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「アルテタが守ったものを考える」~2020.7.7 プレミアリーグ 第34節 アーセナル×レスター レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
コラシナツが目立った理由

 炎の強豪5連戦の第2ラウンドの相手はレスター。通算での対戦成績で言えば悪くない相手だが、直近は連敗中。堅く守って前線の武器でズドン!というウルブスとはまた異なった難しさを持つ相手である。

 ロジャーズになってからビルドアップができるチームへと変貌したレスター。アーセナルとしては高い位置から出ていけば、ヴァーディというリスクを抱えることになるため、まずはプレッシングにおいてどのような判断をするかが注目ポイントだった。

 アーセナルのプレスは大枠でウルブス戦の仕組みを残しつつ、高い位置から捕まえられるようにハイラインにシフトしたイメージである。ジャカとセバージョスが中央をプロテクトしつつ、シャドーはワイドのCBのコラシナツとムスタフィが塞ぐ。

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 ウルブス戦ではムスタフィの方が目立っていたと思うが、この試合でより目立っていたのはコラシナツ。立ち上がり数分で何度も対面のイヘアナチョを潰し、高い位置からの侵攻の阻止とカウンター発動に貢献していた。

 おそらくこれはレスターの選手構成の問題もあるだろう。シュマイケルやソユンクなどレスターの後方の蹴れる選手は真ん中から左寄り。加えてポジショニングが巧みで、ビルドアップでの貢献度が高いリカルド・ペレイラが欠場。レスターにとってはチルウェルとマディソンの欠場も痛かったが、リカルド・ペレイラの不在はチームの根元のシステムがややうまく回らなくなるという意味でかなり痛かったはず。レスターのビルドアップの仕組みが、前回対戦時ほど洗練されていない印象だったのは、この部分によるものだったのではないか。コラシナツが迷わず出てこれたのも、レスターの仕組みがシンプルで狙いを定めやすかったからだろう。

 一方、レスターの左サイド側ではアーセナルのプレスとの激しい攻防があった。大外まで出ていくソユンクは蹴れるので、アーセナルは放っておくわけにはいかないし、アジョゼ・ペレスは逆サイドのイヘアナチョに比べて行動範囲が広かった。その上、ヴァーディも同サイドに流れてくるので、ムスタフィはペレスに四六時中タイトなマークにつけるわけではなかった。

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 レスターにずらされるようなアプローチはかけられたものの、サカ、セバージョス、ベジェリンは壁を作りながらコースを限定することで前進の機会を最小限に食い止める。セバージョスは降りるアジョゼ・ペレスのマークの受け渡りもうまくいっていたし、大外から一気に駆け上がれるチルウェルがこの日のレスターにいなかったのも助かった部分だ。

 アーセナルの守備がよくなったのは前からコースを規定する守備ができているからだろう。以前は、前のサボりを後方がしわ寄せで受ける形で、守備陣のミスが目立っていた。今は、前が狙いどころを定めやすくコースを限定しているおかげで、後ろがやりやすい状況になっている。コラシナツもムスタフィも急成長したというよりは、彼らの特性を発揮しやすい状況がそろったと考えるべきだろう。

【前半】-(2)
ズレより対人!

 一方で、アーセナルのビルドアップはレスターをうまく出し抜いたものだったといっていい。陣形としてはダビド・ルイスとムスタフィをCBとする4バックにシフトしたようにも見えたが、正直肝はそこじゃない気がする。むしろ、優位にあった原因はマンマークっぽかった前方におけるマッチアップで優勢をとれたことにあるのではないだろうか。

 特にこの試合では中央のラカゼット、そして右サイドでのサカとベジェリンが対面の選手を上回ったのは大きい。ラカゼットはエバンスを苦も無く背負う場面が目立ったし、サカとベジェリンは機動力で対面を制していた。セバージョスが懐深いボールタッチから、パスを出せる隙さえ作りだせれば、開始直後に惜しくもオフサイドになったシーンのように、機動力を生かした抜け出しを活かせるシーンが出てくる。ベジェリンの数年前の持ち味がここに来て出てくるのは意外であった。

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 好例のように紹介したが、当該シーンでの右サイドの連携は「惜しくもオフサイド」となっている。このシーン以外でも前線の優位で得た時間とスペースは、わずかに合わない場面の連続。パスの精度というよりはタイミングの問題で、いまいち決定的な場面を作り出せないまま試合が進んでいく。

 ズレがなくなり、裏へのパスが結実したのは21分のこと。セバージョスが対面のティーレマンスからパスを出す隙を作り、サカに長いパス。オーバメヤンにアシストを決める。ボールを受け手から1つアクションを入れて、対面のエバンスを完全に手玉に取るサカ。裏抜けのタイミングがようやくあったことなど、ラストパスの精度以外にも見どころが多いプレーで、ようやく優位を得点に結びつけた。

 サカは攻撃だけでなく、守備でも決定的な働きを見せていた。34分のシーンではジャカが高い位置までプレスにいったものの抜けられてしまったところを、絞ってバイタルを埋めることで決定的なピンチになることを阻止した。先述の右サイドのユニットでの守備力や、ベジェリンとの相性など同ポジションのペペよりも完成度が高い部分もあり、このまま右のレギュラーとして定着してもおかしくはない。

 レスターが興味深いビルドアップを見せたのは41分。CHのティーレマンスが引く動きを見せるのに合わせて、WBのオルブライトンが内に絞る動きを重ねたシーン。これだと、ティーレマンスについていたセバージョスの判断を狂わせることができるし、現に中盤のプレスをいい形で突破して見せた。単発に終わってしまったけど。

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 前半の終盤にやや押し込まれるシーンは見られたものの、全体のラインを下げて対応したアーセナル。レスターはヴァーディを左サイドに流してチャンスを試みるが、中のバランスをくずすまでには至らなかった印象だ。

 試合は1-0。ホームのアーセナルリードで折り返す。

【後半】
チャンスメイカーをコロコロ変える

 メンバー変更はなし。ただ両チームともマイナーチェンジが行われた形跡があった。レスターは左で作って、右でフィニッシュをする意識が高くなった。そのため、前半からフィニッシャー役を担っていたイヘアナチョに加えて、右のWBのジャスティンがクロスに飛び込む役割としてPAに常駐。

 左サイドの組み立てはシンプルにヴァーディの裏抜けをベースを行うことが多かった。アーセナルのこちらのサイドの守備は、前半よりもやや後ろ重心。ティーレマンスをケアしていたセバージョスは、降りてくるアジョゼ・ペレスを監視する割合を高める。左サイドで裏抜けをするヴァーディはムスタフィが集中するイメージ。サカの仕事はもっと増えることになる。大変!

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 レスターの攻めるサイドが固定されると、アーセナルの攻めるサイドも前半から変化を見せる。後半はオーバメヤンを軸にWBが攻めあがったレスターの右をスピード勝負でかき回そうという意図が見えた。ティアニーの抜け出しを防ぐのに抑え込みを使ったベネットはスピードに難がありそうだった。WBが留守にしているレスターの仕組みを利用して逆手に取るというイメージだろう。

 レスターはバーンズの投入で再び仕組みをチェンジ。ヴァーディをエリアでのフィニッシャーに戻し、バーンズが左でムスタフィ相手に背負って起点になる役割。逆サイドでアジョゼ・ペレスは相変わらずちょこまか動きつつ、エリアに顔を出す。マッチアップ相手がアジョゼ・ペレスになると、コラシナツは捕まえにくそうにしていたから、やはりアジョゼ・ペレスは厄介な相手であった。アーセナルも仕組みをもとに戻して、マンマークで再び前からプレスに行く構えを見せた。

 試合が動いたのは交代で入ったエンケティアが退場してから。アーセナルはオーバメヤンを最前線においた5-3-1で受ける。左右の浅い位置からのクロスは捨ててエリアを固めて勝負する形。いいクロスが入らないことを祈るのみ。祈りもむなしくその捨てたスペースからクロスが入ったのは84分のこと。フレッシュなグレイ相手にクロスを上げる隙を与えたジャカも、ボールホルダーがオープンな状態でヴァーディとの抜け出し勝負に敗れたムスタフィも責めるのは難しいだろう。

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 アーセナルはオーバメヤンをサイドハーフにシフトした5-4-0に移行。撤退し、勝ち点1をキープする選択をする。最後にメイトランド=ナイルズを投入し、なんとかしのぎ切ったアーセナル。レスター相手に10人でなんとか勝ち点1を確保した。

あとがき

アルテタが守ったものとは?

 内容のことはもういいだろう。大変よくやったし、退場者が出るまでは上位チーム相手に優位に進めた。というのがまとめである。レスターも強かったけど、欠場者がいる分しんどそうだった。

 疑問を呼びそうなのは、追いつかれた後の3回目の交代枠の使い方。ペペとネルソンという攻撃的なカードを残しつつ、投入したのはナイルズで交代したのはオーバメヤン。明らかに引き分け狙いの采配だし、選手たちはそれに応えるように時間を消費するようにプレーした。

 アルテタの考えはなんだろうか。少なくともリスクを負って点を取り、上位進出のわずかな可能性に賭けることより優先することがあったと考えるべきだ。オーバメヤンを下げた上でワンチャンスをものにしようとする指揮官はまずいないはずである。

 考えるカギになりそうなのは、以下のコメントである。

 「ヴァーディのムスタフィへのキックもエンケティアと同様で、故意ではないが危険なタックルで退場すべきだ」という旨の主張である。合理性は乏しい理屈に感じる。明らかに視野外で起きているヴァーディの接触とは異なり、エンケティアのタックルは死角から飛び込んできたが、視野の中で起きている事案。不慮の事故とはいえ、タックルを緩めるアクションがなければレッドカードは現行の規則では妥当な判定であるはずだ。

 モペイのタックルにも一定の理解を示したアルテタがわざわざこのような主張するなら何か裏があるはずだ。おそらく、エンケティアを守るためと考えるのが個人的には妥当と考える。先ほどの交代も引き分けという結果への批判を自分に向けるものともとらえられる。消極的な采配を振るったのは自分が責任を取ることにつながるだろうし、引き分けという結果は負けよりも選手を守ることにつながるはずだ。

 上位進出と1人の選手を守ることどちらを優先すべきかはわからないし、そもそもこの見立てがあっているのかもわからない。裏を考えすぎて、アルテタは素直に単に思った言葉を話した可能性はある。ただ、自分にはそうは思えないというだけである。

   ただ、エンケティアについてのアルテタのコメントは間違いなくブラフではないだろう。

 来季は間違いなく今季よりプレータイムが増えるはず。エンケティアには、この日潰えたわずかな上位進出の希望など些細なことに感じるくらいほどの大飛躍を期待したいところである。

試合結果
2020/7/7
プレミアリーグ
第34節
アーセナル 1-1 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 21′ オーバメヤン
LEI: , 84′ ヴァーディ
主審:クリス・カバナフ

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