プレビュー記事
レビュー
保持で狙い目となるスペース
EURO、コパアメリカ終わりの選手たちに優しくない序盤戦の厳しい日程を過ごしているアーセナル。ただでさえPLで厳しい思いをしているのにもかかわらず、CLではポット1とポット2の相手を先に消費するという鬼日程。今節はパリとのホームゲームで今季のCL初勝利を狙う。
アーセナルは直近のレスター戦の布陣をリピート。ベンチにはメリーノが初めて名を連ね、ほんのり中盤の層は拡充された感がある。一方のパリは規律上の問題からデンベレを外し、ガンインの1トップという週末のレンヌ戦の焼き直しでロンドンに乗り込む。
序盤からペースを握ったのはアーセナル。高い位置から捕まえに来るパリに対してショートパスを駆使しながらプレスを回避していく。特に効いていたのはカラフィオーリ。インサイドに絞るアクションと外に開いて高い位置を取るアクションを駆使し、4人目の中盤として躍動。3人のCHでトーマス、トロサール、ライスをマンツーで潰しに来たパリの狙いをひっくり返す活躍を見せる。
より狙い目だったのはドゥエとハキミの間のスペース。プレビューでも書いた通り、WGのプレスバックが甘く、かつSBの押し上げも間に合わないこともあるこのスペースはアーセナルの狙い目。カラフィオーリだけでなく、ライスやトロサールもこの位置に顔を出すことでザイール=エメリを外に引っ張り出す。
ザイール=エメリとしてはマンツーでいいはずなのに、自分の右手にかわるがわるフリーの選手が出てくるのだから戸惑うのも当然だろう。アーセナルはこの左のWGとSBの間のスペースを起点に中盤に穴を空けて、逆サイドまで展開を安定して行うことが出来た。トロサールが外に流れる役割を担った際にはカラフィオーリがトップ下のような位置から逆サイドへの展開を行っており、彼の多彩さを印象付けていた。
右サイドでボールを受けたサカはシンプルなクロスでスタート。パリの中盤を引き寄せた左サイドからボールが供給されることで右サイドはそもそも受けた時の状態が良く、シンプルなクロスからでも十分にチャンスメイクができると考えたのだろう。時折、追い越す動きでハヴァーツがボックス内に迫っていくなど、連携を使う際もいつもよりもシンプルなプレーが多かった。
先制点は左サイドに流れるトロサールから直接ボックス内に放り込まれたもの。ターゲットはハヴァーツ1枚であったが、フェイクをかけてタイミングを調整し、ハヴァーツの走り込みに合わせたクロスをドンピシャのタイミングで放ったトロサールのクロスは見事。逆にパリはこの位置で足を振らせてしまったのがもったいなかった感があった。
動かす誘いには乗らない
パリのボール保持に対して、時折高い位置に出て行く姿勢を見せつつもミドルゾーンで構えることを重視するアーセナル。メンデス、マルキーニョス、パチョの3枚を軸にボールを動かしていくパリだが、なかなかアーセナルを食いつかせることはできない。
おそらく、パリの狙いは右サイドでの細かいポゼッションからフリーマンを作り、ハキミが高い位置に裏抜けする形を作ることだろう。だが、アーセナルのプレスは思ったよりも動かすのは簡単ではない。
背負って何とかできるデンベレがいればハキミも抜け出しやすかっただろうが、要所でチャンスを潰すアーセナルに対してなかなかパリはチャンスを作れない。1人外しても強固なセンターラインからは更なるヘルプが飛んでくる状態でパリは起点を作ることが出来なかった。
狭くスペースを制御した中央ではトーマスの好調が光る。アジリティの面ではやや懸念があるシーズンにはなっているが、この2試合では潰し役としても好調。保持の面でも早いテンポとわずかなキックモーションで正確なサイドへの展開を披露しており、コンディションの良さがうかがえる。
堅いアーセナルの守備ブロックに苦戦しながらも散発的にゴールに迫るパリ。25分のワンツーからのメンデスのミドルは前半に最もゴールに迫ったシーンだろう。ハキミの抜け出し、バルコラの1on1と大外からのかすかにチャンスの匂いもなくはなかったが、最終ラインのカバーが光ったアーセナルを前に、パリはネットを揺らすことが出来なかった。
押し込まれる機会は増えたアーセナルだが、時折見せるカウンターから陣地回復の機会をきっちり確保する。追加点は伝家の宝刀のセットプレーから。ニアのマルティネッリに合わせたボールは誰にも触られることなく、そのままネットにゴールイン。またしてもセットプレーから更なる得点を生み出す。
以降もボールを持つアーセナルが試合を支配する。ポゼッションできっちりと押し下げると、ボックス内ではサカとトロサールの阿吽の呼吸での連携で狭いスペースをこじあけに行く。それでもそれなりに危ないロストはしないのだからさすがである。追加点と主導権を手にしたアーセナルがリードを得てハーフタイムを迎える。
自分たちの時間を差し込む
アーセナルの直近のリーグ戦の課題は2点のリードを得た後半の頭の1stプレーで失点を許し、試合の流れを先が見えないものにしてしまったことである。この試合ではパリの攻め手の軸といえるバルコラを抑え込んでいたティンバーが負傷交代。右のSBにカラフィオーリが入り、左のSBにキヴィオルが入るといういかにも流れを変えうる選手交代をアーセナルは強いられることとなった。
バルコラの仕掛けから初手で可能性を感じるプレーを見せて、プレスではキヴィオルのところに追い込むことでボールを捨てさせるパリ。まず入りは上々といったところだろう。
しかしながら、アーセナルはラインを下げて状況に冷静に対処。まずはWGをスピードに乗せないように抑制することでサイドでの対応を楽なものにする。
加えて、パリは中盤での簡単なパスミスで攻撃の流れを切ってしまうこともしばしば。アーセナルは一つミスが出れば刈り取れる寄せを見せている上に、一度ボールを奪い返すと押し返してハイプレスからリズムを取り返す。パリがキヴィオルからボールを奪ったのと同じように、アーセナルも右サイドに追い込み、苦し紛れの縦パスをライスやトーマスが回収するというメカニズムを構築。ショートカウンターからマルティネッリが決定機を迎えるなど、さらなる大きなチャンスにつながるプレーを見せる。
パリがこの試合で最後に主導権を握るチャンスを見せたのはニアに入り込んだセットプレーでの決定機からの一連だろう。ガンインの無回転のミドルはラヤに冷や汗をかかせるには十分なものであり、ここから流れを一気に持っていかれる可能性もあった。
しかし、アーセナルはこの場面でも冷静。オーバーラップするSBの背後まで少ないタッチでのショートパスで脱出したり、あるいは前線のハヴァーツへのダイレクトなロングボールで一気に陣地回復を図ったりなど、パリの攻める時間の合間に自分たちの時間を隙があれば挟み込んでいく。
新加入のメリーノもまずは非保持からというこの試合のコンセプトを十分に満たすパフォーマンス。ハーフタイムに投入したキヴィオルもスピードアップを許さない状況を作ってからは粘り強い守備で相手に食らいつき、同サイドから危険な形で破られるシーンを簡単に作られなかった。
主導権を渡さずに終盤は危なげなく2点のリードを守り切ったアーセナル。実績十分なフランス王者を下し、見事今季のCL初勝利を手にした。
ひとこと
この試合のプレビューで掲げた「優秀なポゼッション型チームにハイプレスでのボール奪取と低い位置からのプレスを回避は効かせられるのか?」というテーマは合格といえるだろう。低い位置ではハヴァーツへのロングボールを保険に相手のプレスをひっくり返す前進を見せていたし、後半は敵陣に進んだ流れからハイプレスを効かせての決定機もあった。
また、2回あった試合の流れが変わりそうな雰囲気を寸断したのもよかった。ティンバーの負傷とガンインのミドル。それぞれのシチュエーションにも落ち着いて主導権を取り返すリアクションを見せることが出来た。地力を見せて、瞬間的な鋭さも見せるという理想的な戦いだった。
まだ開幕したばかりとはいえ、近年のCLの実績では明らかにアーセナルを上回るチームに勝利を挙げたのは自信になる。バイエルン相手に勝利を挙げられず、メガクラブ相手には通用しないのではないかという疑念は早々に払拭された。欧州の旅路をどこまで進めることが出来るのか、楽しみなシーズンになりそうだ。
試合結果
2024.10.1
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第2節
アーセナル 2-0 パリ・サンジェルマン
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:21‘ ハヴァーツ, 35’ サカ
主審:スラヴコ・ビンチッチ