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「グラデーションの完成度」~2019.11.23 プレミアリーグ 第13節 マンチェスター・シティ×チェルシー レビュー

スタメンはこちら。

図1

目次

【前半】
中央でジョルジーニョ、外からウィリアン

 圧倒的な強さのリバプールの後塵を拝している2強の一角マンチェスター・シティと、スットコドッコイというよりは普通にどうしようもないCL争いのライバルを尻目に勝ち点を重ねるチェルシー。第1勢力の後方と、第2勢力の前方の対戦ということで、まずはどのような力関係で進むのかが楽しみな立ち上がりであった。

    シティのプレスは4-4-2。シルバが前に出て行く形である。シティのプレスは前から相手を捕まえには行こうとしていたが、完全にマンマークでハメ倒すものではなかった。前の6人でチェルシーのプレス隊を監視。例えばシルバとアグエロはチェルシーのCBに交互にプレスをかけつつ、ジョルジーニョを交代で監視。SHもインサイドハーフとサイドバックのどちらも監視をする形を取り、最終ラインからの飛び出しは最小限に限っていた。

図4

   枚数的には足りているとはいえ、シティのプレスは捨てるところと詰めるところのバランス感覚が良く、度々チェルシーのビルドアップ隊は圧力にさらされるシーンがあった。どうする?とプレスで問いかけてきたシティに対して、答えたのはジョルジーニョとコバチッチ。11分のプレス回避のように、多少状況が厳しくて蹴っ飛ばしても仕方のない状況でも、彼らは気合でボールをつなぐ。多少非効率でも、シティ相手に自分たちのやりたいことを早々に捨ててしまうのは90分戦うということにおいてまずい!と言ったところだろうか。11分のシーンはそういったコバチッチとジョルジーニョの気概が見られたシーンでもあった。

    上にも書いたようにシティはチェルシーに対してマンマークで潰しを敢行してきたわけではない。というわけでジョルジーニョを筆頭に、フリーマンから中央のエイブラハムに楔を打つことでシティの中盤のプレスラインを突破するシーンもちらほら出てきていた。

図10

    前方でプレス回避で大きな貢献度を果たしていたのはウィリアン。サイドで降りてくる動きを見せることにより、メンディやスターリングの判断に迷いを与える。動きながらボールをコントロールできるウィリアンがパス交換からドリブルでシティの中盤を回避して、ラインブレイクというのも多く見られた光景だった。

図5

【前半】-(2)
課題が得点に、強みが失点に

   チェルシーのボール非保持に目を向けてみると、中盤の構成はアヤックス戦に比べるとやや守備的。マウントをベンチスタートにしたのはコンディションの面もあるかもしれないが、単にシティの3枚の中盤に噛み合わせる形かもしれない。

   マウントが2トップの一角として4-4-2でプレスに行ったアヤックス戦とは違い、数字で言えば4-3-3のような形で並んでいた非保持のチェルシー。

図6

   プレス隊はエイブラハムが1人で担当。彼の役割は無闇に高い位置から追いかけ回すことではなくロドリへのパスコースを切りながらボールを外に追いやること。時折、ロドリを捨ててCBにプレスに行くケースもあった。その場合はロドリのマークはアンカーのジョルジーニョが行う。結構リスク背負ってる感はあるが、チェルシーのCBは前には強いので、ジョルジーニョのスペースにアグエロが降りてくる動きを見せても、デュエルには勝算あるぜ!だったのかもしれない。あるいは単にカンテとコバチッチにはデ・ブライネとシルバの監視に集中させたかった可能性も。

   中央を固める意識が強かったチェルシー。それに対してシティが使ってきたのはWGを釣り出す形。低い位置でワイドに張ったシティのCB。エイブラハムからプレスに行くには遠い位置である。というわけでここに出てくるのはプリシッチやウィリアン。リバプール戦とは違い、CBが出しどころに困ってもこの試合のシティにはエデルソンがいる。彼がいれば大外に張ったSBはたちまち安全地帯に。チェルシーのWGがプレスで捨てた安全地帯にエデルソンが正確にボールを届けることによって、起点を作る。速攻で遠くまで届けられれば一番脅威!っていうのを体現したアグエロへのダイレクトパスは凄かったぜ。下田さんも言ってたけど、気づいたら決定機だったからマジでスイッチャー泣かせである。 

図7

   というわけで徐々にプレスラインを低く設定してブロックを組むシーンが増えるチェルシー。低い位置で死にそうだったのは、アグエロやデブライネのフリーランによって斜めに引っ張られるチェルシーのCB。4バックでシティと対峙するのはここがしんどい。何度も間を割られそうになりながらも水際で食い止めるシーンが何回かあった。

    もう一つのチェルシーの問題点はボール非保持時に全体の重心が低くなってしまい、カウンターに打って出る際に後ろが重くなってしまうことだ。エイブラハムは裏抜けでもポストでも起点になっていたのだが、押し下げられると彼をサポートする選手が周りにあまりいない状況になる。

    逆に、高い位置まで出ることができると「どうエイブラハムの周りに人を置くか?」はチェルシーの攻撃の命題である。プリシッチがこの日は中にしぼり目なポジションを取って、エイブラハムと近い位置でプレーしていたのもそうだし、先に挙げたウィリアンのドリブル突破もそう。そして、得点シーンにつながったのはインサイドハーフの飛び出しである。

  エイブラハムの裏抜けにワンテンポ遅いタイミングで飛び出したカンテ。フェルナンジーニョが対応につられてしまい、慌ててメンディがカンテを捕まえないかも間に合わず。二の矢の飛び出しを見逃さなかったコバチッチも流石である。エイブラハムの周りにどう人を送り込むか?の課題をうまく解決し、チェルシーが先制に成功。

図11

   課題が得点に結びつくこともあれば、長所が失点に結びつくところがあるのがサッカーの面白いところである。シティの同点弾は局面を前に進めるという点でチェルシーの大きな武器であるジョルジーニョの縦パスをカットしたところから。素早くショートカウンターを発動すると、この日は右から内側へのカットインが多かったデ・ブライネがミドル。相手に跳ね返った幸運も手伝い、シティは比較的短い時間で同点に追いつくことに。 

   即座に同点に追いついたシティ。この日の彼らの課題はボール保持における変化の部分だろうか。この日出場停止だったベルナルド・シルバが見せる斜めの動きがこの日は少なく、ポジションを変えながら旋回する攻撃の破壊力はいつもよりは控えめであった。ジョルジーニョと同じように、マンマークではなく受け渡しで対応されていたロドリがフリーになるケースももちろんあったのだが、あまり彼を起点にスイッチが入るパスが少なかったのはWGの斜めに走る動きがいつもより減ってしまったことも影響しているのかもしれない。

   シティらしさ!という部分では少し色が薄かった試合だったが、その分持ち味を発揮したのは外に張るマフレズである。大外で相手を引きつけつつ、ドリブルで最終ラインを押し下げる動きでチャンスメイク。シティらしくはなくても、マフレズらしい働きでチェルシーの左サイドを苦しめる。コバチッチもプリシッチもサボってたわけではないけれど。

    いつものように多角形を作って苦しめる形は少なかったけど、この日は右から外を回るようにマフレズ、内にカットインするようにデ・ブライネの二刀流でチェルシーのDFラインを押し下げる。

図8

    シティの追加点はこの右サイドから生まれたもの。マフレズが2人剥がしたのも大きい。デ・ブライネを気に掛ける必要があるジョルジーニョはあの位置からではカバーには間に合わないだろう。

   シティらしくはなくても、マフレズらしいゴールで追加点を挙げたシティ。デ・ブライネを一時的にロドリと並べる位置に落とし、エイブラハムからの縦パスを阻害しやすい位置に。ゲームを落ち着かせにかかる。

   逆に焦った感があったのはチェルシー。ケパのキックミスから、失点の大ピンチを迎えててんやわんやした後では、なかなか攻めには出にくい。マインドとしては「とりあえずHTまでは!」と思っても変ではないのかなと。

   結局そのままスコアは動かず。試合は2-1とホームチームのリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
3つの試練をかわして安全運転

   インサイドハーフがプレスの時に前に出てくる積極性が上がった立ち上がりから判断するならば、追いかけるチェルシーは前半よりも高い位置で止める意識で試合に入ったのかもしれない。中盤の3枚は前半以上に上下に動きながら縦横無尽に相手選手を捕まえに行っていた。

    デ・ブライネが低い位置を気にかけるようになってから、エイブラハムへの縦パスの頻度が下がったチェルシー。その分、攻撃に関しては両サイドのSBのオーバーラップの積極性が向上。エメルソンは絞ったプリシッチの大外に。アスピリクエタは絞った位置で右の大外に張るウィリアムへのリンクマンとして、前半よりも頻度を高めて攻撃に参加。

 左右の比率で言えば、後半の攻撃は右が多めだったチェルシー。中央や左でパス交換した後に、大きく右に展開してウィリアンやジェームズの1対1するパターンが多かった。サイドのクロスに備えるインサイドでは前半に点をとったカンテが高い位置で攻撃に厚みを加えていた。

   一方のシティは安全運転。無理は控えつつボール保持。裏抜けを織り交ぜつつ、ロストした時の危険度が低くなるプレーを選択するように見えた。安全運転で後半感想を目指すシティに後半早々に試練が降りかかる。ロドリが負傷交代。ギュンドアンがアンカーとして登場することになる。

   ギュンドアンがアンカーのシティは自分はあまり見たことはなかったのだが、この日のギュンドアンはいいパフォーマンスを見せていたと思う。前プレス隊に人数をかけないチェルシーに対して、縦横無尽に動き回ることで狙いを絞らせなかった。ボールの動かし方もシンプルで、チェルシーのプレスをいなしつつ、シティが時計の針を進めるのに一役買っていた。一列前に侵入する動きもうまく、この辺りは普段インサイドハーフをやっていることもあるなぁと感じた。

 ロドリの負傷という第一の試練を乗り越えたシティだったが、この日のシティは試練続き。続いての受難はシルバの負傷である。シルバに代わりピッチに入ったのはフォーデン。結構おとなしく試合を進めていたシティだったが、ピッチに入るなりガンガンプレスをかけ始めていた。いいのかそれは!

 一方でチェルシーの選手交代も苦しさが垣間見える。トップ下にマウントというのは攻撃面においてはもちろん、ギュンドアンの監視役をつけるという意味でも効果的だと思う。ただ、この日のシティの片側圧縮4-4-2を攻略するにはサイドアタッカーが足りなかったか。代表ウィークで負傷したプリシッチも90分継続して脅威を発揮できてはいなかったし、同じく代表で負傷したハドソン=オドイがベンチにいれば流れを変えることはできたかもしれない。あと、バチュアイは結構ダメだった。

 第三の試練であるアグエロ→ジェズスの交代を行ったシティ。意図はわからなかったが、最終盤はスターリングとマフレズのサイドを入れ替えることが多かった。これに伴って絞って中央でプレーすることが増えるスターリング。得点が必要なチェルシーはCHのプレスが前がかりになるシーンが出てきているので、アンカーの脇の位置に絞って受けたり、空いた中央でドリブルを仕掛けていた。

 そんな中央のスターリングが生きたのは幻の3点目。取り消しの憂き目にはあったものの、動きなおしによる次のプレーへの動作の素早さは彼がドリブラーとしてだけでなく、ストライカーとしても優秀なことの証明である。

 試合は2-1で終了。シティが打倒リバプールの1番手に再度名乗りを上げる勝利を掴んだ。

あとがき

■深みはこれから

 前半は奮闘したチェルシーだったが、後半は見事に封じられてしまった。結果だけ見れば、得意の縦パスカットで重ねた2失点で互角に進めていた前半でビハインドになってしまったのも痛かった。サイドアタッカーが万全とはいいがたいこの日のスカッドを考えるならば、前半でリードは確保しておきたかったところである。

 しかしながら、けが人が多発したシティを前にはその言い訳もかすんでしまう。流れに乗った時間帯での強さはすでに今季証明しているし、就任期間を考えればここまでのランパードの仕事は素晴らしいもの。様々な局面に対応できるチームの深みを作るのはこれからだろう。ここからどうチームが変化していくか、チェルシーファンのみならず楽しみなところである。

■淡い色での完成度

 リバプールとの敗戦後という難しい状況で見事チェルシーを下したシティ。就任後最も低いボール保持率や、本文でも触れたベルナルド・シルバの不在など、イメージするシティらしい戦い方とは違ったものの、特に後半は試合をよくコントロールし勝利を掴んだ。特にエデルソンの長いボールは、リバプール戦に足りなかったピッチを広く使うボール保持に安定感をもたらした。

 ギュンドアンは急遽の出番も難なくこなしたし、マフレズは本来のWGロールで絶大な効果を発揮するなど、負傷交代や出場停止でチャンスを得た選手たちが活躍。シティ色は薄い戦い方でも、完成度でチェルシーを上回った形だ。大目標であるCLを制するには、シティらしさが発揮できない時間帯にも強さは求められるはず。そういった意味ではこの日の淡い色のシティで、チェルシーに勝利したのは、チームにとって非常に前向きなことといえるのではないだろうか。

試合結果
プレミアリーグ 
第13節
マンチェスター・シティ 2-1 チェルシー
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City: 29′ デ・ブライネ, 37′ マフレズ
CHE: 21′ カンテ
主審: マーティン・アトキンソン

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