プレビュー記事
レビュー
前プレ隊を越えるための駆け引き
勝てばリーグフェーズ突破に大きく近づくアーセナル。ホームに迎えるはおよそ10年前にエミレーツの地で敗れているモナコである。
欠場者が多い両軍。特にアーセナルは特定のポジションに怪我人が集中している。注目のバックラインはトーマス、キヴィオル、サリバに加えて、ルイス=スケリーが先発に抜擢。モナコはCHのマガサがギリギリフィット。ただし、バログン、ザカリア、シンゴとセンターラインにおける主力級がこの日は不在ということになった。
序盤からボールを持つのはアーセナル。この日の特徴はIHがあまり列を落としてビルドアップに関与しないこと。メリーノ、ウーデゴールの両名は比較的高い位置で我慢することでアタッキングサードに専念していた。
後方を任されるのはDF4枚とライスの5枚。SBのルイス=スケリーとトーマスの2人は後方支援に専念し、ホワイトが良く行うイメージであるWGを追い越すようなオーバーラップはほとんど行われなかった。2-3の形状と3-2の形状を使い分けながらアーセナルはビルドアップを行う。
モナコは4-3-3のような形でプレス。予習した試合では4-4-2志向が強かったので、形状としては少し変化があるといえるだろう。ポイントとなるのはCBのプレスに相手のWGを食いつかせられるかどうかである。そのファーストステップをクリアすれば、アーセナルは下図のようにSBとIHで相手のIHを揺さぶることが出来る。
もちろん、モナコはこれを避けなければいけないことは理解している。そのため、前からのプレスだけでなく後方のスペースも埋めることも両睨みしなければいけない。
IHとWGでそれぞれ相手のIHとSBを捕まえることが出来れば理想。だけども、それだと相手のCBにプレスがかからない。なので、時折出て行く。しかし、でていけば枚数は足りない。このジレンマがどっちに転ぶかがアーセナルとモナコのどちらが優勢かを決めるイメージである。
前半はアーセナルの保持が上回ったように見えた。特に左サイドは。インサイドにしぼるルイス=スケリーと1列前に入ったメリーノを止めることにはそれなりに苦労していた。
出口はサイドだけではなく中央でも。要はIHがアンカー脇に登場するIHを狙うというのがアーセナルの指針なのだけども、広くなった守備範囲に対してアンカーが出てくるアクションを見せれば、そのスペースにはジェズスが登場。縦パスのレシーバーとなるようにボールを引き出していた。
ジェズスのオフザボールは27分には裏抜けからも存在感を発揮。1on1の状態でこの試合でもっともゴール期待値が高いシュートとなったが、マイェツキにセーブを許してしまい、なかなかチャンスを生かすことが出来ない。それでもこういう動き出しが出てきたこと自体がいいことだとは思うけども。秋はこういう動き自体がなかったから。
マイナス方向のハイプレスで決定機を生むが・・・
モナコの攻撃は4-2-3-1ベース。CHとCBの4枚が基本線となりボールを動かしていく。普段であれば、CHが縦関係になりサリーをするのであるが、この試合ではCHはフラットな横の関係性をキープしていた。
その分、アーセナルの2トップの左右の脇に2列目の選手たちが降りてくるアクションを見せることでボールをつなぐ局面を見せていく。序盤のアーセナルはおとなしくリトリートをしていたので、モナコも保持から十分に時間を作ることが出来た。
アタッキングサードにおける攻略の方向性は平時のリーグ戦と同じ。2列目の選手たちが絞りつつ、大外に開くSBのオーバーラップを促すことで幅を使った攻撃を成立させていく。というわけでまずは少ないタッチでインサイドでのパスである程度相手を出し抜く必要があるが、このフェーズでモナコは苦戦。アーセナルはもっとも堅いところで無理に相手に動かされないまま、相手の攻撃を受け止めることが出来た。
アーセナルは徐々にプレスの圧を強めていく。圧を強めると書くと通常前向きの矢印を出して相手のDFなどにプレスをかけるイメージを持つかもしれないが、この試合で効いていたのはFW-MF間のスペースに対するプレスバック。つまり、マイナス方向に戻りながらの守備でボールを奪い、そこからカウンターに移行することが多かった。
モナコのCHが狙われることが多く、特に狙い撃ちされていたのはマガッサ。マルティネッリ、ジェズス、ウーデゴールのプレスバックからボールを奪う。
アーセナルが素晴らしかったのはそこから素早くゴールに迫る動線を敷くことが出来ていたこと。通常、後ろ向きのプレスであれば前への素早い推進力は出しにくいが、前線の選手の走り出しと奪った後の素早いリリースですぐさまチャンスへとつなげていた。
素晴らしくなかったのはフィニッシュ精度だろう。素晴らしい守備からのビッグチャンスを台無しにする形は繰り返され、マルティネッリ、ウーデゴール、ジェズスはそれぞれ大きなチャンスを外してしまった。
しかし、それでもアーセナルは前半の内に先制点を確保。サイドに流れたジェズスからの折り返しをサカが仕留めてゴール。モナコがルーズになりやすいファーサイドのSBの背中をつくゴールでアーセナルが試合を動かす。この場面以外にも、後方からバシバシ縦にパスを入れていたルイス=スケリーは素晴らしいCLでの先発デビューとなった。
ハヴァーツの投入でギアアップ
先制したアーセナルは後半も悪くない立ち上がり。左右のサイドから押し下げてシュートから後半の幕を開ける。
しかしながら、そこからは徐々にペースをつかんだのはモナコ。南野の投入を機に4-4-2でのプレスを行うことで前線からの圧力を強化。特に中盤から顔を出したカマラの潰しが効いており、モナコは敵陣で勝負できる時間が増える。
モナコは敵陣で勝負ができればもともと強いチーム。両サイドでは左は南野、右はヴァンデルソンが開きながら大外の起点となる。特にルイス=スケリーを出し抜いて右サイドから攻めあがることが出来ていたヴァンデルソンは自在に右サイドから攻めることが出来ていた。
アーセナルからすると保持でのミスが連鎖するなかなか苦しい展開。ラヤのつけるパスがミスになったりなど珍しい光景が出てくるように。ライスが60分過ぎに見せたようにドリブルで中盤1枚を剥がすことが出来ればアーセナルは一気に加速してアタッキングサードに持ち込むことが出来る。だけども、後半の立ち上がりの時間は前からのプレスにも行けず、後方からのポゼッションでも脱出することができない苦しい時間を過ごすこととなった。
余談ではあるが、モナコのCKの守備は興味深かった。前に3枚を残してボックス内で6~7枚という形はなかなか強気ではあるが、アーセナルのCKのコンセプトは密集で守備者の動きを制限するところにウェイトを置いているので、確かに面白いのかもしれない。効果的かどうかは試行回数が限られていたのでわからなかったけども。ガブリエウのように単体で高さ優位取れる選手がいるかによっても変わりそう。
アーセナルはトロサール、ジョルジーニョ、ティンバーを投入。保持ベースで盤面を整えつつ、ティンバーの投入で左サイドの手当てを行おうという感じだろうか。しかしながら、直後にサリバのパスミスからエンボロのこの日一番の決定機を迎えるなど流れは大幅には変わらず。
結局のところ、ロングボールでサカになんとかしてもらっているやんけ!ということでハヴァーツ投入は当然の帰結ということになる。フラム戦ではかなり疲労困憊のように思われたので、コンディションが気がかりではあったが、この交代でチームは前からのプレスがスイッチオン。モナコの最も苦手な一方的に押し込まれる展開に突入することとなる。
徐々に追加点の機運が高まってきたアーセナル。決め手となったのはハイプレス。モナコのバックスのミスを見逃さなかったサカが追加点をゲット。試合を実質決める2点目を奪う。
サリスのバックパスが地雷だったのはもちろんのこととして、その手前のケーラーのパスも相当ひどい。GKの前を横切るパスをあのスピードで出せば、ボールの受け手の選択肢が限られてしまうのは当たり前。爆弾をどんどん爆発させやすい方向にもっていって簡単に爆発をさせてしまった。
これでモナコの心を完全に折ったアーセナル。以降も一方的に押し込みながら追加点を狙っていく。そして、88分には仕上げの3点目。右サイドからハットトリックを狙ったサカのシュートにハヴァーツが合わせてゴールイン。ケーラーが触ったようにも見えたが、どうやらハヴァーツのゴールで認められたようだった。
ハヴァーツの投入でギアを終盤に挙げたアーセナルがホームで完勝。リーグフェーズ上位8枠入りに向けて王手をかけた。
ひとこと
プレビューでも書いた通り、アーセナルにとっては今のモナコの特徴である中央偏重のビルドアップや、リトリートした時の脆さなどは相性的にやりやすさがあったと思う。まっすぐ向かってきてくれるチームでもあるし。
モナコは明らかにもう一押しが必要な時間帯に交代が全くなかったことからも、この試合のやり繰りがきつかったのはアーセナルだけではないことがうかがえる一戦だった。というかアーセナルとしてはハヴァーツの投入が完勝の決め手になったことを踏まえれば、むしろ苦しいやりくりの中でもう一押しがあったかどうかが後半のスコアを決めたともいえるだろう。
個人のパフォーマンスに関してはやはりまずはルイス=スケリーだろう。後半はだいぶ裏を取られるなど課題が見られたが、左サイドの後方支援役としては問題なくタクトを振るえることを証明した。リーグ戦は負傷者との兼ね合いでプレータイムが決まることになるだろうが、来週のカラバオカップでは出番があるのではないだろうか。
前線でゴールがやや遠ざかっているブラジル勢もパフォーマンスは上昇傾向なので、1つゴールが生まれれば大きく風向きが変わるきっかけになるかもしれない。
次も中2日。エバートン戦まで走り抜ければ一息入れることが出来る。7日で3試合の苦しい日程を何とかやり切りたいところだ。
試合結果
2024.12.11
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第6節
アーセナル 3-0 モナコ
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:34’ 78‘ サカ, 88‘ ハヴァーツ
主審:ダビデ・マッサ