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「上に乗せる質」~2020.1.11 プレミアリーグ 第22節 クリスタル・パレス×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

図3

目次

【前半】
幅と裏でジャブ、中央で仕留める

 アーセナルにとって久々のランチタイムキックオフ。対戦相手は、前半戦で最も忌まわしき思い出になったクリスタルパレスである。指揮官も代わり、思い出を塗り替えたいアーセナル。4-5-1のパレス相手に攻めあぐね続けたエミレーツでの対戦を払しょくできそうな立ち上がりになる。

 試合展開はアーセナルのボール保持一色。アーセナルがボールを持ち続けて、クリスタルパレスを押し込み続ける。アーセナルにとって最も嫌な相手だったザハは、トレイラとナイルズを中心にマンマーク。前を向かせる機会をそもそも与えられず。対人云々以前にザハを土俵に上げなかったイメージである。

 アーセナルのボール保持に対して、クリスタルパレスは4-5-1で構える。1stプレス隊はアイェウ1人で担当。アイェウの役割はやや曖昧だったけど、基本的にはトレイラにいい形でボールを入らないように監視するのが目的のように見えた。

 まずは中央を封鎖するクリスタルパレス。それに対してアーセナルはいくつかの手段によって打開を図る。まず1つは裏への長いボール。とりわけ多かったのはアーセナルの左サイドの裏側へのボールだ。オーバメヤンが絞り、ケリーをピン止めしたところの大外の裏をコラシナツが強襲。ルイスからの長いボールがここに頻繁に入った。この日のセルハーストパークは非常に風が強かった。ロングボールは風の影響を受けやすい戦い方。にもかかわらず、これだけ長いボールが軸になったということは、風が少なければよりダビド・ルイスの長いボールへの依存度は高まったかもしれない。

図5

 ボール保持の手段はもう1つ。比較的短いレンジでのビルドアップである。このルートでの貢献度が高かったのはナイルズとトレイラ。クリスタルパレスは人よりもゾーンへの意識が高い守り方を志向している。そのブロックの中で不確定要素が強いのがザハのところ。ザハは前線のプレスに加わる素振りを見せたり、サイドにステイしたりしていた。まぁ、攻撃面での負担を考えれば、ここの気まぐれさは仕方ないところでもある。

   ナイルズはこのザハから離れるようにポジショニング。前線のプレスに加わったら外に逃げる。サイドにダブルチームに行くのならば、内に入る。この日のナイルズは外に張るポジショニングが多かった。そこから内側のトレイラに展開することで中央に起点を確保する。パレスのインサイドハーフはハーフスペースに流れるエジルへのパスコースを切ることを意識しているため、なかなか動けないのがミソである。

図6

 ビルドアップにおけるトレイラの貢献度は非常に大きかった。アーセナルの右CBは足元に不安があるソクラティス。強めのプレスをかけられたときも、トレイラが非常に細かくポジショニングを修正することでボールを引き出す動きを絶えず行っていた。一見押し込まれてプレスをかけられている場面でも、パスコースは常に確保されていたように思う。ナイスフォロー!

   ただし、アイェウは時間が経つにつれてロングボールの起点になっていたルイスの監視を強めていたので、ソクラティスは自由にボールを持てる時間は増えていた。アーセナルとしてはここから鋭い楔が頻繁に出てくるようになれば、今後よりボール保持の機能性は高まるだろう。

 相手を見ながらポジショニングをする意識が強かったのはナイルズだけでなく、逆サイドのコラシナツも同じ。大外の裏を強襲する動きに加えて、内側に絞ったりカットインしたりなどハーフスペースに侵入する意識も徐々に芽生えていた印象。オーバメヤンはこういう動きに合わせて外に流れるように旋回。選手間でもレーンが被らないという原則が根付いてることを感じさせた。

 ダビド・ルイスを起点に幅と裏を使うことで徐々にパレスの守備ブロックを広げるアーセナル。そうなれば、今度は徐々に中央のスペースが空いてくる。ここまではパレスがうまく塞いでいたエジルへの楔だったが、わずかな隙を見逃さなかったルイスからエジルに縦パスが通るとここが先制点の起点になる。エジル→ラカゼット→オーバメヤンと流れるようにパスをつなぎ、最後は簡単にシュートを決めて見せたオーバメヤン 。パスコースとしてはそれぞれ1つずつしかなかったように見えたが、適切なパススピードとボールコントロールでパレスの守備網を上回った印象。幅と裏で効かせたジャブを中央で仕留める。アーセナルの先制点は非常に理想的な流れでもたらされた。

【前半】-(2)
できないことをやらねばのジレンマ

 得点を取ったことで展開は微妙に動く。動きが見られたのはクリスタルパレス。手始めにインサイドハーフ1枚がプレスに出ていくことで、前プレ隊を強化。しかし、これはむしろ逆効果。むしろインサイドハーフが出ていったことによってエジルやラカゼットがボールを受けられる間のスペースをアーセナルに与えてしまった。

図7

 そのため、パレスは作戦変更。ハイプレスでアーセナルのボール保持を徹底的に阻害する方向に転換した。パレスの両SHはボールホルダーではないCBへのマークとCB-SB間に立ってショートパスを阻害する係。インサイドハーフ2枚がジャカとトレイラをマンマークする係である。

図8

 アーセナルとしてはGKからSBへのロブパスが通ればOK。がら空きとなったSBに無事にボールを届けられれば、35分のコラシナツの突撃のように攻撃のスイッチを入れることができる。しかしながら、なかなかそこまではいかないアーセナル。なんとなく前に蹴りだす場面が徐々に増えてきて、クリスタルパレスが徐々にボールを回収できるように。気づけば終盤15分はパレスに展開を握られることになった。アーセナルは近い距離を塞がれると、長い距離はまだ蹴れない!しかし、クリアのような長いキックになると回収されるという罰を受ける!というジレンマに。

 しかし、パレスももう一工夫足りない。ザハに徹底マークがついていたため、パレスのサイド突破は逆サイドのマイヤーとザハが左サイドに集結しないとサイドは破れない。逆サイドに展開すると、全然人がいません。。みたいなことになるので、ボールは回収できるようになったけど、そこから先はカオス任せ!という感じ。アーセナルにはガンガン跳ね返されていた。

 というわけで試合を動かすまでには至らず。試合は0-1でアーセナルのリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
別ルート開拓も…

 負傷の影響からトレイラ→ゲンドゥージの交代を行ったアーセナル。パレスは前半に引き続きハイプレスを行ってはいたものの、低い位置でプレーするゲンドゥージに対しては、前半のようにパレスがインサイドハーフがどこまでもついていく!ということはなかった。

 後半のアーセナルのビルドアップは左で作って、右に展開!が主なルート。ワイドに開いたルイスから、大外低い位置のコラシナツをリンクマンとして、中央のジャカに預ける。そこから右サイドに展開することで勝負する。

図9

 人に強く行動範囲が広いゲンドゥージが入ってきたから、パレスがマンマークをやめた!かはわからないが、少なくともトレイラ→ゲンドゥージへの交代でビルドアップのルートが手詰まりになってしまった!というわけではなかったように思う。異なるルートで違う正解を導いて流れを取り戻していた印象である。

 臨機応変なんてアーセナルじゃないみたい!と思った浮足立つアーセナルファンを落ち着かせたのが失点シーン。最近のアーセナルはクロスに対して、ニアで跳ね返す頻度が非常に多いので、アイェウにクロスを通してしまった時点でアウトなのだろう。臨機応変にペースは握りかえしても失点してしまったアーセナル。少なくとも現段階ではアーセナルはアーセナルである。

 失点以上にペースを手放すきっかけになってしまったのが、オーバメヤンの退場ということになるだろう。マイヤーにパッと見て非常に深刻なケガがなくて本当によかった。アルテタは即座にエジル→マルティネッリで運動を確保し、4-4-1にシフトする。左SHに入ったマルティネッリが、しばらくしてからペペとサイドを入れ替えて右に移動したのは、ザハを意識してのものだろうか。

 エジルの交代により、中央のギャップで受ける選手がいなくなったアーセナル。サイドからのアタックで崩し切らないとシュートまで行けなくなってしまう。ペペのポストへのシュートは千載一遇のチャンスだったものの、グアイタの素晴らしいセーブで阻まれてしまった。

 アーセナルのアタッカー陣が対面相手を剥がさなければカウンターに出るのもなかなかしんどかった。リーズはそれでもなんとかなったけど、パレスはよりフィジカル的に強靭で、背中につかれてしまうと反転するのに非常に苦労していた。

 とはいえ、パレスの攻撃が改善しないのも前半と同じ。ボール回収からの波状攻撃までは出ることはできたものの、PA内の攻略の精度は粗いままで決め手に欠いていた。

 試合は1-1のドローで終了。勝ち点を分け合う結果となった。

あとがき

■気になるザハ後

 これで2季連続アーセナル相手に無敗。すなわちヴェンゲル時代以降のアーセナルには一切負けたことがないことになるクリスタル・パレス。出場停止のミリホジェビッチを筆頭に負傷者を抱える中で勝ち点を得られた今回の結果は悪くないだろう。

 一方でリーグ最下位タイの得点数には課題を感じる。ザハをほぼ完封された状態ではボールは運べども、こじ開けることが難しい展開になってしまう。後半はアーセナルを封じつつ、自分たちの攻め手がない共倒れ状態の時間が続いていた。ザハには常に退団の噂が付きまとう。ザハの退団後の攻撃が焼け野原のようになってしまわなければいいのだが。

■シンプルじゃない分、機会が少ない?

 オーバメヤンの退場、そしてビルドアップとネガトラ局面で効いていたトレイラの負傷交代など思い通りにいかない展開が続いたアーセナル。コントロールできる時間の長さというのはここまで何回も述べてきた課題だが、この試合では制御できない部分で主導権を明け渡してしまった。

 しかし、その2人が健在だった前半を見ても実はシュートまで行けた局面というのは非常に少なかった。オーバメヤンの退場まではボールを動かすという部分ではいくつかの解決策を用意していたように思う。シュート数が伸びなかったのはその先が原因ではないか。アタッキングサードまで効率よくボールを運ぶことができたとして、その仕上げとなる部分の精度がアーセナルの攻撃の迫力不足につながっていると思う。

 得点シーンは非常に華麗だった。エジル、ラカゼット、オーバメヤンの連携は美しいが、言い換えればあれくらいの連携を見せないとシュートまではなかなかたどり着けていない。サイドまでいい形で運べても、相手を制圧するドリブルや、ファーサイドの選手にピンポイントで合わせるクロスというわかりやすい武器はまだアーセナルは備わってない。この部分で期待したいのは当然ぺぺ、そしてSBの面々ということになるだろう。

   試合をコントロールし、ボールを相手陣に運んだ先のプレー。すなわち、配置を意識したプレーの上に乗っかるプレーの質は今後のアーセナルの課題として問われるものになりそうだ。

試合結果
プレミアリーグ 
第22節
クリスタルパレス 1-1 アーセナル
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY: 54′ アイェウ
ARS: 12′ オーバメヤン
主審: クレイグ・ポーソン

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