎がボールを受けたいスペースは前半と比べれば制限されていました。加えてそのスペースには河井が遊軍として待機しており、川崎の選手からすると間のスペースでパスを受けることは前半と比べれば難しくなりました。
間でパスを受けずにチャンスを作るにはどうすればいいのか。待ち伏せが難しいなら侵入すればいいというのが答えです。
侵入すれば間に待ち受ける人がいなくても2ライン間で前を向くことができます。パスの出しどころは横からですがレイオフに近い形をつくることに成功しています。
大島はこのスペース間に入ってくる動きの質がワールドカップ以降、目に見えて向上しました。そしてその動きはこの試合では得点にも結び付きました。川崎の2点目のゴールは清水が空けた間のスペースを見逃さずに侵入してきた大島が決めました。阿部のパス、小林のアシストも見事ですが、ここはスペースにしっかり入った大島をほめたいです。
おそらく大島自身がワールドカップ以降、課題である得点力を上げるために意識してきた動きが早い形で得点に結びついたことは川崎にとっても大きいことだと思います。
このゴール以降は攻めに出た清水を川崎が受ける展開が続きます。川崎は自陣にくぎ付けになる時間が長くなりましたが、CBをはじめとした守備陣の踏ん張りで何とかリードを守り、勝ち点3を得ることができました。
まとめ
川崎視点でゲームを振り返ると
前半:相手が与えてくれたスペースを活用する受け方
後半:スペース創出のためにチャンスを作る動き
がよくできていた印象でした。
浦和戦は相手がMF-DF間のラインを絞っていた上に、スペース創出のためにMFを動かすことができずに間でチャンスが作れずに敗れてしまいました。
裏抜けではチャンスできていたけども。
そういう意味ではチームとしてこの課題を克服して清水に打ち勝てたのは大きいです。
本文中ではあまり取り上げませんでしたが、登里の攻守における働きは川崎の大きな助けになっているので、これもまたどこかで書けたらいいなと思います。