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「小さかったテーブルクロス」~2019.11.30 J1 第33節 川崎フロンターレ×横浜F・マリノス レビュー

スタメンはこちら。

図12

目次

【前半】
右で作って、左で破壊

   あれほどプレビューで「横浜FMは菱形の形成と破壊が肝じゃ!」と連呼しておきながら、レビューで違うことを話すのは何だが、まぁそこは自分の未熟さを恥じるということで許してほしい。

 見返しての率直な感想は、この試合の横浜FMのボール保持のテーマは「アシンメトリー形成による川崎のプレス誘導ではないか?」という部分である。立ち上がりから左右の役目分担はきっちり割り振られていたように思う。印象的だったのはSBの役割。特に右の松原である。

 序盤の横浜FMの右サイドのボール保持はいわば「フリ」だった。喜田がサイドに流れながら松原をサポート。時折レーンを入れ替えながら、川崎のDFに選択を迫る。これによって対面する阿部の基準点を狂わせていた。そういえば天皇杯の神戸戦でも阿部が基準点を乱されるところから崩壊が始まったなぁと今更思ったりする。

図18

 これによって川崎のプレス隊は全体的に横浜FMの右サイドに引っ張られる。阿部だけでなく、小林や脇坂も同サイドに引き寄せられる形に。ここから大きく2パターンに分かれる。中央で扇原がフリーになっているときは、ここを起点に楔を打ち込む動きになることが多い。

図19

 即座の縦への展開が難しいと思ったら、左側に大きく展開する。川崎のプレス隊は横浜FMの右に寄っているため、こちらのサイドはフリーの選手ができやすい。絞ることも珍しくないティーラトンだが、この日は幅を取ることでフリーのポジションを得ていた。ここから縦方向に展開していく横浜FM。マテウスを裏に走らせて守田とデュエルさせるのがこの日の横浜FMの王道パターンである。

 ここまででも十分にデザインされているボール保持だと思うが、マテウスの裏抜けに合わせて、マルコス・ジュニオールが降りてくることで川崎のCBに降りる動きを強いる。これにより、守田とCBで逆のベクトルの動きを取らせることでよりカウンター時の威力が増す。さらに、横浜FMの最終ラインでフリーの選手に対して、田中碧が中盤から出ていき無理目のプレスを仕掛けることもしばしば。試合を通して見られた動きであるが、残念ながらあまりチームの助けにはならず、プレス失敗の傷口を広げてしまう動きだったと思う。

図20

 右をフリにした左への展開からマテウスの裏抜け、マルコスの動きにCBが前に出ていくこと、田中碧がプレスに出ていき中盤にスペース空けてしまう。この3点がすべてそろったのが横浜FMの先制点のシーンである。マルコスの降りてくる動きに山村がついていく羽目になったことで、守田がぶち抜かれたカバーリングに山村が間に合わなかった。試合の展開としてはなかなか落ち着かない時間帯の得点だったが、得点までの道筋としては大いに横浜FMの狙い通りのものだったといっていいはずである。

【前半】-(2)
ピーキーな決定機

 結果を振り返ってみると1失点目から前半終了までが川崎が最もこの試合でうまくいった時間帯であった。ひとまずプレスの深追いを自重。サイドにスライドしてのプレスもやめたため、家長が持ち場を守るように。得点シーンのようなティーラトンからの裏への長いボールも減るようになり、横浜FMがボール保持から一気に相手ゴールに迫る場面が最も少ない時間帯になった。

 川崎のボール保持に対して、横浜FMは勢いのあるプレスとハイラインで対応。マルコス・ジュニオールとエリキもプレスバックを積極的に行う。田中や大島にはプレッシャーがかかり、あまり時間を与えてもらえない。川崎が作ったチャンスは横浜FMのボールに寄っていく習性を利用したものが多かった。1つ目は裏抜けによる深さを狙ったもの。高いラインをロブパスで破り、ダイレクトに決定機を迎えるシーンが数回あった。

 それに加えてプレビューで指摘した脇坂のハーフスペースの裏抜けで、ラインを押し下げる動きから空いたバイタルを強襲する動きも見られた。このシーンでは大島のミドルはゴールを脅かすには至らなかったけど。

図21

 もう1つはサイドチェンジ。ボールサイドへのスライドが顕著な横浜FMに対して、パス交換やドリブル突破でボールホルダーがフリーになった瞬間に逆サイドに展開。オーバーラップしたSBがフリーでボールを受けて、広いスペースで勝負できるシーンがあった。横浜FMの穴を突くような斜めのパスを後方から刺せる山村は相変わらず素晴らしい。多くのポジションをこなせるから、きっと賢い選手なのだろうと加入前から思ってはいたが、空間把握能力がここまで高いとは思わなかった。

 しかしながら、川崎のチャンスは横浜FMのチャンスに比べると質の高さはどうだったか?例えば、オーバーラップしたSBからのクロスは早く鋭いものが多かった。守田のクロスに合わせた小林のヘッドが惜しくも外れるシーンがあったが、このシーンはかなり合わせるのが難しいクロスだったように思う。

 ただ、小林がフリーで合わせるためにはそれほど鋭いクロスを送らなくてはいけなかったのも事実。速く鋭いクロスを送らなければ、小林がシュートを打つことそのものが難しいだろう。小林はエリア内1枚でクロスを受けるシーンが多かったうえに、スピードでも高さでも分があるチアゴ・マルチンスとマッチアップするケースが多かった。ということは一瞬マークを外した小林に、ピンポイントでクロスを合わせないとチャンスにはならない。そうなると、精度がいいクロスを上げるのも難しいし、受ける側も合わせるのが難しいボールが飛んでくる。横浜FMのチャンスに比べると川崎のチャンスがピーキーで難易度が高いものに感じたのは、こうしたわずかな隙間に付け入るしかなかっただろう。

 さらに、川崎にとって悩ましかったのは朴一圭の存在だ。高いラインの裏はねらい目と述べたが、彼の広い守備範囲によって川崎の裏抜けの威力は低下させられていたように思う。例えば、脇坂が抜け出して1対1を迎えたシーン。朴は素早く寄せることで脇坂がプレーする時間を制限。先ほどのクロスの話と同様、川崎のチャンスを「ピーキー」なものに変貌させた。

 押し込むがピーキーなチャンスを決められない川崎。横浜FMもSBのポジションチェンジを軸に後方でフリーマンを作り、前方で仲川を軸としたアイソレーションでチャンス創出を行う。40分すぎからは再びペースを手中に入れて決定期を迎えるが、追加点には至らず。試合は0-1で首位の横浜FMのリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
痛いところを突かれた失点

 「もう少し圧力をかけていこう。」という鬼木監督のハーフタイムコメントから読み取れるように、ビハインドをひっくり返すために後半キックオフから再度強めのプレスを見せた川崎。しかしながら、点を決めたのは横浜FMの方である。

 もちろん、エリキに松原が出したラストパスは素晴らしい。あのラストパスを通されるのは詰みである。しかしながら、直前のシーンを見るとこの試合の川崎のプレスの欠陥が浮かび上がってくる。低い位置の喜田に田中がプレスをかけることで持ち場を空ける。この選択を悪いものにしないのならば、少なくとも脇坂はプレスバックして扇原を捕まえたかったところである。田中が出ていったスペースを誰も埋めなかったおかげで大島から見ると目の前にはフリーの扇原、右にはマルコス・ジュニオール、左には松原という3人を相手にしなくてはいけない状況になってしまう。

図22

 プレスバック阿部と2人で松原を挟み込むチャンスを逸したのは大島のミスかもしれないが、基本的にはピッチの中央の広大なスペースで3人と対峙しなきゃいけない状況を作られた時点で詰みだろう。大島の機動力とか守備範囲以前の話だ。抜け目なく人数かけてくる松原のランは良かったけど。けど!

 優勝争いを盛り上げるだけならば引き分けが目標になるスコアだが、この日の(自分的)テーマは「ジコチューで行こう」だし、チームもACL出場権獲得に向けて勝利しかない!という状況でもある。サイドの起点になる長谷川に続いて、エリア内で孤軍奮闘していた小林を助けるためにダミアンを投入。右でタメを作って、左で勝負という形が徐々に出てくる。クロスを受けるエリアの中でもフィジカルと動き出しを兼備するダミアンの投入で徐々に勝負ができる状況になった。

 しかしながら、押し込むにはボールを奪取しなくてはいけない。高い位置でボールを止めに行くということは、後方の広大なスペースを許容するということになる。山村、谷口をはじめとする川崎のDF陣は今季何回もこの難しい状況を食い止めてきたが、横浜FMのアタッカー陣を向こうに回してしまうとさすがに分が悪かった。3点目は完全にオープンな展開を許容した故の走り負けである。

 やられっぱなし!というわけではなかった川崎。長谷川が勝負できる局面を作り続けたこともあり、ダミアンとのホットラインは何とかこの日も開通。1点を返す。ダミアンさんは周りにサポートストライカーがいたほうがよさげというのはなんとなくこの試合で分かった気がする。4-4-2をもう少し後半戦使っていたら、もっと早くシフトできたりしたんだろうか。チアゴ・マルチンスに個の力で対抗できるのは強いぜ。

 しかしながら、マリノスは逆転の芽を摘む4点目を叩きこむ。なんてひどいやつらだ。ばか!

 試合はそのまま終了。神奈川ダービーは一方的な展開で横浜FMが勝利を手にした。

あとがき

■再構築、成功

 つえーなマリノス。正直、ボールの出所になりそうな畠中を抑えつつ中盤をコンパクトにすれば、勝負できるぜ!って思ってたけど、ティーラトンと松原にがっつり起点になられたのは普通にきつかった。特に松原。あんなにレーン移動が上手で嫌なところに顔を出せるなんて聞いていない。ずるい。川崎目線で言えばサイドバックが起点として機能した故に、前線で勝負されてしまった。

 ただ、松原のその縦横無尽なポジショニングを喜田1人で支えるのはなかなかしんどそう。それ故の扇原起用という側面はあると思うので、彼の出場停止はチームのメカニズム的には痛手。最も中盤の他の構成も見てみたくなるくらいの出来だったけど。

 直近の試合でトレードマークとなっている早い時間の先制点はこの試合も健在。川崎が横浜FMの策に対してどうしようか考えている間に1点を取ったのはでかい。そのあと少し耐える時間もあったけど、その時にこの1点があるのは全然違うはず。その違いをこの終盤戦で見せ続けているのはチームとしての力がある証拠だろう。

 チームとしては夏に天野、三好の退団とエジガル・ジュニオの長期離脱で再構築を迫られたものの、見事にそのミッションを遂行した。マテウスを取ったときは「なんでそんなびっくり箱に手を出すんだ」と思ったけど、カットインさせにくい左サイドでの起用で広いスペースで勝負する形を用意して、見事にチームとして組み込んで見せた。二度チームを構築する必要があった難しいシーズンを走り抜けた横浜FM。ホームで歓喜の瞬間を迎えるための状況は整ったといえるだろう。

小さくなってしまったテーブルクロス

 さて、注目の一戦でやられてしまった川崎の話である。広島、鹿島、浦和と連勝を重ねてはきたものの、神戸戦で突き付けられた課題は短期間で変わらない!というところで覚悟していた部分はある。この試合の出来が特段悪かったというよりは、横浜FMに改めてチームの現在地を突き付けられたというのが個人的な感想である。

 広大なスペースでマテウス、エリキ、仲川、マルコスとの勝負は避けなければならない!と思っていたが、ものの見事に横浜FMの土俵にあげられてしまった感が否めない。DF陣はスピード勝負に臨まなくてはいけなくなり、攻撃面でも本来の得意な密集でのパス交換は、同サイドにグッと寄せられる横浜FMの守備にからめとられてしまった。

 この試合で精彩を欠いた田中も以下のように述べている。

「フロンターレにも素晴らしい選手がたくさんいるし、マリノスにもすばらいし選手がいる。ただ特徴が違うだけで、だからこそグループでそういう相手にどう戦って行くのか。より組織的なチームがJリーグでも増えてくる中で、自分たちも個に頼るより、どうやってゲームを進めて行くか、どうやって守るかはやっていかないといけないとここ最近は感じているので、難しいことはありますけど、チームとしてもう1回やらないといけない」

リーグ二連覇から訪れたターニングポイント。大敗のF・マリノス戦で突きつけられた川崎フロンターレの難題(河治良幸) – Yahoo!ニュース川崎フロンターレと横浜F・マリノスの”神奈川ダービー”はマリノスが4−1で勝利し、優勝に大きく前進。一方フロンターレにとっnews.yahoo.co.jp

 例えば、この試合で一矢報いた長谷川ーダミアンのラインは相手としてはわかっていても止められなかったりする。川崎にも武器はある、しかしその武器をお膳立てするための下準備はまだまだ足りていない。相手にとって脅威になる部分で勝負するための仕組み作りは大事だ。それこそ、この日横浜FMがサイドで勝負できるようにマテウスや仲川にパスを届けたように。

 前任者の元で高めたボールスキルに、密集でのボール保持からの即時奪回を上乗せしてリーグ戦2連覇を果たした川崎フロンターレ。その精度の高さは、後方の広大なスペースという大きな懸念を覆うテーブルクロスでもあった。しかしながら時がたち、相手もうまくなり、自分たちの精度も落ちた。現状、このテーブルクロスは川崎の後方のスペースという欠点を隠すには不十分だ。

 ルヴァンカップ制覇やリーグ戦の連勝で、再び自信が出てきたところにこの結果は辛いものがある。しかし、懸念を覆い隠すには小さくなってしまったテーブルクロスを来季どうするか見つめ直す契機にしなければ、隣町のライバルとの差を埋めるのは難しくなるだろう。

試合結果
2019/11/30
J1 第33節
川崎フロンターレ 1-4 横浜Fマリノス
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎: 74′ レアンドロ・ダミアン
横浜FM: 8′ 仲川輝人, 49′ 69′ エリキ, 89′ 遠藤渓太
主審: 西村雄一→清水勇人

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