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「展開に先立つ得点」~2020.7.26 J1 第7節 川崎フロンターレ×湘南ベルマーレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
同サイド突破を狙う基準

 5連勝の川崎と前節初勝利を挙げた湘南の神奈川ダービー。立ち上がりは両チームの勢いを反映する展開になった。ボールを握る川崎に対して、湘南は前からプレスに行く。湘南のプレスの狙いはボールをサイドの袋小路に追い込むことだろう。CHがスライドをしてWBが縦を塞ぐ形。川崎のSBのマークには湘南のWBもしくはCHがスライドして対応。場面によってまちまちだったが、登里にはインサイドハーフの齊藤、山根にはWBの鈴木が出ていくことが多かった。

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 特に川崎の右サイド側でこの攻防が行われることが多かった。こうなったときの川崎の脱出のパターンは2種類。1つはここの攻略に付き合わずにCBに戻して逆サイドに展開。上の図のパターン。

 もう1つの脱出パターンは同サイドのもの。山根に対して鈴木冬一が出てくるのが下準備。ここから脇坂と家長が同サイドのCBの大野を引き付ける。CBを引き付けなかった方が裏抜けを担当。湘南は人はいたものの、このプレス脱出のパスは通してしまっていた。

   川崎がこうした裏への揺さぶりをかけることは、湘南の5バックを後方に走らせて中盤3枚との距離を開けさせる効果がある。川崎が好きなDF-MF間の間を空けさせるアクションだ。

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   ただ、この試合に関しては単純に鈴木冬一を釣り出したスペースを使いたいと考えた部分もありそう。湘南の5バックはWBが前に出ていった時の横のスライドが不十分。空いたスペースを十分に埋められているとは言い難い。川崎が右サイドを縦に進む時の基準は鈴木を最終ラインから引っ張り出せているかどうかだったのではないだろうか。

   実際に釣り出さなかった28分付近シーンでは、川崎はボールを後ろに戻して逆サイドからやり直しを図っている。最終ラインを動かせているかどうかが同サイドから攻めるかどうかの基準になった可能性はある。家長、脇坂、山根を中心に人が集まっている同サイドを突破できたのは狙いどころを明確に定めているからともいえそうだ。

【前半】-(2)
最終ラインの横スライドを狙い撃ち

 逆サイドに迂回もしくは同サイドを打開することで前進に成功していた川崎。というわけで相手陣でサイドの切り崩しに挑むことになる。この日の川崎がいつもと少し違ったのは、WGに独力で勝負できるタイプがいないこと。したがって、大外と中央、そしてハーフスペースと連携しながらサイドを崩さないといけない。大外にドリブラーを置いとけばクロスを上げてくれるぜ!ではない。

   この日の川崎のサイドの崩しは、大外からのWGの独力ではなくニアのハーフスペースとの連携しての形が中心だった。そのため、大外のWGに合わせて内側を走り抜ける選手が必要になる。今季ここまではこの役割はSBが務めることがどちらかといえば多かったのだが、この試合ではインサイドハーフがこの役割を担当することが多かった。

 川崎のインサイドハーフはボールサイドのインサイドハーフがニアのハーフスペースに裏抜けし、逆サイドのインサイドハーフが中央付近まで寄っていきよりインサイドの起点として働く役目になる。

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 したがってこの日のインサイドハーフはハードワークが特に義務付けられていた。右サイドの縦突破の時にも強調したが、おそらく湘南の最終ラインの横のスライドの甘さは狙っていたのだろう。このハーフスペースの裏に抜けていく動きの頻度はとても高かったし、27分手前にはアンカーに入った守田もこのスペースへの裏抜けを行っている。

 その分、オーバーラップを自重することになったのはSB。彼らは後方からのWGとインサイドハーフの支援、および逆サイドから展開されたボールを受け取るサイドチェンジの受け取り役がメイン。勤続疲労が目立ちかねないプレータイムの両SBを少しでも短い距離にして、その中でアクセントをつけられるときはつけていくというイメージ。

 インサイドハーフがボールサイドによっていく分、いつもよりボール周辺の人は多かった川崎。逆サイドのインサイドハーフが出張くらいだったら、まだスムーズに攻撃が流れていたものの、逆サイドの家長が左に登場したりするとさすがにちょっと狭すぎる感じはした。

 初先発になった旗手は崩しの中での連携は上々。即時奪回のプレスも強度十分で、湘南の3バックに対して即時に3トップがプレスに行くこの日の川崎のやり方に非常にマッチしていたと思う。

 湘南のボール保持はプレビューで予想したようなCBから鈴木への対角のパスは少なめだった。

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 おそらくこれは湘南のCFの人選もあるだろう。中川と岩崎ならば、サイドから上げるクロスよりも最終ラインとのスピード勝負なはず。サイドの袋小路から奪い取ったボールをショートカウンターで仕留めるか、前に人数をかけてくる川崎に対してロングカウンターを仕掛けたかったのが湘南の思惑だろう。

 しかし、この日の湘南のボール保持はことごとく高い位置で川崎にプレスをはめられてしまう。苦し紛れの脱出はすべて川崎ボールになってしまっていた。ボール保持では全くといっていいほどリズムを作ることができなかった湘南。なんとか非保持で耐えきりたい心もあってか、前半半ばくらいから中川が移動して5-4-1っぽく守る時間もあった。結構気まぐれで5-3-2に戻ったりはしていたけども。

 湘南が重心を下げたことに加えて、川崎は若干狭いスペースにこだわりだしたこともあり、前半の終盤はやや停滞気味な展開に。それでも前半の頭半分くらいの時間帯は決められるチャンスをいくつも作っていたんだけどね。この日は小林悠の日ではなかった。

 試合は0-0。スコアレスで前半を折り返す。

【後半】
解禁パターンの先制点、脈絡なき逆転弾

 湘南は中川、岡本に代えてタリク、古林を投入する。後半の立ち上がりも前半と大きくは変わらなかった。強いて言えば、再度5-3-2で構えた湘南に対して、川崎は相手のスリーセンターを寄せてから逆サイドに振るミドルパスを積極的に活用するようになった。湘南もタリクがトップに入ったこともあり、サイドに振りつつクロスを上げるやり方も徐々に織り交ぜてくるようになる。しかしながら、川崎が攻めて湘南が受けるという前半の構図はあまり変わらないものだったように思う。

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 しかし、一方的な試合でも思わぬ方向に進むときもある。先制点を決めたのは押されていた湘南ベルマーレの方だった。先に紹介したサイドから逆サイドの大外のWBを使う動きで貴重な先制点を奪うことに成功。クロスを上げたのが古林、シュートを決めたのがタリクということで、浮嶋監督が送り込んだ交代選手が早速仕事をした形である。形としても前半封印したこれまでやってきた得点パターンを解禁した結果ということで、後半の微調整が効いたといえそう。ゴールから逃げるようなクロスはジェジエウでも対応の難易度は高く、決めたタリクの技術を褒めるべきだろう。

 というわけで脈絡がないところから待望の先制点を獲得した湘南。川崎の中盤と前線は前半のようなハイプレスをやめてしまったため、湘南がプレッシャーなくボールをもてるような時間が増えていった。前半に比べれば前に出ていける状況が増えてきていた。

 これまで途中投入で劣勢の流れを変えてきた三笘もこの日は一つ目のプレーから不調。いざとなったら引いて受けそうな湘南相手に今日こそ試される日になる!と思ったのだが、ボールロストからのファウルでうなだれてしまうように見えるシーンなど、らしくないシーンが続いてしまっていた。

 おせおせの湘南だったが、追加点を狙ったCKから落とし穴。素早く縦につないだ下田、ラストパスを送った大島に走っていた山根のロングカウンターはお見事。山根が2試合連続となる同点弾で湘南がいけそうだったタイミングで試合を振り出しに戻す。

 なんだか、試合の展開にそぐわない状況で入る両チームの得点。そして次の得点もあまり脈絡のない男が決めたゴールである。三笘は投入直後からずっとボールタッチがフィットせず、ロスト後のプレスにも行けずで攻守にリズムに乗れていなかった。大物とはいえルーキー、結構簡単にしょぼくれるタイプなのかと思った矢先のプロ初得点。中にはよりいい状態のフリーの味方もいたし、こういう日にエゴイスティックに持ちすぎるのはなんかよくないような気がするというこちらの想いも関係なくニアに打ち抜いて見せた。恐れ入りました。

 とはいえ、この決勝点のきっかけは湘南の拙い自陣でのコントロールミスから。同点にされてからは一度手放してしまった流れが元に戻ることはなかった。最後の仕上げは田中碧。ボール奪取からのパス交換で抜け出すとGKとの1対1を決めて勝負あり。最後の交代でいつもより攻撃的なポジションに入った田中が持ち前の攻撃参加で良さを見せて試合を決めた。

 2試合連続でビハインドを跳ね返した川崎。クラブ記録の6連勝で次節はG大阪との上位対決に臨むことになった。

あとがき

■「してやったり」を手放してしまう

 ハーフタイムまでは我慢を続けて、後半に一刺し。川崎がシュートを外し続けたことに助けられた部分があるとはいえ、試合運びとしては完璧にプラン通り。サイド⇒逆サイドの展開を交代選手で決めた得点の流れまで含めて「してやったり」だったはずだ。

 それだけに同点のシーンがもったいない。湘南側からすれば、川崎相手の先制点は虎の子の一点だったはず。それだけに人数をかけたセットプレーと、やたらと前にベクトルが向いてしまい、カバーリングがおろそかになったセカンドボール対応になったのは非常に悔やまれるところ。得点で出てきた勢いで前がかりになってしまった分のしっぺ返しを食らってしまった。

 この試合ではボール保持に光明はなかなか見いだせなかった。例年以上の過密日程の中で従来の走り切るスタイルがどこまで持つのかも疑問だ。我慢で引き寄せた試合展開を自ら手放す試合が続けば間違いなく厳しいシーズンになる。難しいかじ取りになりそうだ。

■旗手先発のマイナーチェンジも上々

 チームとしていい攻撃ができていた時間に点が入らず、苦しい時間帯にあっさりこじ開けるというなんだがきつねにつままれたような試合だった。もちろん、サッカーに判定勝ちなど存在しないので、したたかに相手のスキを突いて勝つことには何の文句もない。点を取った方がリズムを掴むという、展開に得点が先立つ試合となったが、展開を掴んだ後の握力の差が勝敗を分けたと言えそうだ。

 メンバーを入れ替えた試合だったが、旗手を起用した意図も十分見えてきたし、三笘や長谷川とは違った持ち味を生かすことはできていたと思う。マイナーチェンジしつつ、大枠を変えない鬼木監督の調整はうまくいっているように見える。本人は点が取りたかったかもしれないけど。逆に右サイドのいつもの面々は相手の弱点のWBの裏をがりがり刺していて頼もしい限りであった。

 前節に引き続き省エネモードだった時間帯があったこと以外に、気になったことといえば、交代後の前線3人の役割だろうか。初めは前プレ継続するための総入れ替えかな?と思ったけどそうでもなかった。ダミアンも下田や守田と同じく左のハーフスペースからの裏抜けをやたらと狙っていたので、彼がサイドに流れてもエリアにフィニッシャーがいない状況を避けるための宮代のサイド起用?とも思ったけど、三笘を含めた攻守のユニットの意図はあまり感じなかった。割ととがった3人だし仕方ないのかな!とも思うし、俺が気がつかなかっただけかもしれないけど。

試合結果
2020.7.26
明治安田生命 J1リーグ 第7節
川崎フロンターレ 3-1 湘南ベルマーレ
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:61’ 山根視来, 78’ 三笘薫, 88’ 田中碧
湘南:57’ タリク・エルユヌシ
主審:家本政明

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