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「締めは殴り合いで」~2019.12.7 J1 第34節 北海道コンサドーレ札幌×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

図8

目次

【前半】
2トップ脇にできた起点

 プレビューでは札幌のメンバーは宮澤と深井が中盤を組む想定で話を展開したが、この日はキム・ミンテの代わりに宮澤が最終ラインに入る。というわけでCHは荒野と深井がコンビを組むことになった。

 このコンビについてはルヴァンカップ決勝のプレビューで少し触れていたりする。

 課題としてはCHがプレスに行ったときのスペース管理。彼らが出ていったスペースに対しては、最終ライン(主にワイドのCB)が出ていくことでそのスペースを埋める動きが多くなるのだが、出ていった際の最終ラインのスライドの甘さが札幌の非保持でのウィークポイントである。

図13

 実際にこのウィークポイントは早々に川崎に利用される。家長が外に開いて空けたスペースに守田と脇坂がそのスペースに侵入。田中とのコンビネーションで脇坂がライン裏に抜けだすと、小林にラストパスを出して1分も経たないうちに先制点を決める。家長が空けたスペースに対して狙える位置に選手がたくさんいたので、札幌はだいぶ狙いを絞りにくかったかもしれない。

図14

 川崎が縦方向に穴を見つけて侵攻していくならば、札幌の狙いは横方向である。3トップが中央にいながら両ワイドのWBが高い位置を取っていることで、川崎のDFは逆サイドが足りなくなる。川崎の最終ラインに横の受け渡しを頻発させることで、エラーを引き起こしたいというのがおそらく札幌の狙いになる。基本的には左の福森→右のルーカスのパターンが多く、狙い通りのボールの動かし方ができている場面は多かった。

図9

 しかしながら、攻撃の完結をさせられない場面もちらほら。そのため、カウンターを食らってしまう場面が発生。特に高い位置を取るルーカスと、戻りが遅れがちな福森の裏は川崎の狙い目になっていた。というわけで試合開始から互いに非常に縦に速い展開になる。

 殴り合いの様相を呈している中で次のスコアを決めたのは川崎。札幌の右サイドに侵攻したところで荒野のファウルから得たFKである。ここは脇坂の技ありシュート。完全にソンユンの裏を突いた形で追加点を決める。

 追いかける札幌の狙い目は川崎の裏側。低い位置で起点を作ることはできていたため、フリーで前にボールを送ることはできていた。この日の川崎の最終ラインのコントロールはやや不安定。裏に素直にボールを送ることでチャンスを作れそうな場面はあった。しかし、このロングボールは札幌にとってデメリットもあった。後方に人数をかけたまま、裏にボールを送ってしまっているので、跳ね返された時に中盤に札幌の選手があまりいない事態に。セカンドボールを川崎の選手が拾い、そのままカウンターで反撃に出ることが可能になっていた。

図10

 ともに怪しいラインコントロール、スペースが空きまくっている中盤での殴り合いの中で次にあたりを引いたのは札幌。先ほど紹介した左でボールを持つことで、川崎の最終ラインをサイドに寄せて、逆の大外に一気に振る形。このシーンではCBの宮澤がリスクを承知で飛び込んでくることで、川崎のラインを押し下げることでルーカスにシュートチャンスが生まれた形。

図11

 1点を返した段階で徐々にボール保持で安定感が出てきた札幌。札幌のビルドアップはCH1枚が最終ラインに入り、ワイドのCBがSB化。DFラインに入らない1枚が中盤に残り、GKも含めたひし形を形成しSB化したワイドのCBを押し上げるパターンが多い。しかし、この日はいつもと比べると、SBが絞る状況が多め。おそらくこれは川崎のプレス隊の2トップ脇を使う意識が高かったためだろう。菱形の頂点を形成する荒野も2トップ脇に落ちる動きを織り交ぜていた。その場合はチャナティップがやや中央でトップ下気味の位置に移動。こういったレーンの入れ替えは今までの対戦よりも多かったと思う。

図12

 移動する荒野に加えて、福森も当然起点としては厄介。低い位置で2トップ脇を起点とすることを意識することでボール保持を安定させた札幌が前半の終盤はリズムを握った。決定機もあったが決めるまでは至らず。試合は川崎がリードを維持してハーフタイムを迎える。

【後半】
サイド揺さぶり×中央突破

 後半開始から札幌には選手交代が。荒野に代えてキムミンテを投入。中盤の守備面での規律が気になっただろうか。選手交代はあったものの、試合は大まかには前半と変わらない流れでスタートした。札幌は後方でフリーの選手を作り、2トップの脇から川崎を横に広げるアプローチを継続。前半の終盤と同様、札幌が作るこの流れは非常に有効で、川崎の最終ラインを揺さぶる動きが見られた。

 川崎は前がかりになる札幌のCHの裏を狙う。田中や大島が楔の出し手として札幌のCHを超えるパスが出るとアタッカー陣と札幌のDFラインが対峙。ガチンコ勝負の局面になる。ただ、札幌は最終ラインがロングキックのビルドアップが主体で後方に人数が残りやすかったことと、川崎が全体を押し上げないままに攻撃を進めたため、難易度の高い中央のコンビネーションで失敗して終了になるパターンは結構あった。

 この日の川崎の中央偏重は顕著で、特に後半はSBが攻撃に参加する機会は非常に少なかった。ここらへんは齋藤や長谷川、登里の不在が影響しているのか、それとも来季はこんなことをやるんやで!なのかはわからないけども。どっちにしてもなかなか難易度高めのことにトライしているな!という印象はあった。突破すればチャンスはデカ目だけど。

 脇坂に代わって知念がトップに入るとダイレクトに楔を打ち込む場面は増えていき、中央突破の比重はさらに顕著になっていく。札幌のDFラインとMFラインが間延びしていたこともあり、比較的それでもチャンスは作れていた。

 札幌はチャナティップに代わって前線にジェイが入る。この交代が効いたかどうかは微妙なところ。エリア内の脅威は増したものの、攻撃を加速させられるチャナティップを失ったことで、札幌の速い攻撃はややトーンダウンした印象である。選手交代で言えばジェイよりも中盤から前線へのパス供給の役割を担っていた中野の方が印象的だったかもしれない。

 それでも終盤も左の福森から、川崎のDFラインが行き届かない逆サイドの大外に長いパスを通すパターンは有効。ルーカス・フェルナンデスの最終局面への顔出しは後半も脅威になり続けていた。

 しかしながら、最後まで札幌のFW陣が同点ゴールのネットを揺らすことはできず。谷口と山村、ソンリョンの体を張った守備の前に屈してしまった印象である。

 試合はそのまま終了。ルヴァンカップのリベンジマッチは川崎が札幌を返り討ちにして終了した。

あとがき

■攻撃は機能も課題は健在

 ホームで有終の美を飾れなかった札幌。勝敗の観点で言えばやはり早々の2失点が多かった。左サイドを起点とした攻撃は比較的機能していたと思うが、仕上げのゴールが決まらなかった。押し込まれるとわちゃわちゃしてしまう最終局面の守備やネガトラ時に空いてしまう中盤など、主に守備面における課題は健在。ペドロビッチはおそらく続投するのだろうが、ここからチームにどう上積みをもたらすのかは気になるところである。

■安堵と寂しさ

 勝ったぜ!最終節、相手が札幌ということでオープンな殴り合いになりました。ワイドプレイヤーがベンチにもスタメンにも不在ということで難しい展開になるのかな?と思いきや、アウェイでたまに見せる電光石火での先制点でだいぶ楽になった。ホームでもやれ。受けに回った際のラインコントロールはもう少し頑張りたいところである。

 あと、この日は珍しくボール支配率が相手を下回った結果になった。一般的にはボール支配率はあんまり勝敗に関係ないのだけど、この日みたいに上下動を繰り返させられると、体力のない川崎にとっては辛い展開。体力の消耗を抑えるのは、川崎のボール保持の目的の1つでもあると思っている。ボールを握るチームがリーグでも増えてきた中で、試合をコントロールする術を身に着けるのも来季の課題になりそうだ。

 シーズン最後を勝利で終わるのは気分がいい!と素直に思えないほど選手たちはいろんな表情を見せていた。おそらく川崎サポーターも同じ気持ちだろう。愛着のある選手との別れ、いいところもあれば悪いところもあった今季の成績。3連覇に向けて来季を見据えていた去年とは雰囲気は違う。クラブはここから転換期に差し掛かるのだろう。最終節、勝利を挙げた安堵とここから迎える変化を予感しての寂しさが入り混じる最終節となった。

試合結果
2019/12/7
J1 第34節
北海道コンサドーレ札幌 1-2 川崎フロンターレ
札幌ドーム
【得点者】
札幌: 34′ ルーカス・フェルナンデス
川崎: 1′ 小林悠, 13′ 脇坂泰斗
主審: 小屋幸栄

一年間のあとがき

 今年も一年間ありがとうございました。本年はプレビューとレビューというコンボに新たに挑戦しまして、エネルギーとしてはガッツリ川崎に投じたわけであります。正直、後半は若干バテた部分もあるのかなと思ってます。最後の数試合はあまり自分としては自信がある書き物になったかは微妙なところです。何年もこれをやっている諸先輩方は偉大でございます。

 ただ、プレビューで予測を立てて、レビューで答え合わせというサイクルは、実際のチームが取り組んでいるプロセスを外部から疑似的に体験している部分がありました。もちろん、川崎が実際に取り組んでいることに比べるとレベルも中身も乖離しているとは思いますけど、自分の中で1週間の試合に臨むサイクルを組んで1年間続けられたのは良かったのかなと。レビューだけ書いていた昨季とはまた違う景色でした。

 去年よりたくさん感想をいただけるようになって、やりがいとしてはますます増しているところではあります。他サポの皆様も含めて感謝です。来年以降の川崎の記事の頻度とか、やり方とかはまだ決めていません。来年は今年ほど時間に余裕がなさそうなので、うまい付き合い方をどこかで見つけられたらと思っております。1年間読んでくれた皆様、ありがとうございました。

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