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「惜しい機会損失」~2024.9.22 プレミアリーグ 第5節 マンチェスター・シティ×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

右サイドの移動でシティが先手を奪う

 トッテナム、アタランタとアウェイで難敵続きの1週間。文字通りのラスボスとなるのはマンチェスター・シティ。エティハドでの一戦で絶望的なスケジュールはひとまず落ち着くことになる。 

 アーセナルは出場停止明けのライスをスターターに戻し、マルティネッリとトロサールを併用。コンディションに不安のあるホワイトではなくティンバーとカラフィオーリを両サイドに並べる形を採用した。一方のシティはデ・ブライネがCLの負傷交代によって欠場。ギュンドアンを中盤に起用し、ワイドにはドクとサヴィーニョという純正のWGを置いた。

 休みの間隔がより短く、日程的な不利が大きいのはアーセナル。故障者も少なくなく、ノース・ロンドン・ダービーやアタランタとのCLのように引く形が前提のプランで入るかと思われたが、意外にも積極的な前からのプレスでスタート。ハヴァーツとトロサールがアカンジとディアスをチェイス、ライスはロドリを監視し、トーマスもベルナルドにスライドするという強気の形であった。後方はもちろん、2CBがハーランドに対峙しつつ、中盤の余った人員を潰すためのヘルプに出て行く。

 強度高く入ったアーセナルに対して、シティも対抗。前線からのチェイシングとそれに連動して中盤がアーセナルの中盤を捕まえに行く。アンカーのロドリも敵陣に入って守備をするなどの積極性が目立つ展開だった。

 互いの時間を奪いに来るアクションが目立つ状況で先に解決策を見つけたのはシティだった。お決まりのようにベルナルドが上下動をはじめ、ギュンドアンがほんのりと右サイドによると、トーマスはついていくかの悩みを強いられるように。

 いつものようにベルナルドの移動から右サイドに変化を加えたシティ。アーセナルは下がる選手を捕まえられずに徐々に浮くシーンが出てくるように。するとシティは右サイドからの旋回で先制ゴールをゲット。サヴィーニョがカラフィオーリを剥がし、外に流れるベルナルドがトーマスとガブリエウを釣ったことでサヴィーニョ→ハーランドのパスルートが開通。抜けだしたハーランドがあっさりと先制のゴールを仕留める。

 旋回するサヴィーニョのカバーにはトーマスかガブリエウは欲しかったところ。カラフィオーリが外されたことに加えて、ベルナルドに2枚が釣られてここを完全に開けてしまったのが失点シーンのアーセナルのエラーといえるだろう。

 質問箱で「なぜ普段とライスとトーマスの並びが逆なのか?」という質問があった。アタランタ戦では相棒がジョルジーニョに交代したタイミングでライスは右サイドに移動。つまりこの試合と似た並びとなっている。

 アタランタ戦は交代したトーマスがエデルソンにいなされてPKを献上したという文脈があったため、右サイド側の手当てと考えることができる。シティ戦に当てはめてみると少し考え方は難しい。ベルナルドサイドの方が流動的でビルドアップに対して質と量が求められるため、こちらサイドにライスをおいてもよかったなと個人的には感じている。

 思いつく理由としては2トップの片方であるトロサールが左のIHを務める仕組みになっているからとかだろうか。ウーデゴールが起用されている時とは左右対称のため、右のCHにIH的に振る舞ってほしいライスを入れて、左のCHにアンカーとしてトーマスを置いたとか。やや根拠は弱いが仮説としてはこれくらいしか思いつかない。

素早いトランジッションが足かせになる可能性

 一方のアーセナルの保持はやや苦しいものだった。4-4-2をベースにほぼ枚数をあわせてプレスに来るシティに対して、アーセナルはなかなかきっかけを作ることが出来ず。特に左サイドのガブリエウへの深追いはかなり効いていたように思える。

 最近のシティへのハイプレスへの対抗策は左のハーフスペースに降りるCFがトレンド。先週プレミアで戦ったブレントフォードのウィサもそうだったし、CLのインテルもこの形からプレスを脱出していた。

 ただし、アーセナルはこの2チームほどスマートに起点を作ることが出来ず。ディアスがトロサールに厳しくチェックをかけており、まさしく決戦仕様という感じ。アーセナル側の仕組みだけでなく、シティ側の強度も因子となりトレンドであるハイプレスの対抗策は機能しなかった。

 アーセナルはシティに対してプレスがかからなくなったこともあり、徐々に自陣に押し下げられていくように。こうなると即時奪回の圧力がかかって苦しい展開になる。

 保持における明るい材料はカラフィオーリだろう。列を上げるオフザボールのスムーズさはおそらくアーセナルのバックスの中ではNo.1。正確なパスの連携からの展開でシティのプレスをかいくぐるシーンも時折みられた。存在感はきっちり発揮したといえるだろう。

 盤面だけ見ればやや劣勢気味だったアーセナルだが、トランジッションの局面から同点ゴールをゲット。物議を醸したマイケル・オリバーのホイッスルを聞いて素早くリスタートしたトーマスからマルティネッリへのロングボールを通すと、マイナス方向に待ち構えていたカラフィオーリのミドルがネットを揺らして同点。エデルソンの隙をついたスーパーシュートでタイスコアに戻す。

 さらにアーセナルはセットプレーから勝ち越しに成功。ゴール前に形成した密集の外にいたガブリエウがウォーカーを外して、アーセナルの面々が空けたスペースに飛び込んでネットを揺らす。サリバとマルティネッリでエデルソンの進路に立ち、ガブリエウの飛び込むスペースを形成。ほかの面々は狙ったスポットから離れることでクロスの目的地を空けることに専念という設計がゴールにつながった形。

 シティは直前のプレーで全く同じ経験をしていたことを踏まえ、ガブリエウのマーカーをこのシーンではドクからウォーカーにガブリエウのマーカーを変更。だが、効果はなかった。ガブリエウがマーカーであるウォーカーを外すという最後のミッションを達成し、サカのキックに合わせてネットを揺らした。

 2つのゴールで逆転に成功したアーセナル。非保持においてもサヴィーニョをマルティネッリ、ベルナルドをカラフィオーリが監視する形の5バックでバランスを見つけ、序盤ほど左サイド側で振り回されないようになっていた。

 リードを守るための準備を順調に進めるアーセナルだったが、前半追加タイムにトロサールがファウルにも関わらずプレーを続けたとして退場者を出してしまう。トロサールのキックはおそらくマルティネッリを狙ったものなのだろう。「聞こえなかった」という本人の主張が正しいかは見ている側には知る由もない。

 ただ、今季のアーセナルはリスタートを含めたポジトラへの意識をかなり高めている。同点ゴールとなったシーンのトーマス(ウルブス戦でもクイックリスタートでゴールの起点になっている)もそうだし、ラヤのクロスカットからの素早いスローイングやキックも同様。トロサールのシーンでもノーファウルという前提でマルティネッリにクリーンにつながれば、アーセナルはチャンスを享受できたシーンだった。

 それを踏まえれば、トロサールがこのワンプレーを狙うのは必然。軽率ともとることが出来るが、チームが目指す方向性のプレーを狙った結果の退場とも読みとれる。

 「笛が鳴るまでプレーをやめない」というのが大事なのは当然なのだが、シチュエーション次第では「ファウルかもしれない」という前提で行動するのが得となれば、アーセナルの選手たちのトランジッション至上主義のプレー自体をある局面では見直さないといけなくなる可能性もある。アーセナルに限らず、トップレベルのチームでトランジッションを大事にしていないチームはいないと思うので、この基準が広く運用されることになれば、ゲームに対するアプローチを変更して対応しなきゃいけないのかもしれない。

ミドルシュート対応におけるさじ加減

 試合の外の話を延々と話していたのは後半があまりにも盤面が変わらないモノトーンが展開に終始したからである。アーセナルはサカを下げてホワイトを投入する5-3-1へのシフトチェンジで自陣に引きこもる。時にはサイドの守備をさらに増員して6枚になったり、瞬間的には7枚にみえたりすることもあった。

 リードをしている、中2日、エティハド、10人という要素が揃えば、残りの45分はアーセナルがバス止めチャレンジに移行するのは至極当然の流れといえるだろう。アーセナルはひたすら撤退+左はマルティネッリ、右はハヴァーツへのロングボールでわずかなキープの可能性に欠けることを繰り返す後半となった。

 シティは左のドク、そして右のベルナルドが大外。特に右のベルナルドでアーセナルの最終ラインをコントロールしながらミドルシュートを打てるスペースの創出に励む後半となった。

 アーセナルはミドルシュートへのケアは限定的。ある程度のところまでは寄せる素振りを見せていたが、後方のスペースを空けないことを優先して徹底しており、必ずしもシューターに対して足を振れない状況を作るわけではなかった。特にディアスに対してはこのような対応が取られる頻度が高かった。

 コバチッチはミドルシュートをフリにして、アーセナルの守備陣を前に出して、生まれたわずかなライン間のスペースに細かいパスをつける形を使いたかったはず。実際にウェストハム戦では押し込む局面から隙間をつなぐようなパスでゴールを生み出している。

 だが、そもそもアーセナルが寄せることを優先しなければ、ミドルシュートはフリにならない。危ういと思ったところは行く、そうでもないところは後方の人垣を担保に上側のシュートを狙わせてふかさせる。それがアーセナルのミドルへの対応策だった。

 シティにとって痛恨だったのはブロックの外から打ち抜くことが出来る重要人物が2人不在だったこと。もちろん、ロドリとデ・ブライネである。この2人のミドルには寄せないわけにはいかないし、生まれたわずかなスペースをピンポイントのパスで最大化できるスキルもある。彼らがいればアーセナルの事情は相当大きく変わっていたはずである。フォーデンもミドルは怖いのだけども、そういう使われ方はしなかった。

 それでも「なんとかできそうな男」の一員であるグリーリッシュが最後におぜん立てに成功。ショートコーナーからジリジリと近寄りながらミドルのスペースを作ると、跳ね返りを最後はストーンズが押し込んで土壇場で同点に追いつく。

 ここに書かなかったいろいろなことがあった上位対決はドロー決着。互いに無敗のまま、エティハドでの一戦は幕を閉じた。

あとがき

 11人で最後まで戦えなかったのはアーセナル側の事情なので、残念という表現はおかしいのかもしれないが、やはり後半はかなり特殊な試合になった。個人的には死線を越えながらチームは成長していくという考え方をしているので、明らかに「死線越え」であるエティハドの試合を特殊な方向に転がしたのは機会損失のように思える。

 とはいえ、10人でも前から勇猛果敢に追うべきとは思うはずもない。ミドルシュートに対するさじ加減を活用しながら、ブロックを組むアーセナルのクオリティは十分に高かった。まずはハードな相手が続いた序盤の5戦を無敗でしのいだことを称えたい。

試合結果

2024.9.22
プレミアリーグ 第5節
マンチェスター・シティ 2-2 アーセナル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:9′ ハーランド, 90+8‘ ストーンズ
ARS:22’ カラフィオーリ, 45+1‘ ガブリエウ
主審:マイケル・オリバー

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