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【前半】
ライプツィヒのボール保持を考える
準々決勝第2試合はアトレティコ×ライプツィヒ。優勝を狙う門番と新星という構図は昨日と同じである。
まず目についたのはライプツィヒの並びである。ボール非保持時は4-2-3-1、ボール保持時は3-5-1-1という変化を見せることになった。興味深かったのはこれに伴う移動のやり方。3バックはアンヘリーニョを除くDF3枚。右のWBにはCHのライマーが移動する。割と時間のかかる変形のように思えるのだが、ライプツィヒのボール回しのゆったりさを見ると、切り替えを少なくすることで移動が多くなりすぎないよう制御しているように見えた。PA内まで攻めあがれるライマーをWBとして攻撃で使うための方策だろうか。
そもそも移動した目的とは何だろうか。おそらくアトレティコの間に選手を配置するためではないかなと思う。2列目の3人はそれぞれMF-DFが形成する四角形の間に立つ。SHはやや上下動もする。WBはその外側に。アトレティコのコンパクトなブロックの外側でボールを安全に受ける役割だといえるだろう。アンカーのカンプルはFW-MFの間に立つ。
ボール回しは外を使った安全なものが多かった。横にもコンパクトなアトレティコの守備の陣形に対して大外は安全地帯になりうる。WBのプレー選択は内側に折り返すことが多かった。内側で受けたSHは危険なエリア(=DF-MF間)ではなるべく少ないタッチでボールを戻すことが多かった。おそらくライン間を圧縮してボールを取り切ろうとするアトレティコの守備陣に対して、ボールをキープするための方策だろう。
このボール回しの中で見えたライプツィヒの姿勢はアトレティコのCHに対してなるべく正面から向き合わないこと。迂回させて外側からつっつき、あわよくばサイドを割ってやろうという姿勢だった。
徐々にアトレティコはCHがアンカーのカンプルにプレッシャーをかけに行く。ビルドアップを頑張っていたカンプルがつぶされて困るかと思いきや、ウパメカノがガンガン運べるのであまり問題にならなかった。こいつはすごい。この試合は20分過ぎくらいからアトレティコがややハイプレス気味に出ていったのだけど、ライプツィヒのバックスはプレスに晒されたビルドアップでも十分にやれることを示していた。
前線でビルドアップにおいて面白い役割を担っていたのはダニ・オルモ。ど真ん中に存在している彼が左右に移動することによって、ライプツィヒはSHが低い位置に降りてもDF-MF間の受け手を失うことがなくなる。
思い返してみれば、そもそもこの試合のライプツィヒはアトレティコのCHを避けるようにボールを動かしている。したがって、ダニ・オルモがいくらアトレティコの中央の部分で待ち構えようと楔が入ることはない。なので、ダニ・オルモの役割はおそらく前線における遊軍ではないか。
彼がいることでザビッツァーは下がることができるし、ポウルセンがサイドに流れても彼がFWの役割を務めることができる。もしアトレティコのCHが動き出すことを前提としてここまでやっていたのだとしたらお見事という他ない。
ビルドアップに関してはライプツィヒはよく仕組みを作っていたと思う。フィニッシュにおいてはそれほど人数をかけなかったのか、かけられなかったのかどちらかはわからないが迫力はそこまで出せてはいなかった。よってライプツィヒがボールを握る時間が多いが、攻めきれない!という展開で試合は進んでいく。
率直に言えばアトレティコのボール保持はライプツィヒと比べるとやや苦しんでいたように思う。ライプツィヒの4-2-3-1に対して4-4-2でのビルドアップ。左右のSHはややアシンメトリー。右のコケが内側に入りFWの後方で待ち構えるような形。左のカラスコはやや内に絞りつつ2トップと同じ高さを保っていた。左の大外はロディが担当する。
崩しはほぼ左サイドのカラスコとロディのコンビが担当。ビルドアップにおいては時折サウールが最終ラインの左に落ちる形をとり、後方からストロングサイドをアシスト。コケはエクトル・エレーラと並ぶように2CHを形成することが多かった。コケ、エレーラ、サウールはLSBからRSHの斜めのラインに位置するイメージである。
しかし、そこまでチャンスを作ることはできなかったアトレティコ。ここでも驚異的だったのはウパメカノ。流れてくる選手とのスピード勝負を制したり、楔を受ける選手を潰したりなど別格な活躍であった。
ややライプツィヒが思い通りに試合を進めるも、決定の数は共に乏しい形の前半。スコアレスでハーフタイムを迎える。
【後半】
シフトチェンジの先制点
メンバー交代こそないものの、後半頭も違和感があったライプツィヒ。配置というよりはプレー選択の問題だろう。ここまでのボール回しは外をフリに安全運転が中心だったのだが、後半頭から中央に入れるパスを積極的に使うようになった。外はむしろ仕上げの一手の時に出される印象。最終ラインも前半以上にドリブルでボールを運ぶ場面が目立つように。
後半のライプツィヒの変化が凝縮されたのが先制点の場面。カットインするハルステンベルクからポウルセンへのポスト。アトレティコは内側に圧縮をかけるもカンプル経由で逃げられてしまい、外から仕上げのクロスを上げられてしまった。
前半には見られなかったハルステンベルクの中央突撃にド真ん中のポウルセンへのポスト。前半に安全地帯として使うことが多かった外は仕上げとして、中に起点を作るというテイストの異なるライプツィヒの攻め手はアトレティコを戸惑わせたのではないだろうか。
反撃に出たいアトレティコは秘蔵っ子、ジョアン・フェリックスを登場させる。ここからアトレティコを救ってしまうのならば、彼とアトレティコにとってブレイクスルーになりそうな展開である。わくわくしながら見ていたのだが、投入されたジョアン・フェリックスはアトレティコのボール保持を劇的にさせていた。
おそらくベースはFWのポジションなのだろうが、左サイドに流れることでややアトレティコの左サイドはオーバーロード気味に。ライプツィヒのSHとCHの間に立つ形でパスを引き出してドリブルを開始すれば、高い確率で1人を引き剥がすことができていた。対面することはライマーが多かったがさすがに荷が重そうだった。
それにしてもなんであそこにパスが通るんだろう。入ってくるタイミングがうまいんだろうか。カラスコと立ち位置を入れ替えることが多くて捕まえづらいのかもしれない。はじめに作ったチャンスはロディのダイブで台無しになったが、その後もPAに侵入する機会を数多く創出。そして決定的な仕事をしたのが69分。左サイド低い位置からドリブルを始めるとジエゴ・コスタの壁パスでスピードに乗ってPA内に侵入。クロスターマンがたまらず倒してPKを与えた。
左のハーフスペースからのドリブルでチャンスメイクを一任されたジョアン・フェリックス。一気に流れをアトレティコに引き寄せて同点に持ち込む。
ここから畳みかけるかと思いきや試合は徐々に落ち着いていく。両チームとも疲労の色が見え始めて、プレーのスピードがスローになっていく。頼みのジョアン・フェリックスも先制点後はややトーンダウン。ライプツィヒは序盤では見られなかったような手前のビルドアップの段階でのパスのズレが増えてきた。互いにシュートまでなかなかたどり着けないにらみ合いの状態が続くことになる。
引き分け濃厚の様相が漂う中で決勝点を引き寄せたのはライプツィヒ。演出したのはカンプルがスルー(狙った?ズレただけ?)したボールを受けたザビッツァー。後方に人を感じながらダイレクトでアウト回転をかけたボールをアンヘリーニョに送る。ここからマイナスのクロスを受けたアダムスのシュートが相手に跳ね返りネットを揺らす。
この試合、全然見てないけどこのレビューに到達した人がいるのならば、ぜひこのザビッツァーのアウトサイドでのパスだけでも見てほしい。これスゲーよ。
試合はこのままライプツィヒが逃げ切り。2-1でクラブ市場初のベスト4進出を決めた。
あとがき
■夜明け一歩手前
力が及ばなかったアトレティコ。試合内容を振り返ってみると、悪くはなかったものの所々やや物足りなさは見える部分も。守備では要所を抑えてはいたものの、ライプツィヒのボール回しの狙いどころを定めるのに苦労していた。攻撃ではこれまでもボールはガンガン回せるチームではなかったので、ビルドアップで際立った優位が取れないのは仕方がない。ただ、それでもチームを強引に牽引するFW陣がいるのがアトレティコの恐ろしさだった。
そういう意味では単体で脅威になるFWが欲しいところ。ジョアン・フェリックスはそういった凄味のある選手に変貌するチャンスの一戦だったように思うのだが、それを逃したのは惜しい。夜明け一歩手前といった感じ。今季はケガで本調子ではない時期も多かったが、来季はアトレティコの旗印としてチームを牽引する姿を見てみたい。
■挑むは『理不尽』
「七色の戦術」というDAZNの触れ込みはダサかったものの、ナーゲルスマンのビルドアップの仕込みはお見事。アトレティコのブロックを悩ませる前半の立ち位置や、後半のシフトチェンジによる得点など打ち手の早さと精度のコンボでアトレティコ相手に多くの見せ場を作った。
トッテナム戦のレビューにおいて「ライプツィヒは理詰めのチームだが、CLは理不尽の巣窟」という旨の話をした。次の相手はPSG。トゥヘルとの師弟対決も楽しみだが、ナーゲルスマンが彼らの理不尽さを前にどのような打ち手で挑むのか今から楽しみでならない。あとウパメカノはやばい。
試合結果
2020.8.13
UEFA Champions League
Quarter-Final
ライプツィヒ 2-1 アトレティコ・マドリー
エスタディオ・ジョゼ・アルヴァラーデ
【得点者】
RB: 50′ ダニ・オルモ, 88′ アダムス
ATM: 71′(PK) ジョアン・フェリックス
主審: シモン・マルチニャク