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「プレーは口より雄弁」~2024.10.13 Jリーグ YBCルヴァンカップ Semi-final 2nd leg 川崎フロンターレ×アルビレックス新潟 レビュー

プレビュー記事

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レビュー

 3点差を取り戻さなければいけない川崎。スターターはアイダル→丸山、遠野→山田、橘田→山本、脇坂→家長の4枚を交代しての奇跡を狙う。

 奇跡は準備した人の元にしか舞い降りないという言葉を結構信じているのだが、この試合における川崎がその準備ができていたかは立ち上がりにすぐに分かったと言えるだろう。

 新潟のプランは前節とほぼ同じ。バックスにはプレスをかけずに放置。その分、中盤でコンパクトに守ることでインサイドにボールが入った瞬間に奪い取るという形であった。

 プレビューでも書いた通り、新潟のこのプランは比較的簡単に想定ができるものであった。新潟にとっては1st legでうまくいったプランだし、川崎のCBは控えメンバーも含めてどうにも左側にボールを運べそうな選手をおけそうにない。後ろは放っておいてもいいという状況は4日前から全く変わっていない。

 というわけで川崎にとってはこの新潟のプランに対抗する必要があった。しかしながら、川崎は特に何かを用意しているわけではないように見えた。三浦、丸山、佐々木の3枚をベースにアンカーに河原を置く形をベースに、山本が三浦の代わりにバックスに落ちる形で対抗する。どちらもビッグスワンで見た、すでに失敗をした形である。

 新潟の守り方に対して、やはりボトルネックになるのはCBである。特に左のCBである丸山は地面に根を張ったようにボールを動かすことをせず、ひたすらライン間にパスを差し込んでいた。だが、お分かりのようにその場所は新潟が網を張っているセクション。縦にパスを差し込めば受け手がマーカーに捕まっているだけでなく、すぐに前線からヘルプがやってきて、挟み込んではボールを奪い切ることができる。

 もちろん、リードをしている状況で前線のプレスバックによる挟み込みを徹底できる新潟の前線の運動量は素晴らしいものではあった。しかしながら、川崎が特に相手を広げることもなくインサイドにパスを通し続けたのも事実であり、その怠慢さが新潟の素晴らしいパフォーマンスに拍車をかけていたと言えるだろう。

 人はそんなにすぐに今までできていないことはできるようにはならない。だが、やれないならやれないなりに方策はある。運べないのであれば、行うべきはまずは縦に差し込むために、インサイドのエリアを広げる必要がある。

 必要なのは裏に蹴ることだ。前線が裏に抜けながら勝負をすればDFは少しずつ下がっていく。正確性としてはそこまで有効なプランではないが、GKに処理させなければハイプレスのスイッチを入れるきっかけにもなる。

 だが、この方策はほぼ前半から行われなかったと言っていいだろう。前線が裏への抜けるアクションも少なかったというのもあるし、運べそうな佐々木もインサイドに差し込む形でFWへの楔を狙っていたということを踏まえると、特に裏を狙うということがチームとして共有されていなかった感がある。

 ある意味、縦にパスを差し込むという意味では意志が統一されていたとも言えるのだけども、川崎の意志が統一されていようとも新潟がそこに網を張っていることも変わらないし、揺さぶれていないということも変わらない。よって、佐々木、丸山、河原などの後方部隊から差し込む縦パスはほぼ無効化されることになる。

 後方のブロックは列を全くクリーンに超えることはできず、前線は相手を背負ってばかり。中央は固められていて、前線に起点を作れない状況ならば右サイドの家長が命綱になる。収めどころとしてはボールを預けることはできていたが、サイドの守備において徹底的にマンツーを貫く新潟に対して特に反撃することはできず。パス交換やオフザボールで外しきれない状況が続く。

 というわけで家長が低い位置に降りてくるアクションは前半の中盤から見られるように。家長の降りるアクションが効果的かどうかは別の話ではある(ちなみにこの試合では特に効果があるようには思えなかった)が、家長が降りるアクションをする時に後方のビルドアップがうまくいっていない状況なのは確かだったりはする。よって、この試合でもビルドアップで非常ボタンが押されたような状況になったと言えるだろう。

 新潟はカウンターをベースに反撃。左サイドの奥を取る長倉をカウンターの旗手として少ない手数からのロングボールで解決策を模索する。初手は佐々木を出し抜くことができた長倉だったが、川崎のハイプレスの勢いに蹴らされる場面も多く、徐々に収められるロングボールが出てこなくなる。

 それでも新潟が困った様子を見せたわけではない。理想は長倉を収めどころにして前4枚でゴールを取り切ることだろうが、結局のところ相手のプレスをいなし切れば問題ない。稲村と橋本の左サイドで深い位置をとることで川崎のプレスを誘発し、マルシーニョを中央にスライドさせてからマルシーニョの周辺を使う形から安定して前進ができるようになった。新潟でダイレクトプレーが一番怪しかったのは舞行龍なので、高い位置から追う形をこちらサイドで見せられれば、川崎はもう少しくらいは旗色は良くなったかもしれない。

 ロングキックの反撃から、流れるようにショートパスでのリズム作りに。点差がついている状況においても普通にプレーしているのが印象的だった。

 普段通りの一環として敵陣でのスローインに早い段階でプレスを仕掛けた新潟。この形から新潟はこの試合の先制点を手にする。間に合うわけがないのにラインアップをした丸山もフリーズしたように後方からラインを上げる素振りも見せなかった佐々木の両方にはそれぞれの切なさがある場面でもあった。

 30分が過ぎると川崎はほんのりロングキックを蹴り出すように。少しずつ少しずつそれっぽい形を作って押し下げるようになったところで川崎はハーフタイムを迎える。

 迎えた後半、川崎はロングキックを多用することで少しずつ押し下げに成功する。佐々木は裏への抜け出しだけでなく、対角パスでWGへの長いボールを入れることで前線の起点をシンプルに活かす形に移行する。

 ただ、正直ここまで持っていくことを前半からやって欲しかったところである。精度が伴わない分、この形だけで相手を外し切るのは難しい。中盤での厚みを攻撃にぶつけるためには、効果的なロングボールの対応のためにホルダーにプレスをかけさせて、DFラインに背後を警戒させる必要がある。そうした行為を前半の終盤からようやくほんのりやりだして、後半頭からコントラストを濃くして行っていたという感じだろう。

 小林のアクロバティックなシュートや遠野のミスショットは、いずれも前半であれば攻撃に出ていくきっかけとして喜ばしいものではあったが、後半の終盤であれば正直枠内に飛ばないシュートではない落胆が先にくる。それは彼らが悪いというわけではなく、スコアに対して求められる展開と目の前の実態にギャップがあるということである。他の競技で例えるのであれば、負けているのにファイナルラウンドの残り15秒でジャブを放っているボクサーが近いのではないか。

 新潟のシンプルなロングボールでの攻勢は後半最終盤で息を吹き返した感がある。佐々木を狙いうちにしたカウンターが徐々に猛威を振るうようになると、最後はパワープレーをひっくり返されて太田に追加点を決められる。スーパーセーブの連発でここまで獅子奮迅の戦いを見せていたソンリョンもこれにはお手上げという感じだろう。

 試合は2-0で新潟が勝利。1st legに続いての連勝で国立への切符を手にした。

あとがき

 一応、レビューは書いてみたけども、この試合をもう1回自分は気の長い人間ではないので特に見返すことはしていないし、クオリティは不十分だろうなと思う。まぁ、ひとまず「全試合レビューを書きました」と言えた方が自分としては気持ちいいなと思うので、それで書いている感が否めない。

 気が進まないのは試合内容の乏しさもあるが、やはりこの試合で反省をしたとて次に生かす場がないというのが大きい。やらなければ意味のない試合でやれなかったことが全てであり、それ以上でもそれ以下でもない。2023年の優勝争いについてのコメントもそうだが、「奇跡を起こす」と試合前のコメントで口にすれば奇跡が勝手に起きてくれるわけではない。

 個人的にはサッカー選手はしゃべることではなく、パフォーマンスをすることが本分だと思うので、そこまで細かいコメントは気にしないようにはしている。けども、口にした言葉と目の前に示されたプレーで乖離があるならばファンがどちらを信じるかは自明だろう。プレーは口よりも遥かに雄弁だ。

 選手たちが口にする視座が高い目標を少しずつ信じられなくなるとなればそんなに悲しいことはない。数字的なスコアの話ではなく、奇跡を起こすためにやるべきことをやれなかったことを重く受け止めて選手たちには残りのシーズンを過ごしてもらいたい。

試合結果

2024.10.13
Jリーグ YBCルヴァンカップ 
Semi-final 2nd leg
川崎フロンターレ 0-2(AGG:1-6) アルビレックス新潟
U-vanceとどろきスタジアム by FUJITSU
【得点者】
新潟:31′ 小見洋太, 89′ 太田修介
主審:池内明彦

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