スタメンはこちら。
【前半】
アンカー消し対策は角度を変えて
プレミアを見たことがない人に「プレミアリーグの魅力は何ですか?」と聞かれたとしたら「なぜかわからないけど、なにかと無駄に画になるめぐり合わせが多い」と答えるかもしれない。例えば、足を滑らせてしまうジェラードとか、退場を待つフェルナンジーニョの表情とか。この試合で言えばリバプールをチャンピオンとして出迎える役割を担うのが、因縁のマンチェスター・シティであることとか。
というわけで前節優勝を決めたリバプールに対して、CLがまだ残っているぜ!のシティの対戦である。
序盤からボールを持つのはマンチェスター・シティ。リバプールのプレスといえば、フィルミーノがアンカーを消しつつ、両WGが外から内に絞る!という形が定番である。シティのボール保持はそれに対応する形だった。
この日のシティの中盤3枚は前方担当デ・ブライネ、後方担当のギュンドアン&ロドリということで前後分断になっていた。普段は4-3-3と表現されることが多いが、この日は4-2-3-1と書いた方がもしかするとしっくりくるのかもしれない。
アンカーを2枚のようなスクエア型にしたのは、フィルミーノに背後を消すターゲットを絞らせないためだろう。44秒で見られたシーンが理想的な前進の仕方。ロドリを消したと思ったらギュンドアンが登場する形である。CBとCHが四角を形成する構造。リバプールとしてはインサイドハーフが出ていく。リバプールの中盤が圧力を強めれば、当然シティの中盤は前を向けない。
とはいえ、前を向けなくても自軍のSBはフリーになる。シティのSBはリバプールのWGによって背中で消されていた存在。角度を変えればフリーになる。
というわけでこの試合重用されていたのはサラーの背後を取るメンディを経由する形である。背中で消してきたサラーから解放されたメンディがボールを運ぶ役割を担うことが多かった。9分のシーンのように「メンディにボールが入りそう!」と思った段階でアレクサンダー=アーノルドが前に出てきて、ボールをカットするという試みもあったけど、後方にスペースを空けるリスクと隣り合わせである。あまり頻度は多くなかった。
シティはいつもに比べると選手の立ち位置が固定されていたように思う。高い位置ではデブライネが左サイドに流れて、代わりにスターリングが内に入る。メンディはフリーでボールを持つと斜めの楔を狙う機会が多く、中央からリバプールを攻略したいという意識を感じさせた。
【前半】-(2)
ウォーカーの立ち位置の話
逆サイドではフォーデンが絞りめ。最近話題になりがちなウォーカーの立ち位置はこの試合では大外。チェルシー戦のように内に絞ることはなかった。そもそもこの日の組み立て方ならば、わざわざビルドアップは手伝う必要はない。前がワイドで張るタイプのマフレズじゃないということも関係あるのだろう。多分、ウォーカーを中盤にステイさせるのはマフレズへの信頼感の証+ネガトラにおける中央のプロテクトというイメージ。この試合でも、ウォーカーの攻め上がりはメンディと比べると自重気味だったし、後方で待機した時の守備人としての信頼度も高いのだと思う。
リバプールは徐々にシティのSBにインサイドハーフが出ていくようになる。ウォーカーが目立たなかったのはワイナルドゥムが出てくる頻度が多く、ここで止めることが多かったからかもしれない。
SBで詰まったときのシティは辛抱強くやり直し。再び中央に戻して逆サイドへの展開を探る。ちなみに中央で詰まったときも何度も後ろに下げていたシティ。ギュンドアン起点のやり直しとかリバプールはきっとめんどくさかったのではないだろうか。
長いボールではなく一気にサイドチェンジするのではなく、中央を経由することで途中で方向を変えることも可能。中が空いたらすかさず縦パスを通す。この縦パスでスイッチを入れて一気に縦に速くなる!というのがこの日のシティであった。
リバプールのボール保持は後ろでボールを回しつつ、フリーマンからシンプルに長いボールでサラーを中心に裏抜けする前線の選手を狙う。最後方のCBもしくは大外高い位置のSBというシティのブロックの外側から、裏を一気に狙い撃つ形である。シンプルだが結構効いていた。メンディを逃がす機会が多い分、ボール保持に転じた途端仕事をするサラーは強い。先に点を取るのはリバプールであっても全然おかしくなかった。
両チームともスイッチが入ってからは縦に速く、シティはスイッチを入れるまでのやり直しの頻度が多かった分、ボール保持の時間は増えた。ボックス内のブロック攻略という部分は序盤はそこまで見られなかった。
しかし、先制点はリバプールのブロック内で大暴れしたスターリングがPKをゲット。マッチアップしてPKを与えた相手が去年代表戦でケンカしたゴメスというのもいちいちプレミアリーグ感がある。
2点目は逆にこの試合において目立った「スイッチを入れて縦に速く進む形」から。シティの攻撃が鋭く精度の高いものであったことは前提として、、このシーンではリバプールはファン・ダイクがディレイの選択をし続けたのが気になった。局面だけ見れば、ディレイさせるのは悪くないのだろうけど、リバプールはこれまで結構彼の理不尽で解決してきた場面が多かったと思う。この試合ではその理不尽さをそこまで感じなかった。リバプールにとってはシーズンが終わってしまったようなものだし、コンディションを落ち着けているのかもしれないけど。
まだシーズンが残っているシティには、逆にコンディションの良さが目立つ選手がいる。ここまで触れてこなかった選手の中で言えば、フォーデンはこの試合でも最終局面で決定的な仕事をした。デ・ブライネと連携してロバートソンを完全に出し抜くと、そのままアリソンをぶち抜くフィニッシュ。アタッキングサードでも決定的な仕事ができるとアピールする3点目を決める。
試合は3-0。ホームゲームの大量リードで後半を迎える。
【後半】
0トップでも行けそう?
マンチェスター・シティ×リバプールという極上のカードをもってしても、決着済みの優勝争い、前半で3-0、そして無観客のエティハドスタジアムでは緊張感を維持するのはやや難しかったか。後半は前半と比べるとゆるっとしたように見える。
というわけで全体について語るよりも、シティを見ていきたいと思う。手術を行ったアグエロがいなくなり、時折試している0トップ。ベルナルド・シルバを起用したチェルシー戦ではボールは回るものの、何もできなかった部分が大きかったように思う。この試合では後半途中にジェズス⇒マフレズの交代で0トップリベンジがスタート。スターリングとデブライネが中央、左がフォーデン、右がマフレズがベースのポジションのように見えた。
この日のシティは先述のように、ボール回しによる相手の引き付け+ロドリorギュンドアンの縦パスで一気にスイッチを入れてフィニッシュワークまで持ち込む!というのがシティの攻撃の流れだった。そういう意味では、ブロック守備の攻略の必要が低くなるこのアプローチは、0トップでも活きやすいのかもしれない。シティ相手とは言えども、ひたすらひきこもるチームはそこまで多くないはず。特に、彼らの迎える大舞台であるCLでは。
この試合のシティをまとめると、ビルドアップにおいてはアンカー消しに対する解決策を提示しつつ、SBを使い相手のインサイドハーフを揺さぶる。低い位置では攻撃はいい形が見られるまでやり直しを繰り返しつつ、縦パスを楔にスピードアップする意識を高め、一気にフィニッシュまで持っていく。FWがいなくても(いても機能したけど)、比較的形になりやすいやり方なのかなと思った。
大外からアタック多めだったマフレズはこの試合では中盤と前線のリンクマンもやっていた。降りてきてボールを触る役割が前線の中では多い方だった。できることが増えていくシティの選手を見ていると、グアルディオラと出会えて幸せなのだろうなと思う。
マフレズとロドリが縦にスイッチを入れたカウンターからFWのいない前線の選手たちがカウンターを決めて、シティが4点目を決める。エティハドが王者をもてなしたのは試合前だけ。シーズンのうっ憤を晴らすような快勝で僅かばかりか溜飲をさげることに成功した。
あとがき
■幸運も手伝った大差
シティについては本文中では結構いい感じで書いたけど、長いボールへの対応や4-4-2ブロックの強度はあまり高くなかった。90分間支配しての4-0ではなく、いくつかの決定機でエデルソンとゴールポストが決定的な仕事をしたことに助けられた部分はある。後半はラポルトやエデルソンのパスミスから決定的なピンチを招くことも多かった。優位に運んだ展開を台無しにされなかったのは幸運だった。
マフレズ、スターリング、フォーデンらは好調を示し続けている。そして、彼らを最後の局面で仕事をさせるために大外まで動き支えるデブライネ。ハーフスペースの表と裏でクロスをあげるのが定番だった彼の役割が微妙に変わっているのも興味深い。全方位型のマドリーとの決戦まではあと1か月。シティにはまだまだ引き出しがあるのだろうか。
にしてもこのタイミングで4-0って。ほんといちいちプレミアっぽい。
試合結果
2020/7/2
プレミアリーグ
第32節
マンチェスター・シティ 4-0 リバプール
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:33′ 25′(PK) デ・ブライネ, 35’スターリング, 45′ フォーデン, 66′ オックスレイド=チェンバレン(OG)
主審:アンソニー・テイラー