スタメンはこちら。
【前半】
攻守に命を燃やす
リーグ優勝のかかった大一番、カップ戦の決勝戦。サッカーにはその1年を決める大事な試合が存在する。それらに比べるとややスケールは劣るが、グループステージ突破を賭けたCLの最終節も大一番である。1年を決めるとは言わないが、向こう半年を決めるくらいの重要さはある。
そういった試合はえてして慎重な入りになりやすい。堅い展開になって、エンタメ性には欠ける傾向がある。しかし、若いザルツブルクにはこの状況は全く関係がなかったようだ。彼らはいつも通り、もしかするといつも以上にテンションの高いハイプレスで王者に立ち向かった。
リバプールとザルツブルクとの前回対戦を振り返ってみると、前半と後半で戦況が一変する非常に極端な内容だった。前半、4-4-2フラットで臨んでリバプールにタコ殴りにされたザルツブルクが、後半に菱形4-4-2に変形して主導権を握り返したというのが大まかな展開である。
というわけでこの試合もザルツブルクは4-4-2菱形で臨む。前回対戦でうまくいったようにアンカー番として南野を置きながらサイドにボールを誘導し、面でふたをするようなイメージ。当然リバプールのSBはフリーにしてしまっては長いボールを出されるので、ザルツブルクのインサイドハーフはスライドしてプレスに行く。
近いところはすべて塞ぐ!というザルツブルクの守り方。リバプールは遠くを狙わなければプレスを回避できない。CBを経由して逆サイドのSBに展開することで相手のスライドを先回り。特にファン・ダイクからフリーで受けたアレクサンダー=アーノルドが裏のサラーにボールを送るパターンが多かった。
とはいえこの日のリバプールにはファビーニョが不在。中央のヘンダーソンはファビーニョほど長いレンジのパスの精度はない。それでも昔よりはだいぶ上手くなったけど。
そのため、ザルツブルクがいつもより出し手が限られるリバプールの長いレンジのパスを引っかける場面はちらほら見られた。ザルツブルクはボール奪取した後の攻撃も単純明快。とにかくシンプルに裏を狙い、攻撃を完結させることを意識。南野、ヒチャン、ホランドの3枚の連携でリバプールのゴールを陥れる狙いである。
長いレンジのパスを引っかけてしまいペースを握れないリバプール。動き出したのはインサイドハーフである。まずは古巣対決になったケイタ。ヘンダーソンと並列の位置になることによって、ザルツブルクの中盤に選択を迫る。出てくればフィルミーノが降りてくるスペースを空けてしまうことになるので、ザルツブルクとしては悩ましいところである。
16分の前進のシーンは、ケイタの引いて受ける動きに合わせてワイナルドゥムが高い位置に抜けることでザルツブルクの中盤を誘導。降りてくるフィルミーノを起点として使いやすくしていた。
もう1人、ザルツブルクにとって厄介だったのはこちらも古巣対決のマネ。低い位置に降りて受けると相手を剥がすドリブルを披露。ザルツブルク陣内の深い位置まで侵攻していく。ケイタもそうだけど、ザルツブルク出身の選手は剥がすドリブルがうまいんだろうか。
リバプールはヘンダーソンが最終ラインに入るなどより低い位置に動く工夫も見せつつ、ザルツブルクの前線のプレスを乱しにかかる。リバプールのインサイドハーフを自由にさせたくないこともあり、ザルツブルクの前線は徐々にリバプールのCBに厳しくチェックをかけることから、リバプールの中盤へのパスコースを切ることを意識したものにシフトしていった。これにより、リバプールは徐々にボールを持てる時間が増やしていく。
ザルツブルクのビルドアップは比較的配置に倣ったものになる。時折、前線の選手が落ちてきすぎかな?と思う場面もあるのだが、南野やヒチャンにはそのまま前線に自分で運べる馬力があるので、あまり問題になってなかった。彼ら、めっちゃ命燃やしている感じがする。
中盤の配置で工夫を見せたリバプールと前線の馬力でいろんなものをカバーするザルツブルク。8分過ぎに実況の下田さんが「すでに普通の試合の90分に並ぶくらいチャンスがあった」と述べたように、得点が入らなくても非常にスリリングな前半だったといえよう。試合は0-0でハーフタイムを迎える。
【後半】
生命線のプレスで後手を踏む
後半の立ち上がりは再びハイプレス・ハイテンションのサッカーに立ち戻るザルツブルク。まるで前半の再放送を見ているかのようだった。後半も命、燃やしてますね。
というわけで前半と同じく立ち上がりから決定機が見られる両チーム。特にサラーの抜け出しをスタンコビッチが間一髪で塞いでから、ホランドがアリソンと対峙するまでの流れはなかなかに痺れるものだった。サッカー楽しい。
このヒリヒリした試合が均衡を保てたのは57分までだった。このシーンはリバプール得意のSB→SBの高速サイドチェンジが起点。ザルツブルクがインサイドハーフのスライドが間に合わず、ムウェプがロバートソンを捕まえきれない。マネを捨ててカバーに入ったクリステンセンも間に合わず。出てきたオンヨネもかわしたマネが、中央でケイタにアシスト。
ザルツブルクの懸念だったインサイドハーフのスライドをノッチとして、リバプールが先制点を叩き込んだ形だ。剥がせるマネとゴール前に顔を出せるケイタ。ゴールとアシストを決めた2人がザルツブルク印のプレーを見せたのも趣深かったりする。
直後の攻撃を再びシュートにつなげたように、失点後もファイティングポーズをとるザルツブルク。そんなザルツブルクをあざ笑うかのようにリバプールは得点を重ねる。追加点は前半から愚直に狙っていたサラーの裏抜けから。裏抜けは完璧に決めたとはいえ、角度は狭く、コースはかなり限定されていたため、難易度は高かったはずである。
普段と比べてもこの試合のサラーはかなり粘り強く裏抜けのタスクを繰り返していた印象である。ザルツブルクのハイプレスを意識してのものだろうが、フィニッシャーに集中する傾向があった昨今のサラーから見ると、この試合は割と労働者として裏抜けを遂行していたように思う。まぁフィニッシャーでもあるんだけど。
この試合のザルツブルクの攻撃は前半にも話した通り、ハイプレスをひっかけることが起点になることが多かった。しかし、特に2失点目を喫してからはリバプールにプレスをいなされる機会が増えてきた印象である。要因はいくつか考えられる。アリソン、両SBを中心に広くピッチをワイドに使うイメージを持っていたことが1つ。外を迂回して裏に抜けることで、中央が手厚いザルツブルクの守備ブロックに直接引っかかることは避けることができる。
アンカーを務めていたユヌゾビッチの交代でややスリーセンターの機能性が落ちたという点も当然あるし、両SB相手にインサイドハーフが90分出ていくのは非常にハードなタスク。ましてやこの日のザルツブルクは、非常にテンションが高く試合に入ったので、60分過ぎるとバテて連動したプレスがかからなくなるのは当然な気もする。
ちなみに、ユヌゾビッチの交代に伴い、南野がインサイドハーフに移動したのだが、これも機能したかは微妙なところ。前線でユニットの一員として機能していた南野が高い位置を取れなくなることで、カウンター時の攻撃が単騎での打開になる傾向になっていった。さすがに個のバトルではザルツブルクに分が悪い。次の交代で再び南野はトップ下の位置に戻っているので、ひょっとするとこれはマーシュもあまりいい配置転換と思っていなかったかもしれない。
加えて、リバプールのインサイドハーフを捕まえきれなかったのもプレス回避の大きな要因。左に落ちたり、ヘンダーソンに並んだりすることでザルツブルクの中盤を悩ませ続けた。落ちたりバランスをとる一方で、もう一枚が前線に出ていくので厄介である。ダカ、奥川と続々と交代カードを投入し、局面の打開を狙うザルツブルクだったが、最後はリバプールがうまく試合を寝かせた印象だ。
試合は0-2で終了。リバプールがグループ首位通過を決める勝利を挙げた。
あとがき
■個人もチームもこれからが楽しみ
残念ながらグループステージの敗退が決まったザルツブルク。CL戦線をかき乱す台風の目として楽しみにしていたファンは多いだけに残念だろう。敗退はしたものの、アンフィールドに続いてリバプールが非常に手を焼いたのも事実。やっているサッカーは違うが、ハマった時の止められなさというのは昨季のアヤックスに通じるものがある。見れるのは今限りのメンバーというのもアヤックスと同じ。すでに南野のリバプール行きが現実味を帯びているようにヒチャン、ホランド、ショボスライなど他チームから引く手あまたの選手たちがいる。解体は避けられないだろう。
おそらくザルツブルクはすでに次を見据えているはず。彼らが次にどんなメンバーとどんなサッカーを展開するのか。巣立っていくであろう選手たちのキャリアだけでなく、今後のザルツブルクの欧州の舞台での躍進も期待したいところである。
■強固な前と後、自由な中盤
ザルツブルクに苦戦しながらも再度退けたリバプール。試合内容を見ても強さを感じられるものだったと思う。中盤のプレスにはインサイドハーフが移動で対抗。これも徐々にリバプールのプレス回避の十八番になっている感がある。ワイナルドゥム、ヘンダーソン、ミルナーだけでなく、この日先発したケイタもこの役割をこなせるようになっていた。ケイタは徐々にこなすタスクの質が高くなっているように思う。運べるドリブルや前線にも顔を出せるダイナミズムはほかの選手と比べても特徴的な部分であり、ケイタがこの位置をこなせるようになれば、チームとしての幅も広がりそうだ。
中盤が自由な動きをすればバランスも崩れやすいものだが、そこは後方を信頼しているのだろう。らいかーるとさんの記事にもあるが、後ろの個の力をベースに割り切っている部分もありそうである。
この日はそれに加えて前線が決められた役割をこなしていた印象が強かった。サラーの裏抜け、マネの引いた位置からのドリブルなどいつもより前線のやり方がパターン化されている感が強かったように思う。逆に中盤は不規則に広範囲を動くことで相手が最後までつかみどころを見つけられなかった印象が強い。前と後ろがしっかりしていれば、逆に従来ハブ役とされている中盤で自由度を発揮できているのだとしたら、結構斬新な仕上がりのチームといえそうである。
そういえば、前線のプレスがあんまり外を切ってなかった気もするけど、気のせいだろうか。ちょっと継続して見てみたい部分ではある。
試合結果
2019/12/10
UEFA Champions League
グループステージ 第6節
ザルツブルク 0-2 リバプール
スタディオン・ザルツブルク
【得点者】
LIV: 57’ ケイタ, 58’ サラー
主審:ダニー・マッケリー
自由なハブのパイオニア。