プレビュー記事
レビュー
サイドのユニットの再構築は?
代表ウィーク前の8月末以来、およそ1ヶ月ぶりにホームでリーグ戦を戦うアーセナル。今季初勝利をアウェイで狙うレスターとの対戦に臨む。
相手との力関係もある話だろうが、ウーデゴールやホワイトといった一部主力がいないにも関わらず、この日のアーセナルは普段に近い状況だった。高い位置からのプレスと人数をかけたサイドの崩しで敵陣でのプレータイムを増やしていくという方向性でシティ戦とはまた異なる面を押し出すスタイルだった。
4-4-2で組むレスターに対して、アーセナルはボールを持ちながら押し込むスタート。プレビューでも述べたとおり、押し込むスタンスにおいては左右のユニット構築が十分にできるかどうかというのがポイントになる。左はマルティネッリを軸としたパターンがなかなかうまくいっていないし、右にはサカの相棒であるウーデゴールとホワイトがいない。そうした状況で押し込んだ時の最大の武器を機能させられるかがアーセナルのこの試合の命題であった。
結論としてはこの試合においては何の問題もなかったということでいいと思う。サカにはティンバー、ハヴァーツがハーフスペースと大外の追い越すアクションを両立することでサポート。この日のレスターは大外の選手には基本的に2人が必ずサポートに行く決まりになっているため、アーセナル側はサカ以外の選手が顔を出すことで、ダブルチームの穴をつくことができる。
アーセナルの前線の役割は立ち上がりにはトロサールがトップで、ハヴァーツが右サイドにフォローに出ていく動きが多かった。おそらくウーデゴールの役割に近いものを要求した配置だったのだろう。時間の経過とともに左右のサイドに顔を出す役割はトロサールに譲渡し、ボックス内ではハヴァーツが残る関係に収束していった。
左サイドではカラフィオーリが暗躍。低い位置ではインサイドに絞る役割を果たしたかと思えば、やや開き気味に立って2トップの脇からマルティネッリへの導線を引く場合も。
さらには高い位置でのサポートも見事。マルティネッリのマイナス方向からクロスと同サイドの裏抜けの両睨みで攻撃を加速させる。細かい持ち替えを多用して相手のタイミングを外したり、あるいはどちらの足でもパスの選択ができることもあり、守備側は非常にタイミングを掴みづらそうだった。左サイドもまた新しいユニットの可能性を感じさせた内容だったと言えるだろう。
ダブルチームに対する両WGの対応力
時間の経過とともに左サイドはガブリエウの高い位置でボール回しの参加が目立つようになる。おそらく、後方はサリバにヴァーディとの1on1を全面的に任せて問題ないという判断をしたのだろう。カラフィオーリは高い位置に専念するケースが増えていく。
アーセナルの判断通り、レスターの前進は非常に苦しいものだった。レスターの2列目は降りてボールを受けるタスクが求められていたが、アーセナルの後方部隊はきっちりと受け手を規制することに成功。特に左のSHであるマヴィディディに対しては1枚で動きを止めて、素早いヘルプで挟み込んで奪い取るというメカニズムがかなり機能していた。
というわけでヴァーディへの負荷は高い状態になる。しかしながら、往年に比べるとキレも頻度も落ちているヴァーディ。前半はなかなか活路を見出すことができず。むしろ、サリバのボール奪取からアーセナルは素早く縦にパスを入れて、一気にスイッチを入れるきっかけになっていた。
アーセナルはこのヴァーディとサリバのマッチアップから先制点をゲット。ボールを奪うと、右サイドから素早く縦に侵攻。前にプレスに出てきたマヴィディディの背後をとったティンバーの裏抜けからのクロスでマルティネッリがゴールを奪う。
シュートが少し緩かったから、ややラッキーパンチ感もあったゴールだが、構造を見ればアーセナルはきっちりとレスターの嫌なところを崩していた。まずはトランジッションからティンバーがマヴィディディを置き去りにしている点。これにより、レスターのサイド守備のフォロー役はウィンクスになる。
レスターはラインを押し下げられた時にマイナスのスペースが空きやすいという守備の弱点がある。マイナスを埋めるのは中盤の役割になるが、ウィンクスをサイドに引き出せば、そのケアもさらに弱くなる。マルティネッリが待ち構えていたところはまさにレスターにとっての泣きどころ。ティンバーのオーバーラップによって生み出されたスペースを見事についたロジックにかなり重きを置いたゴールだった。
アーセナルは以降も試合を支配的に進めることに成功。高い位置に出ていき、蹴らせてボールを奪い、DFのポゼッションはレスターの2列目を引き出し、出てきた穴にパスを通して前進する。追加点には少し時間がかかったが、後半追加タイムにアーセナルはトロサールがゴールをゲット。
マルティネッリが大外からダブルチームを打ち破った追加点の場面。ダブルチームの打ち破り方として参考にしたいのは以下のツイート。
追加点のマルティネッリは①を選択した。空いた間のスペースを活用することでレスターのダブルチームは裏を描かれた格好に。カラフィオーリとトロサールが受け手として並んでいたため、レスターは対応を迷うこととなった。
ちなみにサカは今季縦への突破が増えている。上のポストにはない③の選択肢である。SBの左手側から抜けるというものだ。今季で言えばレスター戦以外にもブライトン戦のヒンシェルウッドに対しても同じように左手側から抜けていくことを狙っていた。
左手側から抜けていくと、後方のフォローは難しくなる。実質ダブルチームの無効化ができる。インサイドからフォローが飛んでくれば、先制点の時にティンバーのオーバーラップでウィンクスを釣り出したように、インサイドに穴が開くことになる。
このようにユニットだけでなく、アーセナルのWGはダブルチームに対する駆け引きをあらゆる手段で行っている。個々の狙いに周りのサポートが加わることでこの日のサイド攻撃は充実のものになっていた。
失点になす術はなかったのか?
がっちりと主導権を握ってリードをしているチームにとって重要なことは、後半も前半と同じ景色であると示すことである。その点で後半頭のアーセナルは明らかに失敗したと言えるだろう。レスターは前半に苦労したヴァーディがいきなりファウルを奪うと、FKから追撃弾をゲットする。
アーセナルにとってはやや跳ね返りが不運なゴールだった。反省をするとすれば、キックモーションのフェイクでハヴァーツのポジションが乱れたことだろう。ジャスティンへのアプローチが早ければおそらくそもそも競り合いには負けていなかったはずだ。
1点差にされたアーセナル。さらにはサリバは警告を受けたということで事情が変わった感。ガブリエウは前に出ていくことを自重して後方に残ることが多くなった。
まずは普段の景色に戻す必要があるアーセナル。高い位置のサカにボールを預けることで堅実な陣地回復を狙う。同サイドのオーバーラップを狙うティンバーでそのまま縦に進んで行ったり、トロサールを噛ませて逆サイドへの展開からマルティネッリ、カラフィオーリなどに大外を取らせることで1on1を仕掛ける。
アーセナルとしてはもちろんCKをとっても美味しい。ライスサイドからのCKは少し精度を欠いていたが、サカのサイドからのCKに対してはかなりレスター側が手を焼いていた。
オープンプレー、セットプレーに対してそれなりにチャンスを作っていたアーセナルだったが、レスターはハーマンセンが大当たり。ファインセーブ連発でアーセナルの決定機をシャットアウトする。
さらにはブオナノッテが徐々にカウンター時のボール運び役としての存在感を発揮する様に。右サイドから内側に絞るブオナノッテに対するケアがアーセナルは曖昧になり、ボールを運ばれる機会が増えていく。
2失点目のシーンももちろんジャスティンのシュートがスーパーだったのは確かだが、これもアーセナルから見て右サイド側に流れるンディディへの対応が遅れたことは気になるところ。不運やスーパーゴールの失点は仕方ないところもあるが、防ぐための予防措置がなかったわけではないという感じである。
このゴール以降は再びアーセナルが押し込む時間帯が続くことに。左はスターリング、右はヌワネリを投入することで大外からの攻撃のリフレッシュで勝負に出る。
左のスターリングは相手を引きつけることはできたが、マルティネッリほどカラフィオーリとの連携が構築できず。引き付けた分のスペースを使うことができなかった。
右のヌワネリは見事だった。サカと同じく左右のどちらかから仕掛けてくるか読めず、細かいタッチも多かったため、対面の相手も飛び込むタイミングを掴むことができなかった。複数人に囲まれてもボールを失わない冷静さは年齢に似つかわしくないものだった。
というわけで引き続き右サイドから攻め続けるアーセナル。後半追加タイムまでタイスコアでもつれた試合だったが、最後はCKから決着。サカサイドから上がったボールをファーのトロサールが狙いオウンゴールを誘発した。
仕上げとしてアーセナルは交代で入ったジェズスのカウンターからハヴァーツが追加点を仕留めて4点目をゲット。追加タイムの2得点でアーセナルが辛くも勝利を挙げた。
あとがき
すったもんだあり、終盤に強度を落とせる試合にならなかったが、最後に勝利を手にしたのは朗報だろう。内容としては失点が大きなピンチを引き起こしてのものじゃなかったことと、押し込んでのサイド攻撃という今のアーセナルの課題に対する答えの提示もできていた。次の試合までは時間はないが、なんとか少しでも回復できることを祈りたい。
試合結果
2024.9.28
プレミアリーグ 第6節
アーセナル 4-2 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:20′ マルティネッリ, 45+1′ トロサール, 90+4′ ンディディ(OG), 90+9′ ハヴァーツ
LEI:47′ 63′ ジャスティン
主審:サム・バロット