スタメンはこちら。
【前半】
出るに出れない
開始直後に両チームのスタンスは明らかになったと思う。そしてその構図が45分間変わらないまま続いた前半だった。
PSGのビルドアップに対して、ライプツィヒは4-5-1のように構える。時折SHのヌクンクとライマーが前に出ていくこともあったが、基本的にはインサイドハーフのザビッツァーとダニ・オルモがPSGのビルドアップ隊にプレッシャーをかける役割を担っていた。
PSGの狙いはアンカーの脇。アタランタ戦ではマンマークであることを利用して、ネイマールがMFラインの裏に下がり前進していたが、この試合でもMFのラインの後ろかつアンカーの脇に前線の選手を受けさせることが目的である。位置としては同じ。
当然ライプツィヒもこれは織り込み済み。5分にDF-MFラインの間で受けたムバッペからのプレーを見れば、PSGの前線のクラッキたちに前を向かせて勝負すればどうなるか?は一目瞭然である。
というわけでライプツィヒも安易に前に出ていくわけではない。ライプツィヒ目線で厄介だったのはこの日のPSGは準々決勝と比べると前進のバリエーションが豊富だったこと。
ドルトムント戦で見られたような大外でディ・マリアとケーラーが入れ替わるようにしてボールを引き出す動きもそうだし、もちろんムバッペをターゲットにサクッと裏にボールを送るのも可能。
あくまでアンカー脇を締めることがライプツィヒの念頭にあるのならば、PSGの最終ラインへのプレッシャーが弱まるのは必然。最終ラインには配球の制限がかからず、自由にボール回しを行うことができた。ライプツィヒのインサイドハーフとPSGの最終ラインの駆け引きもギリギリの線で行われている。15分30秒付近のように細かく動かされてしまうと、アンカー脇に縦パスを入れられてしまう。特にPSGの左側はキンペンベがボール入れるの上手いし、パレデスというほかの出し手もいるので角度的に背中で消しきるというのはなかなかのハードタスクであった。ライマーも細かく位置を修正してはいたけども、
様々な形での組み立てができる中でセットプレーからPSGに先制点が入る。後半の戦い方を見ればおそらくPSGは前半に畳みかける算段だったはず。どんな形でもまずは先制点を取ることが重要だったように思う。
【前半】-(2)
奇襲にうろたえる3バック
ライプツィヒのボール保持は非保持時の4バックからクロスターマン、ウパメカノ、ムキエレの3バックに変形するような形であった。それに対するPSGの非保持はとにかくプレス。3バックに3トップを当てるような形でプレスを当てることがまずは最優先事項だったように思う。噛み合わせてビルドアップで引っかけてショートカウンター。PSGは前半にこの形から何度もライプツィヒのゴールに迫るシーンができていた。
ライプツィヒも抵抗の構えは見せていた。具体的にはウパメカノをやや前に出して斜めのパスコースを作る動き。降りてくるカンプルとウパメカノを並列で並べてボールの収めどころにしよう!という試みも時折見えた。
しかし、これに対してもPSGは十分に対策済み。マドリー戦の2ndレグでシティが見せたようなフォーデンの0トップのような形でボールの収めどころを消す。下で挙げるのは6分のシーン。クロスターマンと段をつけて受けようとしたウパメカノを先読み封じしている。フォーデンの役回りはネイマール。いざとなれば守備でもやることやれるネイマールの本気を見た気がする。
このシーンのPSGは数が足りていなくてもプレス隊を追い込むことができており、いい時のシティのようなハイプレスができていた。ディ・マリアのスタメン復帰があったからこそできることなのかもしれないけども。
配置で勝負!変形で勝負!のナーゲルスマンだが、この日はプレスをハメられたままのビルドアップで動くことはなかった。想像だがシンプルにこのやり方以外に手段がなかったのではないだろうか。16分のシーンのように高い位置でWBロールのライマーが挙げたクロスを逆サイドのWBロールのアンヘリーニョが合わせる形は確かに厚みがあった。
しかしながら、このシーンはポウルセンへのロングボールからのボールが流れてライマーの下に回ってきた形。ライプツィヒが配置で組み立ててたどり着いた局面とはややニュアンスが違う。
ライプツィヒの攻撃において、PSGの守備陣に対して優位を取れるところがあるとすれば、このWBロールの2人がSBの裏をとる形。したがってライプツィヒは両WBが上がる形の3バックでのビルドアップを挑んだのだろう。おそらくナーゲルスマンにとって、PSGのハイプレスは想定外。もっと余裕をもってボールを持てる算段だったのではないだろうか。それでもビルドアップの形を変えなかったのは優位が取れる箇所が限られていたから。リソースの部分で変えるに変えれないビルドアップの配置。結局彼らを下げてしまっては前に運んだとてどうにもならないという判断なのだろう。
しかしながら、そのビルドアップのミスを突かれてさらなる失点を重ねてしまうライプツィヒ。ディ・マリアからプレッシャーをうけたグラーチのパスがずれてしまったところを3トップの後方支援として構えていたパレデスに拾われる。ここからのショートカウンターでPSGは2点目をゲット。ライプツィヒはザビッツァーをウパメカノと並べて安全地帯を作る動きだったのだが、ボールがずれてしまった。
ビルドアップの経路は限られているが、そこを頑張ろうにも低い位置のボール回しで屈してしまう。PSGのハイプレスという奇襲に対して、ライプツィヒはジレンマに陥ってしまったように思えた。
非保持においてもPSGの3トップにスペースを与えてでも前プレスに行くか、危険なスペースを消すかのジレンマに悩まされていたライプツィヒ。30分には意を決してダニ・オルモを前に出す4-4-2に変形。ビルドアップを引っかけることでこちらも強気にショートカウンターを狙いに行った。
しかしながら、トゥヘルはこれには付き合わず。今まではあまり見られなかったGKまで戻してのボール回しを行うことでライプツィヒのプレッシングに対して、広く安全にいなすように対応する。完全に肩透かしを食らったライプツィヒ。奇襲も修正もトゥヘルがナーゲルスマンを上回り続けた前半45分であった。
試合は0-2。PSGのリードでハーフタイムを迎える。
【後半】
変えなくても改善
機能しなかったビルドアップと2点のビハインド。前半の内容で圧倒されたナーゲルスマンは2人の選手交代を行う。投入した選手はシックとフォルスベリ。下げたのはヌクンクとダニ・オルモ。共に前線の選手の交代であった。
形としては5-3-2と表現するのが適切か。シックとポウルセンの2トップに。アンカーにカンプル、インサイドハーフはザビッツァーとフォルスベリだった。5バックはディフェンスの時も維持。前半と異なり4バックで待ち受けることはしなかった。なんとなくシックとポウルセンへの長いボール増やしていくのかな?みたいなメンバーであった。
ただ、前半のライプツィヒのボール保持における問題点は後方の仕組みにあったはず。このやり方だとアンカーのカンプルと3バックがメインでボールを運ぶことによってボールを進めなくてはいけない。これだと前半とほとんど変わらない形である。交代選手が特にビルドアップの解決に向かっていないような印象を受けた。
しかしながら、ライプツィヒは前半と比較すると非常にスムーズにボールを運べたし、押し込む時間帯もできてくるようになってくる。理由はシンプルでPSGが前半と比較すると明らかにプレスの強度を下げてきたから。特にムバッペとネイマールには守備の負荷を取り除いて後方は4-4ブロックで守るという形になっていた。ディ・マリアには引き続き頑張ったもらうという算段である。
ここは想像だけど、ナーゲルスマンはトゥヘルが後半もハイプレスで来ないことを想定していた可能性もある。だから後方は変えないことで改善を促すみたいな。わからないけども。
というわけで前半と比べて時間ができるようになったカンプル。高い位置を取るWBとインサイドハーフの両サイドを操る役割を託された。左サイドはアンヘリーニョとフォルスベリ、右サイドはムキエレとザビッツァーの連携はよく見られた。内はインサイドハーフ、外はWBの棲み分けでの崩し。後方からはワイドのCBも援護射撃をして厚みを持たせる。
非保持においては完全にかみ合わせているわけではないが、2トップが前から追いかけていく。WBも高い位置を取りPSGのSBに高い位置からチェックをかけていく。攻撃時にはアンカーのカンプルに加えて、中央のCBであるウパメカノも高い位置を取って配球を行うためかなり前がかり。裏返されたら一転ピンチになる。カウンターを食らうときは後方は同数になることもしばしば。
攻め込みつつもカウンターで時折裏返されるライプツィヒ。ダメ押しはベルナトが対面のライマーを剥がしたことがきっかけに。ここから一気にエリア内に侵入する。一度はPAの外にエスケープしたものの、ムキエレのロストで再度PSGがボールを奪い返すと、そこから再度PAを強襲し3点目をゲットした。
ここからは後半の頭からと同じ流れ。前がかりになりPA内に2枚のターゲットを揃えたライプツィヒが圧力をかけていく場面はあったが、PSGの牙城を崩すことはできなかった。PSGもカウンターでナイフを突きつけながらもさらなる得点の上積みはなし。ネイマールは相変わらずキレキレだったけどゴールにはこの日も恵まれなかったし、ちょっと転んだりもしていたぜ。
試合は0-3でPSGの勝利。前後半共に完勝でライプツィヒを退け、クラブ史上初の決勝進出を決めた。
あとがき
■ジレンマに悩まされた90分
ツイートでも予想していたが、ライプツィヒはPSGには相性が悪いという仮説は当たってしまったようだ。立ち上がりから最後までナーゲルスマンはあちらが立てばこちらが立たずという状況に悩まされ続けていたように見えた。前にプレスに行けば3トップにスペースを与えてしまうし、優位が見出しにくい中でプレスに対してつなごうとすればプレスを引っかけられる。まさにジレンマだった。
とはいえ就任初年度でクラブ史上初のベスト4進出を決めたというのは、今季欧州ではトップクラスの成績を残したといってもいい。個人的にも一足先に再開したブンデスでライプツィヒを見るのは非常に楽しかった。今季はここで夢は途絶えたが、ナーゲルスマンとライプツィヒが今後どのようなサッカーを紡いでいくのかは非常に楽しみである。
ちなみにPSGのアタッカー陣に純粋なスピード勝負で完敗しなかったDF陣はさすが。ウパメカノはやばい。
■圧巻の中でも際立ったディ・マリア
なんというか完全無欠だろう。前半限定であったとはいえ、まさかネイマール、ムバッペに超絶ハイプレスを言い渡すとは驚いた。前半の45分で完全にライプツィヒをメンタルでも質でも飲み込むと、残りの45分は構えて得意なカウンターで刺す機会を狙えばよかった。
特に前3人の質はアタランタ戦より格段にアップ。中でもディ・マリアの存在感は豊富な運動量、ボールの引き出し方にアシストとスコアまで攻守ともに際立っていて、彼一人の存在でPSGが一段上のレベルに押し上げられているかのように思えた。
これだけのメンツにアレをやられたらなす術がない。トゥヘルはこれを試合前にこのメンバーに仕込んだ時点でほとんどの仕事を終えたといってもいいかも。ファイナルはリヨンとの同国対決か、バイエルンとのがっぷり四つの対決になるか。どちらもしてもアタランタ戦とは全く異なる顔を見せたPSGがファイナルで見せる姿が今から楽しみでならない。
試合結果
2020.8.18
UEFA Champions League
Semi-Final
ライプツィヒ 0-3 パリ・サンジェルマン
エスタディオ・ダ・ルス
【得点者】
PSG: 13′ マルキーニョス, 42′ ディ・マリア, 58′ ベルナト
主審: ビョルン・カウパース