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「神は細部に宿る」~2019.11.9 J1 第31節 鹿島アントラーズ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
こっちのルンバも強いぞ

 「鹿島×川崎はデュエル、デュエル、デュエルになる」
 展望といっていいのかわからないようなことを書いてしまったなと今更ながら思うプレビューだったが、実際にそうなのだから仕方ない。ざっくりした解釈で言えば大方の予想通りの展開、がっぷりよつのしばきあいになったカードといえるだろう。

 前半戦に対戦した時も思ったのだが、鹿島は前線の守備が昨年と比べて改善されているように思えた。その中心となっているのが伊藤翔。川崎のボール保持に対して、無理に飛び込むことをせず、様子を見ながらマイナスのボールやコントロールが乱れたところを一気に詰める。サッカーは90分全力疾走し続けられる競技ではないので、そういう意味でプレスのスイッチの入れ方は非常に重要。伊藤翔は優れた先導役である。

 先導役が優れていれば後続も優れていたのがこの日の鹿島。特に川崎の右サイド側にいたメンバーは優秀だった。前線に連動して動ける白崎に加えて、強力ルンバのレオ・シルバは先読みでの潰しに優れており、川崎に中盤中央での自由を与えなかった。三竿のことを「ルンバ中のルンバ」とプレビューでは述べたが、レオ・シルバも非常に優秀なルンバだし、その隣の永木もルンバ。そしてそれ以前にルンバは一家に一台ある時点で十分厄介なのである。

 というわけで中央は優秀なスイッチとルンバでクローズした鹿島。ボールを持つ側の川崎には工夫が必要である。工夫が見られたのは川崎のCB。谷口と山村は浮き球のミドルパスを多用。特に山村は自らがボールを運んで相手の陣形を動かしてから斜めのパスを入れる形を多く作った。キラーパスで効果抜群というわけではないものの、こういった最終ラインからのボールの引き出しの工夫は川崎にはあまり見られなかった部分ではある。

 CBからの浮き球の受けどころになることが多かったのはSB。鹿島のSHがやや絞ってることもあり、ボールを受ける時間は得ることができた。しかしながらそこからサイドを封じる守備がさすがの鹿島。低い位置でサイドに落ちる川崎のCHには鹿島のFWがついていく。

図4

 サイドの攻防についてプレビューで触れたのは川崎の右サイド。家長がワイドに張りつつ、脇坂がハーフスペースの裏抜けを行う。SBが後ろで空いたスペースを取るという流れ。浦和戦で見られたような以下の図を川崎が再現できるかがポイントであると述べた。

図7

 結論から言うと鹿島はうまくこの川崎の攻撃を封じ込めた。脇坂が流れる動きに合わせて、スンヒョンが素早くスライド。脇坂に前を向くことを許さない。レオと白崎も下がりながら陣形を維持。川崎のSBにも呼吸する自由を与えなかった。

図5

 脇坂にとってはなかなか難しい試合になった。中央からは締め出され、サイド裏に流れる動きはスンヒョンに潰される。レオ・シルバに影のように取り付かれる時間も長く、交代までほとんどスペースや時間を得ることはできなかった。

【前半】-(2)
ファジーな立ち位置で起点づくり

 次は鹿島のボール保持。最終ラインからのつなぎに対して川崎は小林と脇坂が追いかけまわす展開。川崎としてはそれに合わせて中盤も連動して押し上げたいところだったが、鹿島の前線が入れ代わり立ち代わり裏を狙う動きで川崎の陣形が縦のコンパクトさを維持するのを許さない。

図6

 その分、楔に対して引いて受ける前線の選手へのチェックが遅れがちになる川崎。伊藤に比べると、やや川崎のプレス隊はスイッチ役としては劣るかなという印象だった。

 鹿島の前進に貢献したのはまたしてもレオ・シルバ。サイドに落ちる動きを織り交ぜることで川崎の中盤から自由になってボールを受けることができていた。低い位置からドリブルを仕掛けるレオに対して、田中と大島はかなり手を焼きつつも水際でなんとか防げていたかなと思う。この中盤の攻防は攻守が入れ替わっても見ごたえがあった。

 受け手として手を焼いたのはセルジーニョと白崎。FWへの長いボールは谷口と山村がうまく対応していたが、ファジーな位置にいるSH2人はかなり川崎は捕まえづらそうにしていた。ハーフスペースに陣取るSHは楔の受け手となっていた。ピッチレポーターがLSBの町田が「かなりクロスの練習をしていた」といっていたので、白崎が内側に入る形は準備されていたのだと思う。

図7

 後ろではレオ、前では白崎とセルジーニョが縦横無尽に動き、川崎を揺さぶる。対する川崎は家長がフリーマンとしてピッチのあらゆるところに顔を出すが、鹿島はコンパクトな陣形を保ちつつ対応。鹿島がやや優勢の状態で試合は推移した。

 ビックゲームには試合の展開が大きく変わった!と思うワンプレーがあることが多いと個人的には思ってる。この試合の前半で言えば伊藤、土居、レオのプレスで川崎の最終ラインにエラーを発生させた場面。伊藤の決定機は枠を外れたものの、ここからさらに鹿島ペースは強まっていく。

 町田が高い位置に侵入する機会が徐々に増えていき、川崎を押し込む時間帯が長くなる。白崎が中に入る分、CHのレオがサイドの手伝いに出てくる。鹿島としてはやや中央のカウンターを迎え撃つ体制は弱くなるものの、町田がえぐったマイナスのスペースをケアすることが難しそうだった。44分のシーンが一番危なかったね。これはセットプレーの流れだけど。

 前半の終盤をなんとかしのいだ川崎。試合はスコアレスでハーフタイムに突入。

【後半】
形勢逆転の些細なきっかけ

 「ゴングに救われた」という表現が適切かどうかはわからないが、前半終了の合図は川崎にとってはエスケープのホイッスルに聞こえただろう。というわけで前半のその勢いを覆したい川崎。2列目を含めてプレスを高い位置から仕掛けることでリズムを取り戻そうと試みる。

 しかし、当然鹿島はそれをさせたくない。開始直後の川崎のプレスをひらりと交わして前進。「まだまだ前半の続きをやるからね?」という感じの鹿島。カウンターを高い位置で食い止める鹿島のバックスに阻まれて、川崎はボール奪回後もなかなか前に進めない。絞ってカウンターの芽を摘む内田篤人はニクい。

 この試合の鹿島の最大の決定機といっていいのは50分のシーン。セルジーニョが車屋のブロックにかかってしまって得点を逃したシーンだ。注目したいのは土居の抜け出し。初速の鋭さで谷口を置き去りにした。ここは想像するしかないのだが、鹿島の前線はこの試合は引いて楔を受ける動きが多かったので、谷口の頭にはそれがあったために虚を突かれた形になったのかなと。想像だけども!

 その後も決定機を創出し続ける鹿島。レオの抜け出しやら、セルジーニョのカウンターやら。主にレオがワイドに流れることで、川崎のCHを外に釣りだす動きがこの時間帯は効いていた。これにより、鹿島は川崎のプレスの網を脱してゴールに迫っていく。

 しかし、鹿島優位の展開はふとしたことで変わる。あとから振り返ったときに鹿島ペースの試合が川崎に傾くきっかけになったのは60分のシーン。新井の素早いスローイングを起点に、山村ー大島ー田中のトライアングルのパス交換で鹿島の中盤を攻略したシーンかなと個人的には思う。このプレーにより、再び川崎は呼吸を許された感じ。中盤の高い技術はもちろん、いったん落ち着きたくなるような場面で素早くリスタートして勢いを取り戻した新井のプレーも称賛されるべきだ。

 流れが変わってからは結果が出るまでにそう時間はかからなかった。セットプレーでゾーンの大外の山村が浮くというのは前半から見られた形。ここはおそらく研究していた部分。FKから大外の山村が中に侵入する形で川崎が先制に成功。ふとしたきっかけでつかんだ流れで、川崎ががっちり結果をモノにする。

 鹿島にとって厄介なのはワイドから運べるドリブルができる長谷川が交代で入ったこと。押し上げたくてプレスが強くなる鹿島だが、大外で浮く長谷川にプレス回避からゴールをつなぐことで川崎が押し返すという流れで鹿島に一方的なリズムを作らせない。

 そしてこの試合を決めたのもその長谷川。この2点目は個人的には今季ベスト候補。阿部のプレス回避から、守田のミドルパス、小林のボールコントロールと抜け出し、シュートセンス、そしてそれの仕上げとして長谷川がフリーランで詰め切る。誰かがミスをすれば切れてしまう細い糸を手繰り寄せきった。そんなゴールだった。この試合で鹿島ペースを主導した中盤のプレスを阿部と守田が華麗にかわしたところも好印象だ。

 鹿島はこの失点後に選手交代。内田→相馬の交代でシステムは4-3-3に変更。レオ・シルバをアンカーに据えてインサイドハーフを2枚。大外を相馬に託しつつより多くの人数でPA内アタックを狙う形にシフトした。

 ただこの交代が機能したかは微妙なところ。さすがにレオ・シルバといえども、アンカー1枚で川崎の中盤を防ぎきるのは至難の業。アンカー脇をはじめとして、徐々に川崎は縦パスの受けどころを見つけられるようになってくる。

 レオが動かされると、インサイドハーフの白崎や土居は自陣まで戻らざるを得ない。そうなると前線で受け手になれるのは上田1人。ならば両サイドで押し上げる時間を作りたいところだが、切り札の相馬は負傷明けでいまいちサイドではデュエルで優位を得ることができない。

図8

 3枚目の交代選手だった遠藤からは右サイドからクロスでチャンスメイクするシーンが見られたものの、この日の鹿島のフィニッシュワークは90分間安定せず。一度川崎方面に傾いたリズムは完全には引き戻せないまま試合は終了。ルヴァンカップに続き、リーグ戦でも鹿島の前に川崎が立ちはだかる格好になった。

あとがき

■このタイミングでの「たられば」

 非常に完成度が高い前半を経て、60分まではほぼパーフェクトな試合運びだった鹿島。しかしながら、この日一番欲しかったのは結果。シュートが入っていればという「たられば」をいっても仕方ないのだが、このタイミングでたらればを言いたくなってしまう試合に巡り合ってしまうのは苦しいところ。

 一方で失点シーン、特に1点目はセットプレーのスカウティングで穴を突かれた感が否めない。ここはたまたまでは見過ごせない場面ではある。ワイドのドリブラーが万全な状態でなかったのも悔やまれる。独力でもう一度流れを戻せる選手はこの日の鹿島にはいなかった。

 この試合の敗戦でポールポジションはFC東京に明け渡したものの、追いかけて追い落とすのは十八番。鹿島が鹿島らしさを残り3節で見せられるか。個人的にも非常に楽しみな部分である。

■リーグの立ち位置を体現した試合

 相手のフィニッシュワークに助けられるという運も否めなかったが、展開をひっくり返すきっかけを手繰り寄せてから結果を出すまでのスピードは非常に速かった。それ以降のゲーム運びも含めて、チームとしての底力を示す姿勢は見せることができた試合だった。

 交代カードで言えば長谷川の投入は秀逸。逆サイドに阿部が移動したこともあり、サイドの手当てとサイドからの陣地回復を両取りすることができた一手であった。

 圧倒し続けた多摩川クラシコとは異なる展開にはなったが、ファンにとっては爽快な試合になったはず。苦しい展開をた我慢した上で得たい結果をモノにしたのはファンとしても見ていて気持ちいい。1点目が入る直前の新井のリスタートと中盤のプレス回避は細かいところかもしれないが、あのスローイングというプレー選択とプレス回避の技術がなければ鹿島のペースの展開を終わらせることはできなかった。2点目のシーンではわずかなミスも許されないプレーの連続を見事に完結して見せた。

 わずかなきっかけを逃さない、そしてミスの許されない展開を結果に変えていく。まさしく、このリーグ終盤戦における川崎の立ち位置を体現したような試合だった。リーグ戦の結末はまだどうなるかわからないが、この試合に関して言えば川崎はわずかなきっかけに神様を宿すことに成功したといっていいのだろう。

試合結果
2019/11/9
J1 第31節
鹿島アントラーズ 0-2 川崎フロンターレ
県立カシマサッカースタジアム
【得点者】
川崎: 62′ 山村和也, 71′ 長谷川竜也
主審: 飯田淳平

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